ヒステリシス損失の単位と式・鉄損への影響を解説

ヒステリシス損失の単位にはJ/m³・W/m³・W/kgなど複数あり、使う場面で選び方が異なります。スタインメッツの式や鉄損との関係、金属加工現場での注意点を詳しく解説。あなたは正しく使い分けできていますか?

ヒステリシス損失の単位と式・鉄損の基礎知識

プレス打ち抜き加工をしただけで、ヒステリシス損が約1.6倍に跳ね上がります。


この記事の3ポイントまとめ
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単位は目的によって使い分ける

1サイクルのエネルギー損失ならJ/m³、時間あたりの電力損失ならW/m³またはW/kgを使います。電磁鋼板の規格ではW/kgが標準です。

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スタインメッツの式で損失を計算できる

Ph = Kh × f × Bm^1.6 という実験式が基本です。周波数と最大磁束密度がわかれば損失を推定でき、設計段階の検討に役立ちます。

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加工による鉄損劣化は無視できない

プレス打ち抜き後の残留応力・歪みがヒステリシス損を大きく悪化させます。設計値と実測値が乖離する主要因のひとつです。


ヒステリシス損失の単位はなぜ複数あるのか



ヒステリシス損失の単位が複数あって混乱した経験はないでしょうか。実は「何を評価したいか」によって使う単位がまったく変わります。これが基本です。


まず、磁性材料が交流磁界によって磁化と脱磁を1サイクル繰り返したとき、ヒステリシスループ(B-Hカーブで囲まれた閉じた面積)に相当するエネルギーが熱として失われます。この「1サイクルあたりの損失エネルギー」を表す場合は、単位体積あたりの値として J/m³(ジュール毎立方メートル) または kJ/m³ を使います。B-Hカーブの縦軸がT(テスラ)、横軸がA/m(アンペア毎メートル)なので、面積の次元はT×A/m = J/m³ と一致します。つまりJ/m³とは、1立方メートルの磁性体が1サイクルで放出する熱エネルギーの量です。


一方、交流機器は毎秒何十・何百サイクルと繰り返し動作します。1秒間に失われる電力(電力損失)を表す場合は、周波数f(Hz)を掛けて W/m³(ワット毎立方メートル) になります。Wはワット=J/sですから、J/m³ × Hz(1/s)= W/m³ という関係です。


さらに実務上よく使われるのが W/kg(ワット毎キログラム) です。電磁鋼板のJIS規格(JIS C2550-1など)では鉄損の単位をW/kgで定めており、材料1kgあたりの損失電力で材料を評価します。密度が異なる材料を比較するときに体積基準より質量基準の方が使いやすいからです。現在の高性能電磁鋼板では、磁束密度1.7T・周波数50Hzでの鉄損(W17/50)が0.75W/kg以下まで低減されており、以前の4W/kgから実に約1/5になっています。


つまり単位は3種類です。


- J/m³(kJ/m³):1サイクルのエネルギー損失。B-Hループ面積と直結
- W/m³:単位体積あたりの電力損失(= J/m³ × 周波数f)
- W/kg:単位質量あたりの電力損失。JIS規格・材料選定で標準的に使用


単位の変換は「どの時間スケール・どの体積スケールで評価するか」を意識すれば迷いません。現場で材料を選定するときはW/kg、電磁界シミュレーションで損失計算をするときはW/m³またはJ/m³が一般的です。単位が変わっても物理的な意味を押さえておけば大丈夫です。


以下の参考リンクでは、JIS規格に基づいた電磁鋼板の鉄損測定方法と単位の扱いが詳しく解説されています。W/kgの実測手順まで確認できます。


ヒステリシス損失の計算式(スタインメッツの実験式)と磁束密度の関係

ヒステリシス損失を実務的に計算するときに使われるのが、1892年にスタインメッツ(Charles Proteus Steinmetz)が提唱した実験式です。式は次のように表されます。


Ph = Kh × f × Bm^1.6 W/m³


ここで、Phはヒステリシス損失(W/m³)、Khは材料ごとに決まる比例定数(ヒステリシス損係数)、fは周波数(Hz)、Bmは最大磁束密度(T:テスラ)です。1サイクルあたりのエネルギー損失Wh(J/m³)に直す場合はfを除いて、Wh = Kh × Bm^1.6 となります。


この式で注目すべきは磁束密度Bmの指数です。Bmの1.6乗に比例するため、磁束密度を少し下げるだけで損失を大幅に減らせます。たとえばBmを1/2にするとPhは約0.5^1.6 ≈ 0.33倍、つまり約67%も削減できる計算になります。なお、指数1.6は実験値に基づく近似値であり、材料によっては1.6〜2.0の範囲でバラつくことが知られています。


一方で周波数fは1乗に比例します。50Hzから200Hzに上げると、ヒステリシス損は単純に4倍になります。これは渦電流損(f²に比例)と比較すると、低周波ではヒステリシス損が支配的で、高周波になるほど渦電流損の割合が増大していくという特性を示しています。


金属加工の現場ではモーターコアや変圧器のコアを設計・製作する機会があります。その際にKh(ヒステリシス損係数)は材料カタログや実測データから取得しますが、加工後の材料では素材のカタログ値とズレが生じることがある点を頭に入れておく必要があります。これが次のセクションにつながります。


JMAG(株式会社JSOLが提供する電磁界解析ソフトウェア)のウェブサイトでは、ヒステリシス損失の計算手法や損失分離の方法が詳細に解説されています。設計解析に役立てられます。


第3話:損失の分離、そして鉄損計算ツールリリース|JMAG


ヒステリシス損失とB-Hカーブ(ヒステリシスループ)の読み方

B-Hカーブ(磁気ヒステリシス曲線)の「ループ面積」がそのままヒステリシス損失を意味します。これが基本です。


縦軸に磁束密度B(単位:T=テスラ)、横軸に磁界の強さH(単位:A/m)を取ると、磁性材料を交流磁界で繰り返し磁化・脱磁したときのBとHの関係は閉じた環状の曲線を描きます。これがヒステリシスループです。ループが閉じる面積(∮HdB)を積分したものが、1サイクルで熱として失われるエネルギー密度(J/m³)に対応します。


ループ面積が大きいほど損失が大きく、ループ面積が小さいほど損失が小さい。面積が広い材料は「硬磁性材料」(永久磁石に使われる)、面積が狭い材料は「軟磁性材料」(モーターコアや変圧器コアに使われる)と大まかに分類されます。


金属加工に関わる方が実務でB-Hカーブをチェックする場面として、たとえば以下のような場面があります。


- 電磁鋼板の材料選定時に各グレードのヒステリシスループを比較してエネルギー効率を判断する
- 残留磁束密度(Br)と保磁力(Hc)の値を確認して磁性材料の特性を把握する
- 加工前後でB-Hカーブを測定比較し、加工による磁気特性の劣化量を定量化する


特に「加工前後でのB-Hカーブの変化」は重要です。プレス打ち抜きや曲げ加工などによって残留応力が鉄心内部に発生すると、ヒステリシスループの形状が変化して面積が広がります。これがヒステリシス損の増大を意味します。三菱電機技報(2011年)の研究では、打ち抜き加工後にヒステリシス損の増加率が確認されており、加工歪みと圧縮応力がヒステリシス損に強く影響することが示されています。


ループの見方を押さえておけば、材料カタログをもっと深く活用できます。これは使えそうです。


ヒステリシス損失と渦電流損・鉄損の関係:単位で整理する

ヒステリシス損失は単独で語られることは少なく、ほとんどの場合「鉄損(Iron loss)」の一部として登場します。鉄損の定義を改めて整理します。


鉄損 = ヒステリシス損 + 渦電流損


単位はいずれもW/kgまたはW/m³で表されます。つまりヒステリシス損失の単位と鉄損の単位は同じです。


ヒステリシス損は磁区(ドメイン)が交番磁界によって向きを変えるときに発生する損失で、磁性材料の内部的な摩擦に相当します。板厚に左右されないという特徴があります。渦電流損は磁界の変化によって鉄心内に誘導される電流(渦電流)が抵抗で熱になる損失であり、板厚の2乗に比例します。そのため薄い電磁鋼板を積層することで渦電流損を大幅に抑制できます。


周波数が低い領域(商用電源の50/60Hzなど)では、ヒステリシス損が鉄損の主要成分を占めます。周波数が高くなるにつれて渦電流損の割合(f²に比例)が急増し、インバータ制御のモーターや高周波トランスでは渦電流損が支配的になります。


実務でよく参照するJIS C2550-1(エプスタイン枠法)では、電磁鋼板の鉄損を磁束密度1.0T・1.5T・1.7T、周波数50Hz・60Hzなどの条件でW/kg単位で規定しています。この数値が材料選定の基準になります。材料カタログを見るときは「どの磁束密度・周波数条件での値か」を必ず確認するのが原則です。


磁性材料の用語全般を確認したい場合は以下が参考になります。鉄損・ヒステリシス損・渦電流損の定義と数式が整理されています。


磁性材料に関する用語集|JFEテクノリサーチ


金属加工(プレス打ち抜き)がヒステリシス損失に与える影響と対策

金属加工従事者にとって見落としやすい事実があります。電磁鋼板を素材のまま測定したカタログ値と、プレス打ち抜き後に実際のモーターコアを測定した値は大きく異なります。三菱電機の研究(三菱電機技報 2011年7月号)によれば、打ち抜き加工後の鉄心では鉄損がおよそ1.6倍に増加するという結果が報告されています。


この原因はプレス打ち抜きによって切断面近傍に歪みが加わり、広範囲にわたって残留応力が発生するためです。歪みや応力が加わるとB-Hカーブが変化し、ヒステリシスループの面積が広がります。つまりヒステリシス損が増加します。特に圧縮応力はヒステリシス損への影響が顕著で、歪みと圧縮応力が重なった切断面近傍では比透磁率の急落も起きます。


この劣化範囲は電磁鋼板の板厚のおよそ1/2の距離に分布することが解析で確認されています。たとえば板厚0.35mmの電磁鋼板なら切断面から約0.175mmの範囲に劣化が集中する計算です。名刺の厚さ(約0.25mm)より薄い領域ですが、スロット数や歯の細さによっては鉄心全体の面積に占める劣化域の割合が無視できないレベルになります。


この問題に対する現場での対策として考えられるのは次の3点です。


- 焼鈍(アニール処理)の実施:加工後に適切な熱処理を行うことで残留応力を解放し、磁気特性の劣化を一定程度回復できます
- 切断方法の選択:ワイヤーカット放電加工などは機械的な歪みが少ないため、試作段階で磁気特性の基準値を取るのに適しています
- 設計段階での劣化量の織り込み:量産品の鉄損設計では、加工劣化を考慮した余裕を持たせた計算が必要です


「素材のカタログ値で設計し、加工後の現品で想定外の損失が出た」というケースは、モーターコアや変圧器コアの製造現場で発生しやすいトラブルのひとつです。加工劣化が鉄損に影響すると知っているだけで、品質トラブルや設計修正のコストを未然に防げます。加工劣化に注意すれば大丈夫です。


なお、ヒステリシス損に対する材料面での根本的な対策は「最大磁束密度を下げること」と「透磁率が高く保磁力が小さい材料を選ぶこと」です。ケイ素(Si)含有量を増やした高Si電磁鋼板は比抵抗が高く、渦電流損の抑制にも有効であることが知られています。


三菱電機技報の研究論文(無償公開)では、打ち抜き加工の影響を定量化した実測データとシミュレーション手法が詳しく解説されています。設計精度向上の参考になります。


鉄心打ち抜き時の加工劣化を考慮したモータ磁気設計技術|三菱電機技報(2011年)






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