長年、降圧治療の第一線で使われてきたヒドロクロロチアジドですが、先発品は存在しないと思っていたら、実は処方の中に"隠れヒドロクロロチアジド"が混じっていて患者が皮膚がんリスクにさらされている可能性があります。

ヒドロクロロチアジド(HCTZ)は、チアジド系(サイアザイド系)利尿薬の代表格として、1950年代に開発されたロングセラー降圧薬です。日本では長らく「ダイクロトライド」(万有製薬)と「ニュートライド」という商品名が先発品として知られていました。ところが現在、ダイクロトライドは万有製薬の事業縮小に伴い販売中止となっています。
ニュートライドについては、東和薬品に製造が引き継がれ、現在は「ヒドロクロロチアジド錠12.5mg/25mg『トーワ』」として販売名変更されて流通しています。つまり、先発品という区分はすでに消えているということですね。
現在、日本国内でヒドロクロロチアジド単剤として入手できる製品は、下記のとおり東和薬品の後発品のみです。
| 販売名 | 規格 | 薬価(1錠) | 区分 |
|---|---|---|---|
| ヒドロクロロチアジド錠12.5mg「トーワ」 | 12.5mg | 5.90円 | 後発品 |
| ヒドロクロロチアジド錠25mg「トーワ」 | 25mg | 5.90円 | 後発品 |
| ヒドロクロロチアジドOD錠12.5mg「トーワ」 | 12.5mg(口腔内崩壊錠) | 5.90円 | 後発品 |
なお、OD錠については2023年に普通錠へ集約する方針から「販売中止のお知らせ」が出されており、在庫確認には注意が必要です。先発品がないというのは、処方箋の一般名記載においても重要な情報です。一般名処方で「ヒドロクロロチアジド錠」と記載された場合、対応する後発品しか存在しないため、薬局での変更調剤の選択肢は実質1社のみという特殊な状況になっています。
参考:ヒドロクロロチアジドの商品一覧と薬価比較(KEGG医薬品データベース)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=D00340
単剤の先発品は存在しなくても、ヒドロクロロチアジドを含む先発配合剤は現在も臨床で広く処方されています。これが把握できていないと、投与量の重複や、後述する皮膚がんリスクの管理不足につながりかねません。
代表的な先発配合剤を整理します。
| 商品名 | 組み合わせ成分 | HCTZ含有量 | 分類 |
|---|---|---|---|
| プレミネント配合錠LD | ロサルタン50mg+HCTZ | 12.5mg | ARB+利尿薬(先発) |
| プレミネント配合錠HD | ロサルタン100mg+HCTZ | 12.5mg | ARB+利尿薬(先発) |
| コディオ配合錠MD | バルサルタン80mg+HCTZ | 6.25mg | ARB+利尿薬(先発) |
| コディオ配合錠EX | バルサルタン160mg+HCTZ | 12.5mg | ARB+利尿薬(先発) |
| ミカルディスHD配合錠 | テルミサルタン40mg+HCTZ | 12.5mg | ARB+利尿薬(先発) |
| ミカトリオ配合錠 | テルミサルタン80mg+アムロジピン5mg+HCTZ | 12.5mg | ARB+Ca拮抗薬+利尿薬(先発) |
ここで特に注意が必要なのは、LD/HDの区別です。たとえばプレミネントのLD/HDは「ロサルタンの量が異なるが、HCTZ量は同じ12.5mg」という構造です。一方、コディオのMD/EXは、バルサルタンもHCTZの含有量も両方変化します。つまりLD/HDの意味が製品によって異なるということですね。
処方変更時に「HDに増量したらHCTZ量も増えると思っていた」という思い込みは、電解質異常の見落としや過剰投与につながりかねません。コディオはその点が特殊です。変更する際には必ず添付文書の組成表を確認することが基本です。
配合剤には後発品も存在しており、例えばロサルタン+HCTZの後発品は「ロサルヒド配合錠LD/HD」などがあります。先発品から後発品への切り替えを検討する際は、薬価差だけでなく各成分の含有量が同一であるかを確認する必要があります。
参考:降圧薬配合剤の一覧と含有量の詳細(元八幡クリニック)
https://motoyawata.clinic/blog/antihypertensive-compounding/
ヒドロクロロチアジドの単剤(後発品「トーワ」)が適応を持つ疾患は、以下のとおりです。
通常の使用量は、成人1回25〜100mgを1日1〜2回経口投与です。高血圧症に用いる場合は少量(12.5mg〜)から開始することが推奨されており、過度な利尿作用を避けるためにも漸増が原則です。
配合剤に含まれるHCTZは12.5mgが最も一般的で、単独で25mgを投与する臨床場面は近年かなり減少しています。これは実は重要な観点で、日本の高血圧治療ガイドラインでも「チアジド系利尿薬は低用量から使用する」と明記されています。
ここで気をつけたいのが、配合剤では「高血圧症の第一選択薬として用いない」という添付文書上の注意です。つまりHCTZ配合の先発品を初診から処方する行為は、添付文書に反する可能性があるということですね。ARBや他の降圧薬で効果不十分な場合の上乗せ、または2剤をまとめた服薬利便性向上を目的とする際に使用する薬剤である点を、チーム全体で共有しておくことが重要です。
また、腎性尿崩症への適応は一般的にはあまり知られていない適応です。この場合、HCTZが逆説的に尿量を減少させる機序(遠位尿細管でのNa再吸収阻害→近位尿細管の代償的水・Na再吸収増加)で効果を発揮します。腎性尿崩症の患者にデスモプレシン(男性の夜間頻尿治療薬)を処方している場合は、ヒドロクロロチアジドとの併用が禁忌であることにも注意が必要です。
副作用の種類と頻度については、ヒドロクロロチアジドを含む製品を処方・調剤する医療従事者が共通して把握しておくべき情報です。臨床検査値への影響が多い薬剤ですので、特に確認が必要です。
代表的な副作用を整理します。
電解質が問題です。定期的な採血でK・Na・Mgのモニタリングが条件です。
特に注目すべきは、複数の副作用が連鎖するケースです。低カリウム血症が継続すると筋力低下・疲労感が生じ、高齢者では転倒リスクが増加します。夏場の脱水と重なれば低ナトリウム血症が急速に悪化します。HCTZ配合剤を服用中の高齢患者が「体がだるい」「足がつる」と訴えた場合、すぐに電解質採血を行うことを習慣化したいところです。
また、スルホニルウレア(SU)薬を併用している糖尿病患者では、HCTZが血糖値を上昇させることで血糖コントロールが乱れやすくなります。処方内容の棚卸しで見逃されがちな相互作用のひとつです。これは確認すれば大丈夫です。
参考:HCTZ配合剤の副作用・電解質への影響(プレミネント配合錠添付文書・オルガノン)
https://organonpro.com/ja-jp/wp-content/uploads/sites/10/2025/09/pi_preminent_tab_ldhd.pdf
2023年、静岡県市町国民健康保険データベースを用いたコホート研究(橋爪ら、JAAD International)が大きな注目を集めました。この研究では60歳以上の高血圧患者を対象に、ヒドロクロロチアジド使用群と非使用群の非黒色腫皮膚がん発症リスクを比較しています。
結果として、HCTZ使用者のハザード比は1.58(95%CI: 1.04–2.40)と統計的に有意に上昇しました。がんが発生した部位は「日光にさらされやすい露出部位」に集中しており、組織型としては扁平上皮がんの傾向が強く見られています。
これはどういうことでしょうか? HCTZはUVA(波長320〜400nm)を吸収するクロモフォアとしての性質を持っています。つまり皮膚に蓄積したHCTZがUVAのエネルギーを吸収して活性酸素を産生し、DNA損傷を引き起こすという光毒性メカニズムが想定されています。
実は1970年代にもHCTZによる光線過敏症が多発した歴史があり、一度は使用が控えられた時期もありました。ARBとの配合剤が普及した2000年代以降、再び処方数が増えたことで光線過敏症報告が再増加しています。意外ですね。
この情報を得た医療従事者がすべき行動はシンプルです。HCTZ配合剤を継続服用している患者に対して、以下の指導を1回の外来で行うことを検討してください。
「高血圧の薬を飲んでいるだけで皮膚がんリスクが上がる」という事実は、患者にとっては非常に驚きのある情報です。だからこそ、処方時の説明や服薬指導の中で一言加えるだけで、患者のQOLと安全性を大きく守ることができます。
参考:ヒドロクロロチアジドによる日本人高血圧患者の皮膚がんリスク増加コホート研究(聖路加国際大学)
https://s-sph.ac.jp/education/result/detail.html?CN=364897
参考:UVA照射による皮膚がんリスク増加メカニズム解明(CareNet Academia)
https://academia.carenet.com/share/news/b8aa09cf-94a7-427d-830b-323b7fdf70ba