グローミンを「塗るだけ」と安易に考えると、患者の脳梗塞リスクを見逃すことになります。
グローミンは、大東製薬工業が製造する第1類医薬品で、有効成分として天然型テストステロン(1g中10mg含有)を配合したクリーム剤です。男性ホルモン分泌不足による勃起力減退・性欲欠乏・早漏・陰萎などの改善を適応とし、OTC(一般用医薬品)として薬剤師の関与のもとで販売されています。
テストステロンは筋肉量・骨密度・造血・性機能・気力など多岐にわたる生理機能を担うホルモンです。一般的に男性のテストステロン分泌量は30歳ごろをピークに漸減し、40歳代後半から顕著に低下します。グローミンはこの不足分を皮膚から経皮補充することで、症状の改善を目指します。
外用製剤である点が最大の特徴です。吸収部位によってテストステロンの体内移行量が大きく異なり、腕の内側を基準(×1)とした場合、陰嚢部の吸収率はその42倍に達します。これはこうのとり大学病院の試験でも確認されており、塗布部位の選択が薬効と副作用リスク双方に直結することを意味します。つまり部位管理が原則です。
製造販売元の大東製薬工業は男性ホルモン外用製剤の開発・販売において約50年の実績を持ち、現行添付文書では睡眠時無呼吸症候群の患者・前立腺腫瘍の疑いのある患者・PSA値2.0 ng/mL以上の患者への使用禁止を明記しています。医療従事者としてこの薬剤を指導・管理する際には、まず薬剤の作用機序と適応・禁忌を正確に把握することが出発点となります。
参考:グローミン添付文書(PMDA掲載)
PMDA:グローミン男性用性ホルモン軟膏 添付文書(外用量・吸収部位の42倍データ記載)
医療現場でグローミンの副作用を語る際、皮膚症状だけに目が向きがちな傾向があります。しかし実際には全身性の副作用こそ慎重なモニタリングを要するものが多く、軽視すると重篤な転帰につながる場合もあります。
局所(皮膚)症状は最も頻度が高く、塗布部位に発疹・発赤・かゆみ・かぶれ・水疱・にきびなどが出現します。これはアレルギー反応もしくは基剤成分による接触皮膚炎が主因です。添付文書では「副作用の可能性があるので直ちに使用を中止し相談する」対象症状として明記されています。敏感肌や既往のアレルギー体質を有する患者では、使用前にパッチテスト(チューブ先端から5mmを内股などに塗布して翌日確認)を実施するよう指導することが有用です。
血圧上昇は、テストステロンの血管収縮作用に起因します。テストステロンは血管平滑筋に直接作用して血管抵抗を高めるほか、ナトリウム貯留を促してしまう側面もあり、使用開始後に収縮期血圧が有意に上昇した事例が報告されています。高血圧の既往がある患者では使用前に必ず医師・薬剤師への相談を求めるとともに、継続使用中は自己血圧測定を推奨することが望ましいです。
多血症(赤血球増加症)は見落とされやすい全身副作用の代表です。テストステロンにはエリスロポエチン産生を刺激する造血作用があり、補充が続くと赤血球数・ヘマトクリット(Ht)が上昇します。医学的にHt値が54〜55%を超えると血液粘度が高まり、血栓が形成されやすい状態となります。
| Ht値の目安 | 臨床的判断 |
|---|---|
| 45%以下(正常範囲) | 経過観察を継続 |
| 46〜53% | 使用量の見直しを検討 |
| 54%以上 | 減量または中止、瀉血も選択肢 |
血液がドロドロになると脳梗塞・心筋梗塞・深部静脈血栓症のリスクが高まります。これは患者にとって目に見えにくい変化だけに、定期的な血液検査が唯一の早期発見手段です。血液検査は必須です。
ホルモンバランスの乱れとして、テストステロン過剰補充によるニキビ・体毛増加・AGA(男性型脱毛症)の進行も報告されています。皮脂腺が刺激されることでにきびが顔・背中に集中して出現しやすく、患者の自己評価や服薬継続率にも影響します。
参考:テストステロン補充療法の副作用と注意点(AGAケアクリニック)
AGAケアクリニック:テストステロン摂取と副作用|多血症・血栓リスクの解説
グローミンの副作用管理で特に重要なのが、前立腺への影響です。テストステロンは前立腺組織の増殖を促進する作用を持ち、添付文書はアンドロゲン依存性腫瘍(前立腺腫瘍・乳悪性腫瘍)患者への使用を明確に禁忌としています。
PSA(前立腺特異抗原)の基準値は2.0 ng/mL です。この値以上の患者は「してはいけないこと」に明記されており、自己判断での使用は認められません。50歳以上の男性は前立腺腫瘍の罹患率が高まるため、使用開始前に必ず前立腺検査を受けるよう求められています。継続使用中も定期的な検査が必須です。
前立腺腫瘍のリスク評価においては、PSA検査のみならず直腸診も組み合わせた総合的な評価が推奨されています。また、継続使用中に排尿困難・頻尿・残尿感などの下部尿路症状が新たに出現した場合、直ちに使用を中止して専門科を受診するよう患者へ指導することが医療従事者の重要な役割です。
テストステロン補充が必ずしも前立腺がんそのものを「発症させる」わけではないという研究知見も近年蓄積されてきていますが、現存する腫瘍を「進行させる」リスクは否定できません。リスクゼロとは言えないのが現状です。そのため薬剤師・医師ともに投薬前の問診でPSA検査の有無・既往を確認し、疑わしい場合は泌尿器科への紹介を躊躇しない姿勢が求められます。
参考:KEGGデータベース グローミン一般用医薬品情報
KEGG:グローミン 用法・禁忌・副作用情報(PSA基準値・前立腺腫瘍禁忌の記載)
医療従事者が見落としやすい副作用の盲点が「接触移行(secondary exposure)」です。グローミン塗布後に手洗いを怠ったり、塗布部が他者の皮膚に直接触れたりすることで、テストステロンが第三者へ移行し、意図せぬホルモン作用が生じる可能性があります。
米国では同成分のテストステロンジェル製剤(上腕部に5g/日塗布)を使用する父親と同居していた小児に男性化症状が出現した事例が複数報告されています。この事実をFDA(米国食品医薬品局)が重大視し、添付文書改訂指示を発出。これを受けて日本の厚生労働省もグローミンを含む国内メーカーの男性ホルモン塗布剤に添付文書改訂を指示しました。それ以降です。
現在の添付文書では「使用者以外へ付着させないこと」が「してはいけないこと」として明記されており、具体的には以下が求められています。
なお大東製薬工業の報告によれば、グローミンの推奨塗布量(陰嚢部に約0.3g/1〜2回/日)は、米国のジェル製剤(5g/日)に比べて大幅に少なく、塗布部位の接触リスクも低いため、過去48年以上にわたりパートナーへの移行に伴う有害事象の報告はないとされています。とはいえ原則は遵守が前提です。
医療従事者が患者指導を行う際は、このリスクの存在と具体的な予防行動をセットで伝えることが、患者の家族全体を守ることにつながります。特に同居に小さな子どもや妊婦がいる患者には、塗布後30分〜1時間は塗布部への接触を避けるよう丁寧に説明することが推奨されます。
参考:大東製薬工業 お客様サポートBLOG
大東製薬工業:グローミンのパートナーに与える影響について(FDA勧告・国内添付文書改訂の経緯)
グローミンを安全に使用・管理するうえで、医療従事者に求められるのは定型的な問診・検査の仕組みを患者ごとに確立することです。「市販薬だから問題ない」という認識は危険です。
使用開始前の必須確認事項をまとめると以下のとおりです。
継続使用中のモニタリングは、副作用の早期発見に直結します。添付文書には「継続的にご使用の人は定期的な検査を受ける必要があります」と明記されています。具体的には、3〜6ヵ月ごとの血液検査(ヘマトクリット値の推移確認)・PSA値の再測定・血圧測定が基本セットとなります。定期検査が条件です。
なお、グローミンの1回使用量は「チューブ先端から2cm(約0.3g)」が推奨量であり、この量に含まれるテストステロン量は約3mgです。成人男性の1日テストステロン分泌量(約7mg/日)を下回る設計となっており、医師が処方する注射剤の約1/5程度の補充量に相当します。適量を守ることが安全の前提です。
一方、長期連続投与(目安として3ヵ月超)には慎重な姿勢が求められます。テストステロンの分泌をコントロールするホルモン(LH・FSHなど)のリズムが乱れると、内因性テストステロン産生の低下につながる可能性があるためです。妊娠を希望している男性への投与は原則として推奨されず、精子産生の停止による男性不妊リスクについて投与前に十分な説明と同意が必要です。
使用中に「月経異常・変声などの男性化の兆候」が使用者以外(女性パートナー等)に出現した場合も、直ちに使用を中止して相談するよう添付文書が求めています。医療従事者はこのサインを患者からの報告として積極的に引き出す問診の習慣を持つことが大切です。
参考:大東製薬工業 副作用・リスクカテゴリブログ(長期使用・ホルモンバランス解説)
大東製薬工業:副作用・リスク カテゴリ|長期連続投与・ホルモンバランスへの影響
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【第1類医薬品】グローミン 10g 男性ホルモン軟膏剤 男性ホルモン テストステロン クリームタイプ 塗り薬 無香料 M:4956124000128