減磁曲線の見方と読み取り方・動作点の基礎知識

減磁曲線の見方を正しく理解していますか?B-H曲線とJ-H曲線の違い、パーミアンス係数、クニック点など、金属加工の現場で磁石を正しく選定・運用するために必要な知識を徹底解説します。あなたの磁石選定は本当に正しいでしょうか?

減磁曲線の見方と読み取り方・保磁力・動作点の基礎

動作点がクニック点を1mmでも超えると、磁石は二度と元の磁力に戻りません。


この記事でわかること
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減磁曲線の基本構造

B-H曲線・J-H曲線の2種類の意味と使い分け、残留磁束密度Br・保磁力Hcjなど4大指標の読み取り方を解説します。

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温度と不可逆減磁の関係

ネオジム磁石とフェライト磁石では温度による減磁の方向が真逆です。現場温度に合わせた曲線の見方を説明します。

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パーミアンス係数と動作点

磁石の形状・使用環境ごとの動作点の求め方と、クニック点を回避するための実践的なチェック手順を解説します。


減磁曲線とは何か・B-H曲線とJ-H曲線の違いを理解する



減磁曲線とは、磁石の性能を視覚化したグラフです。横軸に磁界の強さ(H)、縦軸に磁束密度(B)または磁気分極(J)をとり、外部から逆磁界をかけたときに磁石がどう振る舞うかを示しています。この曲線はヒステリシスループ(磁気履歴曲線)の第2象限に相当する部分で、磁石の「使用中の状態」を表す最も重要なグラフといえます。


減磁曲線には2種類あります。B-H曲線とJ-H曲線です。これは重要な違いです。


B-H曲線(BHカーブ)は、磁石が実際に外部へ送り出す磁束密度Bと、そのときの磁界Hの関係を表します。磁気回路全体のアウトプットを評価するのに使うグラフで、モーターやセンサーの設計では「どれだけ磁束が出るか」を確認するために参照します。一方のJ-H曲線(JHカーブ)は、磁石素材そのものの内部磁化Jと磁界Hの関係を示しており、外部の逆磁界に対してどれだけ磁力を保てるか(減磁への耐性)を評価する曲線です。


曲線の種類 縦軸 主な用途
B-H曲線 磁束密度 B T 磁気回路設計・磁束出力の確認
J-H曲線 磁気分極 J T 減磁耐性の評価・クニック点の確認


B-H曲線上の保磁力をHcb(ノーマル保磁力)と呼び、J-H曲線上の保磁力をHcj(インリンシック保磁力=真の保磁力)と呼びます。重要なのは、Hcj > Hcb という関係が常に成立している点です。つまり、B-H曲線だけを見ていると磁石の本当の減磁耐性を過小評価することがあります。


金属加工の現場では磁石を高温環境や強い外部磁界にさらす機会が多く、この2種類の曲線を混同したままでは磁石の選定ミスにつながります。つまりB-H曲線とJ-H曲線は目的に応じて使い分けるのが基本です。


参考:ネオマグ株式会社 磁石ナビ「磁気特性と磁化曲線について」(B-H曲線・J-H曲線の関係と各保磁力の定義について詳しく解説されています)
https://www.neomag.jp/mag_navi/mames/mame_bhcurves_info1.html


減磁曲線の4大指標(Br・Hcb・Hcj・BHmax)の見方と読み取り手順

減磁曲線を実際に読み取るには、4つの主要な数値を把握する必要があります。これらを「4大指標」と呼び、あらゆる磁石のデータシートの基礎になっています。


① 残留磁束密度 Br(ビーアール)


Brは、グラフの縦軸(B軸)との交点、すなわちH=0のときの磁束密度の値です。磁石が持っている「純粋な磁力の強さ」を表します。たとえばネオジム磁石NF41Hでは常温(20℃)においてBrが約1.3Tです。Brが高いほど磁束密度が高く、強い磁力を発揮します。


② 保磁力 Hcb(エイチシービー)


B-H曲線が横軸(H軸)と交わる点の値です。磁束密度がゼロになる磁界の強さを示します。ただし、ここで磁束密度がゼロになっても、磁石内部の磁化がゼロになったわけではありません。この点を誤解している現場担当者が少なくありません。Hcbは「見かけ上の磁束出力がゼロになる磁界」であり、真の消磁状態ではない点に注意が必要です。


③ 保磁力 Hcj(エイチシージェイ)


J-H曲線が横軸と交わる点の値です。磁石内部の磁化そのものがゼロになる磁界の強さを示し、減磁耐性の決定的な指標です。ネオジム磁石NF41Hでは常温でHcjが約1350kA/mに達します。Hcjが高いほど逆磁界や高温環境に強い磁石ということになります。


④ 最大エネルギー積(BH)max


減磁曲線上で「B×H」の積が最大となる点の値で、磁石が単位体積あたりに蓄えられるエネルギーの最大値を示します。グラフ上では、左側に表示されるエネルギー積曲線と減磁曲線が最初に接触するポイントから読み取ります。(BH)maxが高いほど、同じエネルギーを小型の磁石で実現できることを意味します。これは使えそうです。


  • 📌 Brを読む → グラフ右端の縦軸との交点の数値
  • 📌 Hcbを読む → B-H曲線(赤線)と横軸の交点の数値
  • 📌 Hcjを読む → J-H曲線(緑線)と横軸の交点の数値
  • 📌 (BH)maxを読む → エネルギー積曲線と減磁曲線が初めて接する点の数値


磁石メーカーが提供するデータシートの磁気特性表には、これら4つの数値が温度別に記載されています。減磁曲線のグラフと照らし合わせながら確認することで、実際の使用環境での性能予測が可能になります。4大指標を押さえておけばOKです。


参考:株式会社相模化学金属「減磁曲線 読み取り方」(NF41Hのデータを用いた具体的な読み取り手順が図解付きで紹介されています)
https://www.sagami-magnet.co.jp/explanation-magnet/decrease-curve


減磁曲線のパーミアンス係数と動作点の求め方・クニック点の確認手順

減磁曲線上で「今この磁石がどの状態にあるか」を示す点を「動作点」と呼びます。動作点は磁石の形状と使用環境によって変化し、この位置こそが不可逆減磁の発生を左右する核心です。


動作点を求めるカギが「パーミアンス係数(Pc)」です。Pcは磁束密度Bdと減磁界Hdの比(Bd/Hd)で定義され、磁石の形状(磁化方向の長さ÷断面積の平方根に比例)によって決まります。簡単にいうと、磁化方向に細長い磁石ほどPcが大きく、自己減磁の影響を受けにくいということです。薄いコイン状の磁石のPcが1未満になるケースがある一方、細長い棒磁石ではPcが5以上になることもあります。


パーミアンス係数 Pc 動作点の傾向 減磁リスク
1.0以下 H軸(横軸)寄り ⚠️ 高い(クニック点に近づきやすい)
2.0〜3.0 中間 🟡 条件次第
5.0以上 B軸(縦軸)寄り ✅ 低い


減磁曲線上で動作点を確認するには、以下の手順をとります。


  1. パーミアンス係数に1を加えた値を求める(例:Pc=1.0なら「2.0」を使う)
  2. その値を傾きとして原点から直線を引く(これが「動作線」)
  3. 動作線とJ-H曲線の交点が現在の動作点
  4. 動作点がクニック点(J-H曲線が急に折れ曲がる部分)の上側にあれば安全


ここで注意が必要なのが「クニック点」です。J-H曲線が右下方向に急激に折れ曲がる変曲点をクニック点といい、動作点がこの点を超えると不可逆減磁が発生します。不可逆減磁とは、温度が戻っても磁力が元に戻らない永続的な磁力低下のことです。冒頭でも触れた通り、クニック点を一度超えてしまった磁石は磁力を回復できません。これが原則です。


下西技研工業のデータによれば、同一磁石でもパーミアンス係数が「1.0」と「2.0」では、許容温度が120℃から140℃へと大きく変わります。たった20℃の差ですが、現場の熱処理炉周辺や溶接環境では非常に重要な数値差です。磁石をどの形状で使うかによって、同じグレードでも安全な使用温度が20℃以上変わることを覚えておけばOKです。


参考:下西技研工業「減磁はなぜ起こる?磁石の基本原理と磁力が弱くなる原因」(外部減磁・自己減磁・温度減磁の3要素と動作点の解析方法が詳細に解説されています)
https://www.simotec.co.jp/technical/magnet/demagnetization/


温度別の減磁曲線の見方・ネオジム磁石とフェライト磁石の比較

実際の磁石カタログを開くと、減磁曲線が1本だけでなく複数本描かれていることに気づきます。これは温度別の曲線群で、20℃・60℃・100℃・140℃といった各温度における特性の変化を示しています。この温度別の曲線群を正確に読めるかどうかが、現場での磁石選定の精度を左右します。


温度が上がると曲線はどう変化するのでしょう?


ネオジム磁石(NdFeB)の場合


ネオジム磁石は高温になるほどBrとHcjの両方が低下します。BrとHcjには「負の温度係数」があり、温度が1℃上昇するごとにBrは約−0.12%/℃、Hcjは約−0.6%/℃ずつ低下します。Hcjの低下率はBrのおよそ5倍も大きいため、温度が上がるにつれてJ-H曲線のクニック点が右方向に急激に移動します。つまり、「室温では安全な動作点」が「100℃では危険な動作点」になることが起こりえます。


厳しいところですね。


フェライト磁石の場合


フェライト磁石はネオジム磁石と逆の挙動を示す面があります。フェライト磁石のHcjは正の温度係数を持ち、温度が上がるとHcjは増加します。一方で低温になるとHcjが大幅に低下し、クニック点が縦軸側に移動するため、低温で不可逆減磁が起こりやすくなります。たとえば、常温(+20℃)では安全な動作点にある磁石でも、−20℃まで冷却されるとクニック点を下回り不可逆減磁が発生するケースがあります。


磁石種類 高温(例:100℃)での変化 低温(例:−20℃)での変化 危険な状況
ネオジム磁石 BrもHcjも低下(Hcjの低下が大きい) 比較的安定 🔥 高温での不可逆減磁
フェライト磁石 Hcj増加、Brは微減(比較的安定) Hcj大幅低下 ❄️ 低温での不可逆減磁


金属加工の現場では、熱処理炉周辺・溶接機近傍・冬季の屋外保管など、温度の極端な変化にさらされる場面が多くあります。使用する磁石の種類に応じて、危険温度域を把握しておくことが不可欠です。温度別の減磁曲線を使って動作点がどの温度でクニック点を超えるかを事前に確認する、というのが実務での標準的な確認手順です。


温度別曲線の確認が必要な場面では、磁石メーカーのデータシートに記載された各温度での減磁曲線を入手することが最初のアクションになります。メーカーのエンジニアリング部門に問い合わせると、使用条件に合わせたシミュレーションデータを提供してもらえるケースもあります。


参考:ネオマグ株式会社「ネオジム磁石のすべて(18)<永久磁石の温度変化-1」(温度係数の違いとネオジム・フェライトそれぞれの不可逆減磁の発生メカニズムが丁寧に解説されています)
https://www.neomag.jp/mag_navi/column/world027.html


減磁曲線を使った磁石の材質比較・現場での磁石選定に活かす実践的な視点

減磁曲線の形状は材質によって大きく異なり、その形状の違いが実用上の強みと弱みを決定づけています。主要な磁石材質ごとに曲線の特徴を押さえておくと、現場での磁石選定の判断がぐっと速くなります。


ネオジム磁石(NdFeB)
曲線の形状は「四角くて横に広い」のが特徴です。反磁界(逆方向の磁界)をかけても長い距離にわたって磁束密度がほぼ一定に保たれ、急激に落ちないため、薄型・扁平形状でも高い磁力を発揮します。(BH)maxは現在市販されている永久磁石の中で最高水準であり、40MGOe以上のグレードも存在します。ただし、高温で急激に性能が低下するという欠点を持ちます。金属加工の場面では、熱環境を確認してから採用することが必要です。


サマリウムコバルト磁石(SmCo)
こちらもネオジム磁石と同様に四角いスクエアループを持ちます。際立った特長は温度安定性の高さです。ネオジム磁石のHcjが高温でほぼ5倍の速さで低下するのに対して、SmCoはキュリー温度(約700℃)までHcjが比較的安定して保たれます。高温環境の磁気回路では第一候補になりますが、希少金属コバルトを使用するため高コストという面があります。


フェライト磁石
曲線は「低くてなだらかな丸みを帯びた形」です。BrとHcjはネオジム磁石の1/4〜1/5程度ですが、コストパフォーマンスに優れ、腐食にも強いため幅広く使われています。先に述べた低温での不可逆減磁には注意が必要です。


アルニコ磁石
「背が高くて細い」曲線を持ちます。Brは比較的高いものの、Hcjが非常に低く、わずかな逆磁界で容易に減磁します。自己減磁の影響が大きいため、磁化方向に細長い形状で使うことが設計上の鉄則です。棒磁石として使われることが多い理由はこの特性にあります。


  • 🔧 強い吸着力が欲しい(スペースに余裕なし)→ ネオジム磁石(Br・(BH)max最大)
  • 🔥 高温環境で使いたい(150℃超)→ SmCo(温度安定性が高い)
  • 💰 コストを抑えたい(中程度の磁力でOK)→ フェライト磁石(ただし低温に注意)
  • 🧲 長棒状で固定配置(外部磁界の影響なし)→ アルニコ磁石(安定した静的用途向け)


なお、減磁曲線の比較には材質ごとのデータシートを並べて見ることが最も確実です。各メーカーは材質別の減磁曲線集をウェブ上に公開しており、同一条件でのBr・Hcj・(BH)maxを比較することができます。選定段階で曲線の「四角さ(矩形比)」を確認することで、使用条件での耐久性を視覚的に評価できます。


参考:ネオマグ株式会社「磁石の減磁曲線集(B-H/J-H)」(グレード別の減磁曲線をプルダウンで即座に比較できる実用的なページです)
https://www.neomag.jp/mag_navi/mames/mame_bhcurves_top.html


減磁曲線では見えない「リコイル曲線」と動作点移動の落とし穴

ここからは検索上位ではあまり取り上げられていない、しかし実務では非常に重要な話をします。


減磁曲線の見方を学んだとき、多くのエンジニアが「動作点は使用中も減磁曲線上を移動する」と思い込んでしまいます。これは間違いです。


実際には、磁石の動作点は使用中に磁界が変動するとき、減磁曲線上ではなく「リコイル曲線」と呼ばれる別の軌跡の上を動きます。リコイル曲線は、ある動作点を起点として描かれる小さなループ(マイナーループ)であり、多くの場合は直線とみなされます。この直線の傾きを「リコイル比透磁率(μrec)」と呼び、材質によって異なりますが一般にネオジム磁石では約1.05〜1.1程度です。


どういうことでしょうか?


たとえば、磁石を組み込んだ電磁クラッチや磁気センサーでは、動作のたびに動作点が変化します。このとき動作点が減磁曲線上をトレースすると考えて設計すると、実際の磁束出力と計算値がずれてしまう原因になります。正確な磁束密度の変動範囲を求めるには、リコイル曲線(マイナーループ)上での移動を考慮することが必要です。


また、動作点が一度クニック点を超えてリコイル曲線が始まる起点が下がった場合、元の動作点に戻しても磁束密度は元の値に戻りません。この差分が不可逆減磁の量となります。目で見ただけではわかりにくい変化なので、注意が必要です。


リコイル比透磁率はメーカーのカタログに記載されている場合が多く、動作点の変動幅が大きいアプリケーション(モーター・クラッチ・センサーなど)では、この数値を使った精緻な解析が求められます。設計段階でリコイル曲線も含めて確認するのが条件です。


参考:機械系エンジニアの技術ブログ「減磁曲線の見方について解説」(リコイル曲線の概念と動作点移動の図解が掲載されています)
https://robotmasa.com/減磁曲線の見方について解説/






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