フルカリック1号輸液903mlは「低カロリーだから安全」と思い込むと、患者の代謝異常を見落とすリスクがあります。

フルカリック1号輸液903mlは、大塚製薬工場が製造する高カロリー輸液製剤で、糖質・アミノ酸・脂肪乳剤・電解質をひとつのバッグにまとめたオールインワン(AIO)製剤です。まずカロリーの全体像から整理します。
1袋(903ml)あたりのカロリーは約820kcalです。これはおよそ成人男性の基礎代謝量(約1,500〜1,800kcal/日)の半分近くに相当するため、「ビタミン補充程度の補助的製剤」という認識のまま使い続けると過剰エネルギーになりえます。つまり「1号だから少なめ」という感覚は危険です。
主要な成分の内訳は以下のとおりです。
820kcalというのは、コンビニのおにぎり約4個分のカロリーに相当します。この数値を念頭に置いておくと、経口摂取との合算管理がしやすくなります。カロリーの把握が基本です。
ビタミン類(ビタミンB群、ビタミンCなど)はフルカリック単体では含まれないか不足するため、別途「ビタミン製剤(ネオラミン3Bなど)」や「微量元素製剤(エレメンミックなど)」の追加が必要になる場面がほとんどです。この点は見落とされやすいポイントです。
大塚製薬工場 フルカリック1号輸液 製品情報(添付文書・組成一覧)
フルカリック1号・2号・3号はカロリーと電解質組成が異なり、患者の病態によって使い分ける必要があります。まずカロリー面から比較します。
「どの号も同じカロリーだから号数は気にしなくていい」という誤解が現場では根強く残っています。実際には電解質のNa・K・Clの量が号数ごとに設計されており、腎機能低下例でフルカリック2号以降を使うとK負荷が過剰になるケースがあります。これは危険な思い込みです。
1号が選ばれる典型的な状況を挙げます。
逆に、長期的に1号を継続している場合は電解質不足(特に低Na、低K)が顕在化することがあります。定期的な血液検査でのモニタリングが原則です。
PMDA 医薬品医療機器情報 フルカリック1号輸液 添付文書(独立行政法人医薬品医療機器総合機構)
カロリー量を把握していても、投与速度を誤ると血糖コントロールが乱れます。これが意外に見落とされやすい現場の落とし穴です。
フルカリック1号輸液903mlの標準的な投与速度は、1時間あたり約45〜50ml(1日投与量として全量を24時間かけて投与)が目安とされています。この速度で投与した場合、糖質投与速度はおよそ4〜5mg/kg/分(体重70kgの患者の場合)になります。一般的に、糖質の適正な投与速度の上限は5mg/kg/分とされているため、この製剤を急速投与すると上限を超えて高血糖・浸透圧利尿・脂肪肝のリスクが高まります。速度管理が条件です。
臨床での対策として意識したいのは以下の3点です。
820kcal全量を12時間で投与しようとすると、糖質投与速度は約8〜9mg/kg/分になる計算です。これはほぼ2倍の速度であり、代謝合併症のリスクが急激に高まります。急ぎすぎは禁物ですね。
栄養管理をチームで行う施設では、NST(栄養サポートチーム)が定める投与プロトコールを参照しながら、各患者に合った速度とカロリー量を個別化することが現場の標準実践になっています。
フルカリック1号輸液を長期間(2週間以上)使用し続けると、特定の微量栄養素が不足してきます。ここが見落とされがちなポイントです。
最も問題になるのがビタミン・微量元素の欠乏です。フルカリック製剤にはビタミンKをはじめとした脂溶性ビタミン(A・D・E・K)や、亜鉛・銅・マンガン・セレンなどの微量元素が含まれていないか、医療上の必要量を下回る量しか含まれていません。欠乏が起きると以下のような臨床症状が現れることがあります。
対処法として、2週間以上の中心静脈栄養(TPN)が見込まれる場合は、「マルタミン」や「オーツカMV」などのビタミン製剤と「エレメンミック」などの微量元素製剤を定期的にフルカリックに追加混合することが標準的な対応です。追加投与が原則です。
また、フルカリックへの薬剤追加混合(配合変化)には注意が必要で、カルシウムとリン酸塩の同時添加は沈殿を起こすことが知られています。薬剤師との連携のもと、配合可能な薬剤リストを事前確認する習慣をつけることが重要です。
日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)栄養ガイドライン(ビタミン・微量元素補充に関する推奨を含む)
長期絶食後の患者にフルカリックを投与する際、リフィーディング症候群(refeeding syndrome)のリスクを見落とすと、致死的な合併症につながることがあります。これは現場でまだ十分に周知されていない落とし穴です。
リフィーディング症候群とは、長期間(5〜10日以上)絶食または低栄養状態にあった患者に急速に栄養補給を行った際、インスリン分泌が急上昇し、リン・カリウム・マグネシウムが細胞内に取り込まれることで急激な低リン血症・低K血症・低Mg血症が起きる病態です。重篤な場合は心停止や呼吸不全を招くことがあります。つまり「栄養を入れたのに患者が悪化する」という逆説的な病態です。
低リン血症が代表的な指標であり、血清リンが1.0mg/dL未満になると重篤なリスクとされています。予防のために実践すべき手順は以下のとおりです。
英国国立医療技術評価機構(NICE)のガイドラインでは、ハイリスク患者への栄養投与開始時は最初の2日間を通常投与量の10kcal/kg/日以下に抑えるよう推奨しています。体重60kgの患者なら600kcal以下からのスタートです。これは820kcal/袋のフルカリック1号でいえば、全量を一度に投与するのではなく、半量または速度を半分に落として使う意識が必要ということです。慎重なスタートが条件です。
リフィーディング症候群は早期介入さえできれば予防可能な病態です。投与前のスクリーニングと最初の1週間のモニタリング徹底が、最も確実な対策になります。
静脈経腸栄養(JSPEN機関誌)リフィーディング症候群に関する日本語文献(J-STAGEより参照可能)