ステロイドを朝に投与しているのに、夜間に副作用が悪化する患者がいます。
副腎は両側の腎臓の上端にある、わずか数グラムの小さな臓器です。見た目の小ささとは裏腹に、生命の恒常性(ホメオスタシス)を維持する上で欠かせないホルモンを分泌しており、「生命必須ホルモン」とも呼ばれています。副腎皮質はさらに3層に分かれており、分泌されるホルモンの種類も層ごとに異なります。
| 層の名前 | 分泌されるホルモン | 主な働き |
|---|---|---|
| 球状層(外側) | アルドステロン(電解質コルチコイド) | Na⁺再吸収・K⁺排泄・血圧調整 |
| 束状層(中間) | コルチゾール・コルチゾン(糖質コルチコイド) | 糖新生・抗炎症・免疫抑制・ストレス応答 |
| 網状層(内側) | アンドロゲン(DHEA) | 男性ホルモン作用・アロマターゼによりエストラジオールに変換 |
つまり「どの層か」で分泌物が決まるわけです。
糖質コルチコイド(グルココルチコイド)の代表はコルチゾールです。コルチゾールは食事からの糖質が不足した場合に、タンパク質を材料として糖新生を行い、血糖値を一定に保ちます。これはちょうど「体内の緊急発電機」のようなイメージで、エネルギー源が切れそうになったときに自力で発電(糖を作る)するしくみです。さらに、抗炎症作用・免疫抑制作用ももっており、ステロイド薬の基礎となる作用です。
電解質コルチコイド(ミネラルコルチコイド)の代表はアルドステロンです。アルドステロンは腎臓の遠位尿細管に作用し、ナトリウム(Na⁺)の再吸収を促進する一方でカリウム(K⁺)と水素イオンを排泄します。ナトリウムが再吸収されると、水も一緒に引き込まれるため、循環血液量が増加して血圧が維持されます。これが重要です。
アルドステロンの分泌は主にレニン‐アンジオテンシン‐アルドステロン(RAA)系を介して調整されており、ACTHの影響は比較的小さい点も押さえておきましょう。
「副腎皮質ホルモンはどんなもの?」(看護roo!)—副腎皮質ホルモンの種類・電解質コルチコイドとRAA系の詳細解説
コルチゾールは1日を通して分泌量に大きな波があります。深夜2時ごろに最低値、そして朝8時ごろに最高値を示す「日内変動(サーカディアンリズム)」が存在することが、愛媛労災病院などの研究でも確認されています。これが原則です。
この日内変動が生まれる背景には、視床下部‐下垂体‐副腎(HPA)軸の制御があります。起床に向けて視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が放出され、最終的に副腎皮質からコルチゾールの分泌が高まるという流れです。コルチゾールが朝に高いのは、活動開始に備えてエネルギー供給・血圧・血糖値を整えるためといえます。
では、これが看護にどう関係するのでしょうか?
ステロイド薬を朝食後に服用するのは「なんとなく慣習」ではなく、コルチゾールの生理的な日内変動に合わせることで、HPA軸への抑制的な影響(フィードバック抑制)を最小限にするためです。夜にステロイドを追加投与すると、本来コルチゾールが低い時間帯に薬剤が血中に存在することになり、HPA軸の自然なサイクルを乱す可能性があります。これは使えそうな知識です。
患者から「なぜ必ず朝飲まなければいけないの?」と問われたとき、「体内のホルモンリズムに合わせているためです」と根拠をもって説明できることが、患者教育の質を高めます。
副腎皮質ホルモンの分泌は「多すぎても少なすぎてもいけない」という繊細なバランスで成り立っています。そのバランスが崩れると、臨床上重要な疾患が発症します。看護師として必ず押さえておく疾患が3つあります。
① クッシング症候群(コルチゾール過剰)
コルチゾールが慢性的に過剰になった状態です。副腎腺腫・下垂体腫瘍(クッシング病)が原因の場合と、ステロイド薬の長期使用が原因の場合があります。クッシング症候群の約70%がクッシング病(下垂体性)、約30%が副腎腺腫によるとされています。
主な症状は以下の通りです。
② アジソン病(副腎皮質ホルモン全般の欠乏)
副腎皮質が結核・自己免疫などによって障害され、コルチゾール・アルドステロンともに不足した状態です。厚生労働省指定難病に認定されており、生涯にわたるホルモン補充療法が必要です。
症状は倦怠感・食欲不振・低血圧・低血糖・皮膚や粘膜の色素沈着(メラニン増加)などで、一見非特異的なため見逃されやすいことに注意が必要です。
重篤な「副腎クリーゼ(急性副腎不全)」に至ると、血圧が急激に低下してショック状態になります。痛いことです。ストレス(感染症・手術・外傷など)が引き金になることが多いため、看護師としてはアジソン病の患者に発熱や侵襲的処置が重なるタイミングで特に注意が必要です。
③ 原発性アルドステロン症(アルドステロン過剰)
副腎腺腫などによりアルドステロンが過剰に分泌される疾患で、「コン症候群」とも呼ばれます。高血圧・低カリウム血症・筋力減退・多尿・頻尿が特徴です。高血圧の原因として見逃されることが多く、二次性高血圧の鑑別に重要です。これだけは押さえておいてください。
「クッシング病とクッシング症候群」(看護roo!)—クッシング症候群の約70%がクッシング病であるなど病態の詳細
現場で特に重要な知識が、ステロイド薬の急な中止リスクです。これが原則です。
健常な成人では、1日あたり5〜10mgのコルチゾールが副腎皮質から自然に分泌されています。しかしステロイド薬を長期・大量に投与すると、体内のコルチゾール量が薬剤で補われている状態が続くため、HPA軸がネガティブフィードバックで抑制され、副腎皮質自体が萎縮・機能低下していきます。
この状態でステロイドを急に中止すると、どうなるでしょうか?
自前のコルチゾールを分泌できなくなった副腎では、ストレスに対して応答できず、「副腎不全(ステロイド離脱症候群)」が起こります。症状としては全身倦怠感・頭痛・吐き気・血圧低下・発熱・関節痛などで、重篤な場合は不可逆的な血圧低下と意識障害をきたします。
しかも、HPA軸の機能が正常に回復するまでには、長期投与後で数カ月単位を要することもあります。意外ですね。
ステロイド薬を急に止めてはいけない理由のまとめ:
患者が「副作用が嫌だからやめたい」と言っても、まず主治医に相談してもらうよう促すことが看護師の重要な役割です。また、ステロイド内服中の患者が「飲み忘れた」と申告したときも、飲み忘れが数日続いている場合は症状の変化に注意する必要があります。
もう一つ見逃しやすいのが、手術時のステロイドカバーです。手術などのストレス侵襲が生じると、健常人では通常量の5〜10倍(最大100mg)のコルチゾールが必要になると言われています。ステロイドを長期服用している患者はこの応答ができないため、周術期に追加のステロイド補充(ステロイドカバー)が必要です。ステロイドカバーが必要な条件は次の通りです。
術前サマリーや問診票でのステロイド使用歴の確認は、看護師として積極的に行いたい確認事項です。
「ステロイド投与中の患者にステロイドカバーは必要?」(看護roo!)—周術期のコルチゾール必要量と適応条件の詳細
教科書には「副作用を観察する」とありますが、「どの順番で何を見るか」が実際の現場では曖昧なことがあります。ここでは、観察の優先度を整理します。
ステロイド投与中の患者に対する観察の優先順位:
まず生命に直結するサインから確認するのが基本です。
【優先度 高】バイタルサインと感染兆候
ステロイドは免疫抑制作用をもつため、感染症のリスクが高まります。しかも厄介なことに、発熱や炎症反応(CRP上昇)がステロイドによって抑制されるため、「感染があっても症状が出にくい」という落とし穴があります。そのため、通常より少し低めの微熱(37.5℃前後)でも感染の可能性を念頭に置いて観察することが大切です。
【優先度 中】代謝系・電解質
【優先度 中】消化器系
ステロイドは胃粘膜保護因子(プロスタグランジン)の産生を抑制するため、消化性潰瘍が起きやすくなります。そのため、プロトンポンプ阻害薬(PPI)などの胃保護薬が同時に処方されることが多いです。胃の不快感・黒色便(タール便)の有無を患者に確認する習慣をつけましょう。
患者教育で伝えるべき5つのポイント:
患者がステロイドに対して「怖い薬」というイメージを持ち、こっそり服薬を中断するケースは実臨床で少なくありません。適切な情報提供と説明の機会を定期的に作ることが、副腎クリーゼ予防という大きなリスク回避につながります。
また、ステロイド手帳(ステロイドカードとも呼ばれる)の携帯を勧めることも現場では有効です。緊急受診や救急搬送の際に医師がすぐに使用薬を確認できるため、治療の遅れを防ぐ効果があります。「お守り代わりに持っていてください」という言葉でアドバイスすると受け入れてもらいやすいです。
「ステロイド離脱症候群」(日本内分泌学会)—ステロイド中止後の副腎不全症状・治療方針の公式解説
「ステロイド治療」(東京女子医科大学病院 腎臓内科)—患者向けにもわかりやすい副作用一覧と中止リスクの説明
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