焼結後のFFF方式金属パーツは、積層方向に関係なく強度がほぼ均一になります。

FFF(Fused Filament Fabrication)方式とは、リール状のフィラメントを加熱ノズルで溶かしながら積層していく、3Dプリンターの造形方式です。樹脂用として普及してきた方式ですが、近年は金属粉末を樹脂バインダーと混ぜ合わせた「金属フィラメント」を使うことで、金属部品の製造にも対応できるようになりました。
金属加工に携わる方が最初に驚くのが、造形後の工程の多さです。FFF方式で金属を造形する場合、大きく分けて3つのステップが必要になります。
この一連のプロセスは、金属射出成形(MIM:Metal Injection Molding)の技術を3Dプリンターに応用したものです。MIMをご存知の方は工程のイメージがつかみやすいでしょう。
つまり重要なことです。FFF方式の「造形」だけで金属部品ができると思っていると、導入後に工程が増えて驚くことになります。造形・脱脂・焼結の3工程がセットで成立することを最初に把握しておくことが大切です。
金属FFF/MEX方式の造形から焼結まで詳しく解説(seed3d.net)
FFF方式の金属3Dプリンターで使える材料は、年々増えてきています。現在の主力材料を整理すると、金属加工現場で使われる素材ともかなり重なっています。
| 材料 | 主な特徴 | 代表的な用途 |
|---|---|---|
| SUS316L(ステンレス鋼) | 耐食性が高く、医療・化学分野に適する | 治具、機能部品、プロトタイプ |
| 17-4PH(SUS630) | 熱処理で高強度・高硬度化できる | 産業機械部品、航空関連部品 |
| H13工具鋼(SKD61相当) | 高温でも強度を維持、耐摩耗性に優れる | 金型、射出成形治具 |
| D2工具鋼(SKD11相当) | 優れた耐摩耗性と靭性のバランス | 切削工具、成形工具 |
| インコネル625 | 高耐食・高温600℃での引張強度500MPa | タービン部品、高温環境部品 |
| 純銅 | 優れた熱・電気伝導性、DMLSより高導電 | ヒートシンク、電極、誘導コイル |
Markforged Metal Xの17-4PHステンレス鋼の場合、焼結後の強度は鍛造品の約95%に相当するとされています。これは切削加工で使う規格材とほぼ同等の水準です。
意外なことを一つ付け加えます。FFF方式は積層造形であるにもかかわらず、焼結工程を経た後のパーツは積層方向による強度の差がほとんど出ません。樹脂FFF方式では積層の弱い方向(Z軸方向)に力がかかると破断しやすい弱点がありますが、金属FFF方式では金属粉末が拡散結合することで等方的な組織になります。これは金属加工の現場で扱う部品に求められる信頼性という点で、大きなメリットです。
ただし、相対密度については注意が必要です。焼結後の理論密度は95〜99%と表記されることが多いですが、実際の造形設定や脱脂条件によっては数%前後のばらつきが生じます。精度が求められる用途では、試作段階でのデータ確認が必須です。
金属加工従事者がFFF方式を導入した際に、最初にぶつかる壁の一つが「収縮」です。焼結工程では、パーツが線寸法で約15〜20%収縮します。コーヒー缶(直径約66mm)を例にすると、元の寸法から最大で13mm近くも小さくなるイメージです。
収縮はただ小さくなるだけではなく、方向によってばらつくこともあります。そのため、造形時にあらかじめ収縮率を見越した寸法でデータを拡大する必要があります。収縮補正が条件です。
主要な対処方法は以下のとおりです。
適切に収縮補正を行った場合、±0.2〜0.5mm程度の寸法精度が目安とされています。切削加工(一般的に±0.01〜0.05mm)と比べると精度は劣りますが、治具や試作品の用途であれば十分なケースも多いです。精度要件が厳しい最終部品には、焼結後に二次加工(研削・旋削など)を組み合わせるのが現実的な対応です。
なお、奈良県工業技術センターの技術論文によると、FFF方式の金属3Dプリンターでは脱脂時の雰囲気ガスの種類や温度プロファイルによっても焼結後の品質が変化することが確認されています。初期導入時には、炉の設定条件を細かく記録・管理することを意識するとよいでしょう。
FFF方式金属3Dプリントの脱脂・焼結プロセスにおける不良の改善(奈良県工業技術センター・技術論文PDF)
「FFF方式の金属3Dプリンターはコストが安い」と聞いたことがある方も多いでしょう。これは正しい場合もあれば、そうでない場合もあります。用途ごとに整理することが大切です。
まず、レーザー焼結(PBF)方式などの従来型金属3Dプリンターと比べると、装置価格は大幅に下がります。パウダーベッド方式(PBF)の場合は装置だけで3,000万〜2億円規模が相場ですが、FFF方式では造形機・脱脂炉・焼結炉をセットでも数百万円〜1,500万円前後での導入が可能です。フィラメント1本あたりの材料費も、金属粉末床方式よりも管理がしやすい水準です。
一方、切削加工や鋳造との比較では、次のように整理できます。
| 比較項目 | FFF方式 金属3Dプリンター | 切削加工 | 鋳造 |
|---|---|---|---|
| 初期コスト | 中〜高(設備一式) | 中〜高(工作機械) | 高(金型費用) |
| 少量・多品種生産 | ◎(金型不要) | △(段取り時間あり) | ✕(金型単価が高い) |
| 複雑形状 | ◎(内部空洞も可能) | △(工具が届かない形状は困難) | △(抜き方向の制約あり) |
| 寸法精度 | △(±0.2〜0.5mm) | ◎(±0.01〜0.05mm) | △〜◯(要後加工) |
| 大量生産 | ✕(スループットが低い) | ◯ | ◎(量産向き) |
| 材料の無駄 | 少ない(必要量のみ使用) | 多い(削り代が出る) | 少ない(再溶解可能) |
整理するとシンプルです。FFF方式の金属3Dプリンターは「多品種少量生産」「複雑形状の試作・治具製作」「内部流路を持つ部品」で最も力を発揮します。これらに当てはまらない用途、たとえば高精度な最終製品の大量生産では、切削加工や鋳造の方が向いています。
金属加工の現場では治具の製作コストが積み重なるケースが多く、この分野でFFF方式の金属3Dプリンターが評価されています。複雑な形状の治具を外注すれば数万円〜数十万円の費用と2週間前後のリードタイムがかかりますが、社内にFFF方式のシステムがあれば、データ作成から焼結完了まで数日で完結するケースもあります。
FFF方式の金属3Dプリンターを導入する際に、見落とされがちな重要ポイントが「脱脂工程の選択」です。フィラメントによって必要な脱脂方法が異なり、それが必要設備・コスト・安全管理のレベルを大きく左右します。
脱脂方式には以下の3種類があります。
触媒脱脂は速くて高品質ですが、硝酸ガスが発生するため、設備コストと安全管理のハードルが他と比べて明らかに高くなります。フィラメントを先に選んで、後から「設備が対応できない」と気づくと、余計なコストが発生します。フィラメント選定→必要設備の確認→安全管理計画の策定、という順序で準備を進めることが重要です。
なお、セラミックスフィラメント(Zetamixシリーズなど)は金属系と異なり、アセトン溶媒脱脂が可能なため、より設備の導入が容易なケースがあります。金属部品と並行してセラミックス部品(高温絶縁部品や耐摩耗部材)も作りたいという現場では、セラミックスFFF方式との組み合わせを検討する価値があります。
金属加工の現場では、高温・腐食性ガスを扱う設備の導入には社内の安全衛生担当との連携が必須です。この点は導入計画の初期段階から関係者を巻き込んでおくことをお勧めします。
金属フィラメントの特性と脱脂・焼結の詳細(Forward AM 公式サイト)