肥満患者に実体重でフェンタニルを投与すると、呼吸が止まるリスクがあります。

フェンタニル注射液0.1mg「第一三共」は、第一三共株式会社が製造販売する医療用麻薬に分類される注射薬です。一般名はフェンタニルクエン酸塩(Fentanyl Citrate)であり、1972年2月から販売が開始されている、国内でも長い使用実績を持つ薬剤です。規制区分は「劇薬・麻薬・処方箋医薬品」に該当し、麻薬及び向精神薬取締法に基づく厳格な管理が求められます。
本剤の作用機序は、中枢神経系に広く分布するオピオイド受容体、とりわけμ(ミュー)受容体への選択的結合によるものです。フェンタニルはこのμ受容体に強力に作用し、痛みの伝達を遮断する仕組みです。鎮痛力の面では、同じくμ受容体に作用するモルヒネと比較して、静脈内投与で約50〜100倍という非常に高い鎮痛効力を持ちます。
効能・効果は大きく3つに分かれます。①全身麻酔・全身麻酔における鎮痛、②局所麻酔における鎮痛の補助、③激しい疼痛(術後疼痛・癌性疼痛など)に対する鎮痛、です。これが基本です。
静脈内投与時の薬物動態として、投与後60分以内に急速に血漿中濃度が低下し、半減期は平均約3.6時間と比較的短めです。72時間以内に投与量の約85%が代謝物として尿糞中に排泄され、未変化体として排泄されるのは8%未満と報告されています(外国人データ)。投与ルートには静脈内・硬膜外・くも膜下の3通りがあり、それぞれ用量や投与速度が異なるため、投与経路を誤ることなく正確に選択することが大前提です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | フェンタニル注射液0.1mg「第一三共」 |
| 一般名 | フェンタニルクエン酸塩 |
| 規制区分 | 劇薬・麻薬・処方箋医薬品 |
| 販売開始 | 1972年2月 |
| 有効期間 | 5年(室温保存) |
| 鎮痛力 | モルヒネの約50〜100倍(静脈内投与) |
| 血中半減期 | 平均約3.6時間 |
本剤はモルヒネとは異なり脂溶性が高いことから作用発現が速く、静脈内投与では約5分で最大鎮痛効果に達します。これは使えそうです。速やかな鎮痛が必要な術中管理や術後急性期の疼痛対応において、この即効性が本剤の大きな臨床的メリットとなっています。
PMDA 医療関係者向け フェンタニル注射液0.1mg「第一三共」医薬品情報(PMDA公式)
用法・用量は投与経路と目的によって細かく規定されており、単純ではありません。成人への静脈内投与を例に取ると、バランス麻酔での麻酔導入時は0.03〜0.16mL/kg(フェンタニルとして1.5〜8μg/kg)を緩徐に静注、麻酔維持には0.5〜1mL(25〜50μg)ずつの間欠投与か、0.01〜0.1mL/kg/h(0.5〜5μg/kg/h)の持続点滴静注を行います。大量フェンタニル麻酔ではさらに高用量が設定されており、導入時に0.4〜3mL/kg(20〜150μg/kg)まで使用します。この用量差は大きいですね。
局所麻酔の鎮痛補助では成人に0.02〜0.06mL/kg(1〜3μg/kg)を静注します。術後疼痛に対しては1〜2μg/kgを緩徐に静注した後、1〜2μg/kg/hで持続点滴静注を継続します。癌性疼痛への持続静注では1日2〜6mL(0.1〜0.3mg)から開始し、患者の状態に応じて増量します。つまり開始用量は必ず低用量から入るのが原則です。
硬膜外投与においては、単回投与法として1回0.5〜2mL(25〜100μg)を硬膜外腔に注入し、持続注入法では0.5〜2mL/h(25〜100μg/h)の速さで持続注入します。くも膜下投与は単回投与法のみで、1回0.1〜0.5mL(5〜25μg)と静脈内投与と比較して大幅に少ない量であることを確認が必要です。
特に注意が必要なのが小児への投与です。バランス麻酔または大量フェンタニル麻酔に用いる場合、麻酔導入時の小児用量は成人用量の約1/3〜1/2程度(1〜5μg/kg)から開始します。低出生体重児・新生児・乳児では呼吸抑制が起こりやすいため、自発呼吸下での投与は低用量から開始し、バイタルサインの厳重な監視が不可欠です。
高齢者への投与も減量が基本です。一般に生理機能が低下しており、通常用量で過剰効果が出やすい点に注意が必要です。また、腎機能障害・肝機能障害のある患者では血中濃度が上昇しやすく、副作用発現リスクが高まります。これらの患者には用量の慎重な設定が条件です。
ここで一つ見落としがちな落とし穴があります。肥満患者に対して実体重(TBW)に基づいて投与量を計算すると過量投与となり呼吸抑制が発現するおそれがある、と添付文書に明記されています。肥満患者の場合は除脂肪体重(LBW)や理想体重(IBW)を参考に投与量を決定することが推奨されており、見た目の体格だけで判断しないことが重要です。
フェンタニル注射液0.1mg「第一三共」 用法・用量・使用上の注意の詳細(CareNet)
フェンタニル注射液の副作用は多岐にわたりますが、医療従事者として特に重篤なものを把握しておく必要があります。結論は「呼吸抑制・換気困難・血圧降下」の3つが最重要です。
重大な副作用(頻度不明)の一覧:
発現頻度が5%以上のものとして悪心・嘔吐があります。これは実際に術後の患者ケアで高頻度に対応が必要になる副作用です。
硬膜外・くも膜下投与において特に知っておきたいのが、遅発性呼吸抑制のリスクです。添付文書では「重篤な呼吸抑制が投与から数時間以上経過した後に発現することがある」と明記されています。これが非常に重要な点です。術後に患者が病棟へ移送された後でも呼吸抑制が起こりうるため、術後の十分なモニタリング継続が欠かせません。硬膜外モルヒネでは投与後7〜12時間後に遅発性呼吸抑制が起きることが知られていますが、フェンタニルも硬膜外・くも膜下投与では同様のリスクに注意が必要です。
過量投与時の対応としては、換気低下・無呼吸があれば酸素吸入と補助呼吸を開始し、麻薬拮抗剤(ナロキソン等)を投与します。注意すべき点として、過量投与時の呼吸抑制は麻薬拮抗剤の作用持続時間より長く続くことがあるため、拮抗剤投与後も呼吸管理を継続し、必要に応じて追加投与が必要です。痛みに注意すれば大丈夫です。
また、増量により痛みが増悪する「痛覚過敏(オピオイド誘発性痛覚過敏:OIH)」やアロディニアも添付文書に明記されています。長期・大量投与時に鎮痛効果が落ちているように見える場合、用量をさらに増やす前にOIHの可能性を考慮することが重要です。
日本緩和医療学会 オピオイド鎮痛薬各論(フェンタニルの副作用と対処法)(日本緩和医療学会)
本剤は主として肝代謝酵素CYP3A4で代謝されます。これが薬物相互作用を理解する鍵です。CYP3A4の活性に影響する薬剤が同時に使用されている場合、フェンタニルの血中濃度が予測外に変動することがあります。
CYP3A4阻害剤との相互作用(併用注意):
CYP3A4誘導剤との相互作用(併用注意):
さらに中枢神経抑制剤(ベンゾジアゼピン系、バルビツール酸系、フェノチアジン系など)、全身麻酔剤、三環系抗うつ剤、オピオイド系薬剤との併用では中枢神経抑制作用が相加的に増強されるおそれがあります。また、SSRI・SNRIなどセロトニン作用薬との併用ではセロトニン症候群(不安・焦燥・発熱・発汗・頻脈・ミオクローヌス等)が発現するリスクがあります。
絶対禁忌(併用禁忌):
ナルメフェン塩酸塩水和物(セリンクロ®)との併用は禁忌です。μオピオイド受容体拮抗作用によりフェンタニルの離脱症状が現れるおそれがあり、また効果が著しく減弱します。緊急手術等でやむを得ず投与が必要な場合も、少なくとも投与中止から1週間以上の間隔を置くことが原則です。
その他の禁忌(投与してはいけない患者):
これらは禁忌であることを確認しておけばOKです。特に敗血症患者への硬膜外・くも膜下投与禁忌は、ICUや救急現場での麻薬鎮痛を考える際に重要な判断基準となります。
フェンタニル注射液0.1mg「第一三共」 薬物相互作用・禁忌一覧(KEGG MEDICUS 医薬品情報)
フェンタニル注射液は麻薬及び向精神薬取締法(以下「麻向法」)の規制を受ける麻薬です。医療機関での取り扱いには、「麻薬診療施設」としての届出と「麻薬管理者」の設置が法律上義務付けられています。これは麻薬を使用するすべての医療機関に課せられた法的義務です。
施用残液(残液)の廃棄について:
麻薬注射剤を施用した際の残液は「施用残」として扱われます。IVH(中心静脈への点滴注射)に麻薬注射剤を注入して使用したものの残液についても同様です。これらの施用残は、都道府県知事への「麻薬廃棄届」の提出なく廃棄が可能ですが、必ず麻薬管理者の責任下で他の職員の立会いのもと行わなければなりません。廃棄量は帳簿の備考欄にmL単位で記載することが必要です。
一方、施用されず保管中に廃棄が必要となった麻薬(未使用品・期限切れ等)は、都道府県知事への届出と許可が必要です。廃棄方法も焼却・放流など回収が困難な方法に限定されています。単独処理はできません。
また、製剤を調製する際にフェンタニル注射液が皮膚に触れた場合は、水でしっかりと洗い流す必要があります。ここで注意が必要です。石けんやアルコール等を使用すると皮膚からの吸収が増加するおそれがあるため、添付文書では明確に「石けん・アルコールを使用しないこと」と記されています。普段の手洗いや消毒のクセで石けんで洗う行動はかえって危険です。
さらに、「同一患者に対する一回の手術時の使用で残液が出た場合には、麻薬に関する所定の手続きに従って廃棄すること」とも取扱い上の注意に定められています。手術終了後に残ったフェンタニルを翌日の手術で使い回すことは法律上認められていないため、現場での運用ルール整備が重要です。
帳簿管理においては、フェンタニル注射液の受入・払出・施用量・廃棄量をアンプル単位(払出)・mL単位(廃棄)で正確に記録することが求められます。帳簿の誤記や記載漏れは麻向法違反につながるおそれがあります。これが法令上の原則です。
厚生労働省「病院・診療所における麻薬管理マニュアル」(残液廃棄・帳簿管理の法的根拠)
2024年10月以降、テルモ社製フェンタニル注射液の海外工場における製造過程逸脱・現地当局による無通告監査への対応のため製造停止が生じ、フェンタニル注射液全体の国内供給量が大幅に減少しました。厚生労働省は2024年12月27日付の事務連絡で、全国の医療機関に対して適正な使用と過剰発注の抑制を要請しています。
この状況を受け、第一三共プロファーマ株式会社はフェンタニル注射液0.1mg/0.25mg「第一三共」の出荷量を通常より増加させて対応しましたが、テルモ社・第一三共社を合わせた供給量は日本全体の需要量を下回る状況が続きました。これは現場にとって非常に厳しい状況です。
日本麻酔科学会は2024年12月20日付で「フェンタニルが安定供給されるまでの対応について」を発出し、各医療機関に使用優先順位の策定を求めました。優先すべき医療行為の例として、以下が挙げられています。
一方で、フェンタニルを使用したIV-PCA(経静脈的自己調節鎮痛法)は可能な限り避け、代替としてモルヒネを使用したIV-PCAへの移行が推奨されています。硬膜外鎮痛についても、フェンタニルに代わりモルヒネの使用が勧められました。
癌性疼痛への対応では、フェンタニル注射液の代替薬として他の強オピオイド製剤であるモルヒネ・オキシコドン・ヒドロモルフォンへの切り替えが選択肢となります。オピオイドスイッチングを行う際は各施設のオピオイド等価換算表を用い、切替後の効果・副作用の発現状況を注意深く観察しながら用量調整を行います。
| 場面 | 推奨される代替薬・対応 |
|---|---|
| 集中治療 人工呼吸中の鎮痛 | レミフェンタニル または モルヒネ持続投与 |
| 術後鎮痛 IV-PCA | モルヒネによるIV-PCA |
| 硬膜外鎮痛 | モルヒネ硬膜外投与 |
| 癌性疼痛 強オピオイド注射 | モルヒネ・オキシコドン・ヒドロモルフォン注射 |
なお、2025年9月30日時点でも日本緩和医療学会(JSPM)はフェンタニル注射液「テルモ」の出荷調整が続いていることを案内しており、引き続き適正使用・適正発注への協力が求められています。買い込みは控え、当面の必要量のみの購入が原則です。
この供給制限の経験は、麻薬性鎮痛剤への依存リスクが医療システム全体にとっても実在することを示しています。施設内でのオピオイドロテーション知識の整備と、代替薬に精通した薬剤師・医師との連携体制を日常から構築しておくことが、有事の際の患者への影響を最小化するうえで大切です。
厚生労働省 事務連絡「フェンタニル注射液の適正な使用と発注について(協力依頼)」令和6年12月27日
日本麻酔科学会「フェンタニル注射液供給問題への対応について」(使用優先順位・代替薬の詳細)

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