ファリーダック販売中止の理由と医療現場への影響

ファリーダック(パノビノスタット)が2024年4月に販売中止となった背景とその理由を解説。再発・難治性多発性骨髄腫の治療に携わる医療従事者が知っておくべき代替薬や今後の対応策とは?

ファリーダック販売中止の理由と医療現場への影響

販売中止後も「在庫があるうちは使い続けられる」と思っていると、既存患者の治療継続が突然断絶するリスクがあります。


ファリーダック販売中止 3つのポイント
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販売中止の時期と経緯

2024年4月30日付でファリーダックカプセル10mg・15mgが正式に販売中止。日本血液学会が2023年度時点で「供給継続は現実的に難しい」と判断し、承認整理を了承していた。

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販売中止の主な背景

国内での使用実績が限定的で、製造販売元・ノバルティスファーマによる供給継続が困難になったことが直接の要因。重篤な副作用プロファイルと新規薬剤の台頭も関与している。

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医療現場が取るべき対応

二重特異性抗体薬(エルレフィオ、テクベイリ)やブーレンレップなど、2024〜2025年に相次いで承認・発売された新規薬剤への移行が現実的な選択肢となっている。


ファリーダック(パノビノスタット)とはどんな薬だったのか



ファリーダックカプセル(一般名:パノビノスタット乳酸塩)は、ノバルティスファーマ株式会社が製造販売していた抗悪性腫瘍です。2015年7月3日に再発または難治性の多発性骨髄腫を適応として製造販売承認を取得し、同年8月31日に薬価収載・発売となりました。


多発性骨髄腫治療薬としては国内初のヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害剤という位置づけで、その作用機序は当時の標準治療薬とは一線を画すものでした。HDACは、DNAを巻き取るタンパク質「ヒストン」の脱アセチル化を促進する酵素群です。多発性骨髄腫細胞ではHDAC活性が異常に亢進しており、がん抑制遺伝子の転写が阻害されています。パノビノスタットはこのHDACを広く阻害することで、腫瘍細胞のアポトーシス誘導・細胞周期停止・血管新生抑制という3つの経路を同時に遮断する仕組みです。


つまり既存薬とは作用が異なります。


プロテアソーム阻害薬のボルテゾミブ(ベルケイド)・デキサメタゾンと3剤を併用する国際共同第3相臨床試験(PANORAMA 1試験)では、無増悪生存期間の中央値がプラセボ群の8.1カ月に対しファリーダック群で12.0カ月と、統計学的に有意な延長を示しました。また完全奏効に近い奏効率も27.6%対15.7%とファリーダック群が上回り、その有効性が裏付けられています。


薬価は10mgカプセル1カプセルあたり36,583.90円、15mgカプセルは54,875.80円と設定されました。標準的なレジメンで使用した場合、年間薬価は最大で700万円超に達するとされており、高薬価が処方のハードルにもなっていたと指摘されています。


がん情報サイト「オンコロ」|多発性骨髄腫 7/3 HDAC阻害薬「ファリーダック」承認取得(承認時の詳細と臨床試験結果)


ファリーダック販売中止の理由と承認整理の背景

ファリーダックの販売中止日は2024年4月30日です。正確には「製造販売承認の整理(承認整理)」を経た販売中止であり、単純な市場撤退とは経緯が異なります。


日本血液学会の2023年度事業報告書には、その経緯が明示されています。ノバルティスファーマから「2024年4月を前提とするファリーダック承認整理(国内供給停止)」について了承依頼があり、学会内で審議が行われました。審議の結論は「使用中の施設と十分な合意を得ていること、現実的に供給継続は難しいことから、承認整理はやむをえない」というものでした。


販売中止の背景には、大きく3つの要因が重なっています。


① 国内使用実績の限定性
承認から販売中止までの約9年間、ファリーダックが実際に使用できる患者層は「再発または難治性の多発性骨髄腫で、少なくとも1つの標準的治療が無効または再発した患者」に限定されていました。加えて、重篤な骨髄抑制・QT延長などの副作用管理が必要なため、施設限定的な使用にとどまっていました。


② 副作用の管理負担
臨床試験(PANORAMA 1試験)において、ファリーダック群の90.6%に副作用が認められています。主な副作用は血小板減少症55.9%、下痢50.9%、疲労31.0%、貧血26.5%、好中球減少症23.6%で、重篤な骨髄抑制はファリーダック群の12.3%に発現しました。QT延長のリスクから心電図モニタリングも必要であり、管理コストが高い薬剤でした。


③ 後継・代替薬剤の台頭
2019年以降、再発・難治性多発性骨髄腫を対象とした新規薬剤が国内でも相次いで承認されています。この結果、ファリーダックが担っていた治療的ポジションが縮小し、製造販売元として供給継続の経済的根拠が薄れていったと考えられます。


これらが重なった結果が販売中止です。


EPSホールディングス|再審査終了/販売中止/承認条件解除一覧(2024年9月版:ファリーダックの販売中止が記載)


ファリーダック販売中止が医療現場に与えた具体的な影響

販売中止の影響を最も直接的に受けたのは、すでにファリーダックによる治療が進行中だった患者を担当する血液内科医・薬剤師です。


日本血液学会が「使用中の施設と十分な合意を得ていること」を承認整理の条件として確認していたことからも分かるように、突然の供給停止ではなく、段階的な移行が図られました。それでも、既存患者の治療レジメンを変更することは容易ではありません。


治療歴のある再発・難治性多発性骨髄腫では、それまで使用してきた薬剤に対して耐性が生じている場合が多く、次の治療選択肢を慎重に検討する必要があります。パノビノスタット+ボルテゾミブ+デキサメタゾンという3剤レジメン(PVd)を選択していた患者に対し、代替のレジメンをどう組むかは個々の症例ごとの判断が求められます。


また、薬剤師の立場からは、経過措置医薬品としての経過措置期限(2024年3月31日)および最終的な薬価削除の時期も確認が必要でした。経過措置期間中の在庫管理と患者への情報提供は、現場の薬剤師に課せられた重要な実務でした。


薬価削除後は保険請求の対象外となります。


GHC(グローバルヘルスコンサルティング)|骨髄抑制などの副作用があるため適応患者の慎重な選択を(ファリーダック承認時の副作用情報と使用注意点)


ファリーダックの代替薬として知っておくべき再発・難治性多発性骨髄腫の新規治療薬

ファリーダック販売中止後、再発・難治性多発性骨髄腫の治療選択肢は急速に拡大しています。医療従事者として把握しておくべき主要な薬剤を整理します。


まず2024年5月に薬価収載・発売されたのが、ファイザーのエルレフィオ皮下注(一般名:エルラナタマブ)です。BCMA(B細胞成熟抗原)とCD3を標的とする二重特異性抗体薬であり、既存療法に抵抗性を示した患者に対して新たな選択肢となっています。皮下注射による投与が可能な点も現場での利便性に貢献しています。


続いて2025年3月には、テクベイリ皮下注(一般名:テクリスタマブ)が薬価収載・発売となりました。こちらもBCMA×CD3二重特異性抗体薬で、再発・難治性多発性骨髄腫を対象としています。


さらに2025年5月には、GSKのブーレンレップ点滴静注用(一般名:ベランタマブマホドチン)が承認・発売されています。抗BCMA抗体薬物複合体(ADC)という新たなクラスの薬剤で、ポマリスト・デキサメタゾンとの3剤併用療法が承認されています。


これは使えそうです。


一方、HDAC阻害薬という作用機序の観点では、ファリーダックの直接的な後継となる薬剤は再発・難治性多発性骨髄腫に対しては現時点で存在しません。ハイヤスタ錠(ツシジノスタット)はHDAC阻害薬ですが、適応は「再発または難治性の成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)および末梢性T細胞リンパ腫」であり、多発性骨髄腫には使用できません。この点は混同しやすいため注意が必要です。


HDAC阻害薬の適応は疾患が異なります。


ファイザー株式会社プレスリリース|エルレフィオ皮下注発売(再発・難治性多発性骨髄腫に対する新たな選択肢)


ファリーダック販売中止から学ぶ「稀少疾患治療薬の供給継続リスク」という独自視点

ファリーダックの販売中止は、単なる一薬剤の市場撤退にとどまりません。稀少疾患や難治性血液がん領域における薬剤の「供給継続リスク」を改めて考えるきっかけとして重要です。


多発性骨髄腫の国内推定総患者数は約14,000人とされており、それほど大きな市場ではありません。年間薬価が700万円超と高単価であっても、実際に処方できる患者数が限られれば、製薬企業にとって商業的に成立させるのが難しくなるケースがあります。ファリーダックが承認された2015年時点では国内唯一のHDAC阻害薬として期待されましたが、その後の競合薬剤の相次ぐ登場が市場環境を変えました。


厳しいところですね。


このような薬剤の場合、医療機関・薬剤師が注目すべき指標があります。まず「使用成績調査の終了」は、市場からの撤退を示す先行シグナルになりえます。ファリーダックには発売当初から全例調査の承認条件が付与されており、その調査の完了と承認条件の解除が販売中止の地ならしとなりました。


次に、「経過措置医薬品への移行」は薬価削除の前段階として機能します。ファリーダックは2023年11月の経過措置医薬品告示により、2024年3月31日を期限として薬価削除の方向が示されました。こうした情報をルーティンでチェックすることが、患者への影響を最小化するための早期対応につながります。


製薬企業が販売中止を決定してから実際に供給が止まるまでの猶予期間は、必ずしも十分ではありません。日本血液学会のような学術団体との協議を経て承認整理が進むケースは比較的丁寧な対応といえますが、それでも個々の患者の治療継続には多くの調整が伴います。


供給リスクの把握が患者を守ります。


厚生労働省が毎年公開している「供給停止予定品目」リストや、PMDAのRMP(医薬品リスク管理計画)データベースの削除情報をこまめに確認する習慣を持つことで、販売中止による治療断絶リスクを事前に察知できます。特に再発・難治性血液悪性腫瘍の治療薬は市場規模が小さく、こうしたリスクに晒されやすい薬剤が含まれているという認識が必要です。


日本血液学会 2023年度事業報告書(PDF)|ファリーダック承認整理の了承経緯と審議内容(7ページ目に記載)






【第2類医薬品】アレルビ 84錠