先行品と同じ用量で切り替えると、一部患者で効果が減弱するケースが報告されています。

エタネルセプトbs皮下注 maは、エタネルセプト(先行品名:エンブレル®)のバイオ後続品(バイオシミラー)として日本国内で承認された生物学的製剤です。製造販売元はマイラン EPDで、「ma」はメーカー識別コードを指しています。
バイオシミラーとは、先行バイオ医薬品と同一の有効成分を持ち、品質・安全性・有効性が同等であることが科学的に確認された医薬品のことです。化学合成薬のジェネリックとは異なり、生物由来の製造プロセスを用いるため、「同一」ではなく「同等(similar)」という表現が使われます。これが原則です。
エタネルセプト自体はTNF(腫瘍壊死因子)受容体とIgG1のFc領域を融合した組換えヒト型TNF受容体融合タンパク質で、TNF-αおよびTNF-βと結合して炎症シグナルを遮断します。つまり、炎症のカスケードを上流でブロックする仕組みです。
先行品エンブレル®は1998年に米国FDAで承認され、日本では2005年に承認された歴史ある薬剤ですが、bs(バイオシミラー)のmaが登場したことで医療経済的なメリットが生まれています。薬価については後述しますが、患者負担の軽減という観点からも注目されています。
エタネルセプトbs皮下注 maの承認適応は複数あり、疾患ごとに推奨される用量・投与スケジュールが異なります。ここが実務上のポイントです。
関節リウマチ(RA) の場合、通常成人には1回25mgを週2回、または1回50mgを週1回、皮下注射します。週あたりの総投与量は50mgで統一されており、投与頻度の選択は患者の利便性や忍容性を考慮して行います。週1回投与は患者の自己注射アドヒアランスを高めやすいという利点があります。
若年性特発性関節炎(JIA) では、体重に応じた用量調整が必要です。体重63kg未満の場合、週1回0.8mg/kgを皮下注射(最大50mg/回)、体重63kg以上では成人と同様の用量となります。小児では体重管理が重要ですね。
乾癬(尋常性乾癬・関節症性乾癬) に対しては、導入期として最初の12週間は1回50mgを週2回投与し、その後維持期として週1回50mgに減量するプロトコルが採用されています。導入期と維持期で用量が変わる点は、RAとの大きな違いです。
強直性脊椎炎(AS) では、1回25mgを週2回、または1回50mgを週1回皮下注射します。RAと同様のスケジュールですが、効果判定の時期が疾患によって異なるため注意が必要です。
| 適応疾患 | 用量 | 投与頻度 | 特記事項 |
|---|---|---|---|
| 関節リウマチ(RA) | 25mg または 50mg | 週2回 または 週1回 | MTX併用推奨 |
| 若年性特発性関節炎(JIA) | 0.8mg/kg(最大50mg) | 週1回 | 体重63kg未満は体重換算 |
| 乾癬(PsO/PsA) | 導入50mg週2回→維持50mg週1回 | 導入期12週、その後維持期 | 導入期と維持期で変更あり |
| 強直性脊椎炎(AS) | 25mg または 50mg | 週2回 または 週1回 | 週50mg換算で統一 |
メトトレキサート(MTX)との併用については、RA患者において特に推奨されており、単独療法と比較して関節破壊の進行抑制効果が高いとされています。これは使えそうです。
バイオシミラーが導入される最大の理由の一つが、薬価の低減です。エタネルセプトbs皮下注 maの薬価は先行品エンブレル®と比較して約30〜40%程度低く設定されており、これが長期投与患者の医療費削減につながります。
具体的な数字で考えると、例えばRA患者が週1回50mgを52週間(1年間)投与する場合、先行品と後続品の薬価差によって、1患者あたり年間数十万円規模の差が生じることがあります。医療機関や薬局における経済的インパクトは小さくありません。
2022年度の診療報酬改定では、バイオシミラーの使用促進が政策的に推進されており、後発医薬品使用体制加算に準じる形でバイオシミラー使用体制加算の議論が進んでいます。国が費用対効果の観点からバイオシミラーへの切り替えを積極的に推奨している流れがあります。これが条件です。
患者負担の観点からは、高額療養費制度と組み合わせることで月々の実質負担額が変わる場合があります。特に生物学的製剤を長期使用する患者では、限度額認定証との組み合わせによる費用管理が重要なケアポイントとなります。
ただし、薬価が低いからといって無条件に切り替えを推奨できるわけではありません。患者の状態が安定している場合でも、切り替え後のモニタリング体制を整えることが前提です。結論は「モニタリング込みでの切り替え推進」です。
参考:厚生労働省バイオシミラー行動計画(2021年)
厚生労働省 バイオ後続品の普及に関する取り組み・バイオ後続品行動計画2021
先行品エンブレル®からエタネルセプトbs皮下注 maへの切り替えは、現在の安定寛解期患者に対して実施されるケースが多くなっています。意外ですね。
しかし、切り替え後に一部患者で免疫原性(抗薬剤抗体の産生)が変化するリスクについては、現時点でのエビデンスは限られています。バイオシミラーは先行品と同等の有効性・安全性を持つとされますが、製造プロセスのわずかな違いが免疫原性に影響する可能性は完全には否定されていません。これが臨床上のグレーゾーンです。
切り替えを行う際の実務的な注意点として、以下の確認が推奨されます。
日本リウマチ学会のガイドラインでは、バイオシミラーへの切り替えについて「適切な説明と同意のもとで実施し、切り替え後の経過を慎重に観察すること」と記載されており、無条件の切り替えを推奨してはいません。モニタリングが必須です。
また、患者によっては先行品への強い信頼感や「薬が変わることへの不安」を持っていることがあります。コミュニケーションスキルが治療の成否を左右する場面でもあります。厳しいところですね。
参考:日本リウマチ学会 生物学的製剤使用ガイドライン
日本リウマチ学会 診療ガイドライン・指針一覧(生物学的製剤を含む)
エタネルセプトを含む抗TNF製剤全般に共通する重大な副作用として、感染症リスクの増大があります。特に結核(TB)の再燃・発症リスクは投与前スクリーニングが法的に義務付けられており、これを省略することは許容されません。
投与開始前に必須とされるスクリーニング項目は以下のとおりです。
HBVスクリーニングでHBs抗原陰性・HBc抗体陽性(既往感染)の患者においても、免疫抑制下での再活性化リスクがあります。この場合は肝臓専門医へのコンサルトや、核酸アナログ製剤による予防投与を検討することが推奨されています。HBV再活性化は対策があります。
投与中に発熱・倦怠感・咳嗽などの感染兆候が現れた場合は、投与を一時中断し原因を精査することが原則です。感染症が疑われる状態での継続投与は、重篤化リスクを著しく高めます。
注射部位反応(injection site reaction)もエタネルセプト系製剤では比較的多く見られる副作用で、発赤・腫脹・疼痛が投与後24〜48時間以内に生じることがあります。ほとんどは一過性ですが、患者への事前説明が自己注射継続のアドヒアランスを左右します。これが基本です。
稀ではありますが、脱髄性疾患(多発性硬化症様の症状)や心不全の悪化、全身性ループス様反応なども報告されており、これらの既往がある患者への投与は禁忌または慎重投与とされています。
参考:独立行政法人医薬品医療機器総合機構(PMDA)添付文書情報
PMDA エタネルセプトbs皮下注 ma 添付文書(マイラン EPD)
生物学的製剤の自己注射指導は、医師や薬剤師だけでなく看護師が深く関与する領域です。エタネルセプトbs皮下注 maでは、プレフィルドシリンジとオートインジェクター(マイクリックス®)の2形態が提供されており、患者の手指巧緻性・視力・恐怖感に応じた剤形選択が重要です。
一般的に知られているのは「注射の手技指導」ですが、それ以上に患者の心理的障壁を取り除くことが自己注射継続の鍵です。初回指導で手技が完璧でも、3ヶ月後に投与を自己中断するケースが臨床では少なくありません。
自己注射指導で押さえるべきポイントを整理します。
特に見落とされがちなのが、注射部位のローテーション記録です。患者が自分でカレンダーや専用アプリを使って記録することを習慣化させると、部位の偏りによる皮下硬結を予防できます。これは使えそうです。
また、自己注射の継続支援として、製薬企業が提供する患者サポートプログラム(PSP)を積極的に活用することも選択肢の一つです。電話相談窓口や訪問看護との連携によって、患者の孤立感を防ぎ長期アドヒアランスを維持することが可能です。
さらに、認知機能の低下した高齢患者や独居患者では、家族や介護者を巻き込んだ指導が不可欠です。指導対象を患者本人に限定すると、在宅での安全な自己投与が担保されない場合があります。つまり、患者の生活環境アセスメントが指導の前提です。
参考:日本リウマチ財団 患者向け自己注射ガイド(専門職向け参照資料)