エリスロシン錠出荷停止と代替薬選択の注意点

エリスロシン錠の出荷停止が2025年6月から断続的に続いています。代替薬としてクラリスロマイシンを選べばいいと思っていませんか?

エリスロシン錠の出荷停止と対応で知っておくべきこと

クラリスロマイシンへ安易に切り替えると、患者が治療困難になります。


この記事の3つのポイント
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出荷停止の経緯と現状

製造委託先工場のトラブルが発端。2025年6月に始まった出荷停止は再開・再停止を繰り返し、2026年3月に限定出荷(最大50%水準)での供給再開が発表された。

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代替薬選択の落とし穴

肺MAC症の可能性がある患者にCAM・AZM単剤を使うとマクロライド耐性を誘導し、その後の標準治療が著しく困難になるリスクがある。

疾患別・状況別の対応フロー

気管支拡張症・DPB・NTM症ごとに、学会の見解に基づいた具体的な処方判断フローを解説。「まず培養3回陰性の確認」が分岐点になる。


エリスロシン錠の出荷停止が起きた原因と経緯



エリスロシン錠(エリスロマイシン、製造販売:ヴィアトリス・ヘルスケア合同会社)は、2025年6月19日を皮切りに断続的な出荷停止・限定出荷を繰り返してきました。原因は、製造委託先工場における製造手順の逸脱に端を発した一連の製造管理上のトラブルです。


もう少し具体的に説明します。2025年8月に一度100mg・200mgともに限定出荷で供給が再開されたものの、その後すぐに製造委託先工場での「金属検知器の故障」と「新旧製法切り替えに伴うバリデーション遅延」という二重のトラブルが発生。認定作業者不足も重なり、同年10月には再び出荷停止に追い込まれました。これは予想外の再停止です。


その後、2026年3月25日付でヴィアトリス製は、エリスロシン錠100mg・200mgについて限定出荷での供給再開を発表しました。しかし注意が必要で、「事象発生前の出荷水準への回復には相応の期間を要する」とされており、当面の供給量は発生前の水準の約50%程度にとどまる見込みです。さらに、エリスロシンドライシロップ(10%・W20%)および点滴静注用500mgについては、引き続き供給停止が継続されています。つまり錠剤の再開のみが今回の朗報です。


以下に、これまでの主な出荷状況の変遷を整理します。












































時期 対象製品 状況
2025年6月19日 錠100mg・200mg 出荷停止開始
2025年8月7日 錠100mg 限定出荷で供給再開
2025年8月26日 錠200mg 限定出荷で供給再開
2025年9月〜10月 W顆粒・ドライシロップ 在庫消尽後に出荷停止へ
2025年10月 錠100mg・200mg 再度出荷停止
2026年3月25日 錠100mg・200mg 限定出荷で供給再開(50%水準)
2026年3月現在 DS・点滴静注 引き続き供給停止


ヴィアトリス製薬のフリーダイヤル(0120-170-523)でも最新の供給状況を確認できます。状況が変わりやすいため、定期的な確認が原則です。


日本呼吸器学会の情報ページでは、ヴィアトリス製薬からの公式文書が随時更新されています。


【参考リンク:エリスロシンの供給状況の最新報告(日本呼吸器学会)】※供給再開に関する2026年3月の続報はじめ過去の連絡が時系列で確認できます。


エリスロシン錠の出荷停止がDPBや気管支拡張症に与えるインパクト

エリスロシン(エリスロマイシン:EM)の出荷停止がこれほど深刻に受け止められている背景には、この薬が持つ代えがたい臨床的役割があります。単なる「抗菌薬の一つ」ではない点が重要です。


EMを用いたマクロライド少量長期療法(EM療法)は、1970年代に日本発で確立された世界的にも独自性の高い治療法です。びまん性汎細気管支炎(DPB)に対してはEM療法がほぼ唯一の治療手段であり、1969年から追跡したデータでも生存率の大幅な改善が確認されています。かつて予後不良とされた疾患が、この療法の普及によって長期予後が劇的に改善された歴史があります。


DPB以外でも、気管支拡張症・慢性気管支炎を伴う副鼻腔気管支症候群(SBS)でも広く使われてきました。国際的な大規模試験でも有効性が確認されており、2012〜2013年にLancet・JAMAに掲載された「EMBRACE試験」「BAT試験」「BLESS試験」では、マクロライド長期療法により気管支拡張症の急性増悪リスクがリスク比0.29〜0.57、つまり増悪リスクが最大で約7割減少したことが示されています。これは患者のQOLに直結するデータです。


さらに、EMは抗菌作用だけでなく、以下のような多彩な薬理作用を持つことが知られています。



  • 好中球などの炎症細胞の遊走・活性化を抑制する抗炎症・免疫調整作用

  • 細菌のバイオフィルム形成やクオーラムセンシングを阻害する作用

  • 気道粘液の過剰分泌を抑制する作用


これらの作用は抗菌活性とは独立しており、「細菌を直接殺す」のではなく「気道環境全体を整えて増悪を防ぐ」という治療コンセプトの核心です。つまり同じマクロライド系でも、これらの作用プロファイルが異なるため、単純な同種薬への切り替えは機能しません。


【参考リンク:日本結核・非結核性抗酸菌症学会の見解PDF(2025年12月22日)】※EM療法の有効性、代替薬のリスク、疾患別対応方針が詳述されています。


エリスロシン錠の出荷停止で「代替薬」の選択が危険になる理由

代替薬に切り替えればいい、という判断は一定の条件下では危険を招きます。これが今回の出荷停止問題で、学会が最も強調しているポイントです。


問題の核心は、肺MAC症(肺非結核性抗酸菌症:肺NTM症)の患者にあります。クラリスロマイシン(CAM)やアジスロマイシン(AZM)をMAC症患者に単剤で長期投与すると、MAC菌がマクロライド耐性を獲得するリスクが高いとされています。過去の報告では耐性獲得率が8〜9%以上に上る場合もあり、一度耐性が生じると標準的な多剤併用療法の基幹薬であるCAMが使えなくなり、治療の選択肢が大幅に狭まります。予後を著しく悪化させるリスクがあります。


一方でEMはどうかというと、日本から発表された複数の報告で、EM単剤の少量長期投与はMAC症において耐性を誘導しにくいことが示唆されています。CAM・AZMとEMの間には交差耐性がないため、EM使用後も将来的な標準治療への移行がスムーズに行える点が大きな利点です。


もう一つ押さえておくべき実態があります。既存のエリスロマイシン同成分の後発品として「エリスロマイシン錠200mg『サワイ』」がありますが、この製品もすでに2024年3月から限定出荷となっています。つまり経口エリスロマイシン製剤は実質的に2種類しか存在せず、どちらも入手が困難な状況です。これが問題です。


代替薬を選択する際に陥りやすいパターンをまとめます。



  • ❌ MAC症の否定が不十分なままCAM・AZMへ切り替える → 耐性誘導リスク大

  • ❌ DPBに対してCAMへ変更する → 原則的にはEM療法が第一選択(EM入手困難時のみCAMへ)

  • ⭕ NTM培養を3回以上繰り返し陰性が確認できた場合のみCAMスイッチを検討する

  • ⭕ 軽症・増悪歴のないNTM症例は一時的な休薬・経過観察が選択肢に


つまり耐性リスク管理が条件です。


【参考リンク:気管支拡張症に対するマクロライド系抗菌薬の適正使用のお願い(日本感染症学会・日本呼吸器学会ほか合同、2025年5月)】※CAM・AZM使用時のNTM耐性リスクについて学会が具体的な注意を呼びかけています。


エリスロシン錠の出荷停止時における疾患別・状況別の具体的対応フロー

日本結核・非結核性抗酸菌症学会が2025年12月に発表した見解をもとに、実臨床で使える対応方針を疾患別に整理します。「どの患者に何ができるか」が実務上の判断軸です。


🫁 びまん性汎細気管支炎(DPB)の場合


DPBはマクロライド療法のみが確立された治療法であるため、治療継続を最優先とします。EM在庫が確保できる場合は継続し、入手困難な場合はCAMへのスイッチを検討します。ただしCAMへの変更は、EMが入手できない「暫定的な措置」という位置付けです。


🫁 気管支拡張症の場合


増悪歴があり、理学療法や去痰薬を十分に使用しても喀痰症状が持続する症例、または増悪リスクが高い症例が投与対象の目安です。ここで分岐点となるのは「NTM症の可能性があるかどうか」です。


喀痰培養を繰り返し行い、3回以上NTM陰性かつNTMを示唆する画像所見がなければ、CAMへの変更が適応となります。一方、NTM症の可能性が否定できない場合はEM療法の維持が望ましく、在庫が尽きた場合は慎重な個別判断が求められます。


🦠 肺NTM症(MAC症含む)の場合


これが最も慎重さが必要な領域です。患者の状態を6つのパターンに分けて考えると整理しやすくなります。
































患者パターン 対応方針
EM投与前で、症状が軽微・増悪歴なし マクロライドは開始しない
EM療法中で、元々症状が軽微 中止を検討する
EM療法中で有効・中止困難、かつ3回以上NTM培養陰性 CAMへスイッチを検討(NTM既往あれば慎重に)
NTM症でEM開始前、軽症(空洞なし・塗抹陰性) Watchful waitingを選択
NTM症でEM投与中、症状軽微で進展抑制目的 EMを中止し、適切なタイミングで標準治療を導入
NTM症でEM投与中かつ症状がある 理学療法を行い、治療適応を総合的に判断


マクロライド感受性のNTM症に対するCAM・AZMの単剤投与は避けるべきというのが原則です。この点だけは、いかなる状況でも変わりません。処方変更の際は必ず培養結果を根拠として記録に残しておくことも、後々のトレーサビリティの観点から重要です。


エリスロシン錠の出荷停止問題が示す医薬品供給リスクへの備え(独自視点)

今回のエリスロシン錠の出荷停止問題は、単に「1製品が手に入らなくなった」という話ではありません。これは日本の医薬品供給構造の脆弱性を示す典型例として、医療従事者が認識を新たにすべき事案です。


まず、今回の出荷停止の根本原因が「製造委託先の単一工場」にあったことは重要なポイントです。製造工程の一部手順の逸脱というヒューマンエラーがきっかけで、金属検知器の海外部品取り寄せに数か月を要する事態となり、供給が約10ヶ月以上にわたって不安定な状態が続きました。これほど長期間の影響が出るのは、同一成分の代替製品が実質的に存在しないからです。まさに構造問題です。


医薬品の製造はサプライチェーンの集中が進んでおり、特定の工場や特定の原薬製造拠点に依存する品目が増えています。エリスロシンはその典型例でしたが、同様のリスクは他の医薬品にも潜在しています。医療機関や薬局の立場からできる現実的な備えとして、次の点が挙げられます。



  • 📋 在庫管理の可視化:エリスロシンのような代替が効きにくい薬剤をリスト化し、在庫量を定期的にモニタリングする体制を作る

  • 📋 患者への事前説明:長期処方患者に対して、供給不安定時の対応方針(休薬の可能性、代替薬の条件など)をあらかじめ説明・記録しておく

  • 📋 学会・行政情報のウォッチ:日本呼吸器学会・結核・非結核性抗酸菌症学会・感染症学会のサイトを定期確認し、供給状況や新しいガイドラインの変更に遅れず対応する

  • 📋 トレーシングレポートの活用:薬局から医師への情報提供ツールとして、代替薬への変更可否や患者状況を文書で共有し、チーム医療として判断する


特にトレーシングレポートは、処方変更の根拠を残す上でも有用です。これは使えそうです。


供給不安定時に「とりあえず別の薬に切り替える」という対症療法は、NTM症のように耐性リスクを伴う疾患では患者の長期予後に直接影響します。一時的な不便ではなく、取り返しのつかない治療機会の喪失につながる場合があることを、チーム全体で共有しておくことが求められます。これが今回の問題の本質です。


さらに付け加えると、このケースは日本の製薬産業が抱える「後発品問題」とも連動しています。先発品であるエリスロシンの後発品としてエリスロマイシン錠「サワイ」しか存在しない構造、そしてそちらも2024年3月以降すでに限定出荷という状況は、同成分が市場で2製品しかカバーされていない脆弱な供給体制を示しています。医療従事者個人の対応には限界があるものの、処方・在庫・患者説明の3点を押さえておくだけで、リスクを大幅に下げられます。3点だけ押さえておけばOKです。


【参考リンク:ヴィアトリス製薬 全製品供給状況一覧(随時更新)】※エリスロシン各剤形の最新の出荷量状況と製造販売業者の対応状況が確認できます。






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