空腹時に飲んでも、エパデールはほぼ吸収されません。

エパデールS900は、持田製薬株式会社が製造販売するEPA(イコサペント酸エチル)製剤の一つで、1包中に日本薬局方イコサペント酸エチル(EPA-E)を900mg含む軟カプセル製剤です。承認番号は21600AMZ00409000で、販売開始は2004年7月となっています。
製剤の性状は微黄色透明の軟カプセル剤で、直径約4mmの球形をしています。識別コードはMO20D(分包に表示)です。添加剤として、内容物にはトコフェロールが、カプセル基材にはゼラチン、D-ソルビトール液、濃グリセリン、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピルが用いられています。
包装形態はスティック包装で、56包・84包・420包の3種類が流通しています。これはポリファーマシー対策の観点からも重要な情報です。保存条件は室温保存・有効期間3年で、開封後は高温・湿気・光を避けて保存するよう添付文書に明記されています。軟カプセル製剤の特性上、高温・高湿下ではカプセルが軟化することがあるため、分包から取り出した後の長期保管は避けるべきです。
エパデールS300(300mg)・エパデールS600(600mg)と同一の添付文書が適用されますが、1包あたりの含有量が900mgと最大量であるため、臨床現場では特に投与量の計算ミスや疾患別の用法違いに注意が必要です。
日本標準商品分類番号・JAPIC公式:エパデールS300/S600/S900 添付文書(最新版)PDF
エパデールS900の用法用量は、適応疾患によって明確に異なります。ここは添付文書の中でも特に誤解が生じやすい箇所です。
まず「閉塞性動脈硬化症に伴う潰瘍、疼痛および冷感の改善」に対しては、イコサペント酸エチルとして通常成人1回600mgを1日3回、毎食直後に経口投与します。エパデールS900製剤を閉塞性動脈硬化症に使用する場合、1回1包(900mg)ではなく3分の2相当の用量になる点に注意が必要で、実際には600mg包のS600を使用するか、処方設計を慎重に行うことになります。年齢・症状により適宜増減可能です。
一方「高脂血症」に対しては、通常成人1回900mgを1日2回、または1回600mgを1日3回、食直後に経口投与します。つまり、高脂血症ではエパデールS900の1包(900mg)を1日2回服用するのが標準的な用法です。これが基本です。
さらに注目すべき増量規定があります。高脂血症でトリグリセリドの異常を呈する場合には、その程度により1回900mg・1日3回(すなわち1日最大2,700mg)まで増量できると添付文書に明記されています。つまり、通常の高脂血症治療での承認用量は1日1,800mgですが、高トリグリセリド血症では最大2,700mgまで対応できるということです。
🔴 疾患別の用法用量まとめ
| 適応疾患 | 通常用量 | 最大用量 | 投与タイミング |
|---|---|---|---|
| 閉塞性動脈硬化症 | 1回600mg・1日3回 | 適宜増減 | 毎食直後 |
| 高脂血症(標準) | 1回900mg・1日2回 または1回600mg・1日3回 | 1日1,800mg | 食直後 |
| 高脂血症(高TG血症) | 1回900mg・1日3回まで増量可 | 1日2,700mg | 食直後 |
「食後」ではなく「食直後」である点も重要です。食事直後の方が胆汁酸の分泌が活発であり、EPA-Eの腸管吸収に必須の条件となっています。食事を抜いた場合(空腹時)はその回の服用を避け、次の食後に1回分のみ服用するよう患者指導を行います。2回分の一度服用は禁止です。
また服薬指導上のポイントとして、添付文書の14.1.2に「本剤は噛まずに服用させること」と明記されています。軟カプセルを噛み砕くと中身が漏れ出し、服用感も損なわれます。
持田製薬公式:エパデールの製品Q&A(食直後服用の理由・飲み忘れ時の対応・特殊患者への投与可否)
エパデールS900の禁忌は、大きく2項目に整理されています。
禁忌の1つ目は「出血している患者」です。血友病・毛細血管脆弱症・消化管潰瘍・尿路出血・喀血・硝子体出血などの状態では、本剤の抗血小板作用により止血が困難となるおそれがあるため投与禁止です。当然のことに思えますが、軽度の消化管出血のリスクがある患者や月経量の多い患者に漫然と投与し続けることが問題になるケースがあります。これは厳守が原則です。
2つ目の禁忌が「ミフェプリストン・ミソプロストール(メフィーゴパック)を投与中の患者」で、こちらは2023年9月の添付文書改訂(第2版)で新たに追加された内容です。意外ですね。ミフェプリストン・ミソプロストールは日本では2023年4月に人工妊娠中絶用薬として承認されたメフィーゴパックが該当します。本剤のイコサペント酸エチルが持つ抗血小板作用により、メフィーゴパックによる子宮出血の程度が悪化するおそれがあります。
この改訂は2023年9月に実施されており、旧版の添付文書を参照している施設では見落とす可能性があります。産婦人科との連携や薬歴確認の場面で特に注意が必要です。
🟡 併用注意(相互作用への注意)
エパデールS900には禁忌に加え、以下の「併用注意」薬剤が添付文書に明記されています。
- 抗凝固剤(ワルファリンカリウム等):出血傾向をきたすおそれ。イコサペント酸エチルの抗血小板作用が相加的に出血リスクを高める。
- 血小板凝集を抑制する薬剤(アスピリン、インドメタシン、チクロピジン塩酸塩、シロスタゾール等):同様に出血傾向が増大するおそれ。
また添付文書の「その他の注意」(15.1)には、「コントロール不良の高血圧症を有し、他の抗血小板剤を併用した症例において、脳出血があらわれたとの報告がある」と記載されています。血圧管理が不十分な患者への投与・抗血小板薬との多剤併用では、脳出血リスクが実際に報告されていることを踏まえた慎重な処方管理が求められます。
持田製薬公式:エパデール 使用上の注意改訂のご案内(2023年9月改訂・ミフェプリストン併用禁忌追加の詳細)
添付文書の11.1(重大な副作用)には、以下の2項目が記載されています。
①肝機能障害・黄疸(頻度不明)
AST・ALT・Al-P・γ-GTP・LDH・ビリルビン等の上昇を伴う肝機能障害、黄疸があらわれることがあります。国内一般臨床試験では、副作用発現頻度17.4%(8/46例)の中で、下痢およびAST・ALT上昇が各4.3%(2/46例)と報告されています。長期投与患者では定期的な肝機能検査が推奨されます。
②心房細動・心房粗動(頻度不明)
海外臨床試験において、イコサペント酸エチル4g/日(注:高脂血症での本剤の承認された1日最高用量は2,700mg)を投与した場合に、入院を要する心房細動または心房粗動のリスク増加が認められたとの報告があります。さらに国内外のオメガ-3脂肪酸を含む複数の臨床試験においても同様の報告がなされています(2024年11月改訂の第3版で追記)。この点は見落としがちです。
高用量投与中や不整脈リスクを有する患者では、定期的な心電図モニタリングを考慮することが実臨床では求められます。
手術前の休薬について
添付文書9.1.1(3)に「手術を予定している患者」は出血を助長するおそれがある患者として慎重投与の対象に挙げられています。添付文書には具体的な休薬日数の記載はありませんが、持田製薬の製品Q&Aでは、血小板の寿命が7〜10日と言われていることから「手術前7日程度が休薬期間の目安」とされています。
ただし、ガイドラインによっては、出血リスクの低い手術(例:抗血小板薬内服継続下での抜歯・白内障手術)では休薬なしまたは1日間の休薬でよいとされる場合もあります。日本消化器内視鏡学会ガイドラインでは、出血高危険度の内視鏡処置ではアスピリン以外の抗血小板薬は原則1日間の休薬とされており、チエノピリジン誘導体の5〜7日間に比べて短い設定です。術式・出血リスクと血栓リスクのバランスを総合的に判断したうえで休薬設定を行うことが原則です。
🩺 その他の副作用(0.1〜5%未満・主なもの)
| 系統 | 副作用内容 |
|---|---|
| 消化器 | 悪心・胸やけ・腹部不快感・下痢・便秘・腹部膨満感・腹痛 |
| 出血傾向 | 皮下出血(頻度不明:血尿・歯肉出血・眼底出血・鼻出血・消化管出血) |
| 肝臓 | AST・ALT・Al-P・γ-GTP・LDH・ビリルビン上昇 |
| 精神神経系 | 頭痛・頭重感・ふらつき・しびれ |
| その他 | 浮腫・尿酸上昇・CK上昇・動悸 |
PMDA(医薬品医療機器総合機構):エパデールS300/S600/S900 添付文書・インタビューフォーム・患者向医薬品ガイド一覧(医療関係者向け)
エパデールS900を含むEPA製剤の最も重要なエビデンスは、国内の大規模市販後調査「JELIS試験(Japan EPA Lipid Intervention Study)」です。
JELIS試験は、血清総コレステロール値が250mg/dL以上の高脂血症患者(安定している虚血性心疾患合併患者を含む)19,466例を対象にした国内前向き多施設共同無作為化試験です。HMG-CoA還元酵素阻害剤(プラバスタチン10mg/日またはシンバスタチン5mg/日)とエパデール1,800mg/日の併用群、またはスタチン単独群に無作為に割り付け、非盲検下で平均4.6年追跡しました。
有効性評価対象18,645例(エパデール群9,326例・対照群9,319例)における結果は以下の通りです。心血管イベント(突然心臓死・致死性および非致死性心筋梗塞・不安定狭心症・心血管再建術)はエパデール群で262例(2.8%)、対照群で324例(3.5%)に発生し、ハザード比0.81(95%信頼区間:0.69〜0.95)とエパデール群で有意に減少しました(Lancet 2007;369:1090-1098)。つまり、19%の心血管イベント相対リスク低下が確認されています。
一方で、心血管死(突然心臓死または致死性心筋梗塞)はエパデール群で29例(0.3%)、対照群31例(0.3%)でハザード比0.94(0.57〜1.56)と有意差なく、総死亡においてもエパデール群286例(3.1%)・対照群265例(2.8%)・ハザード比1.09(0.92〜1.28)と有意差は認められませんでした。
これは使えそうです。ただし臨床的解釈には注意が必要で、JELIS試験はスタチンへの上乗せ効果を見ており、「エパデール単独」でのエビデンスではない点を踏まえた処方設計が重要です。
薬物動態面では、定常状態への到達が比較的速く、1回900mg・1日2回または1回600mg・1日3回いずれの用法においても、投与5〜6日目に血漿中EPA濃度が定常状態に達することが添付文書の16.1.2に記載されています。さらにEPA-Eは小腸で脱エチル化された後、主に肝のミトコンドリアでβ酸化を経てアセチルCoAに代謝され、TCA回路により炭酸ガスと水として体外へ排出されます。尿中排泄はラットで投与量の2.7%と低く、腎機能低下患者にも投与可能とされている背景はここにあります。
なお、高脂血症の治療においては食事療法があらかじめ実施されていることが前提であり(添付文書8.2)、食事指導・運動療法・虚血性心疾患のリスクファクター(高血圧・喫煙等)の軽減も十分に考慮したうえで本剤を適用することが基本事項として明示されています。また投与中は血中脂質値を定期的に検査し、治療効果が認められない場合には投与を中止することが原則です。
CareNet:エパデールS900の効能・副作用・JELIS試験の概要(医療従事者向けデータベース)