後発品に変更しても、腎機能の確認をしていないと患者さんの低血糖リスクが2倍以上になります。

エクア錠50mg(一般名:ビルダグリプチン)は、2010年4月16日にノバルティスファーマ株式会社が日本で初めて発売した選択的DPP-4阻害薬です。2019年5月、ノバルティスファーマは大日本住友製薬(現:住友ファーマ)と共同プロモーション・販売提携契約を締結し、同年11月1日からは住友ファーマが独占的に流通を担う形に移行しました。当時エクアとエクメットの合計売上は約500億円(薬価ベース)という巨大な製品でした。
その後、2025年6月18日に住友ファーマは「一部包装の販売中止ならびに販売移管」を告知しました。これが今回のエクア錠50mg販売中止問題の出発点です。具体的な内容は以下のとおりです。
| 包装形態 | 措置の内容 | 実施日 |
|---|---|---|
| PTP100錠(10錠×10) | 住友ファーマによる販売中止 → ノバルティスへ販売移管 | 2025年12月31日(販売中止)/2026年1月1日(移管) |
| PTP500錠(10錠×50) | 在庫消尽後に販売中止 | 2025年12月1日以降(在庫次第) |
| PTP1000錠(10錠×100) | 販売中止(ノバルティスへの移管なし) | 同上 |
つまり「エクア錠50mg」という製品名・成分自体がなくなるわけではなく、住友ファーマが販売する一部包装が終了し、発売元であるノバルティスファーマに戻る形となっています。医療機関や薬局では、仕入れ先や使用している包装規格によって対応が異なる点に注意が必要です。
ノバルティスへの"出戻り"という特殊な経緯です。
住友ファーマからの販売中止となった背景には、同社の経営環境の変化が影響しているとみられています。住友ファーマは2022年度以降に経営的な課題が表面化しており、採算性の低い製品ラインの整理を進めてきた経緯があります。一方、エクアの後発品(ビルダグリプチン錠)が2024年12月に薬価収載・発売されたことで、先発品の市場が縮小傾向になっていることも、今回の販売移管を後押しした可能性があります。
参考:住友ファーマ 一部包装の販売中止ならびに販売移管のご案内(DSJP 医療用医薬品供給状況データベース)
DSJP|エクア錠50mg 告知情報(販売中止・販売移管の詳細)
エクア錠50mgの後発品として、2024年12月6日に薬価収載・発売されたビルダグリプチン錠50mgは、9社9銘柄が一挙に参入したことで話題を集めました。DPP-4阻害薬として後発品が登場したのは、これが事実上の初めての大規模参入です。後発品の薬価は18.40円/錠(2025年現在)と、先発品エクア錠50mgの42.70円/錠に比べて約57%低い水準となっています。
これは患者さんの自己負担にどう影響するのでしょうか?
エクアは1日2回(50mg×2)服用が標準的な投与法です。1日薬価は先発品が85.40円(42.70円×2)、後発品が36.80円(18.40円×2)となります。3割負担の患者さんの場合、1か月(30日分)で計算すると、先発品の薬剤料は約768円、後発品は約331円となり、月に約437円、年間では約5,240円の差が生じます。複数の薬を服用している2型糖尿病患者さんにとって、この差は累積的に大きな影響をもたらします。
9銘柄の主な違いをまとめると、以下のようになります。
| 銘柄名(屋号) | 製造販売元 | 剤形の特徴 | 共同開発 |
|---|---|---|---|
| 「トーワ」 | 東和薬品 | フィルムコーティング錠(唯一) | なし |
| 「サワイ」 | 沢井製薬 | 素錠(割線あり) | なし |
| 「JG」 | 日本ジェネリック | 素錠(白色) | なし |
| 「TCK」 | 辰己化学 | 素錠 | なし |
| 「ZE」 | 全星薬品工業 | 素錠 | ニプロと共同 |
| 「ニプロ」 | ニプロ | 素錠 | ZEと共同 |
| 「フェルゼン」 | ダイト | 小型素錠(先発品の約半分の重量) | 日新と共同 |
| 「日新」 | 日新製薬 | 小型素錠(顆粒成形技術採用) | フェルゼンと共同 |
| 「杏林」 | キョーリンリメディオ | 素錠(薄いピンク色) | なし |
注目すべきは東和薬品の「トーワ」です。全9銘柄の中で唯一フィルムコーティング錠を採用しており、ビルダグリプチン由来の独特な臭いが一包化や粉砕時に出にくい可能性があります。先発品エクア錠は一包化時に薬剤固有の臭いが出ることが現場では知られており、「トーワ」への切り替えを検討する薬局も少なくありません。ただし、フィルムコーティング錠であるため、簡易懸濁法を行う場合は事前にメーカーへの確認が必要です。
また「フェルゼン」「日新」は錠剤を小型化(先発品の約半分の重量)しており、嚥下困難な患者への配慮が期待されますが、見た目の印象が先発品と大きく異なるため、患者への丁寧な説明が求められます。
これは使えそうです。
オーソライズドジェネリック(AG)については、今回の9銘柄の中には含まれていません。AGを希望する施設や薬局は、現時点では先発品であるエクア錠(ノバルティスファーマへの移管後)を使用するか、後追いAGの動向を継続的に確認する必要があります。
参考:後発品9社の比較・製剤情報(薬剤師向けブログ)
ぺんぎん薬剤師|エクアGE 先発との違いや各銘柄の特徴を比較(2024年12月薬価収載予定)
エクア錠50mgからビルダグリプチン後発品に切り替える際、多くの医療従事者は「同一成分だから用量はそのままでよい」と考えがちです。しかし、ビルダグリプチンは腎機能・肝機能の状態によって用量調節が必要な薬剤であり、切り替えのタイミングが患者の腎機能を改めて確認する好機です。
腎機能が条件です。
添付文書(電子添文)の「用法及び用量に関連する注意」では、以下の点が明示されています。
健康成人と比較して、軽度腎機能障害患者ではビルダグリプチン100mg単回投与時のAUCが約1.4倍、中等度では約1.7倍、重度腎機能障害患者では約2.0倍に上昇するというデータが国内の薬物動態試験で示されています(各社インタビューフォーム参照)。後発品への切り替え時に最新のeGFRや血清クレアチニン値を確認せずに「1日2回100mg」をそのまま継続すると、腎機能悪化により血中濃度が上昇し、低血糖リスクを高める危険があります。
腎機能に注意すれば大丈夫です。
また、高齢者(特に75歳以上)の場合は腎機能の経時的な低下が生じやすく、定期的な腎機能モニタリングが特に重要です。エクア錠を長期服用していた患者さんで、過去に腎機能が正常範囲内だったとしても、現時点での値を確認することを推奨します。切り替え指示を出す前に、直近3か月以内のeGFRまたはCcrの数値を電子カルテで一度確認する習慣をつけると、後発品への移行をより安全に行えます。
肝機能については、投与開始後3か月間は少なくとも月1回の肝機能検査(AST・ALT)が推奨されています。後発品に切り替えた場合も、先発品と同様の管理が引き続き必要です。切り替え後に「後発品に変えたから安全」と気を緩めることは禁物です。
参考:腎機能別のDPP-4阻害薬の投与量(D-REPORT)
D-REPORT|腎機能低下時におけるDPP-4阻害薬の投与量一覧(ビルダグリプチン含む)
後発品への切り替えを現場で進める際、特に薬剤師が頭を悩ませるのが一包化や簡易懸濁を行っている患者への対応です。意外ですね。単に同一成分であっても、製剤設計の違いによって実務上の対応が変わる可能性があります。
ビルダグリプチンは成形性に乏しい成分で、添加物が多くなると分解物を生じやすい特性があります。これは先発品のエクア錠設計時から製剤上の課題とされてきた点です。後発各社がどのようにこの問題に対処しているかが、銘柄選択の重要なポイントになります。
また、錠剤の外観変化も重要な選択基準です。先発品エクア錠は「カラテ錠(空手錠)」とも呼ばれる独特の深い割線が特徴でした。後発品の多くはこれを模倣していますが、TCK・サワイ・フェルゼン・日新については溝の浅い通常の割線形状になっています。長期服用している患者さんで薬の見た目に敏感な方には、外観が近い銘柄を選択するか、事前に十分な説明を行うことでコンプライアンスの維持につながります。
添加物の違いも確認が必要です。先発品と全く同じ添加物の後発品は存在せず、各社独自の添加物が使用されています。アレルギー歴のある患者や添加物に敏感な患者では、切り替え前に各銘柄のインタビューフォームで添加物の確認を行うことが望まれます。
つまり銘柄選択には多面的な確認が原則です。
参考:各銘柄の電子添文・インタビューフォーム(PMDAサイト)
PMDA医薬品医療機器情報|ビルダグリプチン各銘柄の添付文書・インタビューフォーム検索
DPP-4阻害薬の中で、エクア(ビルダグリプチン)は他剤と異なるいくつかの薬理学的特徴を持っています。販売中止・後発品移行のタイミングで、処方継続の意義や他のDPP-4阻害薬との使い分けを改めて整理しておくことは、医療従事者として重要な視点です。
まず最大の特徴は「1日2回投与」という用法です。他の多くのDPP-4阻害薬(シタグリプチン、アログリプチン、テネリグリプチンなど)が1日1回投与であるのに対し、ビルダグリプチンは原則として50mgを1日2回(朝・夕)服用する設計になっています。この投与設計により、朝の1錠で日中の食後血糖をコントロールし、夕方の1錠で夜間のグルカゴン分泌を抑制して空腹時血糖を下げるという、24時間を通じた血糖管理が可能とされています。
これは1日1回の薬では難しいアプローチです。
一方、1日2回服用という点は服薬アドヒアランスの課題にもなりえます。服薬回数が多い患者さんでは、コンプライアンス低下による血糖コントロール不良のリスクがあります。後発品への切り替えを機に、患者さんの生活パターンや服薬状況を再評価し、1日1回DPP-4阻害薬への変更を検討するのも一つの選択肢です。
また、ビルダグリプチンは2型糖尿病の全ての治療ステップで使用可能であり、食事・運動療法のみの段階から、スルホニルウレア薬・メトホルミン・インスリンとの併用まで幅広く対応しています(現在の添付文書では適応条件の「ただし書き」は削除済み)。さらに、エクメット配合錠(ビルダグリプチン+メトホルミン)という配合剤も存在しており、服薬錠数を減らしたい患者には選択肢として有用です。
エクメット配合錠についても今回の住友ファーマの告知に含まれており、同様にノバルティスへの移管手続きが取られています。エクア錠50mgを使用している患者でメトホルミンを併用している場合は、エクメット配合錠への変更も検討に値します。
DPP-4阻害薬の中でビルダグリプチンの継続投与が特に有意義とされるのは、以下のようなケースです。
後発品移行は単なるコスト削減の機会ではなく、処方内容全体を見直す好機でもあります。患者の状態・ライフスタイル・服薬アドヒアランスを総合的に評価した上で、継続か変更かを判断することが重要です。
参考:DPP-4阻害薬の使い方・考え方(2026年時点の整理)
Dr.U@糖尿病メモ|DPP-4阻害薬の使い方・考え方(2026年)