「吐き気止めだから安全」と思って処方すると、高齢患者が心室性不整脈で突然死するリスクがあります。

ドンペリドン錠10mg「JG」は、日本ジェネリック株式会社が製造販売する消化管運動改善剤です。先発品はナウゼリン錠10(協和キリン)であり、「JG」はその後発品(ジェネリック医薬品)として位置づけられています。識別コードは「ch27」で、白色のフィルムコーティング錠です。直径7.1mm・厚さ3.4mmと小型で、PTPシート10錠単位で包装されています。
薬価は2025年4月時点で1錠あたり6.1円。先発品のナウゼリン錠10が8.8円であることと比較すると、約30%安く処方できます。これは長期投与が必要なケースで患者負担を軽減するうえで大きな意義があります。
生物学的同等性については、クロスオーバー試験(n=12)でナウゼリン錠10と比較した際に、AUC0-24が43.62±2.32 vs 42.01±2.35(ng·hr/mL)、Cmaxが14.75±0.55 vs 14.54±0.57(ng/mL)と統計的に同等性が確認されています。つまり先発品と同じ効果が期待できます。
有効成分は日局ドンペリドン10mgで、添加剤として乳糖水和物・バレイショデンプン・ポリビニルアルコール(部分けん化物)・ステアリン酸マグネシウム・タルク・ヒプロメロース・マクロゴール6000・酸化チタンが含まれます。乳糖を含む点は、乳糖不耐症の患者への交付時に確認が必要です。
| 項目 | ドンペリドン錠10mg「JG」 | ナウゼリン錠10(先発) |
|---|---|---|
| 薬価 | 6.1円/錠 | 8.8円/錠 |
| 識別コード | ch27 | NZ10 |
| 生物学的同等性 | 確認済み | (先発品) |
| 製造販売元 | 日本ジェネリック株式会社 | 協和キリン株式会社 |
参考:ドンペリドン錠10mg「JG」添付文書(日本ジェネリック株式会社、2025年5月改訂第4版)
ドンペリドン錠10mg「JG」の効能・効果は、成人と小児で明確に区別されています。これが意外に現場で混同されやすいポイントです。
成人の適応は「慢性胃炎・胃下垂症・胃切除後症候群」に伴う消化器症状(悪心・嘔吐・食欲不振・腹部膨満・上腹部不快感・腹痛・胸やけ・あい気)、および「抗悪性腫瘍剤またはレボドパ製剤投与時」の消化器症状です。一方で小児の適応は「周期性嘔吐症・上気道感染症・抗悪性腫瘍剤投与時」に限られており、成人の適応疾患と一致しない点に注意が必要です。
用法用量についても確認しておきます。成人は1回10mgを1日3回・食前に経口投与します。ただし、レボドパ製剤投与時のみ1回5〜10mgに減量します。食前投与が原則である理由は、食後に服用すると胃内pHの上昇によって消化管からの吸収が低下し、効果発現が遅延するためです。絶食下では投与後約15〜30分で最高血中濃度に達するのに対し、食後投与では吸収が大幅に遅れます。これは重要な知識です。
小児の用量設定には特に注意が必要です。1日1.0〜2.0mg/kgを1日3回食前に分けて投与します。1日投与量の上限は30mgまでです。6歳以上では1日最高用量は1.0mg/kgを限度とし、これを超えた場合は錐体外路症状のリスクが高まります。1歳以下の乳児には用量に厳重に注意し、3歳以下の乳幼児には7日以上の連用を避けることが添付文書で明記されています。
参考:ナウゼリン(ドンペリドン)に関するよくある質問(協和キリンメディカルサイト)
ドンペリドンは「血液–脳関門を通過しにくいため中枢性副作用が少ない」と認識されている薬剤です。しかし、心臓への副作用は中枢の問題ではありません。これが見落とされやすい落とし穴です。
添付文書(15.1「その他の注意」)には、「外国において本剤による重篤な心室性不整脈及び突然死が報告されている。特に高用量を投与している患者又は高齢の患者で、これらのリスクが増加したとの報告がある」と明記されています。欧州医薬品庁(EMA)の2014年の評価では、高用量または高齢患者で突然死や重篤な心室性不整脈の相対危険度がPPI群と比べて約1.44〜1.6倍に上昇すると報告されています。
QT延長については循環器系の副作用として添付文書に明記されており、頻度不明ながら重大な副作用に準ずる注意が必要です。心疾患のある患者では「QT延長があらわれるおそれがある」と特定背景患者の注意にも記載されています。つまりQT延長リスクのある患者に処方する際は、心電図モニタリングを考慮する必要があります。
重大な副作用として添付文書に記載されているものを以下にまとめます。
その他(0.1%未満)として内分泌系では、プロラクチン上昇・乳汁分泌・女性化乳房・乳房膨満感・月経異常が知られています。ドンペリドンは抗ドパミン作用によってプロラクチン分泌を促進するため、長期投与中の患者では乳汁分泌や月経異常の訴えに注意が必要です。
「副作用はあっても軽い」ではありません。高齢患者や心疾患合併患者への漫然投与は再評価が必要です。
参考:厚生労働省|ドンペリドンに関する安全対策調査会資料
厚生労働省|ドンペリドンの心臓への副作用リスクに関する資料(PDF)
ドンペリドンは「消化器の薬」という認識から、相互作用の確認が疎かになりがちです。しかし、この薬は主にCYP3A4で代謝されるため、CYP3A4阻害薬との併用によって血中濃度が劇的に上昇します。
最も重要な相互作用はイトラコナゾールとの組み合わせです。添付文書に記載されている試験(外国人健康成人15例)では、ドンペリドンとイトラコナゾールを併用した際に、ドンペリドンのCmaxが2.7倍、AUC0-∞が3.2倍増加したことが確認されています。AUCが3.2倍になるということは、同じ用量で3倍以上の暴露量を受けることを意味します。さらにエリスロマイシンとの併用ではQT延長が報告されており、これは添付文書の相互作用欄に明示されています。
禁忌については以下を必ず確認してください。
慎重投与が必要な背景患者も重要です。腎機能障害患者・肝機能障害患者では「副作用が強くあらわれるおそれ」があり、高齢者では「減量するなど注意すること」と添付文書に明記されています。
また、制酸剤・H2受容体拮抗剤・プロトンポンプ阻害剤との併用にも注意が必要です。胃内pHが上昇することでドンペリドンの消化管吸収が阻害され、効果が減弱するおそれがあります。ドンペリドンとPPIを同一タイミングで処方する場合は、投与間隔を工夫することが現場での対策として有効です。
抗コリン剤(ブチルスコポラミン臭化物など)はドンペリドンの胃排出作用と拮抗するため、一方を減量・中止するか間隔を空けて投与することが推奨されています。これらは「気づきにくい相互作用」として処方確認の際に見落とされやすい組み合わせです。
| 併用薬 | 影響 | 対応 |
|---|---|---|
| CYP3A4阻害薬(イトラコナゾール等) | AUC最大3.2倍↑・QT延長リスク↑ | 原則回避・慎重投与 |
| エリスロマイシン | QT延長が報告 | 原則回避 |
| 制酸剤・H2ブロッカー・PPI | 吸収低下・効果減弱 | 投与時間をずらす |
| 抗コリン剤 | 胃排出作用が相殺 | 間隔を空ける・用量調節 |
2025年5月以降、ドンペリドンに関して「妊婦又は妊娠している可能性のある女性」への投与が禁忌から削除されました。医療従事者として、この改訂の背景と正確な運用を理解しておくことが不可欠です。
これまで「妊婦禁忌」とされていた根拠は、動物実験(ラット)において臨床用量の約65倍の投与量(体表面積換算)で骨格・内臓の異常などの催奇形作用が報告されていたためです。しかし、国立成育医療研究センターの「妊娠と薬情報センター」が実施した疫学調査および文献レビューにより、「妊娠初期のみ使用された場合、先天異常のリスクを高める可能性は低い」とする報告書が厚生労働省に提出されました。
2025年4月25日の薬事審議会での審議を経て、同年5月20日付で添付文書が改訂され、妊婦への投与が「禁忌」から「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」へと変更されました。これは重要な改訂です。
ただし、この変更の目的は「妊娠に気づく前にドンペリドンを服用した妊婦が、過度な不安を感じることなく妊娠を継続できる環境の整備」であり、つわりに対してドンペリドンを積極的に使用することを推奨するものではありません。つわりはドンペリドンの適応症ではなく、この点は患者への説明時に必ず伝える必要があります。
英国・カナダ・オーストラリア・フランス・ドイツでは以前から妊婦禁忌とはされておらず、今回の改訂で日本も国際的なスタンダードに近づいた形です。妊婦患者からドンペリドン服用について相談を受けた際は、「禁忌ではなくなったが、適応外使用には変わりなく、必要性を慎重に判断する」という立場を明確に伝えることが求められます。
参考:国立成育医療研究センター「妊娠と薬情報センター」プレスリリース(2025年4月)
国立成育医療研究センター|ドンペリドンの妊婦禁忌解除に関するプレスリリース
ドンペリドンは「脳に届きにくい制吐薬」として知られています。これは正しいですが、その理由を正確に理解することで処方判断の精度が上がります。
作用機序は上部消化管およびCTZ(化学受容器引き金帯)のドパミン受容体を拮抗的に遮断し、消化管運動亢進作用と制吐作用を発揮します。血液–脳関門を通過しにくいため、中枢性のドパミン遮断による錐体外路症状(パーキンソン症状など)はメトクロプラミドと比べて少ないとされています。ただし「少ない」であって「ない」ではありません。小児では脳関門の未発達により錐体外路症状・痙攣のリスクが成人より高まる点に注意が必要です。
薬物動態の特徴として、バイオアベイラビリティの低さが挙げられます。絶食下経口投与時のバイオアベイラビリティは約12〜15%と非常に低く、これは初回通過効果を受けやすいためです。同じ10mgを経口投与しても、全身循環に入る量はごく一部です。このため、消化管局所での濃度は高い一方、全身暴露量は抑えられた設計になっています。
代謝はCYP3A4が主経路で、尿中への排泄は約29.5%(24時間以内)、糞中への排泄は約66%(4日以内)です。血漿蛋白結合率は92〜93%(in vitro)と高く、薬物相互作用の観点からも注意が必要です。なお、Tmaxは絶食下経口投与で約0.58時間(約35分)と比較的速く、食前投与であれば食後の悪心・嘔吐抑制に間に合うタイミングで最高血中濃度に達します。
作用の観点では、胃の律動的収縮力を約2時間増大させること(イヌでの実験データ)、および胃前庭部–十二指腸協調運動を促進することが確認されています。さらに胃排出能に対して双方向性の調節作用(遅延例では促進、亢進例では抑制)を示す点は、他の消化管運動改善薬と異なる特徴です。つまり「胃排出の正常化」に特化した薬といえます。
ドンペリドンの薬理作用を深く理解したい場合は、PMDAのインタビューフォームが最も詳細な情報源です。
厚生労働省|ドンペリドンに関する薬物動態・安全性の詳細資料(PDF)