オピオイドnaiveの患者にデュロテップMTパッチを貼付すると、翌日に呼吸抑制で救急搬送されるリスクがあります。

デュロテップMTパッチ(一般名:フェンタニル)は、2010年1月20日に慢性疼痛への適応が追加承認された経緯があります。それ以前は癌性疼痛への適応のみでしたが、非がん性慢性疼痛に悩む患者の強い希望と、ペインクリニック領域からの要望を受けて承認に至りました。これは本邦で初めて、徐放性フェンタニル経皮吸収型製剤が非がん性慢性疼痛治療に使えるようになった歴史的な転換点です。
現在、非がん性慢性疼痛に対して適応が承認されている医療用麻薬は、オキシコンチン®TR錠・デュロテップ®MTパッチ・ワンデュロ®パッチ・フェントス®テープの4製剤のみです。後発品やレスキュー用製剤は非がん性慢性疼痛の適応を持っていない点が重要です。
つまり「適応あり」の製剤は限られています。
適応が追加されたからといって、すべての慢性疼痛患者に使用できるわけではありません。承認条件として「慢性疼痛の診断・治療に精通した医師によってのみ処方・使用されるとともに、本剤のリスク等についても十分に管理・説明できる医師・医療機関・管理薬剤師のいる薬局のもとでのみ用いられること」が明記されています。これは通常の処方医・薬剤師とは別次元の管理体制を要求するものであり、医療従事者として正確な理解が不可欠です。
承認直後の2010年7月、慢性疼痛患者への不適正使用による重大な副作用事例が複数件報告され、死亡例を含む事例がPMDAから公表されました。この出来事は、適応拡大の持つリスクと、管理体制の重要性を改めて業界全体に示したといえます。
PMDA「デュロテップMTパッチ 適正使用徹底のお願い」(2010年7月):不適正使用事例3件の詳細経過が記載されており、特にオピオイドnaive患者への使用がいかに危険かを具体的に示している
デュロテップMTパッチを慢性疼痛に処方する際には、通常の麻薬処方とは異なる特別な流通管理体制が敷かれています。医療従事者は以下の要件を正確に把握しておく必要があります。
まず、処方医はヤンセンファーマ株式会社が提供するe-learning(慢性疼痛治療に関するトレーニング)を受講・修了していることが必須です。受講が未了の医師は、患者や家族から強く求められても処方することができません。実際に2010年の不適正使用事例では、e-learning未受講の医師が患者家族の強い要望に応じて処方した結果、翌日に呼吸抑制が発生し救急搬送に至りました。これが原則です。
次に、処方時には「デュロテップMTパッチ慢性疼痛への処方時の確認書(第3版)」の発行が必要です。確認書は初回発行時から1年間有効で、有効期限が切れたら再発行が必要になります。医療機関保管用と患者保管用の2種類があり、患者は薬局を受診する際に毎回確認書を持参します。
薬剤師は、この確認書の内容を確認したうえで初めて調剤を行えます。確認書が提示されない場合は、処方医のe-learning受講の確認をとるか、流通管理窓口(ヤンセンファーマ)に問い合わせる必要があります。確認できない場合は調剤できません。これは厳格なルールです。
なお、同じフェンタニル貼付剤でもがん性疼痛の場合は、医師のe-learning受講も確認書も不要です。がん性疼痛か非がん性慢性疼痛かで管理体制が全く異なることを、薬剤師も含めた医療チーム全体で共有することが肝要です。頻繁に麻薬を調剤している薬局であっても、「がん性疼痛だろう」という思い込みから確認書の確認が漏れるケースが報告されています。
デュロテップMTパッチの慢性疼痛への使用において、「オピオイド鎮痛剤からの切り替えのみ」という点は絶対条件です。オピオイドnaive(オピオイド鎮痛剤の使用経験のない)患者には絶対に使用してはなりません。これはがん性疼痛と最も大きく異なる制約の一つです。
切り替え時の用量換算は、添付文書の換算表に従って行います。慢性疼痛における換算の目安は以下のとおりです。
| 直前のモルヒネ経口投与量(1日) | デュロテップMTパッチの推奨用量(3日貼付) |
|---|---|
| 45mg/日未満 | 2.1mg |
| 45〜89mg/日 | 4.2mg |
| 90〜134mg/日 | 8.4mg |
| 135〜179mg/日 | 12.6mg |
慢性疼痛では、モルヒネ塩酸塩換算量で60mg/日以下を目安とし、上限は90mg/日と考えることが日本ペインクリニック学会のガイドラインで推奨されています。これが原則です。
切り替え直後は、悪心・嘔吐・傾眠・浮動性めまいなどの副作用が多く出やすい時期です。特に、定常状態に達するまでに12〜24時間程度かかる薬物動態特性があるため、切り替えから最初の72時間は特に注意が必要です。それだけリスクが集中する期間ということです。
患者に対しては、非がん性慢性疼痛の場合、突出痛へのレスキュー投与は推奨されていないことも伝えておく必要があります。がん性疼痛の管理とは目的が異なり、非がん性慢性疼痛では「痛みの完全除去」ではなく「QOLとADLの改善」が目標です。治療期間も原則3か月を基本とし、最長でも6か月で休薬を検討するとされています。漫然とした長期投与は禁物です。
日本ペインクリニック学会「非がん性慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬処方ガイドライン改訂第2版」:対象製剤の適応要件と投与上限、治療期間の考え方が明示されている
フェンタニル経皮吸収型製剤であるデュロテップMTパッチには、添付文書に「警告」レベルで記載された特有のリスクがあります。それは体温上昇による吸収量増加です。貼付部位の温度が上昇するとフェンタニルの経皮吸収量が増加し、過量投与から死亡に至るおそれがある、と警告されています。
具体的には、以下の状況がリスクとなります。
患者が「貼り薬だから安全」と思い込んでいることが多い点に注意が必要です。在宅療養中の慢性疼痛患者が、冬場に湯たんぽや電気毛布を使う場面は珍しくありません。処方時・調剤時に必ず生活指導を行うことが重要です。
また、呼吸抑制も見逃してはならない重大副作用です。傾眠が先行することが多く、「眠れているから大丈夫」と誤解される可能性があります。呼吸数が10回/分を下回るような場合は、オピオイドの減量またはナロキソン投与を検討します。特に高齢者・腎機能低下患者・他の中枢神経抑制薬との併用患者では、通常量でも呼吸抑制が出やすいため、慎重な経過観察が必須です。
患者が使い終わったパッチの廃棄方法についても指導が必要です。剥離後のパッチにも相当量のフェンタニルが残存しており、小児やペットが誤って触れた場合に重篤な事態を招く可能性があります。使用済みパッチは粘着面を内側に折りたたんで、子どもの手の届かない場所で廃棄するよう具体的に伝えます。
非がん性慢性疼痛に対するオピオイド治療における最大の懸案事項が、乱用・依存です。がん性疼痛の場合、適切な投与計画のもとで精神依存が問題となることは少ないとされますが、非がん性慢性疼痛では状況が異なります。
米国では医療用オピオイドの乱用・依存が「オピオイドクライシス」として社会問題化し、毎年数万人規模の過剰摂取死が報告されています。日本では現時点で同様の深刻な問題は表面化していないものの、依存の治療方法や専門医・専門施設がほとんど存在しないという構造的な脆弱性があります。だからこそ、依存患者を出さないことが最重要です。
依存・乱用リスクが高い患者像として、日本ペインクリニック学会のガイドラインでは以下の因子が挙げられています。
早期発見のための危険兆候としては、残薬数の不一致・他の医療機関からの同種薬物の入手・特定薬物への強い希望・処方量を超えた使用などが挙げられます。薬剤師はこれらを調剤のたびに意識的に確認する役割を担います。
また、中止する際には退薬症候(依存)が出現するため、急な中止は避けなければなりません。段階的な減薬・中止を計画し、医師と密に連携しながら進める必要があります。慢性疼痛でのデュロテップMTパッチ処方開始時から、「いつ・どのような状況で中止を検討するか」という出口戦略を立てておくことが、適正使用の核心といえます。
厚生労働省「医療用麻薬適正使用ガイダンス(令和6年版)」:オピオイドの依存・乱用リスクの評価方法と適正使用のための管理手順が詳述されている