「安全な咳止め」と思って処方したその1錠が、セロトニン症候群で患者を死に至らしめることがあります。
デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠(代表品名:メジコン錠15mg)は、延髄の咳中枢に直接作用して咳反射を抑制する非麻薬性中枢性鎮咳薬です。「副作用が少ない咳止め」として広く使われていますが、副作用を頻度別に整理しておくことは臨床上きわめて重要です。
添付文書(2025年2月改訂・第3版)によると、重大な副作用として呼吸抑制(0.1%未満)およびショック・アナフィラキシー(頻度不明)が挙げられています。「0.1%未満」というのは、1,000人に1人以下という計算です。東京ドームの収容人員(約5万5,000人)で考えると、最大55人前後が該当しうる計算になります。決して「起こらない副作用」ではありません。
その他の副作用については以下のように整理されています。
| 系統 | 0.1〜5%未満 | 0.1%未満 | 頻度不明 |
|---|---|---|---|
| 過敏症 | — | 発疹 | |
| 精神神経系 | 眠気、頭痛、眩暈 | 不眠 | 不快 |
| 消化器 | 悪心・嘔吐、便秘 | 食欲不振、口渇、おくび | 腹痛 |
日常診療で「眠気・めまい・吐き気が出ることもある薬」という認識で処方・調剤されることが多いのが現状です。しかしそれだけでは情報として不十分であり、重大副作用の早期発見に向けた患者への説明と観察が不可欠です。
呼吸抑制が起きた場合、ナロキソン投与が有効であるとの報告があります。過量投与時には嘔気・嘔吐・尿閉・運動失調・錯乱・興奮・幻覚・呼吸抑制・嗜眠などが出現することがあります。これはオピオイド系薬剤と類似した過剰症状プロフィールであり、NMDA受容体拮抗作用が関係していると考えられています。
重大副作用は要観察が原則です。
参考:デキストロメトルファン臭化水素酸塩錠「トーワ」添付文書情報(KEGG医薬品データベース)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00071442
デキストロメトルファンの副作用を語る上で、薬物相互作用の理解は欠かせません。添付文書では3つのカテゴリーで併用注意が設定されています。これが見落とされると、臨床現場で実際にセロトニン症候群などの重篤な事態につながります。
① 選択的MAO-B阻害剤(セレギリン、ラサギリン、サフィナミド)との組み合わせ
本剤とMAO-B阻害剤はいずれも脳内セロトニン濃度を上昇させる作用を持っており、併用によりセロトニン濃度がさらに高まります。その結果、セロトニン症候群があらわれることがあります。パーキンソン病治療中の患者に咳止めを追加する際には、特にこの組み合わせに注意が必要です。
② CYP2D6阻害薬(キニジン、アミオダロン、テルビナフィン等)との組み合わせ
デキストロメトルファンは主に肝代謝酵素CYP2D6で代謝されます。これを阻害する薬剤を同時に使用すると、デキストロメトルファンの血中濃度が上昇し、副作用が強く出る可能性があります。不整脈治療薬のアミオダロンや抗真菌薬のテルビナフィンは内科・皮膚科領域でも使われるため、見落としやすい組み合わせです。
③ セロトニン作用薬(SSRI等)との組み合わせ
SSRIとの併用でセロトニン症候群等のセロトニン作用による症状があらわれることがあります。この相互作用は2021年の添付文書改訂で新たに「併用注意」として追記された経緯があります。実際の症例として、83歳女性がパロキセチン(SSRI)服用中にデキストロメトルファンを追加されたところ、服薬後約1時間で大量発汗・全身振戦・眩暈を来し、セロトニン症候群と診断された事例が学術誌に報告されています(小林ら、老年薬学3-3)。
つまりSSRIとの組み合わせは要注意です。
実際の処方監査ではお薬手帳や電子カルテで複数医療機関の処方情報を確認し、以下の薬剤との重複がないか確認することが推奨されます。
- 🔴 セレギリン(エフピー)、ラサギリン(アジレクト)、サフィナミド(エクフィナ)
- 🔴 フルボキサミン、パロキセチン、セルトラリン、エスシタロプラム、デュロキセチン(SSRI/SNRI)
- 🟡 アミオダロン(アンカロン)、テルビナフィン(ラミシール)、キニジン
参考:デキストロメトルファンおよび抗うつ薬によるセロトニン症候群が疑われ薬局薬剤師が介入した1例(老年薬学 2021年)
https://www.jsgp.or.jp/wp/wp-content/uploads/2021/01/老年薬学3-3④小林様.pdf
デキストロメトルファンの副作用の出やすさには、個人差がきわめて大きく、その背景にあるのがCYP2D6の遺伝子多型です。CYP2D6は薬物代謝に関わる主要な酵素の一つで、代謝活性によって「高代謝型(EM)」「低代謝型(PM)」などに分類されます。
コーカソイド(欧米白人)の5〜10%はCYP2D6のPMとされており、日本人でも少数ながら存在することが知られています。PMでは通常用量のデキストロメトルファンでも血中濃度が著しく上昇し、過剰症状が現れる可能性があります。これは「同じ量を同じ時刻に飲んでも、ある患者では副作用が出て、別の患者では問題ない」という状況が起こりえることを意味します。
PMの場合のリスクは見えにくいです。
さらに高齢者では一般的な生理機能の低下(肝血流量の減少、CYP活性の低下、腎クリアランスの低下)が加わります。添付文書でも高齢者には「減量するなど注意すること」と明記されており、通常成人量(1回15〜30mg、1日1〜4回)をそのまま適用することは避けるべきです。
前述のセロトニン症候群が疑われた83歳の症例でも、腎機能低下(クレアチニンクリアランス19.8 mL/min)が確認されており、代謝・排泄の遅延が副作用の遷延化に影響した可能性が指摘されています。これは「高齢者の多剤処方環境」と「CYP2D6阻害薬の重複」が重なった場合に、通常用量以下でも重篤な副作用につながりうることを示しています。
外来診療やかかりつけ薬局でデキストロメトルファンを処方・調剤する際は、患者年齢と腎機能(eGFRやクレアチニン値)を確認する習慣をつけておくことが、副作用防止に直結します。実際の臨床では、電子カルテや調剤システムの患者背景情報を活用し、高齢かつ腎機能低下がある場合には処方量を最小限(例:1回15mg・1日2回程度)にとどめる判断が求められます。
参考:重篤副作用疾患別対応マニュアル「セロトニン症候群」(厚生労働省・PMDA)
https://www.pmda.go.jp/files/000240114.pdf
医療従事者があまり意識していない視点として、デキストロメトルファンの乱用・依存リスクがあります。処方薬として発行している場面では乱用を意識しにくいですが、残薬の蓄積や本人・家族による不適切な追加服用は現実に起きています。
国内の精神科医療施設を対象とした全国調査によれば、デキストロメトルファンを主たる依存物質とする患者数は2018年から2022年の間に約2倍に増加したことが報告されています。これは処方薬としてだけでなく、市販薬(OTC薬)の乱用問題が背景にあります。いわゆる「めじ(メジコンの隠語)」として若年層への乱用も広がっており、臨床現場での認識は不可欠です。
過量投与時の症状は次のとおり多岐にわたります。
- 🔴 呼吸抑制(最重大)
- 🔴 幻覚・錯乱・興奮
- 🟡 嘔気・嘔吐・尿閉
- 🟡 運動失調・嗜眠・神経過敏
大量摂取するとNMDA受容体拮抗作用が顕著になり、ケタミンと類似の解離性・幻覚様症状が現れることがあります。軽症では多幸感・陶酔感、重症ではけいれん・呼吸停止・死亡に至る可能性もあります。
過量投与にはナロキソンが条件です。
処置としては過量投与時にナロキソン投与が有効との報告があり、重篤な呼吸抑制が生じた場合は迷わず使用することが求められます。また、2025年11月には厚生労働省がデキストロメトルファンを含む成分を「指定濫用防止医薬品」に指定する方針を示しており、OTC薬の販売規制が強化されています。
医療機関では残薬の確認と回収を積極的に行い、必要以上の量を患者の手元に置かせないことが重要な介入の一つです。在宅医療・訪問薬剤師が関与している場合は、薬剤の物理的な管理(鍵のかかる場所への保管、使用分のみ渡すなど)を検討することも有効です。
参考:指定濫用防止医薬品の指定について(厚生労働省、2025年11月)
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001592529.pdf
副作用リスクを理解した上で、次に重要なのが「患者にどう伝え、何を観察するか」という実践面です。デキストロメトルファンを処方・調剤した患者への服薬指導では、以下の観点を漏れなく押さえておく必要があります。
眠気・めまいに関する生活指導
添付文書には「本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作に従事させないよう注意すること」と明記されています。これは重要な基本的注意事項であり、特に現役の運転者・機械操作に従事する患者には必ず伝えるべき内容です。眠気の出現率は0.1〜5%未満とされていますが、個人差が大きく、初回投与後は特に注意が必要です。
セロトニン症候群の初期症状を患者に教える
「飲み合わせが悪い薬があります」という一言だけでは不十分です。前述のヒヤリ・ハット事例でも、「飲み合わせが悪い」とだけ伝えて具体的な症状を説明しなかったために、患者が症状の深刻さを理解できず、自己判断で服用してしまいました。
具体的には以下の症状が出た場合はすぐに連絡・受診するよう指導することが推奨されます。
| 症状のカテゴリ | 具体的な症状 |
|---|---|
| 精神症状 | 不安、焦燥、興奮、混乱 |
| 自律神経症状 | 発汗、発熱、頻脈、血圧変動 |
| 神経筋症状 | 振戦(手足のふるえ)、ミオクローヌス(筋の不随意収縮) |
これは使えそうですね。
セロトニン症候群は服薬開始後数時間以内に発現することが多く、被疑薬中止後通常24時間以内に改善します。したがって、「飲み始めてから数時間で症状が出た」という患者の訴えは真剣に受け止める必要があります。
お薬手帳の積極的活用
デキストロメトルファンと相互作用のある薬剤(SSRI・MAO-B阻害薬・CYP2D6阻害薬)は複数診療科から処方されることが多く、一つの医療機関では把握できないケースがあります。お薬手帳に「〇〇(薬品名)とは一緒に飲まないこと」と具体的に記載しておくことで、他院処方との重複チェックに役立ちます。特に多科受診の多い高齢患者では、このひと手間が重篤な副作用を防ぐ安全策になります。
お薬手帳の活用が原則です。
在宅・終末期患者での薬剤回収の徹底
前述のリネゾリド(ザイボックス)との併用によるセロトニン症候群の事例では、服薬指導を行ったにもかかわらずデキストロメトルファンを回収しなかったことが問題となりました。特に在宅・終末期患者では「つらい症状が続けば自己判断で飲んでしまう」という行動が起きやすく、回収と代替薬の手配を同時に行うことが必須です。
参考:ヒヤリ・ハット事例225「終末期在宅患者がザイボックス錠とメジコン錠を併用しセロトニン症候群を起こした可能性」(リクナビ薬剤師・澤田教授コラム)
https://rikunabi-yakuzaishi.jp/contents/hiyari/225/
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