配当金は「権利確定日に持っていれば自動で満額もらえる」と思い込むと、手取りが約2割目減りしたまま何年も損し続けます。
第一三共(証券コード:4568)は東京証券取引所プライム市場に上場する国内大手製薬企業です。2026年3月期の予想年間配当金は1株あたり78円で、現在の株価(約2,974円)に対する配当利回りは約2.62%です。
配当金の推移を振り返ると、大幅な増配が目立ちます。
| 年度 | 年間配当金(調整後) |
|------|---------------------|
| 2022年3月期 | 27円 |
| 2023年3月期 | 30円 |
| 2024年3月期 | 50円 |
| 2025年3月期 | 60円 |
| 2026年3月期(予想) | 78円 |
わずか4年で27円から78円へ、約2.9倍の増配です。これは主力のがん治療薬「エンハーツ」がグローバルで急速に売上を拡大したことが背景にあります。2026年3月期のエンハーツ単独の売上収益は約8,000億円に達する見込みで、前期比で25%以上の増収が予測されています。
ただし、配当性向は2025年3月期に38.47%と、ここ数年で急低下しています。これは利益の伸びが配当金の増加スピードを上回っているためです。つまり業績が支えてこその増配ということですね。
第一三共は配当の基準指標として「DOE(株主資本配当率)」を採用しています。2025年度の目標はDOE8%以上と公表されており、単純な配当性向ではなく自己資本を基準にした安定的な還元方針が特徴です。これは珍しい取り組みです。
利益が減少しても自己資本が維持されれば配当水準を保ちやすい仕組みであり、医療従事者が長期保有を検討するうえで参考になる指標といえます。
参考:第一三共 株主・株式情報(配当推移・DOE目標が公式データとして確認できます)
https://www.daiichisankyo.co.jp/investors/shareholders/stock/
配当金を受け取るには「権利確定日に株主名簿に名前が載っていること」が条件です。第一三共は年2回の配当を実施しています。
| 配当の種類 | 権利確定日 | 権利付き最終日(目安) | 支払い時期 |
|---|---|---|---|
| 期末配当 | 3月31日 | 3月27日(金) | 6月下旬 |
| 中間配当 | 9月30日 | 9月26日(金) | 12月上旬 |
重要な落とし穴があります。株式市場では「約定から2営業日後に決済される」ルールがあるため、権利確定日の2営業日前=権利付き最終日までに購入を完了しなければなりません。
権利付き最終日の翌営業日は「権利落ち日」と呼ばれます。この日は配当分だけ理論上の株価が下落します。第一三共の2026年3月期期末配当(39円)の場合、権利落ち日に株価が39円程度下落する動きが想定されます。これは損ではありません。
配当金はもらえている分、株価が下がるだけです。トータルの価値は変わらないという原則が基本です。
ただし「権利落ち日に株価が戻ってくるとは限らない」点は知っておく必要があります。他の市場要因が重なれば、配当額以上に株価が下がるケースもあります。短期売買目的で「配当取り→即売り」を狙う手法は、手数料と税金を考えると思ったほど有利にならないことも多いです。
長期保有を前提に配当を積み重ねる戦略が、医療従事者のような多忙な職種には向いています。日々の値動きを気にしなくて済む点が大きなメリットです。
参考:第一三共 株主Q&A(権利確定日・配当金受け取り方法の公式説明)
https://www.daiichisankyo.co.jp/investors/shareholders/faq/
通常、上場株式の配当金には約20.315%(所得税15.315%+住民税5%)の税金が源泉徴収されます。100株保有で年間7,800円の配当金を受け取る場合、実際の手取りは以下のとおりです。
$$\text{手取り配当金} = 7{,}800 \times (1 - 0.20315) \approx 6{,}215\text{円}$$
差額は約1,585円。これが毎年かかり続けます。5年保有すれば約7,900円以上が税金として消えます。
ここで有効なのが新NISA(少額投資非課税制度)の活用です。ただし注意点があります。NISA口座で保有していても、配当金の受け取り方法を「株式数比例配分方式」に設定しなければ非課税になりません。
🔴 非課税にならないケース(要注意)。
- 配当金領収書を郵送で受け取る「配当金領収書方式」
- 銀行口座への振込を指定する「登録配当金受領口座方式」
- 証券会社ごとに口座を指定する「個別銘柄指定方式」
✅ 非課税になるケース。
- 証券会社の口座で受け取る「株式数比例配分方式」(NISA口座との紐付けが必要)
この設定を変更するには、お取引の証券会社のウェブサイト・アプリから変更手続きが必要です。一度設定すればOKです。
第一三共の単元株(100株)は現在の株価約2,974円で計算すると、約297,400円の投資額になります。新NISAの成長投資枠(年間240万円)の範囲内で購入でき、NISA非課税枠を使いやすい銘柄です。
参考:松井証券「NISAの配当金は非課税になる?受け取り方法と注意点」
https://www.matsui.co.jp/money-satellite/column/beginner/nisa/cl-nisa-dividends.html
第一三共には株主優待制度がありません。これを知らずに「優待目的」で購入しようとすると無駄足になります。
公式サイトには明確に「株主様への利益還元策として配当を優先させていただくこととし、当社では、株主優待制度は導入しておりません」と記載されています。
優待がない代わりに、配当と自己株式取得による株主還元を充実させる方針を採っています。実際に第一三共は2024年4月から2025年1月にかけて約3,871万株の自己株式を取得・消却し、さらに2025年3月から4月にも約1,397万株を追加取得しています。
自己株式の消却は一株あたりの価値を高める効果があります。これは配当金とは別の形での株主還元です。
🔍 自己株式取得のメリットをシンプルに整理すると。
- 発行済み株式数が減る
- 1株あたり利益(EPS)が向上する
- 将来の増配余地が広がる
医療従事者の視点から見れば、第一三共は職場で取り扱う薬剤(エンハーツ、リクシアナなど)の製造元でもあります。業績の背景を製品レベルで理解できる分、株式投資としての情報収集がしやすい銘柄です。これは使えそうです。
ただし、利益相反の観点から、勤務先が直接取引関係にある製薬会社の株式購入については、所属機関のコンプライアンス規程を事前に確認することが不可欠です。
第一三共の現在の増配を支えているのは、エンハーツ(一般名:トラスツズマブ デルクステカン)の爆発的な売上成長です。英国アストラゼネカとの共同開発薬で、2026年3月期の売上は約8,000億円、さらに来期以降も増加が見込まれています。
力強い数字です。ただし、増配が「永続する」前提で保有するのは危険です。製薬会社の株価・配当には、以下のような業績リスクが伴います。
⚠️ 主な注意点。
| リスク項目 | 具体的な内容 |
|-----------|-------------|
| 後継パイプラインの失敗 | 新薬候補の臨床試験失敗で業績が急落するリスク |
| 特許切れ問題 | 主力薬の特許満了後は後発品が参入し売上が落ちる |
| 臨床試験の中断 | 2025年12月にTROPION-Lung14試験が被験者募集終了 |
| 為替リスク | 北米・欧州の売上比率が高く(約56%)、円高になると円換算の収益が減少する |
2026年3月期第3四半期時点でのオンコロジーポートフォリオは12.1%増と堅調ですが、一過性の利益反動で営業利益は微減となっています。安定しているとは言い切れない局面もあります。
配当金が減配になる可能性はゼロではありません。これが原則です。
長期投資の観点では、配当利回り(約2.62%)だけでなく、「この会社が5〜10年後も成長しているか」という視点でエンハーツ以降のパイプラインを継続的にチェックすることが大切です。第一三共はADC(抗体薬物複合体)技術のプラットフォームを複数持っており、次世代ADCの開発も進んでいます。医療情報に触れる機会の多い医療従事者は、こうした業界ニュースをそのまま投資判断に役立てられる立場にあります。
参考:第一三共 2025年度第3四半期決算説明資料(業績・パイプライン詳細)
https://www.daiichisankyo.co.jp/investors/individual/vision/