中間型インスリン一覧と種類・作用時間・使い分けの要点

中間型インスリン(NPH)の製品一覧と作用時間を徹底解説。ヒューマリンN・ノボリンNの特徴から、持効型との使い分け、混和手技の落とし穴まで、医療従事者が押さえておくべき知識とは?

中間型インスリン一覧と各製剤の作用時間・使い分けを解説

NPHインスリンを「10回以上振った」患者のうち、実際に適切に混和できているのは1割未満です。


この記事の3ポイント
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中間型インスリンの現行製品は2系統のみ

国内で流通する中間型インスリンは「ヒューマリンN」(イーライリリー)と「ノボリンN」(ノボ ノルディスク)の2系統。剤形(バイアル・カート・プレフィルド)によって使用できるデバイスが異なるため、一覧での把握が欠かせません。

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作用ピークが「4〜12時間後」に存在する

中間型(NPH)は発現1〜3時間・最大作用4〜12時間・持続18〜24時間。明確なピークがあるため、投与タイミングと食事・睡眠のズレが低血糖を招きやすい点が持効型との最大の違いです。

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混和不足でインスリン濃度が最大214%に達する

懸濁が不十分だと製剤内の結晶濃度が5〜214%まで乱れるという報告があります。患者指導で「振りました」という返答をうのみにしないことが、血糖コントロール安定の鍵です。


中間型インスリンの製品一覧:ヒューマリンN・ノボリンNの剤形と規格



現在、日本国内で使用できる中間型インスリン(NPHインスリン)は、イーライリリー社のヒューマリンNとノボ ノルディスク ファーマ社のノボリンNの2系統に集約されています。2024年10月に日本糖尿病協会・日本糖尿病学会が監修した注射製剤一覧表でも、中間型としてこの2銘柄のみが掲載されています。


以下の表に、現行の中間型インスリン製品を剤形別にまとめます。







































商品名 一般名 剤形 規格 メーカー
ノボリンN注フレックスペン 生合成ヒトイソフェンインスリン プレフィルド 3mL・300単位 ノボ ノルディスク ファーマ
ヒューマリンN注ミリオペン ヒトイソフェンインスリン プレフィルド 3mL・300単位 日本イーライリリー
ヒューマリンN注カート ヒトイソフェンインスリン カートリッジ 3mL・300単位 日本イーライリリー
ヒューマリンN注100単位/mL ヒトイソフェンインスリン バイアル 10mL・1000単位 日本イーライリリー


ノボリンNはプレフィルド(フレックスペン)のみの展開ですが、ヒューマリンNはプレフィルド(ミリオペン)・カートリッジ(カート)・バイアルの3剤形が揃っています。バイアルはインスリン専用シリンジが別途必要ですが、院内での静注・混注など入院管理での使い勝手がある点が特徴です。


一般名でいうと、ノボリンNは「生合成ヒトイソフェンインスリン」、ヒューマリンNは「ヒトイソフェンインスリン」と微妙に表記が異なりますが、どちらも同じ作用機序のNPH(Neutral Protamine Hagedorn)インスリンです。製剤を一覧で管理する際には、剤形・規格の違いに加え、使用できる注射デバイス(ノボペン・ヒューマペンなど)との組み合わせも確認が必要です。


中間型インスリンが原則です。


参考リンク(日本糖尿病協会・日本糖尿病学会監修の最新版注射製剤一覧表:製品名・剤形・注射タイミングを一覧で確認できます)
注射製剤一覧表:インスリン製剤(日本糖尿病学会監修、2024年10月版)


中間型インスリンの作用時間・ピーク・持続時間を他製剤と比較

NPHインスリンの力学プロファイルを正しく把握することは、処方選択と患者指導の基盤になります。製剤によって数値に幅があるため、ここでは代表的な目安として整理します。


































製剤 作用発現時間 最大作用(ピーク)時間 作用持続時間
ノボリンN 約1.5時間 4〜12時間 約24時間
ヒューマリンN 1〜3時間 8〜10時間 18〜24時間
(参考)ランタス(持効型) 1〜2時間 ほぼなし(フラット) 約24時間
(参考)トレシーバ(持効型) 1〜2時間 ほぼなし(フラット) 42時間以上


ノボリンNとヒューマリンNでは、同じNPHでもピークのタイミングに若干の差があります。ヒューマリンNのピークは「8〜10時間後」と比較的後方にあるのに対し、ノボリンNは「4〜12時間」とやや幅広く設定されています。これは製剤間の吸収速度の個体差とも相まって、血糖コントロールに影響する場合があります。


持効型(グラルギン・デグルデク)と最も大きく異なるのが「ピークの有無」です。持効型はほぼフラットな血中濃度曲線を描くため、低血糖のリスクが特定の時間帯に集中しにくいという特性があります。一方、NPHはピークが明確に存在するぶん、そのピーク時刻に食事摂取がないと低血糖が起きやすくなります。意外ですね。


参考リンク(NPHと他の基礎インスリンの作用時間・作用機序の違いを詳しく解説)
基礎インスリンと追加インスリンの違いとは?NPHインスリンのピークと役割(神戸木下クリニック)


中間型インスリンの適応・使い分け:持効型が主流でもNPHが選ばれる理由

近年の糖尿病治療ガイドラインでは、基礎インスリンとして持効型溶解インスリン(グラルギン・デグルデク等)が第一選択とされるケースが増えています。それでも中間型インスリン(NPH)が現在も一定の処方シェアを持ち続けるには、いくつかはっきりとした理由があります。


まず妊娠中・妊娠糖尿病の患者への使用です。NPHインスリンはインスリンの胎盤移行性が低く、数十年にわたる使用実績から安全性データが豊富に蓄積されています。インスリングラルギン(ランタス)は妊婦への安全性についても近年エビデンスが増えていますが、NPHは「最も使用実績が長い」という強みを持っています。つまり妊娠中のNPH使用が原則です。


次に経済的負担の軽減という視点があります。持効型の新薬アナログ製剤に比べ、NPH製剤は薬価が低く設定されています。糖尿病治療は生涯継続が基本のため、長期的な医療費の差は患者さんにとって切実です。血糖コントロールに問題がなくNPHで安定している患者では、持効型への切り替えの必然性は低いと言えます。


さらに混合型インスリンのベース成分としての活用があります。ノボラピッド30ミックスやヒューマログミックス25などの混合型製剤には、中間型(NPH)が配合されています。これは食後血糖の抑制と基礎分泌の補充を1本のペンで賄う便利さを提供するもので、注射回数を減らしたい患者や治療導入初期の患者に適しています。
























使用される場面 NPHが選ばれる理由
妊娠糖尿病・糖尿病合併妊娠 長年の安全性実績・胎児への影響データが豊富
医療費負担が大きい患者 持効型に比べ薬価が低い
混合型製剤の使用 NPHが配合成分として不可欠
BOT療法(経口薬との併用) 就寝前投与でNPHのピークを暁現象対策に活用


BOT療法(Basal Supported Oral Therapy)で就寝前にNPHを打つ場合、ピークが早朝に来るため、血糖が上昇しやすい暁現象(dawn phenomenon)の抑制に有効なケースがあります。持効型ではフラットすぎて夜明け前の上昇を抑えきれない患者に、NPHのピークをうまく活用するという発想です。これは使えそうです。


中間型インスリンの混和手技:63%の患者が10回未満しか振っていないというデータの衝撃

中間型インスリン(NPH)は白く濁った懸濁液です。静置すると結晶成分が沈殿するため、注射前に必ず均一に混和する必要があります。添付文書には「10回以上の振盪」が明記されています。この手技の問題は、医療従事者が見落としがちな盲点です。


慶應義塾大学・天理よろづ相談所病院が行った実態調査(2010年)では、NPHインスリンのペン型注射器を2年以上使用している患者55例を対象に、混和手技を詳細に調査しました。その結果は医療現場に大きな示唆を与えています。


- 🔴 63%の患者が「10回未満しか振らない」と回答
- 🔴 71%の患者が「10秒未満しか振らない」と回答
- 🟡 「混ぜる操作は気にならない」と答えた患者は91%
- 🟡 「毎回確認している」と答えた患者は87%


数字が示す状況は明確です。患者自身は「混和している」「確認している」と認識しているにもかかわらず、実際の回数・時間は不十分というギャップが大きい。これが血糖コントロール不安定の一因になりえます。


また、混和が不十分だと製剤内の結晶濃度が5%から214%まで乱れるという報告(Jehle PM et al., Lancet, 1999)もあります。通常の100%から214%になると、実際に注入されるインスリン量が2倍超になる場面も起きうるわけです。懸濁が不十分なインスリンでは予期せぬ高血糖や低血糖を招く恐れがあります。


正しい混和法の手順は以下の通りです。


1. 💉 ペン型注射器を水平に保ち、「roll(転がす)」と「tip(傾ける)」の動作を繰り返す(shakeではない)
2. 💉 液体全体が白く均一になっていることを目視で確認する
3. 💉 混和後は2分以内に注射する(2.5分程度で白濁液の沈殿が始まるとの報告がある)
4. 💉 毎回少なくとも10回以上の往復操作を行う


「患者がNPHインスリンを振っている」という返答をうのみにしないことが重要です。混和の方法(shakeではなくroll and tipか)、確認の対象と方法まで詳しく問診する必要があります。混和が継続的に困難な患者には、混和不要な持効型製剤への切り替えを検討するという選択肢も有力です。


参考リンク(NPHインスリン混和手技の実態調査論文・天理医学紀要)


中間型インスリンを含む混合型製剤の種類と配合比:注射回数を減らす選択肢

中間型インスリン(NPH)は単独で使われるだけでなく、超速効型・速効型と組み合わせた「混合型製剤」のベース成分としても広く使用されています。1本のペンで食後高血糖の抑制と基礎インスリンの補充を同時に行えるため、注射回数の削減を希望する患者や、シンプルなレジメンが望ましい治療導入初期に向いています。














































製品名 配合成分(速効性:中間型) 注射タイミング メーカー
ノボラピッド30ミックス アスパルト30%:NPH様70% 食直前 ノボ ノルディスク
ノボラピッド50ミックス アスパルト50%:NPH様50% 食直前 ノボ ノルディスク
ヒューマログミックス25 リスプロ25%:中間型75% 食直前 日本イーライリリー
ヒューマログミックス50 リスプロ50%:中間型50% 食直前 日本イーライリリー
ノボリン30R 速効型30%:NPH70% 食事30分前 ノボ ノルディスク
ヒューマリン3/7 速効型30%:NPH70% 食事30分前 日本イーライリリー


配合比の数字に着目すると、「30」「50」といった数字は速効性成分(超速効型または速効型)の割合(%)を表しています。食後血糖の上昇が特に顕著な患者には速効性成分の割合が高い製剤(50ミックスなど)が選ばれる傾向があり、逆に空腹時血糖のコントロールを重視するなら中間型比率の高い製剤が選ばれます。これが基本です。


注意点として、超速効型ベースの混合型(ノボラピッド30ミックスなど)は「食直前」に注射できますが、速効型ベースの混合型(ノボリン30Rなど)は「食事30分前」の注射が必須です。同じ混合型でも注射タイミングが異なるため、患者への指導時に混同がないよう確認が必要です。


配合比が固定されているため、日ごとに食事量や運動量が大きく変動する患者では、きめ細かな用量調整が難しい面もあります。そのような患者にはベーサル・ボーラス療法(持効型+超速効型)のほうが柔軟性に優れます。混合型が向いている人・向いていない人を事前に評価することが条件です。


NPHインスリンと持効型の夜間低血糖リスク:医療従事者が知っておきたい臨床的な差

中間型インスリン(NPH)と持効型インスリンの最も重要な臨床的差異のひとつが、夜間低血糖のリスクです。この点を正確に理解することは、患者への用量調整・指導において不可欠な知識です。


夕食前または就寝前にNPHを注射した場合、ピーク(最大作用時間)は深夜から早朝にあたります。就寝中は低血糖症状(発汗、動悸、悪夢など)に気づきにくく、重症化するリスクがあります。実際の実態調査でも、夕または眠前にNPHを注射していた患者42例のうち29%(12例)が夜間低血糖を経験していたと報告されています(田中正巳ら,天理医学紀要,2010年)。


持効型溶解インスリン(グラルギンやデグルデク)との比較では、大規模臨床試験(DEVOTE試験など)において持効型群のほうが重症低血糖・夜間低血糖の発生率が有意に低いことが示されています。夜間低血糖が心配なら問題ありません、という状況ではなく、NPH使用患者では意識的にモニタリングを強化することが重要です。


NPHから持効型への切り替えを検討するタイミングの目安は以下の通りです。


- 🌙 夜間低血糖のエピソードが繰り返し起きている
- 🌙 患者が混和操作を継続的に適切に行えていない
- 🌙 不規則な生活スタイルで注射時刻や食事時間がばらつく
- 🌙 夜勤・交替勤務など就寝時間が固定できない


一方で、NPHで長年安定して血糖コントロールが良好な患者では、コスト面の優位性もふまえ「変更の必然性は低い」という考え方も現実的です。厳しいところですね。主治医と患者双方の視点で、メリット・デメリットを丁寧に評価することが大切です。


参考リンク(NPHインスリン使用時の夜間低血糖リスクと持効型との比較に関する解説)
血糖値を下げる注射薬(国立国際医療研究センター 糖尿病情報センター)






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