ICS/LABAを続けても喘息が改善しない患者さんの3〜4割が、LAMAの追加で初めてコントロール良好になります。
長時間作用型抗コリン薬(LAMA:Long-Acting Muscarinic Antagonist)は、気道平滑筋に発現するムスカリンM3受容体に競合的に結合し、副交感神経由来のアセチルコリンによる気管支収縮を持続的に遮断する薬剤群です。この作用により気管支が長時間にわたって拡張した状態を維持し、呼吸困難や咳・痰などの症状を改善します。
喘息の気道では、M3受容体を介した副交感神経過緊張が気道狭窄の一因となっていることが知られています。特に重症持続型の喘息患者では、末梢気道のM3受容体が非神経性の副交感神経系によっても活性化されており、LAMAはこの経路を遮断することで気道過敏性の改善にも寄与します。つまり喘息に効果があるということです。
ただし、重要な点があります。LAMAにはヒトでの抗炎症作用は確認されていないため、喘息の根本である気道炎症を鎮めることはできません。あくまで気道炎症の「抑制」は吸入ステロイド(ICS)が担い、LAMAはその上に追加する「気管支拡張」の役割に位置します。ICS抜きのLAMA単独投与はガイドライン上認められていないと覚えておけばOKです。
また、LAMAとLABA(長時間作用性β2刺激薬)を併用した場合、LABAが気道平滑筋のβ2受容体を刺激するとM3受容体の感受性が低下するという相互補完的な機序が働き、単剤よりも高い気管支拡張効果が得られることも示されています。これがICS/LABA/LAMAのトリプル療法が理論的・臨床的に有効な理由のひとつです。
参考:気道のM3受容体とLAMAの作用に関する解説(東京都医師会 2023年)
「気管支喘息治療の最新の知見とトリプル製剤への期待」(東京都医師会)
「喘息予防・管理ガイドライン2021」では、治療ステップ3以降にLAMAが長期管理薬として明記されています。治療ステップ3とは、週1回以上の喘息症状があり、日常生活や睡眠が妨げられる状態が継続する中等症以上の患者を対象とするステップです。
この位置づけにおける基本的な考え方は以下のとおりです。
| 治療ステップ | 標準的な長期管理薬 | LAMAの扱い |
|---|---|---|
| ステップ1 | 低用量ICS(頓用または定期) | 対象外 |
| ステップ2 | 低〜中用量ICS | 対象外 |
| ステップ3 | 中用量ICS/LABA | 必要に応じて追加可 |
| ステップ4 | 高用量ICS/LABA | 追加・トリプル推奨 |
ガイドラインにおいて「第一選択」は依然としてICSであり、その点は変わりません。ICS単独でコントロールが不十分な場合にICS/LABAへとステップアップし、それでも症状が残存する場合に初めてLAMAが追加の選択肢として登場します。ICSが基本です。
「喘息予防・管理ガイドライン2021」では、ICS/LABA/LAMAのトリプル配合剤についても治療ステップ3以上での使用が明記されました。これにより、従来はステップ4以上での使用が中心だったトリプル療法が、より早い段階から検討できる環境が整ったと言えます。特に咳・痰・呼吸困難のいずれかが強い症例では、初診時からトリプル療法を選択することも許容されることになりました。
参考:喘息予防・管理ガイドライン2021(J-Stage)
ここは臨床上とくに注意が必要なポイントです。現在市場に流通している主なLAMA製剤を以下に整理します。
| 一般名 | 商品名 | 喘息適応 | COPD適応 |
|---|---|---|---|
| チオトロピウム | スピリーバ レスピマット® | ✅ あり | ✅ あり |
| グリコピロニウム | シーブリ®(ブリーズヘラー) | ❌ なし | ✅ あり |
| アクリジニウム | エクリラ®(ジェヌエア) | ❌ なし | ✅ あり |
| ウメクリジニウム | エンクラッセ®(エリプタ) | ❌ なし | ✅ あり |
この表が示すとおり、単剤LAMAとして気管支喘息への適応を持つのは、チオトロピウムのソフトミスト製剤「スピリーバ レスピマット®」のみです。意外ですね。
COPDで汎用されるシーブリ®・エクリラ®・エンクラッセ®は、喘息には適応がありません。喘息患者にこれらを処方した場合、適応外使用となりレセプト査定や医事的な問題に発展するリスクがあります。喘息患者に対して処方する際は必ずスピリーバ レスピマット®であることを確認することが原則です。
なお、スピリーバ レスピマット®には1.25μgと2.5μgの2規格があります。喘息に対しては主に1.25μg(1日1回2吸入)が用いられますが、2.5μgも喘息の適応を有します。2.5μgはもともとCOPD向けに開発されたため、喘息に用いる際は1.25μgが推奨される場面が多くあります。
一方でトリプル配合剤については、エナジア®(ICS/LABA/LAMA:インダカテロール・グリコピロニウム・モメタゾン)やビレーズトリ®(ICS/LABA/LAMA:ブデソニド・ホルモテロール・グリコピロニウム)が喘息の適応を持っています。これらでグリコピロニウム(LAMA成分)が使われていますが、配合剤としての適応であり、グリコピロニウム単剤(シーブリ®)の喘息適応とは別物であることに注意が必要です。
参考:LAMA製剤の適応・成分比較(日経メディカル)
ICS/LABAによる治療を継続していても、喘息のコントロール不良が続く患者さんは決して少なくありません。前述のとおり、治療アドヒアランスに関わらず3〜4割程度の患者でICS/LABAのみでは不十分とされています。この現実を踏まえると、LAMAを適切なタイミングで追加することが患者の増悪リスクを実質的に下げる有力な手段となります。
NEJM誌2012年9月号に掲載されたKerstjens氏らによる大規模ランダム化比較試験(n=912)では、ICS/LABA治療中にもかかわらず症状のある喘息患者にチオトロピウムを48週間追加投与した結果、以下のことが示されました。
- 📈 24週後のピークFEV1:プラセボ比で86〜154mL有意に改善(試験1:p=0.01、試験2:p<0.001)
- 📉 重度喘息増悪のハザード比:0.79(約21%リスク低下、p=0.03)
- ⏱️ 初回重度増悪までの期間:プラセボ226日 → チオトロピウム282日(+56日間延長)
これは野球で言えば、シーズン56試合分の「発作なし期間」が延びることに相当します。患者のQOLおよび入院・救急受診リスクに対するインパクトは非常に大きいです。
LAMAを追加すべきタイミングの判断基準として、以下の2つの軸で考えると整理しやすいです。
🔴 コントロール不良型(症状やFEV1低下が続く)
ICS/LABAで治療しているにもかかわらず、喘息コントロールテスト(ACT)スコアが19点以下、夜間症状・救急受診が繰り返される、FEV1の改善が不十分などの場合にLAMAの追加を検討します。
🟡 残存症状型(咳・痰が残る)
LAMAは気管支を拡張させるだけでなく、気道粘液の過剰分泌を抑制する効果もあります。すでに喘息症状がある程度落ち着いていても「昼夜を問わない咳や痰」が最後まで残存するケースに対して、スピリーバ レスピマット®の追加が有効である可能性があります。
また、ACEI(ACE阻害薬)による咳を喘息悪化と誤判断して治療強化してしまうケースもあります。LAMAを追加する前に、ACEI服用の有無を確認し、乾性咳嗽の原因を鑑別しておくことも重要です。
参考:コントロール不良喘息へのチオトロピウム追加試験(CareNet)
「コントロール不良の喘息患者にチオトロピウム投与で肺機能改善」(CareNet、NEJM 2012)
「LAMA=気管支拡張薬だから安全」という油断は禁物です。抗コリン作用を持つ以上、副交感神経を介した全身への影響は生じ得ます。処方前に必ず確認すべき項目を以下に整理します。
🚫 禁忌:閉塞隅角緑内障
スピリーバ レスピマット®(および他のLAMA製剤)は、閉塞隅角緑内障の患者には禁忌です。ただし、全ての緑内障患者が禁忌ではありません。「閉塞隅角」か「開放隅角」かによって判断が分かれるため、緑内障治療中の患者が来院した際は眼科主治医へ確認するよう促すことが重要です。「緑内障だから全員ダメ」は誤りです。
⚠️ 慎重投与:前立腺肥大による排尿障害
前立腺肥大症の患者も一律に禁忌ではありませんが、高度な排尿障害を有する患者では尿閉を誘発するリスクがあります。軽度の前立腺肥大であれば使用可能な場合が多いですが、「尿が非常に出にくい」状態の患者には使用を避けるべきです。
😮 副作用で最も多い:口渇
LAMAの副作用で最も報告頻度が高いのは口渇です。高齢患者では脱水や義歯の安定不良につながることもあります。必要に応じて口腔ケアの指導や水分摂取の促しが有用です。これは使えそうな情報です。
🔍 見落としやすい注意点:吸入手技の確認
スピリーバ レスピマット®はソフトミスト(霧状)吸入器であり、「噴霧と吸入のタイミング合わせ」が必要です。高齢患者や呼吸機能が著しく低下した患者では、吸気力不足よりもタイミングのズレが薬効低下の原因となりやすい点に注意します。スペーサーを併用することでこのタイミングのズレを解消でき、吸入効率も向上します。
実臨床でよく見逃されるのが、「LAMAをCOPDから喘息患者に切り替える際に製品が変わる」という点です。COPD外来で使っていたシーブリ®やエンクラッセ®は喘息には適応がないため、喘息と診断(または診断変更・ACOS発見)した際には製品変更が必要になります。LAMAの切り替えには細心の注意が必要です。
参考:LAMA禁忌・副作用の整理(日経DI)
「気管支喘息」LAMAの副作用・禁忌整理(日経DI)
参考:老年医学会ガイドラインにおけるLAMAの留意事項
「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」(日本老年医学会)