c/c複合材を切削すると、発生した粉塵が工作機械の電装系に付着してショートを起こし、機械が壊れることがあります。

c/c複合材(C/Cコンポジット、炭素繊維強化炭素複合材料)は、炭素繊維を母材である黒鉛(グラファイト)で強化した複合材料です。金属でも樹脂でもなく、母材も強化繊維もすべて炭素原子で構成されているため、セラミックスの一種として分類されることもあります。見た目は光沢のある黒色で、比重はおよそ1.5前後です。これは鉄(比重約7.8)の5分の1以下という軽さです。
「軽い=弱い」というイメージを持つ方も多いかもしれません。しかしc/c複合材は違います。引張強度は100〜300MPa、曲げ強度は通常の黒鉛の3〜4倍という高い強度を誇ります。さらに特筆すべきは高温域での挙動です。耐熱鋼は800℃を超えると引張強度が急激に低下しますが、c/c複合材は1,000℃以上の高温でも強度・寸法ともに安定を保ちます。不活性ガス雰囲気下では2,000℃超、溶融温度は3,500℃以上と、金属の限界をはるかに超えています。
つまり「超高温でこそ真価を発揮する素材」です。
酸・アルカリ・有機溶剤に侵されない耐薬品性、熱による膨張が極めて小さい低熱膨張性も持ち合わせており、精密な加工治具や熱処理用部品として金属加工現場での需要が高まっています。2022年時点のc/c複合材の世界市場規模は約3,400億円と試算されており、年率で着実に拡大が続いています。今後は金属熱処理分野での省エネ・省人化ニーズを背景に、さらなる採用拡大が見込まれます。
アイアール技術者教育研究所|3分でわかるC/Cコンポジットの基礎知識(特徴・製造方法・用途など)
c/c複合材の製造工程は大きく2種類に分けられます。金属加工に携わる技術者がc/c複合材を正しく扱うためには、どのような工程で作られているかを理解しておくことが重要です。
含浸法(含侵法)は、炭素繊維に樹脂(フェノール樹脂やフラン樹脂など)を含浸させたCFRPを成形し、1,000℃以上で焼成して樹脂成分を炭化させる方法です。1回の含浸・焼成では空隙が残るため、通常は含浸→焼成を3〜6回繰り返します。最終工程として2,500℃以上で加熱して炭素をグラファイト化します(黒鉛化処理)。この黒鉛化処理をあえて行わない場合、材料の強度がより高く維持されるという特性もあります。基本形状は金型で決まりますが、必要に応じて切削加工で仕上げます。
CVD法(化学気相成長法)は、炭素繊維を1,000〜2,000℃に加熱し、メタンやプロパンなどの炭化水素ガスを導入して炭素を繊維に直接析出させる方法です。析出に伴って材料内の空隙率が変化するため、工程の途中でガス圧や温度を細かく制御する必要があります。
国内のc/c複合材メーカーとしては、東洋炭素株式会社、東海カーボン株式会社、日本カーボン株式会社などが知られています。製品によって製法が異なるため、部品選定の際は製法由来の特性差を確認することがポイントです。
| 製法 | 特徴 | 向いている用途 |
|---|---|---|
| 含浸法(HIP法) | 量産性が高く、複雑形状に対応 | 熱処理用トレー・治具 |
| CVD法(CVI法) | 均質で高密度、精密部品向き | 航空機ブレーキ材・精密部品 |
| 両法の併用 | 特性の最適化が可能 | 高性能要求部品 |
金属加工の現場でc/c複合材の切削を初めて担当すると、工具の消耗が想定外に速いことに驚く技術者は少なくありません。これはc/c複合材が持つ特有の被削性に起因します。
c/c複合材は炭素繊維が硬質な研磨粒子として作用するため、工具の逃げ面が急速に摩耗します。大阪工業大学の研究(井原ら)によれば、φ6超硬エンドミルでの側面切削において、工具径の減少と逃げ面摩耗の増大には明確な相関が確認されています。加工条件の検討では、回転数を高くするほど工具寿命が短くなる一方、1刃あたりの送り量を大きくすると工具寿命が延びることが示されています。これはc/c複合材の粘弾性により、工具刃先が材料に接触する際に加工面が弾性変形し、逃げ面に干渉することが摩耗の主因であるためです。
工具選定の基本は次のとおりです。
ダイヤモンドコーティング工具が基本です。
切削速度を上げすぎないこと、適切な冷却(エアブロー)を確保すること、そして工具径と送り量のバランスを最適化することが、工具コストを抑えながら良好な加工面を得る鍵となります。
大阪工業大学|C/Cコンポジットのエンドミル加工に関する研究(工具寿命と加工条件の関係)
金属加工のプロでも、c/c複合材の切削加工でしばしば見落とされるリスクがあります。それが「導電性粉塵」による工作機械の電装系へのダメージです。
炭素繊維は電気を通す性質(導電性)を持っています。c/c複合材を切削すると極めて細かい炭素の粉塵が大量に発生しますが、この粉塵が工作機械の電装系やガイドに堆積・侵入すると、配線基板のショート(短絡)や摺動面の異常摩耗を引き起こすことがあります。東京農工大学の研究(八代ら)でも「炭素繊維粉塵が工作機械の摺動部に入り込むと摺動面の異常摩耗を引き起こし、加工精度低下の要因となる。また炭素繊維は導電性であるため、このような粉塵が配線基板に付着すると電気系統の故障原因となる」と明示されています。
これは「金属を削るのと同じ感覚で加工すればいい」という思い込みがトラブルを招く典型例です。機械が壊れると出費は数十万円以上になるリスクもあります。
対策として欠かせないポイントをまとめます。
c/c複合材の加工は設備への準備が必要です。通常の金属加工と同じ設備でそのまま対応しようとすると、後から設備の修理コストが発生するリスクがあります。加工前に使用機械の防塵対策状況を確認しておくことが損失回避につながります。
金属加工現場でc/c複合材がもっとも実用的に活用されている用途の一つが、金属熱処理工程の炉内治具(トレー・バスケット・ボックスなど)です。これは独自の視点から注目すべきポイントで、切削材としてのc/c複合材ではなく、工程材としての活用法です。
現在、多くの熱処理現場では金属製(耐熱鋼製)の治具が主流ですが、これには複数の課題があります。繰り返しの熱サイクルで変形しやすく、重量があるため作業者の体への負担が大きく、高温強度が一定温度以上で急低下するという問題です。
東洋炭素株式会社の発表データによれば、c/c複合材製熱処理用治具は金属製品と比較して重量が約1/5、高温強度は約10倍という性能差があります。これを具体的にイメージすると、10kgの金属製トレーが2kgになる計算です。炉内での積み重ねや出し入れを繰り返す作業において、この差は作業効率と体への負担に直結します。
また、c/c複合材は熱容量が小さいため、炉内の昇温・降温が速くなり、エネルギーコストの削減も期待できます。低熱膨張性により治具が変形しにくく、自動搬送ラインへの対応も可能になります。これはロボット搬送を導入したい現場にとって特に大きなメリットです。
ただし注意点があります。c/c複合材は大気中で500℃以上になると酸化・消耗が起きやすくなります。不活性ガス(窒素・アルゴン)雰囲気または真空環境での使用が前提となる場面も多く、大気中での高温使用を想定する場合は酸化防止コーティング済みの製品を選ぶ必要があります。使用環境の確認が条件です。
東洋炭素株式会社|C/Cコンポジット製熱処理製品の国内販売本格化(金属製治具との性能比較データあり)
関西カーボン加工株式会社|C/Cコンポジットの特性・用途一覧(熱処理用治具・ヒーター等の事例)