「目薬だから全身への影響はない」と思い込むと、患者が角膜穿孔を起こすリスクを見逃します。

ブロナック点眼液0.1%は、千寿製薬株式会社が製造販売する眼科用NSAIDs(非ステロイド性抗炎症点眼剤)であり、一般名はブロムフェナクナトリウム水和物です。武田薬品工業株式会社が販売を担い、2000年3月に承認・2008年7月に薬価収載された比較的歴史のある薬剤です。
薬価は1mLあたり64.3円で、プラスチック点眼容器に5mL×10または5mL×50の形態で流通しています。効能・効果は「外眼部及び前眼部の炎症性疾患の対症療法」であり、眼瞼炎・結膜炎・強膜炎(上強膜炎を含む)・術後炎症が対象です。用法・用量は通常1回1〜2滴、1日2回の点眼となっています。
作用機序はシクロオキシゲナーゼ(COX)を阻害し、プロスタグランジン系の炎症メディエーター生成を抑制することです。眼組織への移行性は高く、点眼後15分以内に角膜・結膜・前部強膜で高い濃度を示すことが動物実験で確認されています。つまり局所への速効性が特徴です。
重要な基本的注意として添付文書に明記されているのは、「本剤による治療は原因療法ではなく対症療法である」という点です。医療従事者はこの原則を念頭に置き、症状の改善に頼りすぎず、根本的な疾患の経過観察を怠らないようにする必要があります。
参考リンク:ブロナック点眼液0.1%の添付文書情報(KEGG薬剤データベース)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00055269
ブロナック点眼液の副作用の中で、医療従事者が最も注意すべきなのが角膜潰瘍および角膜穿孔です。これらはいずれも「頻度不明」と分類されており、発生頻度の統計は確立されていませんが、発症した場合の重篤性から添付文書で重大な副作用として列挙されています。
角膜潰瘍・角膜穿孔が特に問題となるのは、角膜上皮障害のある患者です。角膜上皮障害が基礎にある状態でブロナック点眼液を使用した場合、角膜糜爛(びらん)からさらに角膜潰瘍、最終的には角膜穿孔へと進行するリスクがあります。これが原則です。
NSAIDs点眼薬全般に共通する特異的な副作用として、角膜上皮障害の悪化は古くから報告されてきました。PMDAの審査資料にも「NSAID点眼液に共通した特異的な副作用として角膜上皮障害が報告されており、臨床では副作用を回避する手段として、角膜上皮障害の兆候が見られたときには点眼回数を調整する」という対応が示されています。厳しいところですね。
特に注意が必要なのは、ステロイド点眼と本剤の併用パターンです。術後炎症に対して両剤を同時に処方することは臨床上よくあることですが、眼科専門家によると「ステロイド点眼とブロムフェナク点眼の併用は、角膜の知覚を鈍くし、角膜の修復を抑制する」という点で相乗的なリスクを持ちます。高齢者やドライアイの患者ではこのリスクがさらに高まります。
実際に処方する際には、患者の角膜上皮の状態を事前に細隙灯顕微鏡で確認し、角膜上皮障害が疑われる場合には投与を慎重に判断することが求められます。また、使用開始後も定期的に角膜状態を評価し、角膜上皮障害の兆候が現れた場合には速やかに投与を中止し、適切な処置を行うことが必要です。角膜状態の継続観察が条件です。
| 副作用の分類 | 症状 | 頻度 |
|---|---|---|
| ⚠️ 重大な副作用 | 角膜潰瘍、角膜穿孔 | 頻度不明 |
| 👁️ 眼局所(0.1〜5%未満) | 結膜炎、眼瞼炎、刺激感、眼痛(一過性) | 0.1〜5%未満 |
| 👁️ 眼局所(頻度不明) | 角膜糜爛、点状表層角膜炎、角膜上皮剥離、熱感(眼瞼)、そう痒感 | 頻度不明 |
| 🖐️ 過敏症 | 接触皮膚炎 | 頻度不明 |
参考リンク:PMDAによるブロナック点眼液の審査資料(NSAID点眼と角膜上皮障害に関する記述を含む)
https://www.pmda.go.jp/drugs/2000/g000304/24ctdp_1-305.pdf
「目薬だから全身の持病は関係ない」と考えてしまいがちですが、ブロナック点眼液には見落とされやすい全身的な注意点が2つあります。意外ですね。
まず1つ目が、喘息患者への亜硫酸塩過敏症のリスクです。ブロナック点眼液は添加剤として亜硫酸塩を含有しています。添付文書の「その他の注意」(15.1.2)には、「喘息患者では非喘息患者よりも亜硫酸塩に対する過敏症が多く認められるとの報告がある」と明記されています。亜硫酸塩はアスピリン喘息とは別のメカニズムで喘息発作を誘発する可能性がある物質であり、NSAIDs自体としての誘発リスクも考慮すると二重のリスクが存在します。
喘息合併患者に対してブロナック点眼液を処方する際は、問診で既往歴を確認し、喘息のコントロール状態や亜硫酸塩含有食品(ワインや乾燥果物など)への反応歴を確認しておくことが望ましいです。代替薬の選択肢として、亜硫酸塩を含まない他のNSAIDs点眼薬を検討することも一案となります。
2つ目が、感染症の不顕性化リスクです。本剤は添付文書の9.1.2に「眼の感染による炎症のある患者では感染症を不顕性化するおそれがある」と記載されています。これは、NSAIDsの抗炎症作用が感染に伴う炎症徴候も抑えてしまい、感染の重篤化に気づくのが遅れる可能性を意味しています。感染の見落としが条件です。
臨床現場では結膜炎の原因がウイルス性か細菌性かアレルギー性かを最初に鑑別し、感染性の結膜炎に対しては本剤単独での投与を避けることが重要です。感染が完全に否定できない場合は、抗菌点眼薬と組み合わせた上で経過観察を密に行うことが求められます。
これら2つの注意点は、投与前の患者評価と説明に直結する情報です。特に喘息合併患者では処方前に一度確認するだけでリスクを大きく軽減できます。これは使えそうです。
ブロナック点眼液による副作用リスクは、すべての患者に均等ではありません。特定の患者背景がリスクを大きく引き上げることが知られています。医療従事者が投与前に確認すべき代表的な患者背景を以下に整理します。
まず、ドライアイ(乾性角結膜炎)を持つ患者は角膜上皮が慢性的に障害されやすい状態にあります。こうした患者にブロナック点眼液を長期使用すると、角膜糜爛から角膜潰瘍への進行リスクが上がります。臨床現場では白内障術後の処方セットの中にブロナック点眼液が含まれていることが多いですが、術前からドライアイを指摘されている患者には特に注意が必要です。
次に、高齢者です。高齢者は涙液分泌量の低下、角膜上皮の再生能力の低下、全身的な免疫機能の低下が重なるため、若年者に比べて角膜障害のリスクが高くなります。NSAIDsが角膜知覚を鈍化させる効果を持つことも、自覚症状による早期気づきを遅らせる要因です。痛いですね。
さらに、角膜屈折矯正手術(LASIK・PRKなど)後の患者も注意が必要です。これらの術後は角膜上皮の状態が変化しており、NSAIDs点眼により上皮修復が遅延するリスクがあります。術後炎症への対処としてNSAIDs点眼を使用する際は、使用期間を適切に設定し、こまめなスリットランプ評価を行う必要があります。
観察ポイントとしては、視力の急激な変化、眼痛の増強、眼部の充血増悪、涙液量の変化などが挙げられます。特に、点眼開始から数日以内に眼痛が増悪したり、霧視が出現した場合には角膜上皮障害の可能性を考慮して早期の評価が必要です。定期的なスリットランプ検査が基本です。
これらのリスク因子を組み合わせ、1人の患者にドライアイ+高齢+ステロイド併用という複数のリスクが重なる場合は、使用の可否をより慎重に検討することが重要です。リスクの重複に注意が必要です。
副作用が疑われたときの対処の原則はシンプルです。投与を中止し、適切な処置を行うことです。ただし、臨床の現場ではいつ中止すべきかの判断が難しいケースも多く、具体的な観察基準と行動フローを持っておくことが医療安全につながります。
角膜上皮障害が生じた際の一般的な流れとしては、まず「点眼回数の減量または一時中止」から始め、人工涙液や角膜保護成分を含む点眼薬(ヒアルロン酸点眼など)による補助療法を組み合わせることが選択肢になります。角膜糜爛の段階であれば多くの場合は可逆的ですが、潰瘍・穿孔に至ると角膜移植が必要になるケースもあります。早期対応が条件です。
ここで、検索上位の記事ではあまり取り上げられていない視点を一つ紹介します。それは「副作用と疾患の症状の鑑別の難しさ」という問題です。例えば、ブロナック点眼液を術後炎症の治療として使用しているケースでは、結膜炎・眼瞼炎という副作用症状と、もともとの術後炎症の残存症状が非常に似ています。さらに、NSAIDsが感染症を不顕性化させることで、術後感染(眼内炎など)の早期サインを見逃すリスクもゼロではありません。
術後の経過観察では、「炎症がなかなか落ち着かない=薬の効果不十分」という解釈だけでなく、「副作用による新たな炎症の出現」あるいは「感染症の不顕性化による悪化」という可能性を常に並行して検討することが求められます。これがNSAIDs点眼の本来の難しさです。
薬剤師の立場からは、処方箋を確認する際に以下のチェックを行うことがリスク低減に直結します。喘息の既往の有無、ドライアイや角膜上皮障害の既往の有無、ステロイド点眼との併用の有無、点眼間隔(5分以上の確保)の患者指導の実施などが代表的です。これは使えます。
臨床現場で活用できるリソースとしては、添付文書の定期的な確認に加え、PMDAの医薬品情報や各学会ガイドラインを参照することが推奨されます。今日の臨床サポートやHOKUTOなどのデータベースも、副作用情報の迅速な確認に役立ちます。
参考リンク:今日の臨床サポート ブロナック点眼液0.1%(副作用・注意事項の詳細確認に活用可能)
https://clinicalsup.jp/jpoc/drugdetails.aspx?code=55269
参考リンク:くすりのしおり ブロナック点眼液0.1%(患者向け情報・副作用説明の参考に)
https://www.rad-ar.or.jp/siori/search/result?n=13856
最後に臨床上の有効性についても触れておきます。国内第Ⅲ相比較試験では、眼内レンズ挿入術後炎症患者を対象に、1日2回のブロナック点眼液と1日4回のプラノプロフェン点眼液を比較した結果、術後1週間での全般有効度の累積有効率(有効以上)はブロナック点眼液群で83.8%(88/105例)、プラノプロフェン点眼液群で67.6%(71/105例)と、統計学的に有意な差が示されています(P=0.0040)。1日2回という使いやすい用法で、1日4回の既存薬より高い有効率を示した点は大きな利点です。これは評価できますね。
ただし有効性が高い薬剤だからこそ、副作用への理解を深めた上で適切に使用することが医療の質向上につながります。副作用の知識と適切な患者選択が原則です。ブロナック点眼液の持つリスクと有益性をバランスよく評価し、患者一人ひとりの背景に合わせた判断を積み重ねることが、医療従事者としての実践的なスキルにつながります。
参考リンク:JAPIC 日本薬局方 ブロムフェナクナトリウム点眼液 添付文書PDF
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00055269.pdf