去痰薬として「当たり前に処方できる」と思っていたら、先発品はすでに存在しません。
ブロムヘキシン塩酸塩錠の先発品といえば、サノフィが製造販売していた「ビソルボン錠4mg」が長年にわたり臨床現場で使われてきました。この薬は気道粘液溶解剤として、急性気管支炎・慢性気管支炎・肺結核・塵肺症・手術後の去痰に広く用いられてきた歴史ある医薬品です。
ところが、2021年4月、日医工株式会社の医薬品製造販売に対する行政処分により「ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg『日医工』」が供給停止となりました。他社の後発品も安定供給が困難な状況に陥ったため、一部施設では2022年3月に販売中止予定だった先発品「ビソルボン錠」へと逆戻りして運用を続けるという異例の対応が取られました。
結局、「ビソルボン錠」自体も販売中止を迎え、後発品の安定供給の見通しも立たないまま、複数の病院や薬局でブロムヘキシン製剤そのものが採用中止となりました。これは重要な事実です。現在も一般名「ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg」として後発品が複数メーカーから販売されていますが、施設によってはアンブロキソール塩酸塩(ムコソルバン®など)やカルボシステイン(ムコダイン®など)へ代替されている場合があります。
代替薬として挙げられている主な選択肢は以下の通りです。
| 代替薬名 | 薬効分類 |
|---|---|
| アンブロキソール塩酸塩錠15mg | 気道潤滑去痰剤 |
| アンブロキソール塩酸塩徐放OD錠45mg | 徐放性気道潤滑去痰剤 |
| カルボシステイン錠500mg | 気道粘液調整・粘膜正常化剤 |
| クリアナール錠200mg | 気道分泌細胞正常化剤 |
処方が続いている施設の医療従事者は、後発品の銘柄が変わっても適応症・用法用量に変更がないことを確認しておくことが大切です。先発品との効能効果・用法用量は同一と定められています。
参考:ビソルボン錠の販売中止に伴う対応と代替薬情報(岐阜薬科大学附属薬局)
https://www.gifu-upharm.jp/di/dinews/oshirase2022_09.pdf
現在市場に流通するブロムヘキシン塩酸塩錠4mgの後発品の薬価は1錠あたり5.30円と統一されています。かつての先発品「ビソルボン錠4mg」は準先発品(統一名収載品)という特殊な位置づけを持ち、薬価は後発品と比べてやや高い水準でした。つまり、コスト面だけで見れば現在の後発品への移行はむしろメリットとも言えます。
ただし、添加物の構成が後発品メーカーによって異なる点は、臨床現場で意識しておきたいポイントです。例えば「クニヒロ」(皇漢堂製薬)品では、添加物に乳糖水和物、トウモロコシデンプン、ポビドン、ステアリン酸マグネシウムなどが含まれています。乳糖不耐症や特定の賦形剤アレルギーを持つ患者さんへの投与時は、各メーカーの添付文書で添加物を確認することが原則です。
後発品の生物学的同等性については、「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に基づく溶出試験で先発品との同等性が確認されています。有効成分1錠あたりブロムヘキシン塩酸塩4mgという規格は全銘柄共通です。ここは問題ありません。
後発品各社の銘柄と一般名コードをまとめると以下の通りです。
| 銘柄名 | 製造販売元 | 薬価(1錠) |
|---|---|---|
| ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「サワイ」 | 沢井製薬 | 5.30円 |
| ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「トーワ」 | 東和薬品 | 5.30円 |
| ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「日医工」 | 日医工 | 5.30円 |
| ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「クニヒロ」 | 皇漢堂製薬 | 5.30円 |
| ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「イセイ」 | コーアイセイ | 5.30円 |
一般名処方マスタ上の標準的記載は「【般】ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg」となっており、一般名処方で対応すれば後発品への変更調剤が可能です。調剤薬局との連携を密にしておくと、在庫切れ対応もスムーズになります。
参考:ブロムヘキシン塩酸塩の先発品・後発品一覧(KEGGメディカルデータベース)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/similar_product?kegg_drug=D01778
化学的な背景としては、ブロムヘキシン塩酸塩は気管支拡張作用を持つアルカロイド「vasicine」(学名:Adhatoda vasicaの有効成分)の類似化合物として合成されたという経緯があります。沢井製薬のインタビューフォームによれば、本剤は1980年4月に薬価収載された歴史ある薬剤です。意外ですね。
参考:咳嗽・喀痰の診かたと薬物療法(日本内科学会雑誌 2021年)
ブロムヘキシン塩酸塩錠の副作用で最も注意が必要なのは、頻度は不明ながら重大な副作用として明記されているショック・アナフィラキシーです。発疹、血管浮腫、気管支痙攣、呼吸困難、そう痒感などの症状が出現した場合は即座に投与を中止し、適切な処置を行う必要があります。
比較的高頻度で発現する副作用としては消化器系症状が挙げられます。悪心(吐き気)・食欲不振・胃部不快感が代表的で、これらは食後投与で軽減できるケースが多いです。患者への服薬指導では「食後に飲む」という点を必ず伝えましょう。
特殊患者群での注意点は以下のとおりです。
通常の成人用法・用量は1回1錠(ブロムヘキシン塩酸塩として4mg)を1日3回経口投与です。ただし年齢・症状により適宜増減するとされており、医師の判断による調整が前提です。これが原則です。
また、吸入液(ビソルボン吸入液0.2%)は現在も先発品として存在しており、後発品(ブロムヘキシン塩酸塩吸入液0.2%「タイヨー」など)も薬価収載されています。錠剤が採用中止になっている施設でも吸入剤は別ルートで継続可能な場合があるため、剤形の確認も重要です。
参考:ブロムヘキシン塩酸塩の副作用と添付文書(KEGG医薬品データベース)
https://www.kegg.jp/medicus-bin/japic_med?japic_code=00054162
去痰薬の処方において、ブロムヘキシン塩酸塩に関して見落とされがちな視点があります。それは抗菌薬との組み合わせによる相乗効果の可能性です。
アンブロキソール塩酸塩(ブロムヘキシン塩酸塩の代謝物から派生して開発された薬剤)については、アモキシシリン・セフロキシム・エリスロマイシン・ドキシサイクリンなどの抗生物質との併用によって肺組織内の抗生物質濃度が上昇するという研究報告があります。ブロムヘキシン塩酸塩自体も類似する可能性を持つ薬剤ですが、現在の日本の添付文書においては「抗菌薬の気道組織移行性を高める」という適応は認められていません。
ただし、抗菌薬を同時処方する場面では、「痰の性状を改善して治療評価をしやすくする」という間接的なメリットがあります。これは使えそうです。膿性痰がP3(膿性2/3以上)からP1〜M2に改善するだけで、喀痰の細菌学的評価の信頼性が変わります。日本内科学会の2021年のガイドラインでも、喀痰の品質(Miller & Jones分類・Geckler分類)が抗菌薬治療の判断根拠になることが示されています。
一方、処方時に特に注意が必要なのが鎮咳薬との同時投与です。ブロムヘキシン塩酸塩は痰を液状化して排出を促す薬であり、コデインリン酸塩やデキストロメトルファン臭化水素酸塩などの鎮咳薬と同時に投与すると、咳反射が抑制されることで液状化した痰が気道内に滞留し、肺炎や無気肺のリスクが理論上高まります。
去痰薬と鎮咳薬の使い分けの原則は次の通りです。
| 咳のタイプ | 適した薬 | ブロムヘキシン塩酸塩の適合性 |
|---|---|---|
| 湿性咳嗽(痰を伴う) | 去痰薬(単独または併用) | ◎ 積極的に使用可 |
| 乾性咳嗽(痰なし) | 鎮咳薬(単独) | ✕ 適応外 |
| 混在型(炎症初期) | 原因疾患の治療を優先 | △ 慎重な判断が必要 |
「咳がひどいから去痰薬を出しておこう」という反射的な処方は、乾性咳嗽の患者さんには逆効果になりかねません。慎重に判断する必要があります。問診で痰の有無・性状・量を確認し、湿性咳嗽であることを確認してから処方するのが基本です。
ブロムヘキシン塩酸塩錠は安価(5.30円/錠)で一般名処方が浸透しやすい薬剤ですが、先発品の販売中止という背景を踏まえ、施設ごとの採用状況を事前に確認しておくことが、無駄な疑義照会や患者への説明漏れを防ぐうえで重要です。薬剤部・調剤薬局との情報共有が条件です。
参考:去痰薬の解説・喀痰調整薬の比較(日経メディカル処方薬事典)
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