「ブロメライン軟膏は厚く塗るほど効果が上がる」——実はこれ、誤った思い込みで、適正量を超えると周囲の健常組織までダメージを受けてしまいます。

ブロメライン軟膏は、パイナップル(Ananas comosus)の茎部から抽出されたシステインプロテアーゼ系蛋白分解酵素「ブロメライン」を主成分とする外用薬です。国内では「ブロメライン軟膏(20万単位/g)」として流通しており、製品名はメーカーによって異なりますが、成分・含量は統一されています。
この薬の最大の特徴は、壊死組織に含まれる変性蛋白質を選択的に分解することです。正常組織には自己防御機構があるため、理論上は壊死組織のみを分解します。ただし、この「選択性」は塗布量や創の状態によって大きく変動するため、適切な使用が前提となります。
主な適応は以下の通りです。
作用機序を整理しておきましょう。ブロメラインは、壊死組織中のフィブリン・コラーゲン・エラスチンなどの変性蛋白質のペプチド結合を加水分解します。これにより壊死組織が軟化・液化し、ガーゼ交換時の除去が容易になります。結論はこの「酵素的デブリードマン」です。
外科的デブリードマンとの違いは、「時間と選択性」にあります。外科的処置が即時かつ機械的であるのに対し、ブロメライン軟膏は酵素反応を利用するため数日単位の時間が必要です。しかし、出血リスクが低く、鎮痛処置を必要としない場面や、外科的デブリードマンが困難な患者(抗凝固薬使用中・高度フレイル)には特に有用です。これは使えそうです。
日本褥瘡学会のガイドライン(DESIGN-R®評価ツールに基づく創傷管理)でも、壊死組織除去薬の一選択肢として位置づけられています。
日本褥瘡学会 – 褥瘡ガイドライン(創傷局所治療に関する推奨)
塗布量の目安が重要です。添付文書上の標準的な使用法は「1日1〜2回、患部に適量塗布し、ガーゼ等で覆う」となっていますが、この「適量」を正しく理解していない医療従事者が少なくありません。
現場で推奨される塗布厚は約1〜2mm程度(1cm²に対して約0.1〜0.2g相当) です。ワセリンを薄く塗るイメージより少し厚め、ただし「盛り上がるほど厚い」状態は過剰です。過剰塗布になると、創傷辺縁の健常皮膚にまで蛋白分解酵素が作用し、周囲皮膚のびらんや疼痛を引き起こします。適正量が条件です。
ドレッシング材の選択も効果に影響します。ブロメライン軟膏は湿潤環境で酵素活性が維持されるため、非固着性のドレッシング(シリコン系ネット状ガーゼなど)で覆い、その上から吸収性パッドを重ねる方法が推奨されます。乾燥しやすい環境下では酵素が失活するため、ラップフィルムによる密閉が有効な場合もありますが、嫌気性菌感染リスクを考慮してください。
交換頻度は1日1〜2回が基本です。壊死組織の液化が進んでいる時期(使用開始後3〜5日目前後)は滲出液が増加するため、1日2回交換が望ましい場合があります。滲出液が多い創では、吸収力の高いパッドへの変更も検討します。
| 項目 | 推奨内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 塗布量 | 1〜2mm厚(創面全体を均一に) | 過剰塗布は周囲健常皮膚へのびらんリスク |
| ドレッシング | 非固着性ガーゼ+吸収パッド | 乾燥環境では酵素失活に注意 |
| 交換頻度 | 1日1〜2回 | 滲出液増加期は1日2回推奨 |
| 使用期間目安 | 壊死組織除去完了まで(通常1〜4週間) | 4週を超えても改善なければ再評価 |
また、塗布前には創面の状態確認が必須です。乾燥・黒色の硬い痂皮(エスカー)が形成されている場合、そのままブロメライン軟膏を塗布しても酵素が浸透しにくいため、クロスハッチング(格子状の浅い切り込みを入れる前処置)を行ってから塗布すると、除去効率が高まります。これが基本です。
禁忌と使用上の注意をしっかり把握しておくことが、安全使用の大前提です。
まず絶対に避けなければならないのが、ヨード系消毒薬(ポビドンヨード等)との同時使用です。ヨードはブロメラインの酵素活性を失活させるため、創面にポビドンヨードが残存した状態で塗布しても効果がほぼ得られません。洗浄には生理食塩液または精製水を使用し、ポビドンヨード残留がないことを確認してから塗布してください。意外ですね。
同様に注意が必要なのが過酸化水素(オキシドール)との併用です。オキシドールの酸化作用もブロメラインを失活させます。前洗浄にオキシドールを使用している施設では、使用後に十分な生理食塩液洗浄を行うことが必要です。
副作用については、主なものを以下に整理します。
アレルギー反応については、パイナップルアレルギーを持つ患者への使用は原則として避けてください。ただし、接触皮膚炎のレベルにとどまることが多く、全身性アナフィラキシーの報告は稀です。それでも初回使用時は少量からの使用確認が望ましいです。
なお、感染創への使用については「禁忌」ではありませんが、感染コントロール(抗菌薬全身投与または局所抗菌薬の使用)と並行して行うことが原則です。感染が活動性の段階でブロメライン軟膏単独使用を続けると、壊死組織の液化による滲出液が細菌の培地になりうるため、慎重な判断が必要です。
すべての壊死創にブロメライン軟膏が適するわけではありません。ステージや創傷タイプによって選択を変えることが、結果的に治癒を早めます。
褥瘡のステージ別目安を整理します。ブロメライン軟膏が最も力を発揮するのは、DESIGN-R®評価においてN(壊死組織あり)・n(小量壊死組織あり)の評価がついている創傷です。特にステージIII・IV(全層性組織欠損)で、乾燥した黄色〜黒色の壊死組織が広範に存在する場合に適応の中心となります。
ステージII以下の浅い褥瘡や、すでに肉芽組織が良好に形成されている創面への使用は避けてください。肉芽のコラーゲン線維もブロメラインの基質になりうるため、良好な肉芽を傷める可能性があります。これは避けるべき誤用です。
糖尿病性足潰瘍では、血流評価(ABI・TBIなど)が前提となります。虚血が強い創傷(ABI0.5未満、TBI0.4未満目安)では、酵素的デブリードマンより血行再建を優先すべきで、ブロメライン軟膏の使用は効果よりリスクが上回る可能性があります。
下腿静脈性潰瘍では、圧迫療法との併用が治療の根幹です。ブロメライン軟膏は壊死組織除去の補助として有効ですが、圧迫療法を怠ると除去後の肉芽形成が進まないため注意です。圧迫が条件です。
創傷タイプ別の適応判断をまとめます。
| 創傷タイプ | ブロメライン軟膏の適応 | 補足・注意 |
|---|---|---|
| 褥瘡(ステージIII/IV) | ◎ 積極的適応 | 壊死組織除去後はカデキソマーヨードや銀含有製品へ切替検討 |
| 糖尿病性足潰瘍 | △ 血流評価が必須 | 虚血強い場合は使用控え |
| 下腿静脈性潰瘍 | ○ 圧迫療法と併用 | 圧迫なしでは効果半減 |
| 熱傷後壊死創 | ○ 外科的デブリ補助として | 感染管理と並行して行う |
| 感染活動性の創 | △ 単独使用は避ける | 抗菌薬使用と並行が原則 |
壊死組織が完全に除去されたと判断した時点でブロメライン軟膏の使用は終了し、創傷の状態に応じた次のフェーズの治療薬(肉芽促進薬・上皮化促進薬)へ切り替えます。この切り替えタイミングの見極めが、最終的な治癒期間を左右します。
ブロメライン軟膏の効果を最大化するには、処方医・看護師・薬剤師が統一した認識のもとで使用することが不可欠です。現場では「処方はされているが、塗布量が人によってバラバラ」「写真記録がない」「創傷評価がDESIGN-R®で統一されていない」といった問題が少なくありません。
チーム医療での運用ポイントは3つに絞れます。
1つ目は標準化された手順書(クリニカルパス)の整備です。塗布量・ドレッシング材の種類・交換頻度・観察項目を明文化し、誰が処置しても同一の質が担保されるようにすることが重要です。特に夜間・休日の処置をする際の担当者変更時に、引き継ぎミスが起きやすい点に注意が必要です。
2つ目は写真記録の定期的な取得です。「悪化したのか改善したのか」の判断は、記憶ではなく写真で行います。スマートフォン等を使用した定期撮影(処置ごと、または最低1日1回)と、スケール(定規やカラーチャート)の併用が推奨されます。DESIGN-R®スコアの推移と照合することで、客観的な評価が可能になります。
3つ目は患者・家族への説明と不安管理です。ブロメライン軟膏の使用初期(3〜7日)は、壊死組織の液化に伴い創面が「広がったように見える」ことがあります。これは壊死組織の輪郭が明確になる正常な経過ですが、患者や家族には「傷が広がった」と映りクレームや不信感につながるケースがあります。事前の丁寧な説明が必須です。
なお、創傷被覆材・軟膏類の使用状況を一元管理できる電子カルテやWOC(Wound, Ostomy, Continence)ナース連携ツールを導入している施設では、ブロメライン軟膏の使用開始〜終了日・効果判定がデータとして蓄積でき、院内プロトコルの改善にも役立ちます。これは活用したいところですね。
創傷管理に特化したアセスメントシートとして、「褥瘡対策に関するガイドライン」(日本褥瘡学会発行)を参照することも、チームでの統一認識につながります。
日本褥瘡学会 – 褥瘡対策に関するガイドライン第4版(局所治療の推奨を含む)
また、薬剤師が関与することで、ブロメライン軟膏と他外用薬(カデキソマーヨード、スルファジアジン銀等)の切り替えタイミングや禁忌薬との相互作用確認が確実に行われます。チームでの情報共有が条件です。
Medical Tribune社などが提供する創傷管理の継続教育プログラムや、WOC認定看護師によるベッドサイド指導も、現場力の底上げに有効です。一度チームで受講を検討してみることも、長期的な褥瘡ゼロ達成への近道となります。

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