ブレヤンジ静注の薬価と算定根拠・保険運用を解説

ブレヤンジ静注の薬価は1患者あたり約3,509万円と超高額ですが、その算定根拠や保険運用の仕組みを正しく理解できていますか?医療従事者が押さえておくべき知識を徹底解説します。

ブレヤンジ静注の薬価・算定根拠・保険運用の全解説

価が約3,500万円でも、患者の実質自己負担は数十万円台で収まる場合があります。


この記事の3つのポイント
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現行薬価は約3,509万円(2025年4月改定後)

ブレヤンジ静注(リソカブタゲン マラルユーセル)の薬価は2021年収載時の3,264万円から2025年4月に35,096,343円へ改定。算定の経緯と根拠を解説します。

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投与できる施設は厳しい要件を満たした限定施設のみ

最適使用推進ガイドラインにより、ICU管理料の届出施設・造血幹細胞移植認定施設など複数の要件を満たした施設のみが対象です。

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高額療養費制度で患者の自己負担は大きく軽減される

約3,660万円の総医療費に対し、高額療養費制度適用後の自己負担額は所得区分によっておよそ44万〜100万円程度に抑えられます。


ブレヤンジ静注の薬価の推移と現行額



ブレヤンジ静注(一般名:リソカブタゲン マラルユーセル)は、ブリストル・マイヤーズ スクイブ社が製造販売するCD19標的CAR-T細胞療法です。2021年5月19日に日本で再生医療等製品として保険収載されました。


収載当初の薬価は1患者あたり32,647,761円(約3,265万円)でした。この金額は、先行して収載されていたキムリア点滴静注(チサゲンレクルユーセル)の費用対効果評価による価格調整後の薬価と同額に設定されたものです。その後、2025年4月1日実施の薬価改定により、現行薬価は35,096,343円(約3,510万円)へと引き上げられています。


引き上げの背景には、適応拡大があります。2024年8月に「再発または難治性の濾胞性リンパ腫(グレード1、2、3A)」への適応追加承認が取得され、ブレヤンジは全グレードの濾胞性リンパ腫をカバーする国内初のCAR-T製剤となりました。これは高リスク例における二次治療としてのCAR-T療法承認としては世界初の事例でもあります。


現在対応している適応は以下の通りです。


- 再発または難治性の大細胞型B細胞リンパ腫(びまん性大細胞型、原発性縦隔大細胞型、形質転換低悪性度非ホジキンリンパ腫、高悪性度B細胞リンパ腫)
- 再発または難治性の濾胞性リンパ腫(全グレード:グレード1、2、3A、3B)


適応が広がったことで対象患者が増加し、市場規模が拡大した点が薬価改定時の算定根拠のひとつとなっています。薬価は上がりましたが、適応疾患が増えた分、より多くの患者が保険診療の恩恵を受けられるようになった点は評価に値します。


なお、ケアネットや薬価サーチなどの医療情報データベースでも最新薬価(35,096,343円)を確認できます。


ケアネット:ブレヤンジ静注の効能・副作用・薬価情報(現行薬価の確認に有用)


ブレヤンジ静注の薬価算定方式と費用対効果評価の仕組み

ブレヤンジ静注の薬価は、類似薬効比較方式(Ⅰ)によって算定されました。つまり原価積み上げ方式ではなく、既収載の類似薬との比較により価格が決まる方式です。


比較薬として選定されたのはキムリア点滴静注(チサゲンレクルユーセル)です。ブレヤンジの算定基準価格はキムリアの当初薬価3,411万3,655円と同額に設定されましたが、キムリアが費用対効果評価による価格調整を受けて3,264万7,761円に引き下げられたため、ブレヤンジの収載薬価もこの調整後価格と同額になりました。これが重要なポイントです。


費用対効果評価とは、医薬品1QALY(質調整生存年)あたりの増分費用対効果比(ICER)を算出し、その結果に基づいて収載薬価から一定割合の価格調整を行う制度のことです。ブレヤンジは収載直日から調整後の薬価が適用されるという、通常の新薬とは異なる扱いを受けた点が特筆されます。


結論は「収載時から費用対効果評価済みの薬価が適用された」ということです。


再生医療等製品の薬価算定においては、製造原価だけでなく、次の要素が総合的に評価されます。


- 患者自身の細胞を用いるオーダーメード型製造に要するコスト
- 製造施設への国際輸送費(海外工場との往来運賃)
- 治験・開発費用の回収と適正利益
- 先行収載品との有効性・安全性の比較評価


キムリアについては「CAR-T細胞療法としての革新性」「血液がんに対する一定の有効性」が認められた一方で、費用対効果評価の結果、価格調整がかかっています。ブレヤンジもその流れを引き継いだ形で収載されたと理解するとよいでしょう。


ミクスOnline:中医協総会 ブレヤンジ静注の収載了承・費用対効果評価の詳細(算定経緯の確認に有用)


ブレヤンジ静注の高額療養費制度と患者の実質負担額

「約3,500万円の薬価=患者の自己負担額」ではありません。これは医療現場で特に混乱しやすいポイントです。


ブレヤンジ投与入院時の総医療費は、薬剤費込みで平均約3,660万円(3,500万円〜4,370万円)という実績データがあります(京都大学病院の事例)。3割負担でも700〜1,200万円の計算になりますが、高額療養費制度の自己負担限度額が適用されるため、実際にはそこまで払う必要がありません。


高額療養費制度適用後の自己負担額の計算例を示します。標準報酬月額53万円(年収約770万円)の患者の場合で考えてみましょう。


自己負担限度額の計算式は次の通りです。


$$\text{自己負担限度額} = 80,100 + (総医療費 - 267,000) \times 1\%$$


総医療費を3,660万円として計算すると、自己負担限度額はおよそ44万5,000円になります。東京都23区内の平均的な家賃(月15万円)の3ヶ月分程度のイメージです。限度額適用認定証を事前に取得していれば、窓口での支払いをこの額に抑えることができます。これは使えそうです。


さらに、直近12ヶ月以内に高額療養費の支給が4回以上となった場合は「多数回該当」として限度額がさらに引き下げられます。同一世帯で合算できるケースもあるため、患者・家族への適切な情報提供が医療従事者の重要な役割になります。


一方で、高額療養費の対象外となる費用もあります。


- 入院中の食事療養費(1食460円程度)
- 患者が希望した差額ベッド代
- 保険外診療で実施した処置・検査の費用


投与入院期間の中央値は約41日(23〜98日)とされています。差額ベッド代が1日5,000円の個室であれば、41日間で20万円超の追加出費になる点も患者説明の際に盛り込んでおく必要があります。


日本造血・免疫細胞療法学会:CAR-T細胞療法の費用・高額療養費の解説(患者説明の参考資料として有用)


ブレヤンジ静注の薬価と投与プロセス・施設要件の関係

約3,500万円という薬価の中には、製造から輸送までの全コストが含まれています。この点を理解しないまま運用すると、患者や院内関係者との間で誤解が生じやすくなります。


ブレヤンジの製造・投与プロセスは大きく3段階に分かれています。


①白血球アフェレーシス:患者自身の血液から白血球を採取し、製造施設へ輸送します。この手技料はブレヤンジの場合14,480点(144,800円)と点数が設定されています。アフェレーシス入院は平均2泊3日〜3泊4日で、医療費は平均44〜50万円程度(患者自己負担は高額療養費上限まで)です。


②製造・輸送:採取した細胞は海外の製造施設(米国)に航空輸送され、CAR遺伝子を導入して培養・製剤化されます。製造期間は約4〜6週間です。この往復の運送費は薬価に含まれているため、医療機関への追加請求は発生しません。製造中はブリッジング療法(抗腫瘍療法)によって病勢をコントロールします。


③リンパ球除去化学療法・投与:製剤受領後、リンパ球除去化学療法を行い、1〜2日空けてブレヤンジを投与します。投与入院の平均期間は約41日です。


この一連のプロセスを実施できるのは、最適使用推進ガイドラインが規定する厳格な施設要件を満たした医療機関に限られます。主な要件は以下の通りです。


- 日本造血・免疫細胞療法学会の移植施設認定基準(カテゴリー1)を満たすこと
- 特定集中治療室管理料1〜4のいずれかを届け出ていること
- アフェレーシス機器の操作に習熟した医療スタッフ(医師・看護師・臨床検査技師または臨床工学技士)の常時配置
- 造血幹細胞移植の診療実績が5例以上の医師を複数配置
- 24時間体制でサイトカイン放出症候群(CRS)に即応できる体制


CRS対応としてはトシリズマブ(アクテムラ®)の即時使用が準備されていることが必須条件です。「施設要件を満たせばすぐ始められる」という認識は正確ではありません。これらの体制整備が先決条件であることを関係者間で共有する必要があります。


PMDA:リソカブタゲン マラルユーセルの最適使用推進ガイドライン(施設要件・患者選択基準の詳細確認に有用)


ブレヤンジ静注の薬価が医療機関の経営に与える影響と実務的注意点

ブレヤンジ静注のような超高額医薬品は、医療機関の資金繰りにも直接影響します。これは医療従事者があまり意識しない視点ですが、実務上は非常に重要な論点です。


保険診療における薬剤費の請求・入金のタイミングはおおよそ次のようになります。医療機関は薬剤を投与した月のレセプトを翌月初旬に審査支払機関へ提出し、支払いは審査完了後になります。つまり、1患者あたり約3,500万円の薬剤費を購入してから実際に診療報酬として回収するまでに、数ヶ月のタイムラグが生じます。大学病院クラスでも、この資金繰りの負担は無視できません。


また、レセプトへの記載要件が明確に定められている点にも注意が必要です。施設が移植施設認定基準のカテゴリー1または準ずる診療科を有することを摘要欄に記載しなければなりません。この記載漏れは査定の対象になりえます。請求ミスを防ぐには、薬剤師・医事課・血液内科の連携が不可欠です。


さらに、健保連のデータによると、2021年度のブレヤンジ静注の使用実績は約14億3,650万円(239人に投与)に上ります。1人あたり約600万円の費用が保険財政から支出された計算になります(薬剤費以外の入院費込み)。このような超高額薬剤の使用増加は、医療保険財政の持続可能性に関する議論とも直結します。高額療養費制度の自己負担上限額見直しの議論が進んでいる背景にも、こうした動向があります。


医療機関側の実務として意識しておきたい主なポイントは次の通りです。


- 📌 薬剤購入から入金までの資金繰り計画を事前に経営・財務部門と確認する
- 📌 レセプト摘要欄への施設認定区分の記載を必ず行う
- 📌 患者への限度額適用認定証の事前取得案内を治療決定時に行う
- 📌 アフェレーシス・投与入院を別月に分割する場合の高額療養費合算ルールを患者に説明する
- 📌 差額ベッド代・食事療養費など保険外費用の概算も含めた費用説明を実施する


これらの実務を標準化しておくことで、患者トラブルや査定リスクを大幅に減らせます。


健保連が公開している使用実績データは、医療保険運営の観点からも重要な参考資料となっています。


健保ニュース:ブレヤンジ静注の使用実績データ(保険財政への影響把握に有用)






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