指導した患者の約4割が、その場で正しく吸入できていても、後日ミスを犯していることが報告されています。

ブデホル吸入粉末剤(タービュヘイラー)は、喘息・COPDに幅広く処方されるジェネリック吸入薬です。しかし医療従事者が丁寧に指導しているにもかかわらず、吸入操作を誤っている患者は後を絶ちません。日経メディカルOnlineが実施した医師会員向け調査では、喘息・COPD患者を日常的に診察している医師のうち、患者が誤った吸入デバイスの使い方をしているのを発見したことがある医師は約4割に達しています。
これは驚くべき数字です。これが現実ということですね。
指導の質を高めるうえで有効な手段として注目されているのが「動画を使った吸入指導」です。動画は以下の場面で特に効果を発揮します。
- 外来での短い時間に口頭説明だけでは伝えきれない細かい手技を補完できる
- 患者が自宅で繰り返し復習でき、「やった気になる」状態を防げる
- 薬剤師・看護師間での指導内容のばらつきを統一できる
製薬メーカーが公式に提供している動画リソースとして、ニプロの医療関係者向けページでは「ブデホル吸入粉末剤30吸入・60吸入『ニプロ』」の服薬方法説明用動画が用意されています。日本ジェネリック製薬(JG)からも患者向けムービーが提供されており、クリニックや薬局のタブレット端末でそのまま患者に見せることが可能です。
動画を見せる際には一点を押さえてください。患者が「動画を見た=理解した」と思い込んでしまう点が落とし穴です。動画視聴後に必ず実演させ、操作を目視確認することが原則です。
参考:ニプロ医療関係者向け服薬サポート情報(ブデホル吸入粉末剤「ニプロ」の動画リソース)
https://med.nipro.co.jp/ph_medication_support
タービュヘイラー(ドライパウダー式吸入器・DPI)は、操作自体は比較的シンプルに見えます。しかし各ステップに「なぜそうするのか」という根拠があり、その根拠を患者に伝えることが継続的な正しい使用につながります。
基本的な吸入手順は次のとおりです。
| ステップ | 操作 | ポイント |
|---------|------|---------|
| ① | キャップを回して外す | 残量カウンターを必ず確認 |
| ② | 吸入器をまっすぐ垂直に立てて回転グリップを右(時計回り)に回す | 止まるまでしっかり回す |
| ③ | 回転グリップを左(反時計回り)に戻す | カチッと音がするまで |
| ④ | 吸入器から口を離した状態で息をゆっくり吐き出す | マウスピースに息を吹かない |
| ⑤ | マウスピースをしっかりくわえ、強く・深く・速く吸い込む | 1秒以内に思い切り吸う |
| ⑥ | 吸入口を離して5秒以上息を止める | 薬の肺内沈着率を高める |
| ⑦ | ゆっくり息を吐いてキャップを閉める | |
| ⑧ | 水でうがいをする(ガラガラ+クチュクチュ) | ステロイド残留除去のため |
「強く・深く・速く」が基本です。
タービュヘイラーはDPI(ドライパウダー式)のため、pMDI(加圧定量噴霧式)と吸い方が正反対です。DPIは吸入流速が低いと薬剤が末梢まで到達せず、肺内沈着率が大幅に低下します。近畿中央胸部疾患センターの吸入指導マニュアルでは「1秒間で思いっきり早く深く吸い込む」と明示しており、この点を患者に強調することが重要です。
息止めについて補足します。タービュヘイラーの添付文書には息止めの明示的な記載はありませんが、吸入後5秒以上の息止めが薬剤の肺内沈着率を高めるとされています。複数の病院の吸入指導マニュアルでも「5秒を目安に息止め」と統一されており、指導現場では息止めを組み込むのが主流です。
参考:近畿中央胸部疾患センター 吸入指導マニュアル(医療スタッフ用)
https://kcmc.hosp.go.jp/files/000035512.pdf
意外と多い指導ミスが、初回使用時の「空打ち(プライミング)」回数の誤りです。
タービュヘイラー系の吸入器は、新品開封時に空打ち操作を行って薬剤を回転機構に充填する必要があります。ところがシムビコートとブデホルでは空打ち回数が異なります。これは知っておかないと損です。
- シムビコート・パルミコート・オーキシス:空打ち3回
- ブデホル吸入粉末剤「JG」「MYL」:空打ち4回
この差を知らず、ブデホルをシムビコートと同じ感覚で3回しか空打ちしない患者が存在します。実際、複数の病院の吸入指導資料でも「ブデホルは4回の空打ちが必要」と特記されています。
また、一定期間使用を休止した後(2週間以上など)に再開する場合にも、空打ちが必要なケースがあります。製品によっては空打ち回数が異なるため、メーカーごとの添付文書を確認することが原則です。
空打ちが正しく行われていない場合、最初の数回分の吸入が不十分となり「薬が効かない」という訴えにつながる可能性があります。指導時には「今日初めて使う新しい器械ですか?」と必ず確認する習慣を持つことが重要です。これが条件です。
さらにデバイスを垂直に保持することも必須です。回転グリップを操作する際に吸入器が傾いていると、薬剤が正しくセットされないことがあります。「まっすぐ立てたまま操作する」という動作を、指導動画ではアングルを工夫して必ず見せるようにしましょう。
参考:岡谷市民病院 吸入服薬情報提供書(ブデホル)
https://www.okaya-hosp.jp/medical_departments_list/docs/薬剤師用:ブデホル.pdf
ブデホルをシムビコートのジェネリックとして処方する際、SMART療法(Symbicort Maintenance And Reliever Therapy)の指導は特に重要な場面のひとつです。
SMART療法とは、定期吸入(維持療法)に加えて、発作時にもブデホルを頓用吸入として追加使用する方法です。1本の吸入器で維持と発作治療の両方をまかなえる点が特徴です。
指導での重要ポイントをまとめます。
- 定期吸入(維持):1回1〜2吸入、1日2回
- 発作時の追加吸入:1回につき1吸入、数分後も改善しなければさらに1吸入
- 1日の総吸入回数の上限:通常8回まで(一時的な最大は12回)
- 維持療法として1日2回2吸入を超えている患者は、頓用吸入をしてはいけない
1日最大8回(一時的12回)という上限は、患者が「苦しいから何度も吸えばいい」と誤解するケースがあるため、必ず数字で伝えます。超過吸入は動悸・頻脈・不整脈といった心血管系の副作用リスクを高めます。
SMART療法を行っている患者への指導のチェックリストとして、以下の3点が外来でも薬局でも確認すべき最低限の事項です。
- ✅ 患者は現在、維持療法のみかSMART療法か把握しているか
- ✅ 発作時にブデホルを追加で吸入してよいことを知っているか(または知ってはいけない旨を伝えているか)
- ✅ 1日合計の上限回数を認識しているか
参考:PINS(日本病院薬剤師会)ブデホル吸入粉末剤添付文書
https://pins.japic.or.jp/pdf/newPINS/00068753.pdf
動画を活用した吸入指導の落とし穴として、「見た」と「できる」が別物という現実があります。これは意外ですね。
看護rooの記事でも紹介されているように、ある事例では患者がシムビコートタービュヘイラーの操作を正確に手順どおりに行えていたにもかかわらず、デバイスを口にくわえて吸入することなく、操作後に机の上に置いたまま「薬が部屋中に広がる」と信じていたというケースがありました。操作の確認と「吸入そのもの」の確認は、別に行う必要があります。
患者の吸入ミスの典型パターンとして医療現場から報告されているものには以下のようなものがあります。
- 🔴 カウンターがゼロになっているのに気づかず、空のまま吸い続ける(薬剤切れに気づかない)
- 🔴 マウスピースをしっかりくわえず、唇の先だけで軽く触れる(薬剤が前歯に当たり肺に届かない)
- 🔴 吸い込む速度が遅すぎる(DPIでは吸入流速が低いと薬剤が末梢に到達しない)
- 🔴 吸入後すぐに息を吐く(5秒の息止めをせず、薬剤を呼気とともに吐き出してしまう)
- 🔴 うがいを省略する(口腔カンジダ症・嗄声のリスクが高まる)
これらのミスは「一度正しくできた患者」でも時間の経過とともに再発します。慣れによる手技の劣化(特に半年以降)は小児・高齢者を問わず多くの症例で報告されています。
したがって、指導のタイミングは「処方開始時のみ」では不十分です。3ヵ月ないし6ヵ月ごとの定期的な再確認が推奨されています。特に症状が悪化してきた患者には、薬の効果を疑う前に吸入手技を再評価することが先決です。つまり「コントロール不良=手技の問題」の可能性を常に頭に置いた指導体制が求められます。
高槻赤十字病院の吸入指導連携マニュアルでは、動画を「薬剤師が実演する代わりに患者が見て吸入方法を学べるよう作成した」ものと位置づけており、動画はあくまでも実演指導の補完ツールとして位置づけています。
参考:高槻赤十字病院 吸入指導連携マニュアル
https://www.takatsuki.jrc.or.jp/wp_root/wp-content/uploads/2021/12/kyunyu_renkeimanual202307.pdf
参考:看護roo! 驚愕!患者が犯した思いもよらない吸入ミス(日経メディカルAナーシング)
https://www.kango-roo.com/work/3589/