磁石を「強ければ焼結、安ければボンド」と選んでいると、後工程の加工費が数倍に膨らむことがあります。

ボンド磁石と焼結磁石は、同じ「磁性粉末」を原料にしながら、製造プロセスが根本的に異なります。この違いが、完成品の特性や後工程のコストに直結します。
ボンド磁石は、ネオジム・フェライト・サマリウムコバルトなどの磁性粉末を、エポキシ樹脂やナイロン(PA)、ネオプレンゴムなどのバインダーと混合し、射出成形・圧縮成形・押出成形のいずれかで成形します。高温での焼き固め工程がないため、製造エネルギーが少なく、複雑な形状のキャビティをもつ金型を使えば、一度の成形で最終製品に近い形状(ニアネットシェイプ)を得られます。これが基本です。
一方、焼結磁石は粉末冶金プロセスで作られます。磁性粉末を高圧プレスで圧縮後、融点直下(ネオジム系の場合は約1,000〜1,100℃)の高温炉で焼き固めます。この焼結によって粒子間の金属結合が形成され、密度が極めて高くなります。焼結後はそのままでは寸法精度が低く、ダイヤモンド砥石を用いた研削加工が必須となります。
つまり製造工程です。
| 項目 | ボンド磁石 | 焼結磁石 |
|------|------------|----------|
| 成形方法 | 射出・圧縮・押出成形 | 粉末プレス+高温焼結 |
| 後加工 | 原則不要 | 研削・研磨が必須 |
| 形状自由度 | 非常に高い | 制限あり(単純形状が基本) |
| 製造コスト | 低い | 高い(工程数が多い) |
| 焼結温度 | 不要 | 約1,000〜1,100℃ |
特に見落としがちな点が、焼結磁石の「研削加工費」です。焼結磁石は高硬度かつ脆性があるため、一般的な切削工具では加工できません。ダイヤモンド砥石による湿式研削が標準的な手法で、加工費は通常の金属研削と比べて割高になります。またネオジム系焼結磁石は研削時に微細な鉄粉が発生するため、集塵・防錆の対策も同時に必要です。これは使えそうです。
参考リンク(ボンド磁石の製造工程・特性の詳細)。
ボンド磁石とは何か?特徴・種類・用途、成形方法等の基礎知識をやさしく解説(日本アイアール株式会社)
磁石の性能を語るうえで最も重要な指標が「最大エネルギー積(BHmax)」です。これは磁石が単位体積あたりに蓄えられる磁気エネルギーの最大値で、この値が大きいほど同じサイズで強い磁力を発揮します。
焼結NdFeB磁石の最大エネルギー積は200〜400 kJ/m³に達します。対してボンド磁石(樹脂系)は70〜125 kJ/m³、ゴム系になるとさらに低く最大46 kJ/m³程度です。焼結磁石の強さは突出しています。
この差が生まれる理由は、バインダーの存在にあります。ボンド磁石には体積の一定割合(射出成形品では20〜40%程度)を占める非磁性の樹脂が含まれているため、磁石全体の充填密度が下がります。磁性粉末同士の「交換結合」も形成されにくく、磁気エネルギーが制限されます。つまりバインダーが性能を下げるということですね。
保磁力(Hcj)の比較も重要です。
- 🔷 焼結NdFeB:800〜2,000 kA/m
- 🔶 ボンドNdFeB:500〜900 kA/m
保磁力は「磁石が外部磁場や熱によってどれだけ減磁しにくいか」を示す指標です。高温環境や強い逆磁場にさらされる用途では、保磁力の差が製品寿命に直結します。
耐熱性については注意が必要です。ボンド磁石は含有するバインダー材料(樹脂・ゴム)の耐熱性に制約されます。一般的なナイロン系バインダーの場合、連続使用温度は120〜150℃が上限です。焼結磁石は材料グレードによって異なりますが、200℃以上でも安定した性能を維持するSH・UH・EHグレードが存在します。高温動作が条件です。
ただし、ボンド磁石にも優れる点があります。ボンド磁石は樹脂が磁性粉末を絶縁するため電気抵抗が高く、渦電流損失が少ないという特性をもちます。これはモーターの高効率化という観点では重要なメリットです。また、サマリウム鉄窒素(SmFeN)系の磁性粉末を使ったボンド磁石は、ネオジム系に匹敵する最大エネルギー積を示しながら優れた保磁力を発揮する次世代材料として注目されています。
「焼結磁石のほうが強いならコストをかけても焼結にすべき」と判断している現場は少なくありません。しかし、総コスト(トータルコスト)で見ると、この判断が大きな損失につながる場合があります。
焼結磁石の製造プロセスは工程数が多く、各工程でコストが積み上がります。具体的には原料溶解・急冷・粉砕・磁場中プレス・焼結・時効処理・研削加工・表面処理(ニッケルメッキ・エポキシコーティングなど)という流れです。特に研削加工と表面処理は、ネオジム系焼結磁石では省略できません。研削工程では加工屑(スラッジ)が発生し、磁石素材の歩留まりロスも生じます。
一方、ボンド磁石はニアネットシェイプ成形のため、多くの場合は二次加工が不要です。複雑な形状・薄肉形状・長尺品でも、金型設計で対応できます。また樹脂バインダーが磁石粉末を覆うことで耐食性がある程度確保されるため、ネオジム系射出成形品でも防錆コーティングが不要な場合があります。これで二重のコスト削減になります。
ボンド磁石のもう一つの隠れたメリットが「インサート成形(一体成形)」の活用です。射出成形ボンド磁石では、シャフトや金属ブラケットなどの部品を金型内に配置した状態で成形することで、接着剤や組立工程なしに磁石と金属部品を一体化できます。組立コストを丸ごと削減できます。
ただし、量産規模やロット数によって判断は変わります。ボンド磁石では初期に金型費が発生するため、少量生産では必ずしもコスト優位とはなりません。金型コストの回収を含めた総コスト計算が原則です。
以下に典型的なコスト比較の視点を整理します。
| コスト項目 | ボンド磁石 | 焼結磁石 |
|------------|------------|----------|
| 製造エネルギー | 少ない | 多い(高温焼結) |
| 後加工費 | ほぼゼロ | 研削・研磨費が必要 |
| 表面処理費 | 多くの場合不要 | ほぼ必須(Ndの場合) |
| 組立工程 | インサート成形で省略可 | 接着・固定工程が別途発生 |
| 材料歩留まり | 高い | 研削屑ロスあり |
| 初期金型費 | 発生する | 発生する(焼結型) |
参考リンク(焼結磁石の表面処理・腐食対策の解説)。
ネオジム磁石と表面処理(株式会社相模化学金属)
ボンド磁石と焼結磁石は、得意な用途がはっきりと分かれています。特性を正確に理解したうえで選定することが、設計品質と製造コストの両立につながります。
焼結磁石が選ばれる主な用途:
- ⚙️ EV・HEV駆動モーター(最大トルクと高温耐性が必要)
- ⚙️ 風力発電機の永久磁石発電機
- ⚙️ MRI装置(超強力かつ安定した磁場が必要)
- ⚙️ 産業用サーボモーター・スピンドルモーター
- ⚙️ スピーカー・マイクロフォン(高い磁束密度が必要)
ボンド磁石が選ばれる主な用途:
- 🔩 HDDスピンドルモーター(薄型・高精度・多極着磁が条件)
- 🔩 車載センサー・ロータリーエンコーダー
- 🔩 OA機器のトナーロール(長尺押出成形品)
- 🔩 小型ステッピングモーター・ブラシレスDCモーター
- 🔩 冷蔵庫パッキン・ドア吸着部品(ゴム磁石)
選定のポイントは「必要な最大エネルギー積」と「環境温度」です。用途が要求する磁束密度を確認し、それをボンド磁石のBHmaxで達成できるかを最初に検討します。ボンド磁石で対応できるなら、加工コスト・組立コスト・耐食性の面で優位性があります。焼結磁石が必要になるのは、ボンド磁石では磁気性能が不足する場面です。この判断が基本です。
また、形状の複雑さも重要な判断軸です。薄板・長尺・突起や孔のある形状・多極着磁が必要な製品では、ボンド磁石の成形自由度が際立ちます。一方、直方体・円筒など単純形状で大きな磁力が必要なら焼結磁石が適します。
見落とされがちな独自の視点として、「サマリウム鉄窒素(SmFeN)系ボンド磁石」の台頭があります。従来のネオジム系ボンド磁石では対応できなかった高い保磁力と比較的高い最大エネルギー積を両立するSmFeN粉末が実用化されており、一部のEV補助モーターや家電インバーターモーターで焼結磁石の代替として採用が始まっています。また、SmFeNは焼結化が困難な材料(550℃以上で窒素が分解)のため、ボンド磁石専用の磁性粉末とも言えます。焼結磁石では絶対に作れない素材です。
設計・調達・製造現場では、磁石の選定ミスが後工程のトラブルや予期しないコスト増につながるケースがあります。以下のチェックポイントを設計初期段階で確認することで、選定ミスを防げます。
まず確認すべきは使用環境温度です。ボンド磁石(樹脂系)の連続使用温度は約120〜150℃が上限です。エンジンルーム近傍・工場内の熱源周辺など、これを超える環境では焼結磁石一択になります。
次に確認するのは形状と寸法精度の要求です。±0.05mm以下の厳しい寸法公差が必要な場合、焼結磁石では研削加工が必須となり工程とコストが増えます。一方、ボンド磁石の射出成形品は成形直後から高い寸法精度を実現できるため、後加工なしで厳しい公差に対応できる場合があります。寸法精度が条件です。
多極着磁の要否も重要です。センサーやエンコーダー向けに、複数の磁極(たとえば16極・32極など)を同一部品に着磁する必要がある場合、ボンド磁石の等方性材料が有利です。焼結磁石は多極着磁が難しく、実現するためには磁石を分割して組み合わせる必要があり、組立工程と接着工程が増加します。これは痛いですね。
最後に確認するのは耐食・防錆の要求環境です。ネオジム系焼結磁石は鉄を主成分に含み、むき出し状態では急速に腐食します。湿度が高い環境・水・酸・アルカリに触れる可能性がある用途では、ニッケルメッキ・エポキシコーティング・亜鉛メッキなどの表面処理が必要です。表面処理費と管理コストを選定段階で織り込むことが原則です。ボンド磁石の射出成形品は樹脂バインダーが磁性粉末を覆うため、防錆処理が不要なケースが多く、この点でも現場管理の手間を減らせます。
磁石の選定に迷ったとき、国内では日本磁石工業会(JMIA)が磁石の基礎知識・規格・選定に関する情報を公開しています。選定基準の裏付けとして参照する価値があります。
参考リンク(磁石の種類・性能・用途に関する体系的な解説)。
金属以外の磁石の種類について(ネオマグ株式会社 磁石ナビ)