5年以上服用しても骨折を防げるとは限らず、むしろ骨折リスクが上がる場合があります。

ビスホスホネート(BP)製剤とは、骨の主成分であるヒドロキシアパタイトに強く吸着し、破骨細胞のアポトーシスを誘導することで骨吸収を強力に抑制する薬剤群です。骨粗鬆症治療の第一選択として長年使われており、費用対効果の高さと豊富な長期安全性データが評価されています。
現在、日本で承認・使用されているBP製剤は、経口剤と注射剤に大別されます。それぞれの一般名・代表的商品名・投与頻度を以下に整理します。
| 剤形 | 一般名 | 代表商品名 | 投与頻度(骨粗鬆症) | 用量(骨粗鬆症) |
|---|---|---|---|---|
| 経口 | アレンドロン酸ナトリウム水和物 | ボナロン、フォサマック | 毎日 or 週1回 | 5mg/日 or 35mg/週 |
| 経口 | リセドロン酸ナトリウム水和物 | アクトネル、ベネット | 週1回 or 月1回 | 17.5mg/週 or 75mg/月 |
| 経口 | ミノドロン酸水和物 | ボノテオ、リカルボン | 毎日 or 月1回(4週) | 1mg/日 or 50mg/4週 |
| 経口 | イバンドロン酸ナトリウム水和物 | ボンビバ錠 | 月1回 | 100mg/月 |
| 経口 | エチドロン酸二ナトリウム | ダイドロネル錠 | 毎日(間歇投与) | 200mg/日、2週投与後10〜12週休薬を1クール |
| 注射 | アレンドロン酸ナトリウム水和物 | ボナロン点滴静注バッグ | 月1回(4週) | 900μg/4週 |
| 注射 | イバンドロン酸ナトリウム水和物 | ボンビバ静注シリンジ | 月1回 | 1mg/月 |
| 注射 | ゾレドロン酸水和物 | リクラスト点滴静注液 | 年1回 | 5mg/年 |
骨粗鬆症以外の適応を持つBP製剤についても押さえておく必要があります。アクトネル17.5mg・ダイドロネル200は骨ページェット病の適応があります。ダイドロネルはさらに、脊髄損傷後・股関節形成術後における異所性骨化の抑制にも使用されます。また、悪性腫瘍による高カルシウム血症や骨転移に対しては、ゾメタ(ゾレドロン酸)やアレディア(パミドロン酸)などの注射剤が主に用いられます。
ミノドロン酸は「日本人骨粗鬆症患者を対象として、日本で承認された用量で骨抑制効果が検証された唯一のBP系薬剤」と評価されている点が特徴的です。これは基本です。
参考:愛媛大学医学部附属病院 薬剤部作成「当院採用のビスホスホネート製剤一覧(2020年5月)」
https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/medicine/wp-content/uploads/202005-1DInews.pdf
BP製剤はピロリン酸(P-O-P)の類似体で、2つのリン酸基の間にある酸素原子が炭素(C)に置換された構造(P-C-P)を持ちます。この構造がヒドロキシアパタイトへの強い親和性を生み、経口投与後に腸管から吸収されると骨表面に選択的に取り込まれます。
吸収された薬剤は、骨吸収が行われる際に破骨細胞へ特異的に取り込まれます。このとき、ファルネシルピロリン酸(FPP)合成酵素の活性を阻害し、最終的に破骨細胞のアポトーシスを誘導します。つまり、骨を壊す細胞を「自滅」させることで、骨吸収を強力に抑制するわけです。
BP製剤は構造上の特徴から大きく2系統に分類されます。
- 非含窒素系BP(第1世代):エチドロン酸などが該当。作用は比較的弱く、ピロリン酸との競合阻害が主な機序です。骨格内への取り込みにより、毒性代謝産物(ATP類似体)が形成されます。
- 含窒素系BP(第2・3世代):アレンドロン酸、リセドロン酸、ミノドロン酸、イバンドロン酸、ゾレドロン酸が該当。FPP合成酵素を阻害するメバロン酸経路への作用が主で、非含窒素系と比較して骨吸収抑制効果が格段に強力です。
効果は世代が上がるほど強くなります。骨密度への影響について、BP製剤開始後の1〜2年間は増加率が大きく、その後は緩やかに増加またはプラトーになります。椎体骨折の抑制効果は国内で使用可能なすべてのBP製剤で示されており、大腿骨近位部骨折の抑制については、アレンドロン酸・リセドロン酸・ゾレドロン酸において証明されています。
骨密度の数値目標も整理しておきましょう。米国骨代謝学会(ASBMR)等が示すGoal-directed treatmentでは、大腿骨および腰椎の骨密度Tスコア>-2.5が治療目標とされています。この目標が達成されたら、休薬の検討が推奨されます。
経口BP製剤の消化管からの吸収率は非常に低く、アレンドロン酸の経口吸収率は0.6%程度とされています。この極端な低吸収性ゆえに、服用方法のわずかなズレが治療効果に直結します。服薬指導の質が治療成否を左右するといっても過言ではありません。
正しい服用方法(ダイドロネルを除く)のポイントは以下の通りです。
- 起床時(空腹時)に服用すること
- コップ1杯(約180mL)の水道水とともに内服する
- 噛まずに・なめずに服用する(口腔咽頭刺激を防ぐため)
- 服用後少なくとも30分は臥位にならない(食道炎・食道潰瘍の予防)
- 服用後30分間は水以外の飲食および他の薬剤の経口摂取を避ける
特に注意したいのは「水道水以外での服用禁止」です。カルシウムやマグネシウムの含有量が高い硬水系ミネラルウォーター(例:コントレックスの硬度は約1468mg/L)で服用すると、2価金属イオンとのキレート結合によりBP製剤の吸収が阻害されます。国産ミネラルウォーターでも硬水は注意が必要です。
ボンビバ(イバンドロン酸)は服用後60分間の臥位禁止と食事制限が必要なため、他の月1回製剤より制約が長い点も忘れずに指導します。これは要注意です。
禁忌事項についても確認しておきましょう。
- 低カルシウム血症
- 妊婦
- BP製剤への過敏症の既往がある患者
- 高度な腎機能障害(eGFR<30mL/min/1.73m²)
- 食道通過障害(食道狭窄、アカラシアなど)のある患者
- 立位・座位を30分以上保てない患者
腎機能障害(eGFR<30)の患者では、BP製剤の血中濃度が上昇するため低カルシウム血症のリスクが通常より高くなることも明記されています。この場合は、腎機能に応じた投与量調整が不要なデノスマブなど、他の骨吸収抑制薬への変更を検討します。
参考:日本骨粗鬆症学会 骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2015年版(日本骨代謝学会)
https://jsbmr.umin.jp/pdf/GL2015.pdf
BP製剤の副作用で最も知られているのが顎骨壊死(Antiresorptive agent-related osteonecrosis of the jaw:ARONJ)です。経口BP製剤による顎骨壊死の発症頻度は、10万人年あたり約1件と報告されています。つまり「10万人が1年間飲み続けて、約1人に生じる」水準です。頻度は決して高くはありません。
一方、静注BP製剤(ゾレドロン酸など、主に悪性腫瘍に使用)では、顎骨壊死リスクは経口剤より格段に高くなります。同じ「BP製剤の顎骨壊死」でも、骨粗鬆症向け経口剤と悪性腫瘍向け注射剤ではリスクの桁が大きく異なることを、チーム全体で共有しておく必要があります。
2023年のポジションペーパー(日本口腔外科学会 JAMS)による最新方針は、抜歯時のBP製剤の予防的休薬は原則として推奨しない、に変わっています。これは実務で特に注意すべき点です。経口BP使用中の骨粗鬆症患者に対して、昔のガイドラインを参照して漫然と休薬を指示していると、骨折リスクを不必要に高めてしまうことになります。ただし例外があります。静注BP(特に悪性腫瘍関連)の使用者、または4年以上の経口BP使用者でかつ糖尿病・ステロイド使用などの追加リスク因子がある場合は、3ヶ月のドラッグホリデーを個別に検討します。
次に、非定型大腿骨骨折(Atypical Femoral Fracture:AFF)についてです。BP製剤を長期使用している患者において、非外傷性の大腿骨転子下および骨幹部骨折が発現するとの報告があります。痛いところですね。前駆症状として大腿・股関節の鈍痛が出ることがあるため、長期使用患者の問診時に積極的に確認することが求められます。
急性期反応(Acute Phase Reaction:APR)は、特にゾレドロン酸などの注射製剤の初回投与後24〜72時間以内に、発熱・筋肉痛・骨痛・疲労感などの症状が現れるものです。多くは1週間以内に自然回復しますが、アセトアミノフェンを事前に処方・準備しておくことで症状を軽減できます。
参考:厚生労働省「ビスホスホネート系薬剤による顎骨壊死・顎骨骨髄炎に係る安全対策について」
https://www.mhlw.go.jp/www1/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/272-1.pdf
参考:日本口腔外科学会 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023
https://www.jsoms.or.jp/medical/pdf/2023/0217_1.pdf
BP製剤は中止後も骨に沈着し続け、一定期間は骨折抑制効果が持続するというユニークな特性を持っています。これがいわゆる「drug holiday(ドラッグホリデー)」の概念の根拠です。骨蓄積性の薬剤だということですね。
現行のガイドラインおよびエビデンスに基づく休薬の基本方針は以下のとおりです。
- 経口BP製剤:5年間投与後に骨折リスクを評価し、リスクが低下していれば休薬を検討する
- 静注BP製剤(ゾレドロン酸など):3年間投与後に評価・休薬を検討する
- 休薬後も骨密度の低下や骨代謝マーカーの上昇がみられた場合は再開を検討する
なぜ5年が目安なのでしょうか? BP製剤は5年を超えると非定型大腿骨骨折のリスクが有意に上昇する一方、それ以内であれば非定型骨折のリスクより脆弱性骨折の抑制効果のほうが明らかに有益であることが示されています。つまり「漫然と長期継続しないこと」が原則です。
ただし、骨折リスクが高い患者(大腿骨頸部骨密度TスコアがT<-2.5未満のままの患者、既存の骨折があるなど)では、継続または他の骨粗鬆症治療薬への変更が優先されます。休薬すれば誰でもよいわけではありません。この判断が条件です。
逐次療法についても整理しておきましょう。
BP製剤は、他の骨粗鬆症治療薬の後療法として重要な位置を占めます。特に以下の2つは現場で頻出です。
1. デノスマブ(プラリア)中止後のBP製剤への切り替え:デノスマブはBP製剤と異なり、中断により速やかに骨吸収が増加し、中止後2〜3ヶ月以内に骨折リスクが急上昇します。そのため、デノスマブ中止後は間を置かずにBP製剤への切り替えが必須です。日本骨代謝学会もこの後療法を強く推奨しています。
2. テリパラチド(PTH製剤)終了後のBP製剤継続:テリパラチドの使用期間は最長24ヶ月に限られており、終了後に骨吸収抑制薬(BP製剤またはデノスマブ)で後療法を行わないと、獲得した骨密度増加が速やかに失われます。
さらに、BP製剤使用時のビタミンD充足状態にも注意が必要です。血清25ヒドロキシビタミンD濃度(25(OH)D)が25ng/mL未満の場合、アレンドロン酸の骨密度増加効果が有意に低下することが国内の検討でも示されています。BP製剤を投与する前提として、適切なビタミンD充足状態の確保が必須です。
参考:福岡県薬剤師会情報センター「骨粗鬆症に対するBP系薬の投与継続期間の目安は?」
参考:日本骨代謝学会「デノスマブ中止時のビスホスホネート製剤への変更に関する推奨」
https://jsbmr.umin.jp/news/recommendation_20200515.pdf
BP製剤に関する注意事項の多くは「副作用の説明」に終始しがちですが、実際の現場で問題になるのは「投与が始まってから歯科連携が行われていないケース」です。本来、BP製剤の投与開始前に可能な限り歯科的問題を解決しておくことがベストプラクティスとされています。
投与前に行うべき口腔管理の要点は以下のとおりです。
- 抜歯が必要な歯がある場合は、BP投与開始前に処置を完了させる
- 歯周病の治療・清潔状態の確保
- 義歯・被せ物等の適合確認
- 定期的な歯科受診を予約の形で確保しておく
これらを患者に事前に伝えず、投与開始後に「抜歯が必要になった」という状況に追い込まれることが最も避けるべきシナリオです。これが原則です。
特に注意したい患者背景として「悪性腫瘍に対して静注BP製剤(ゾメタなど)を使用する場合」が挙げられます。静注製剤の場合は顎骨壊死リスクが経口剤より圧倒的に高く、投与前の徹底した口腔評価が推奨されています。
多職種連携の観点からは、「お薬手帳へのBP製剤記載の徹底」も重要です。BP製剤を服用していることを患者本人が歯科医院で申告しないケースは少なくありません。薬剤師・医師・歯科医師・看護師それぞれが、「BP製剤服用中であることを関係する医療者全員が把握できているか」を確認するシステムを整備することが求められます。これは使えそうです。
また、嚥下障害のある患者へのBP経口剤処方は禁忌に準じた対応が必要です。嚥下機能の評価を行わずに処方が継続されているケースでは、食道潰瘍・食道炎が引き金となった重篤なアドバースイベントにつながることがあります。嚥下障害の疑いがある患者には、注射製剤への切り替えを積極的に検討します。
実務で活用できるチェックの切り口として、「週1回製剤を処方されているにもかかわらず、残薬が多い患者」は服用方法の誤りや自己中断の可能性が高いです。服薬アドヒアランスの確認を定期的に行うことが、治療効果を維持するうえで欠かせません。骨密度は年1回程度のDXA検査で確認するのが基本であり、Tスコアの推移とあわせて継続の必要性を再評価するサイクルを作ることが理想的です。
参考:日本歯科医師会「骨粗鬆症(ビスフォスフォネート系製剤、抗RANKL抗体など)の歯科治療時の注意点」
https://www.jda.or.jp/park/relation/medicine_disease.html