後発品への切り替えが完了している施設でも、抗菌薬との血中濃度上昇リスクを見落として患者トラブルが起きています。

ビソルボン錠4mg(一般名:ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg)の販売中止は、サノフィが2020年11月に正式に告知しました。その後、2021年12月に製造販売中止となり、経過措置期間が2022年3月31日をもって終了しています。つまり、2026年現在では「ビソルボン錠」という商品名を持つ製品は市場から完全に姿を消しています。
販売中止の公式な理由として、サノフィは「諸般の事情による」との表現にとどめています。医療業界での受け止め方としては、後発品(ジェネリック)が複数社から発売されており、薬価改定が繰り返される中で先発品としての採算性が著しく低下したことが主因と考えられています。先発品を継続製造するコストに見合う収益が見込めなくなったということですね。
背景をさらに複雑にしたのが、後発品サイドの問題です。2021年4月、後発品大手の日医工が医薬品製造販売に関する行政処分を受けたことで、「ブロムヘキシン塩酸塩錠『日医工』」が供給停止となりました。日医工の不正は、品質試験で不適合となった製品を承認書と異なる方法で処理し適合品として出荷していたというもので、2020年2月の立ち入り調査をきっかけに発覚した大規模な品質不正です。これは厳しいですね。
後発品が供給不安定になったことで、一部の医療機関は逆に「2022年3月販売中止予定の先発品ビソルボン錠」に一時的に切り替えて運用するという、やや皮肉な状況も生まれました。先発品の在庫が消尽した時点で処方が終了するという流れで対応していた施設が複数あります。
現在は沢井製薬・東和薬品・皇漢堂製薬などから後発品の供給が続いており、入手困難な状況は概ね解消されています。ただし、施設によっては採用薬リストの更新が遅れているケースもあるため、定期的な採用薬の確認が原則です。
岐阜薬科大学附属薬局「ビソルボン錠」の販売中止に伴う対応(代替薬一覧あり)
ビソルボン錠が手に入らなくなった場合の選択肢は、大きく2つのルートに分かれます。同成分(ブロムヘキシン塩酸塩)の後発品を使う方法と、作用機序の異なる別の去痰薬に切り替える方法です。どちらを選ぶかは、患者の病態や処方目的によって判断します。
同成分後発品を選ぶ場合は、治療の連続性を保てるのが最大のメリットです。現在流通している主な後発品は以下の通りです。
| 剤形 | 後発品の商品名(例) | 薬価の目安 |
|---|---|---|
| 錠剤 | ブロムヘキシン塩酸塩錠4mg「サワイ」「トーワ」「クニヒロ」ほか | 約5.3円/錠 |
| 吸入液 | ブロムヘキシン塩酸塩吸入液0.2%「タイヨー」 | 各施設で要確認 |
| 注射液 | ブロムヘキシン塩酸塩注射液4mg「タイヨー」 | 各施設で要確認 |
異成分代替薬への切り替えが必要になる場面では、患者の病態に合った薬効分類を意識することが重要です。岐阜薬科大学附属薬局が発行した医療機関向けDI情報では、以下の代替薬が提示されています。
ブロムヘキシンには「酸性糖蛋白を直接溶解する」という固有の作用があります。この特徴はアンブロキソールやカルボシステインにはないため、粘稠性が非常に高い痰への対処としては同成分後発品の選択が合理的です。成分の違いを理解して選ぶことが重要です。
一方で、副鼻腔炎・滲出性中耳炎を合併する患者の場合は、カルボシステインのほうが適応を幅広くカバーできます。患者が抱える病態を整理してから代替薬を選ぶ、それが基本です。
サノフィ公式:ビソルボン販売中止のお知らせ(吸入液0.2%・注4mg)
去痰薬はすべて「痰に効く薬」として一括りにされがちですが、作用機序はそれぞれ明確に異なります。ここを理解していないと、薬を切り替えた後に「なぜ効きが変わったのか」という疑問に答えられなくなります。
ブロムヘキシン(ビソルボン)は「気道粘液溶解薬」に分類されます。主な4つの作用を整理すると以下の通りです。
特に見逃せないのが「酸性糖蛋白の直接溶解」という働きです。ムコダイン(カルボシステイン)は痰中のシアル酸とフコースの比率を正常化するアプローチ、ムコソルバン(アンブロキソール)は主にサーファクタント産生促進と線毛運動亢進に働きますが、酸性糖蛋白を直接溶かす作用はブロムヘキシン固有のものです。これは意外ですね。
また、薬理学的に興味深い事実があります。ブロムヘキシンは体内で代謝を受けると、アンブロキソール(ムコソルバンの有効成分)に変換されます。つまりブロムヘキシンは一種のプロドラッグとして機能しており、ブロムヘキシン自体の作用に加えてアンブロキソールとしての作用も期待できるという二重の薬理効果を持っています。
| 薬剤名(成分) | 薬効分類 | 主な作用 | 副鼻腔炎への適応 |
|---|---|---|---|
| ムコダイン(カルボシステイン) | 気道粘液修復薬 | シアル酸/フコース比の正常化 | ✅ あり |
| ムコソルバン(アンブロキソール) | 気道潤滑薬 | サーファクタント産生促進・線毛運動亢進 | ❌ なし |
| ビソルボン(ブロムヘキシン) | 気道粘液溶解薬 | 酸性糖蛋白の直接溶解・漿液分泌増加 | ❌ なし |
粘性の特に高い痰の患者には、酸性糖蛋白を直接溶かすブロムヘキシンの同成分後発品が第一選択です。反対に、副鼻腔炎を抱える患者や耳鼻科領域での処方ではカルボシステインへの切り替えが合理的な判断になります。薬効分類が分かれば正しい選択ができます。
日経メディカル処方薬事典:ブロムヘキシン塩酸塩錠の薬一覧と薬価比較
ビソルボン(ブロムヘキシン)への処方切り替えを検討するとき、あるいは後発品へ移行した後も、安全に使用するための注意事項は変わりません。代替薬に移行した後こそ、基本的な注意点を改めて確認することが重要です。
まず、妊婦・授乳婦への投与については慎重な判断が必要です。ブロムヘキシン塩酸塩の添付文書では「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与すること」と記載されており、積極的に推奨されるわけではありません。授乳婦においては乳汁への移行が報告されており、母乳育児の継続と薬剤リスクを天秤にかけた判断が求められます。妊婦への安易な投与は避けるのが原則です。
次に、相互作用については特に呼吸器感染症の場面での見落としに注意が必要です。一部の抗菌薬(エリスロマイシン、セフポドキシムなど)と併用すると、ブロムヘキシンの影響によってそれらの抗菌薬の血中濃度が上昇するという報告があります。気道感染症では去痰薬と抗菌薬を組み合わせて処方することが多いですが、この組み合わせには注意が必要です。
また、鎮咳薬(コデインリン酸塩、デキストロメトルファン等)との同時投与にも留意が必要です。去痰薬で痰を出しやすくしながら、鎮咳薬で咳反射を抑えると、排痰を妨げる方向に働く可能性があります。症例によっては排痰の促進を優先すべきであり、特に痰の貯留が懸念される患者での鎮咳薬の積極投与は慎重に検討してください。
副作用は内服薬の場合、1,049例中23例(2.19%)に報告されており、主な内訳は食欲不振が8件(0.76%)、悪心が7件(0.67%)、腹痛が2件といった消化器症状です。これは食後服用で緩和できることが多く、服薬指導の際に「食後に飲むこと」を一言加えるだけで患者のコンプライアンスを高められます。これは使えそうです。まれにショック・アナフィラキシーも報告されており(添付文書「重大な副作用」記載)、初回投与時には念のため状態観察を行うことが推奨されます。
JAPIC:ビソルボン医薬品インタビューフォーム(作用機序・副作用・相互作用の詳細)
ビソルボンという商品名が消えた今、現場で求められるのは「成分名での処方理解」と「適切な後発品への速やかな切り替え」です。切り替えそのものは複雑ではありませんが、確認漏れが起きやすいポイントがいくつかあります。
処方切り替えの基本手順として最初に行うことは、施設の採用薬リストに後発品が登録されているかどうかの確認です。2026年時点で多くの医療機関・薬局では切り替えが完了しているはずですが、中小規模施設では対応が遅れているケースも残っています。採用薬一覧を改めて確認するのが基本です。
万が一「ビソルボン錠」と商品名が書かれた処方箋が持ち込まれた場合は、疑義照会が必要になります。後発品への変更が明示されていれば変更対応も可能ですが、施設のルールと処方医への確認を忘れないことが原則です。
吸入液を使い続ける患者では、ネブライザーとの適合確認も必要です。ブロムヘキシン塩酸塩吸入液0.2%「タイヨー」は、ビソルボン吸入液と同一成分・同一濃度で設計されていますが、使用するネブライザー(ジェット式・超音波式・メッシュ式)の種類によって薬液の特性への適合が変わることがあります。生理食塩液で約2.5倍に希釈して使用するという手順はビソルボン吸入液と同様ですが、初回使用前に取扱説明書の確認が必要です。
患者への説明は、シンプルな一言が最も効果的です。「お薬の名前が変わりましたが、入っている成分はまったく同じです。効き目も飲み方も変わりません」と伝えるだけで、不安や混乱をほぼ防げます。名前が変わっただけと伝えれば大丈夫です。一方で「成分が同じなら問題ない」と切り捨てず、患者が普段から添加物にアレルギーを持っている場合などは、製品ごとの添加物の違いを確認する配慮も求められます。
後発品での対応が困難な特殊事情(添加物アレルギー・特定の剤形が必要など)がある場合は、主治医・薬剤師・病棟看護師が連携して個別対応策を検討することが安全につながります。チームで対応するのが原則です。
なお、ブロムヘキシンから異なる成分の去痰薬(アンブロキソール・カルボシステイン等)へ切り替える場合は、患者の病態・適応・副作用歴を踏まえた処方医の判断が必要です。薬剤師はその判断を処方意図の確認という形でサポートする役割を担います。医師・薬剤師の連携がここでも重要ということですね。
KEGG Medicus:ブロムヘキシン塩酸塩 医療用医薬品情報(添付文書・相互作用・用法用量)