ボトル包装が終了しても、薬そのものは継続供給されるため「何も変わらない」と思っていませんか?実は包装変更だけで、保管・調剤・患者指導の3つに見直しが必要になります。

「ベムリディ錠25mgが販売中止」という情報だけを聞くと、薬そのものが使えなくなったと誤解してしまうケースがあります。しかし正確には、販売中止となったのは「バラ30錠入りのボトル(瓶)包装品」のみです。PTP包装(28錠シート入り)は引き続き出荷・販売が継続されます。
2024年5月7日、製造販売会社のギリアド・サイエンシズ株式会社が告知を発行しました。「在庫消尽後販売中止」として実施日は2024年6月1日。出荷終了予定時期は2024年6月頃とされており、既に市場への出荷は終了しています。
処方継続中の患者さんへの影響は「なし」が原則です。ただし、調剤現場では従来のボトルから数え取る運用から、PTPシートを用いる運用へのシフトが必要になります。
ちなみに、PTP包装(28錠/シート)は2024年2月13日にすでに新発売されており、約4か月間はボトル包装との併売期間が設けられていたという経緯があります。
販売中止の背景として、ハーボニーなどの偽造品防止対策を踏まえたギリアドの包装管理強化の流れがあること、さらに視認性・携帯性・湿度管理の観点でもPTPシートへの統一が合理的という判断があったと考えられます。
| 包装区分 | 錠数 | 状況(2024年6月以降) | 薬価(1錠) |
|---|---|---|---|
| ボトル包装(バラ30錠) | 30錠×1瓶 | ⛔ 販売中止(在庫消尽後) | 903.50円 |
| PTP包装(28錠シート) | 28錠×1シート | ✅ 継続販売中 | 903.50円 |
薬価に変更はありません。つまり1錠903.50円、1か月28錠処方では約25,298円の薬価負担(全額)は変わらないということですね。
参考:医療用医薬品供給状況データベース(DSJP)によるベムリディ錠25mgの販売中止告知情報
DSJP:ベムリディ錠25mg 販売中止情報(告知日2024年5月7日・実施日2024年6月1日)
販売中止のニュースを聞いて「代替薬への切り替えが必要では?」と考える医療従事者もいるかもしれません。しかし薬剤そのものの変更は不要であり、むしろ処方継続が強く推奨される根拠があります。
ベムリディ錠25mgの有効成分はテノホビルアラフェナミドフマル酸塩(TAF)です。TAFは、従来薬であるテノホビルジソプロキシルフマル酸塩(TDF)の改良型プロドラッグ製剤であり、体内での動態が大きく異なります。
最大の特徴は血漿中テノホビル(TFV)濃度の低さです。TDF(300mg)と比較して、TAF(25mg)は投与量が12分の1以下にもかかわらず、血漿中TFV濃度はTDFより89%低いという薬物動態データが示されています。これは腎臓への曝露が少ないことを意味します。
腎臓に到達する前に肝細胞内でTFVジホスフェート(TFV-DP)に変換されるため、肝細胞内濃度は高く保ちながら全身循環中のTFV量を抑えるという設計です。骨密度低下や腎機能障害がTDFと比較して有意に少ないとされる理由はここにあります。
副作用発現率の比較も重要です。
副作用の差は約9ポイントです。長期投与が前提となるB型慢性肝炎治療において、この差は患者さんのQOLに直接影響します。
日本肝臓学会「B型肝炎治療ガイドライン第4版(2022年)」でも、TAFはTDFより腎機能障害・骨密度低下が少ないとしてレベル1b、グレードAの推奨が与えられています。第一選択薬としての位置づけは揺るぎありません。
つまり処方継続が基本です。
さらに注目すべき点として、クレアチニンクリアランス(CCr)による用量調節が不要という点が挙げられます。TDFは腎機能に応じて用量調節が必要ですが、TAFはCCr15mL/分以上であれば用量変更なしで使用できます。腎機能低下のある高齢患者や慢性腎臓病(CKD)合併患者においても使いやすい薬剤です。
参考:日本肝臓学会によるB型肝炎治療ガイドライン(第4版・2022年)
日本肝臓学会:B型肝炎治療ガイドライン第4版(TAF・TDFの腎・骨安全性比較を含む)
包装形態の変更は「外見が変わるだけ」ではありません。特に調剤・保管・患者交付の各場面で確認すべき変更点があります。これが見落とされると、現場でのインシデントにつながる可能性があります。
まず一包化の可否について整理します。ベムリディ錠25mgは一包化可能な薬剤として扱われています(双和薬局等の薬剤情報でも「○」と記載)。PTP包装への移行後も、この点は変わりません。
ただし、吸湿性への配慮は必要です。ボトル包装では内部にシリカゲル(乾燥剤)が封入されており、開封後の吸湿リスクを低減する設計でした。PTPシートはアルミ密封が基本ですが、シートから取り出した後の湿度管理には注意が必要です。
次に、調剤単位の変化についてです。ボトルが30錠単位、PTPシートが28錠単位(1シート)と異なります。1か月28日分の処方においてはPTPシート1枚でピッタリ合いますが、31日分など月数に応じた日数の処方においては端数が出るケースがあります。発注単位も変わるため、在庫管理フローの見直しが推奨されます。
患者指導の場面でも変化があります。従来のボトル包装では「ボトルから1錠取り出してそのまま服用」という形でしたが、PTPシートになると「シートから押し出して服用する」という動作に変わります。高齢患者さんや手指の動きが不自由な方への服薬支援として、シート取り出しのしやすさを確認する必要があります。
ボトルから瓶を渡されていた患者さんに「包装が変わった理由」を説明しておくことも、信頼構築の観点から有用です。この情報を先に伝えておけば、患者さんからの「なぜ薬が変わったのか」という不安の電話への対応が減らせます。これは使えそうです。
参考:薬剤情報(双和薬局):ベムリディ錠25mgの一包化可否・用法用量・注意事項
双和薬局:ベムリディ錠25mg(一包化可・一般名・同効薬比較など現場向け情報)
「包装が変わった」「入手しにくくなった」という情報が患者さんに誤って伝わると、自己判断での服薬中断につながることがあります。これが最も避けなければならないリスクです。
核酸アナログ製剤(TAFを含む)を自己判断で中止した場合、HBVの再増殖が高率に起こります。日本肝臓学会のガイドラインでも、「服用を中止するとB型肝炎ウイルスは高率に再増殖する」と明記されており、独断での中止は禁止されています。
B型慢性肝炎の治療中止が認められる条件は、以下のすべてを満たす場合に限られます。
これらを満たさない症例での「薬がない」「包装が変わった」という理由での中断は、急性増悪・肝不全のリスクを伴います。特にHBV再活性化のリスクが高い患者(免疫抑制療法中・肝硬変合併例など)では、投薬中断は生命に関わる問題になり得ます。
腎機能低下が確認された場合はどうなりますか?ベムリディはCCr15mL/分未満で慎重投与とされており、維持血液透析を受けていない末期腎不全(CCr15mL/分未満)は投与を避けることが求められます。ただしCCr15mL/分以上であれば用量調節不要が原則です。
中止後のモニタリングについても確認しておきましょう。仮に医師の判断で投与中止となった場合、中止後は少なくとも3か月ごとのモニタリングを1年間継続することが日本肝臓学会のガイドラインで定められています。フォローアップ体制を含めた患者管理が不可欠ということですね。
販売中止に関する情報が患者さんに届いたとき、「薬はなくなっていない。包装が変わっただけ」という明確なメッセージを医療従事者側から先手で届けることが、不必要な受診・問い合わせや服薬中断を防ぐ最も有効な手段です。
今回のベムリディ錠25mg(ボトル包装)の販売中止は、単なる包装変更にとどまらず、B型慢性肝炎患者の長期フォロー体制を見直すきっかけとして活用できます。これは意外な視点です。
ボトル包装時代は「30錠バラ」という剤型の特性上、一部の施設では服薬状況の目視確認が難しく、残薬管理が曖昧になりやすい面がありました。PTPシートへの移行により、残薬のシート枚数を直接確認しやすくなります。1シート28錠という明確な単位で「前回来院時から何枚消費されているか」を視覚的に確認できる利点があります。
また、PTP包装では偽造品の識別がボトルより容易という側面もあります。2017年に中国国内でベムリディの偽造品(日本語表示)が発見されたことがありましたが、PTPシートのアルミ個別包装はロット番号や製造情報が確認しやすく、正規品の判別に役立ちます。
さらに、処方日数管理の観点から見ると28錠単位は4週間処方と一致するため、「4週に1回の外来受診フロー」と親和性が高いという利点があります。30錠単位のボトルでは月単位の処方との不整合が生じやすく、現場ではしばしば調剤上の微調整が必要でした。これが解消されることで、服薬コンプライアンスの確認タイミングが定期受診と連動しやすくなります。
長期投与が前提のB型慢性肝炎治療では、受診のたびに「服薬状況・副作用の確認・腎機能・骨密度モニタリング」を確実に行うことが重要です。今回の包装変更を機に、チーム医療としての管理フローを医師・薬剤師・看護師で再整備しておく意義は大きいといえます。
なお、TDFからTAF(ベムリディ)への切り替えを行っている患者においては、切り替え後に腎機能・骨密度指標の改善が報告されています。TAFへの切り替えを行った患者のフォローでは、改善傾向が確認できるタイミングを患者さんと共有することが、長期服薬モチベーションの維持にもつながります。
今回の包装変更を「ただの作業変更」と捉えず、患者との信頼構築・長期フォロー体制強化のチャンスと位置づけることが、医療の質向上につながります。それが結論です。
参考:カレントネット(Care Net)による最新の臨床研究紹介(TAFとTDFの腎・骨安全性を比較した後ろ向きコホート研究・2026年2月)
Care Net Academia:慢性B型肝炎治療薬TAF、TDFより腎・骨安全性で優位(2026年2月掲載)