先発品がないのに、処方箋には「先発指定」と書かれているケースが実際に起きています。

「ベクロメタゾン点鼻液の先発品はどれか」と尋ねると、多くの医療従事者が「リノコート」または「アルデシン」と答えます。しかし実際には、これらの先発品はすでに販売終了しており、現在の医薬品市場に流通していません。
帝人ファーマが製造販売していた「リノコートカプセル鼻用50μg」は2021年3月31日をもって薬価基準経過措置期間が満了し、「リノコートパウダースプレー鼻用25μg」も2022年3月31日に経過措置期間が満了しています。つまり、現時点でベクロメタゾンプロピオン酸エステル点鼻液の区分(薬効分類番号1329)に先発品は存在しません。これは意外ですね。
現在、薬価収載されている同成分の点鼻剤(8.5mg8.5g規格)は、以下のとおりすべて後発品です。
| 販売名 | メーカー | 薬価(円/瓶) | 区分 |
|---|---|---|---|
| ベクロメタゾン点鼻液50μg「CEO」 | セオリアファーマ | 290.4 | 後発品(加算対象) |
| ベクロメタゾン点鼻液50μg「DSP」 | 東興薬品工業 | 290.4 | 後発品(加算対象) |
| ベクロメタゾン点鼻液50μg「サワイ」 | 沢井製薬 | 357.4 | 後発品(加算対象) |
なお、粉末タイプの「ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg「トーワ」」(東和薬品)は489.8円/瓶ですが、2026年1月29日付で販売中止が告知されており、今後入手できなくなる点にも注意が必要です。
処方箋に「リノコート」と銘柄指定で記載されていた場合、現在は薬局で調剤できる製品が存在しないことになります。後発品のみを扱う薬局では、一般名処方マスタ上の表記(【般】ベクロメタゾンプロピオン酸エステル点鼻液)を確認しながら応需するのが基本です。
参考情報:KEGG MEDICUSにおけるベクロメタゾンプロピオン酸エステル製品一覧(先発品・後発品の分類・薬価を確認できます)
KEGG MEDICUS:ベクロメタゾンプロピオン酸エステル 商品一覧
ベクロメタゾンプロピオン酸エステル点鼻液の効能・効果は「アレルギー性鼻炎」と「血管運動性鼻炎」の2つです。現行の後発品(例:「CEO」「サワイ」「DSP」)はすべて同一の効能・効果・用法用量を持っています。
用法・用量は以下のとおりです。
- 成人:各鼻腔に1回1噴霧(50μg)を1日4回(両側で1回100μg)。1日最大16噴霧(800μg)まで。
- 小児:各鼻腔に1回1噴霧(50μg)を1日2回。1日最大8噴霧(400μg)まで。
「1日4回」という用法は現代のステロイド点鼻薬としては多い部類に入ります。現在よく処方される主要なステロイド点鼻薬は1日1回投与が主流になっています。具体的には、モメタゾン(ナゾネックス)、フルチカゾンフランカルボン酸エステル(アラミスト)、デキサメタゾンシペシル酸エステル(エリザス)はいずれも1日1回です。フルチカゾンプロピオン酸エステル(フルナーゼ)やベクロメタゾン点鼻液は1日2〜4回と投与回数が多い点が異なります。
投与回数の違いは服薬アドヒアランスに直結します。1日4回の指示を患者が守り続けることは容易ではなく、特に花粉シーズン中や通年性鼻炎の長期管理において「飲み忘れ」ならぬ「噴霧し忘れ」が起きやすいのが実態です。これは使えそうですね。
処方医・薬剤師ともに、1日4回という用法を患者に明確に伝えるだけでなく、症状が落ち着いてきたら適宜減量・中止を検討することも添付文書上の記載として明記されています。患者指導の際には「症状が緩解しても、医師の指示なく自己判断で止めないように」伝えることが重要です。
なお、同成分でも剤形が異なる「ベクロメタゾン鼻用パウダー25μg」(東和薬品)は1回噴霧量が25μgと液体タイプの半量であり、1日2回投与です。液体タイプと粉末タイプは規格・投与回数が異なるため、切り替え時には用法の変化を患者と共有する必要があります。
参考情報:ステロイド点鼻薬の種類・服薬指導の解説(薬剤師向け)
ステロイド点鼻薬の種類と服薬指導ポイント|薬剤師ラボ
「点鼻薬だから全身への影響は少ない」という認識は正しい部分もありますが、ベクロメタゾン点鼻液については、重大な副作用として添付文書上に眼圧亢進・緑内障(頻度不明)が記載されています。これは鼻腔に噴霧された薬剤が鼻涙管を経由して眼に移行し、眼圧を上昇させる可能性があるためです。海外において眼圧亢進・緑内障の報告があることが根拠とされています。
重大な副作用には以下のものが明記されています。
- 🔴 眼圧亢進・緑内障(頻度不明):特に緑内障または緑内障の既往がある患者では慎重な使用が求められます。
そのほかの副作用(主な副作用)には以下があります。
- 過敏症:蕁麻疹、発疹、紅斑、そう痒、浮腫
- 鼻症状:刺激感、そう痒感、乾燥感、不快感
- 鼻出血、感染、異臭感、嗅覚障害
- 鼻中隔穿孔(稀)
緑内障がある患者や眼科疾患の既往がある患者にベクロメタゾン点鼻液が処方されている場合、薬剤師によるトレーシングレポートや疑義照会の対象となりえます。点鼻薬といえども副作用のスクリーニングは怠れません。副作用管理が条件です。
さらに、市販薬(OTC)領域では、ベクロメタゾンプロピオン酸エステルを含む市販の点鼻薬(例:エージーアレルカットシリーズ等)において、「高血圧の方はしてはいけないこと」という使用上の注意が記載されています。処方薬と市販薬とで注意喚起の範囲に差異があるため、患者が市販薬と処方薬を併用している可能性を念頭に置いた確認が必要です。
また、長期・大量使用によって発育障害をきたすおそれがあるため、OTC薬では18歳未満への使用が禁止されています。処方薬での小児適応には医師の判断と用量管理が前提となります。
参考情報:ベクロメタゾンプロピオン酸エステルの市販薬リスク区分(厚生労働省 薬事・食品衛生審議会資料)
厚生労働省:ベクロメタゾンプロピオン酸エステルのリスク区分について(PDF)
先発品が存在しない現在、ベクロメタゾン点鼻液は一般名処方マスタ上で「【般】ベクロメタゾンプロピオン酸エステル点鼻液50μg8.5g」として収載されています。厚生労働省の一般名処方マスタ(2021年6月版以降)でも確認できます。
一般名処方加算の算定については、処方箋の記載方式が重要になります。後発医薬品が存在する先発医薬品に対して一般名処方を行った場合に算定できる仕組みですが、ベクロメタゾン点鼻液のように先発品が市場から消えている場合でも、一般名処方マスタ上に収載されている限りは一般名処方加算の対象となります。
薬局では後発品調剤体制加算の算定においても、この薬剤は後発品として扱われます。後発品調剤体制加算は、後発品の調剤割合が80%以上で「加算1:21点」、85%以上で「加算2:28点」、90%以上で「加算3:30点」と段階設定されており、ベクロメタゾン点鼻液を後発品として適切に処理することが算定率の維持にもつながります。これは加算対象品目という意味で実務上重要です。
「CEO」と「DSP」は同じ290.4円/瓶ですが、「サワイ」は357.4円/瓶と約23%高い薬価が設定されています。患者の薬剤費を最小化しつつアドヒアランスを維持する観点から、在庫・採用状況に応じて後発品間での銘柄変更を行うことは調剤薬局として合理的な対応です。変更時は患者への説明(同一成分であること)を忘れずに行う必要があります。
また、ビアトリス(VTRS)が製造していた「ベクロメタゾンプロピオン酸エステル点鼻液50μg「VTRS」」は、2023年10月に販売中止が告知・実施済みです。採用リストのメンテナンスが間に合っていない医療機関では、すでに存在しない銘柄が登録されたままになっているケースもあるため、定期的なマスタ点検が推奨されます。
参考情報:厚生労働省による一般名処方マスタ(最新版の一般名コードを確認できます)
厚生労働省:処方箋に記載する一般名処方の標準的な記載について
ベクロメタゾン点鼻液は懸濁剤(白色不透明な懸濁液)であり、使用前に容器を十分に振ることが必須です。これを怠ると有効成分が均一に分散されず、1噴霧あたりのベクロメタゾン量にばらつきが生じます。服薬指導の際に「振ってから使う」という一点を伝えるだけで、実際の薬効に直結します。つまり振盪が基本です。
患者への服薬指導で見落とされやすいポイントは以下のとおりです。
- 🔔 使用前に鼻をかむ:鼻腔内の分泌物を除去することで、薬液が粘膜に到達しやすくなります。
- 🔔 片側を指で閉鎖しながら噴霧:添付文書の用法に「他側の鼻孔は指で閉鎖する」と記載があります。両側同時に開いた状態で噴霧すると薬液が正確に鼻腔内に留まらない可能性があります。
- 🔔 効果の発現には数日〜1週間程度かかる:即効性を期待して過剰に噴霧する患者も少なくありません。「すぐに効かないのは正常」という説明が脱落防止につながります。
- 🔔 症状が緩解しても継続の可否は医師に確認:自己判断での中断・再開を繰り返す患者に対し、季節性と通年性では対応が異なることを伝えます。
- 🔔 長期使用時は鼻中隔穿孔に注意:まれではありますが、長期・連続使用では鼻中隔穿孔の報告があります。鼻血が続く、鼻内に違和感がある場合は受診を促すことが大切です。
なお、ベクロメタゾン点鼻液の有効期間は3年です。患者が「以前処方されたものが残っている」と持参するケースでは、開封後の使用期限に加え、保管袋に入れた防湿保管がなされていたかどうかも確認します。開封後、長時間経過したものは使用しないよう添付文書上にも記載があります。
薬剤師が外来服薬支援や服薬フォローアップを行う場面では、「1日4回の噴霧ができているか」「容器を振って使用しているか」「鼻出血や目の不快感がないか」という3点を継続確認するだけでも、副作用の早期発見と正確な用法維持の両立につながります。
参考情報:セオリアファーマ公式「ベクロメタゾン点鼻液50μg CEO くすりのしおり」(患者説明用資材として活用できます)
セオリアファーマ:ベクロメタゾン点鼻液50μg「CEO」 くすりのしおり(PDF)