薬価を覚えているつもりでも、2026年4月から金額が変わっています。
バビースモ(一般名:ファリシマブ)は、2022年5月25日に薬価基準に収載されました。収載時の薬価は1瓶(6mg 0.05mL)あたり163,894円でした。
収載時の算定方式は「類似薬効比較方式(Ⅱ)」です。これは、過去6年間に薬価収載された薬理作用類似薬のうち、最低の1日薬価に合わせて算定するルールです。類似薬として抗VEGF薬が選ばれ、補正加算は付かずにそのままの金額に決まっています。
補正加算がつかなかった点は、医療従事者にとって少し意外かもしれません。バビースモはVEGFとAng-2の両方を標的とするバイスペシフィック抗体という新規作用機序を持っているからです。しかし、薬価算定においては「新規性」だけでなく、臨床的な有用性の証明や比較対照薬との相対評価が重視されます。類似薬効比較方式(Ⅱ)で算定された場合、有用性加算が付くには既存治療を上回る明確な臨床データが必要で、今回はその基準を満たすと判断されなかったために加算ゼロとなりました。
ピーク時の予測販売金額は320億円と見込まれ、同時期に収載された14成分の中で最も大きい数字です。東京ドームに換算すると、年間客席収容数の2倍以上を埋め尽くすような規模の売上予測であり、業界内でも注目を集めた収載でした。
中外製薬にとって初の眼科領域参入となった製品でもあります。同社がロシュグループのパイプラインを活用して日本市場に投入した点も、開発戦略として注目されました。
▶ 2022年5月収載の新薬一覧と各薬剤の算定根拠(パスメド薬学部試験対策室)
収載後のバビースモの薬価は、一直線ではありません。段階的な変動を理解しておく必要があります。
2025年8月1日、バビースモは市場拡大再算定の対象となり、19.5%引き下げられました。収載時の163,894円が131,892円に改定されたのです。この引き下げは、アイリーア(アフリベルセプト)が特例要件(年間販売額1000億円超1500億円以下かつ基準年間販売額の1.5倍超)に該当したことで、類似薬として「共連れ」引き下げが適用されたためです。
つまり、バビースモ自体の販売が異常に拡大したわけではなく、同じカテゴリのアイリーアが要件を満たしたことで巻き込まれる形の引き下げでした。同じく眼科用VEGF阻害薬のベオビュ(ブロルシズマブ)も14.2%の引き下げを受けています。
引き下げの連鎖が起きるということです。
そして2026年4月1日の薬価改定では、今度は改定時加算の適用を受けて薬価が上昇します。2026年4月1日以降の新薬価は141,784円です。約7.5%の引き上げとなり、市場拡大再算定による引き下げ分を部分的に回復する形になりました。この改定時加算は、薬価収載後に新たな有用性や効能追加が認められた場合などに適用されるもので、バビースモの適応拡大(網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫など)が背景にあります。
薬価の変遷をまとめると以下の通りです。
| 時期 | 薬価(1瓶) | 主な理由 |
|---|---|---|
| 2022年5月(収載時) | 163,894円 | 類似薬効比較方式(Ⅱ)で算定 |
| 2025年8月〜 | 131,892円 | 市場拡大再算定(▲19.5%) |
| 2026年4月〜 | 141,784円 | 改定時加算による引き上げ(▲は前回から+約7.5%) |
薬価は変動するものと覚えておけばOKです。
▶ 令和7年8月1日改定の対象品目と変更内容の詳細(CloseDi)
薬価が141,784円(2026年4月〜)という数字は、そのままイコール患者負担額ではありません。保険制度を正確に理解した上で患者説明を行うことが、医療従事者としての重要な役割です。
保険診療での自己負担割合ごとの概算は次のようになります。
ただし、実際の負担はこれより低くなるケースが大半です。その理由が「高額療養費制度」の存在です。
高額療養費制度は、1か月間に支払った医療費の自己負担額が一定の上限(自己負担限度額)を超えた場合に、その超過分が払い戻される制度です。年収約370〜770万円の一般所得区分であれば、外来(個人)の月上限は18,000円となります。バビースモの投与は外来で行われるケースがほとんどのため、制度を活用すると1回あたりの実質負担がさらに抑えられます。
これは患者にとって大きなメリットです。
なお、注射手技料(眼内注射料)や再診料・検査費なども別途かかるため、トータルの費用はその分上乗せになります。患者への説明では「薬剤費だけでなく処置料込みの総額」を提示することで、治療継続のモチベーション維持にもつながります。
高額療養費制度を患者が事前に申請していれば、「限度額適用認定証」を提示するだけで窓口での支払いを上限額内に抑えることができます。申請手続きのタイミングや提出先(加入している保険組合または市区町村)を案内できると、患者満足度の向上に直結します。
▶ 硝子体注射の費用・高額療養費制度の適用事例(こずき眼科ブログ)
投与コストを語る上で、薬価だけを見ていては全体像が見えません。バビースモの投与スケジュールを組み合わせると、年間の累積コストが算出できます。
承認された用法・用量は次の通りです。
維持期に16週ごとの投与が実現できれば、年間の投与回数は理論上約3〜4回となります。従来の抗VEGF薬であるアイリーア(維持期2か月ごと=年間約6〜8回)やルセンティス(毎月投与が基本=年間12回)と比較すると、投与回数が大幅に少なくなります。
投与回数の少なさは薬剤費の削減にも直結します。
薬価141,784円(2026年4月〜)を基に試算すると、年間4回投与の場合の薬剤費は約567,136円です。一方、アイリーア2mg(維持期2か月ごと6回投与、薬価117,440円)なら約704,640円となり、1年間で約13万円以上の薬剤費差が生まれます。もちろん、実際にどの程度の間隔まで延長できるかは患者個々の病態によって異なりますが、投与間隔延長が確認されればコスト面でも有利になります。
眼科クリニックや病院における処方選択の判断において、この年間コスト試算は医療経済的視点からも意味を持ちます。スタッフが患者に治療継続を勧める際のロジックとしても使えますね。
また、バビースモはキット(プレフィルドシリンジ型)と液剤(バイアル型)の2剤形があります。どちらも薬価は141,784円で同額です。取り扱いやすさや投与時の利便性に応じて選択できる点は、現場スタッフにとって実用的な選択肢です。
薬価は承認時の適応症だけでなく、その後の適応拡大によっても変わります。バビースモはこの点で、抗VEGF薬の中でも特に動きが大きかった薬剤です。
収載当初(2022年5月)の適応症は「中心窩下脈絡膜新生血管を伴う加齢黄斑変性(滲出型AMD)」と「糖尿病黄斑浮腫(DME)」の2疾患でした。その後、段階的に適応症が追加されています。
適応拡大は市場を広げる一方、市場拡大再算定のリスクとも隣合わせです。2025年8月の再算定では、アイリーアの特例要件への該当によりバビースモも類似薬として引き下げられましたが、一方で2026年4月の改定時加算では適応拡大の有用性が評価されて薬価が上昇しています。
つまり、適応拡大が薬価を上げる方向にも働くということです。
医療従事者がこの仕組みを理解していると、薬価の変動を「突然の値上がり・値下がり」ではなく「制度的な必然」として捉えられるようになります。レセプト対応や購入価格の確認を行う際、「なぜ今期から薬価が変わったのか」を説明できるかどうかは、チーム内での信頼度にも影響します。
患者への説明時も同様です。「前回と費用が変わったのはなぜ?」という質問に対して、「薬価が改定されたためです。具体的には○○の理由で変動しました」とひと言添えるだけで、患者の安心感が大きく変わります。
情報を持つことが、質の高い医療につながります。
最新の薬価を随時確認するには、厚生労働省の「薬価基準収載品目リスト及び後発医薬品に関する情報」や「薬価サーチ」などのデータベースを定期的に参照するのが確実です。処方・調剤のたびに薬価の最新情報を確認する習慣を持つことで、診療報酬上のミスを防ぐことができます。
▶ バビースモ硝子体内注射液の最新薬価・同効薬一覧(薬価サーチ)
▶ 中外製薬公式:バビースモの網膜静脈閉塞症への適応追加承認のお知らせ