PZT系の圧電セラミックスは、160℃以上の環境で使うと分極が消えて振動子が機能を失います。

圧電セラミックスは「力を加えると電気が生まれ、電気を加えると伸縮する」という双方向の変換能力を持つ機能性材料です。この性質を「圧電効果」と呼び、1880年にピエール・キュリー兄弟によって発見されました。金属加工の現場では、超音波振動子・超音波洗浄機・AE(アコースティック・エミッション)センサーなど、さまざまな形でこの素子が活躍しています。
圧電セラミックスの代表的な材料はPZT(チタン酸ジルコン酸鉛)です。PZTはその圧電性の高さと製造コストのバランスが優れており、世界で最も広く流通している圧電材料として知られています。東京工業大学で1952年ごろに初めてその特性が発見されて以来、長年にわたって産業用途で使われ続けてきました。
現場で使われる主な圧電セラミックスには、大きく分けて「ソフト系」と「ハード系」があります。
- ソフト系(例:PZT-5A、PZT-5H):感度が高く、センシング・計測用途に向く。ただし経年劣化がやや早い。
- ハード系(例:PZT-4、PZT-8):誘電損失が少なく、超音波洗浄機・超音波溶接機など高出力用途に向く。
つまり用途に応じて材料を選ぶのが基本です。
「超音波振動子なら何でもいい」は大きな誤解で、間違った材料グレードを使うと発熱・劣化が加速し、設備トラブルにつながります。ソフト材を高出力加工に使うと、振動子の温度上昇が早まり、キュリー温度付近まで達すると圧電性が急低下します。これは停止事故に直結するリスクです。
富士セラミックス|圧電セラミックスとは(基礎・製造プロセス・製品概要)
国内で圧電セラミックスを供給している主なメーカーには、富士セラミックス・本多電子・日本特殊陶業(NTKセラテック)・ニッコー・テイカ(TFT)・MKTタイセー・京セラ・TDKなどがあります。それぞれに得意とする分野や製品群が異なるため、「圧電セラミックス メーカーはどこでも同じ」という思い込みは禁物です。
各社の主な特徴を以下に整理します。
| メーカー名 | 主な強み・特徴 | 主な用途 |
|---|---|---|
| 富士セラミックス | PZT系の豊富な材料群、形状カスタム対応、コンポジット振動子 | 超音波センサ、医療・探傷 |
| 本多電子 | 自社開発のPZT内製、超音波洗浄機のトータル提案、鉛フリー品ラインナップ | 産業用超音波洗浄、振動子 |
| NTKセラテック(日本特殊陶業) | 無鉛圧電セラミックス(PZT比40%軽量化)、車載・医療 | センサ、アクチュエータ、流量計 |
| ニッコー | 機能性セラミックブランド、ブザー・センサ用途に注力 | 産業用センサ、アクチュエータ |
| テイカ(TFT) | 圧電材料の基礎知識情報提供、産業・車載向け | 振動センサ、超音波応用 |
| MKTタイセー | 小型・特殊形状の圧電素子調達に強い | 各種ピエゾ素子 |
| TDK | 自動車・医療向け高信頼性品、数十年の実績 | 車載アクチュエータ、医療機器 |
金属加工の現場で超音波加工・超音波洗浄・非破壊検査(AEセンサー)を目的とするなら、「高出力ハード系PZT対応かどうか」「振動子の形状カスタムに応じてくれるか」「技術サポートがあるか」という3点を確認することが実用的です。これが選定の基本です。
注目すべき点として、NTKセラテック(日本特殊陶業)の無鉛圧電セラミックスはPZTと比べて重量が約40%軽く(鉛を含まないため)、廃棄時の法規制もクリアしやすい利点があります。重量が軽いということは、振動子全体の慣性が小さくなり、高速応答が求められる用途に適しています。意外ですね。
NTKセラテック(日本特殊陶業グループ)|無鉛圧電セラミックスの特徴と製品ラインナップ
金属加工の現場で見落とされがちな重要ポイントが、圧電セラミックスの「キュリー温度(脱分極温度)」です。キュリー温度を超えると、圧電素子が持っている「分極」という方向性が一気に崩れ、圧電性能を完全に失います。元に戻すことはできません。
よく使われるPZT系圧電セラミックスのキュリー温度は約350℃です。しかし、製品として安全に使える実用温度はその約半分が目安で、おおよそ160℃以下と考えるのが基本です。切削加工や研削加工で発生する熱、超音波振動子が長時間駆動して発熱する状況では、この限界に知らずに近づいていることがあります。
劣化のパターンは主に次の3つです。
- 🌡️ 高温による脱分極:キュリー温度(PZTで約350℃)の半分程度、160℃前後から特性劣化が加速する
- ⚡ 過大電圧による分極反転:高電圧を印加しすぎると内部の電気的構造が崩れる(ピンチング現象)
- 🔁 長時間連続駆動による経時劣化:分極が時間とともに徐々に緩和されていく(対数的に劣化)
痛いですね。特に「経時劣化」は進行が緩やかなため、気付いた時には加工精度が落ちていたというケースが実際に起きています。
対策としては、振動子の使用環境温度を定期的に赤外線温度計でモニタリングし、連続使用時間に上限を設けることが現実的です。超音波洗浄機の振動子なら、本多電子や富士セラミックスなど国内メーカーの技術部門に「使用周波数・出力・環境温度」を伝えて素子の交換時期の目安を確認するアクションを一度取るだけで、設備トラブルのリスクを大きく下げられます。
圧電セラミックス・強誘電体・アクチュエータ読本(キュリー温度・脱分極温度の詳細解説)
PZT(チタン酸ジルコン酸鉛)には「鉛」が含まれており、EUのRoHS指令(有害物質使用制限指令)の規制対象物質です。現時点では「技術的に代替できる材料がない」という理由で適用除外が認められていますが、この適用除外には期限があり、定期的に見直しが行われています。
2025年11月にはEU委員会が「電子セラミック部品中の鉛(圧電デバイス含む)」に関する適用除外の改正指令を発表しています。期限は2027年6月30日前後まで延長された経緯がありますが、これは「永久除外」ではなく、最終的に廃止に向かう方向性は変わっていません。
これは金属加工業者にとってどういう意味があるでしょうか? 超音波洗浄機・超音波加工機・AEセンサーにPZT製振動子を使っている場合、将来的には鉛フリー品への交換・設備更新が必要になる可能性があります。欧州向けに部品や設備を納入している企業は特に影響を受けやすく、サプライチェーンの観点からもリスクになりえます。
現時点で取れる現実的な行動は以下の1つです。
現在使用している超音波機器・センサの振動子がPZT系かどうかをメーカーに確認し、鉛フリー品への切り替えロードマップを確認しておく。本多電子やNTKセラテックはすでに鉛フリー圧電セラミックス製品を提供しており、産総研(産業技術総合研究所)も従来のPZTに匹敵する性能(圧電定数d33:420 pC/N、キュリー温度240℃)の鉛フリー材料を開発済みです。今が切り替えを検討する最も良いタイミングといえます。
産総研|高性能な鉛フリー圧電セラミックスを開発(PZTに匹敵する性能実証の詳細)
圧電セラミックス メーカーへ初めて問い合わせる、あるいはメーカーを切り替える際には、事前に自社の使用条件を整理しておくことが、スムーズな素子選定への近道です。多くの担当者が「とりあえず見積もり依頼」で進めてしまいますが、使用条件の詳細を伝えないと、性能・コスト・耐久性のミスマッチが起きやすくなります。
確認・伝達すべき主な項目は次の通りです。
- 📋 使用周波数:20kHz・40kHz・200kHzなど、目的の超音波加工・洗浄・センシング周波数を明示する
- 📋 使用環境温度:常温作業か、高温環境か(切削油・研削液の温度も含む)
- 📋 形状・サイズ:円板・円環・角板・積層タイプなど、取り付けスペースに合わせた形状要件
- 📋 出力レベル:低出力センサ用か、高出力超音波振動子か(ソフト系・ハード系の選択に直結する)
- 📋 ロット数・カスタム要否:標準品で対応できるか、特注(カスタム)品が必要かを確認する
富士セラミックスでは、形状は円板・半円・円柱・角板・角柱・円環・円筒・球面など多彩な形状をラインナップしており、電極も銀焼付け・ニッケルめっき・金めっき・金スパッタから選択できます。リード線のはんだ付けまで対応しており、試作品の相談から可能なメーカーです。これは使えそうです。
また、積層型圧電アクチュエータを検討する場合、一般的な単板の圧電素子に対して「数十枚以上の素子を積層することで低電圧でも大きな変位と発生力が得られる」という特性があります。数ミクロン単位の精密変位制御が必要な工作機械の微動ステージや、インクジェット式塗布装置の駆動部にも活用できる技術です。
なお、超音波振動子の実用的な選定ガイドとして、メカノトランスフォーマ社が公開している「はじめての圧電素子の選び方」資料は、音響インピーダンスや負荷条件(質量負荷・弾性負荷)の違いを分かりやすくまとめており、初めて素子選定に取り組む方に参考になります。
メカノトランスフォーマ|はじめての圧電素子の選び方(PDF・音響インピーダンス・負荷条件の解説)
超音波洗浄や超音波加工における「能動的な振動発生」が圧電セラミックスの主な用途としてよく知られていますが、もう一つ金属加工現場での活用が広がっているのが「AEセンサー(アコースティック・エミッションセンサー)」としての受動的な使い方です。この観点を持っているメーカー担当者は、実はそれほど多くありません。
AEセンサーは、材料が変形・破壊・摩耗するときに放出される弾性波(超音波域の信号)をリアルタイムで検出します。圧電セラミックスが持つ高感度な「機械入力→電気出力」変換能力を活かして、工具・刃具の摩耗状態を加工中にモニタリングできます。具体的には次のような場面で効果を発揮します。
- 🔍 ドリルやエンドミルの折損直前の振動変化を検出し、工具交換のタイミングを最適化
- 🔍 研削加工での砥石のドレッシング必要タイミングを自動判別
- 🔍 切削中に発生するチャタリング(びびり振動)の早期検知
このように、圧電セラミックスをセンサーとして活用することで、加工中の刃具状態をデータとして把握できるようになります。結論は「AEセンサーは金属加工のDX(デジタル変換)に直接つながる部品」ということです。
産総研が開発した鉛フリー圧電セラミックスを用いたAEセンサーは、従来の鉛系AEセンサーと同程度の感度を実証済みです。鉛フリー品を採用することで、将来の環境規制にも対応しながら、設備の高度化を同時に実現できます。この情報を知っておくだけで、調達判断の選択肢がグッと広がります。
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