デュピクセントを使い始めた患者の約11%で、眼科疾患が新たに発生します。
アトピー性皮膚炎の治療は「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」に基づき、病勢の重症度に応じた段階的な薬剤選択が行われます。治療は大きく「寛解導入療法」と「寛解維持療法」の二軸で構成されており、まず外用薬で炎症を素早く鎮めることが第一優先です。
外用薬による基本的な治療が行われないまま、費用負担の大きい新規薬剤が先行使用されるケースが近年増えています。これは治療効果が得られにくいだけでなく、患者の治療脱落につながるリスクがあります。外用療法の基本を徹底することが、すべての治療選択の前提として極めて重要です。
治療の大きな流れは以下のとおりです。
- 軽症〜中等症:ステロイド外用薬(重症度に応じたランク選択)+保湿剤
- 中等症〜重症(外用薬で効果不十分):タクロリムス軟膏・デルゴシチニブ軟膏・ジファミラスト軟膏などへの切り替え、または生物学的製剤・JAK阻害薬の追加
- 難治性重症例:生物学的製剤(皮下注射薬)またはJAK阻害薬(経口薬)の使用を検討
重症度の客観的評価にはEASI(Eczema Area and Severity Index)スコアが用いられます。バイオマーカーとしてはTARC値、血清IgE値、LDH値などが参考になりますが、小児ではTARC値の年齢別基準値に注意が必要です。また15歳以下ではSCCA2値の保険適用があります。
EASIスコアが主な目安です。スコア30程度でトラロキヌマブ、40以上でデュピルマブの適応を検討するなど、数値をベースにした客観的な判断が、昨今の治療選択において標準的になっています。
アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024(日本皮膚科学会):治療ステップと薬剤選択の根拠が記載された公式ガイドライン(PDF)
ステロイド外用薬は、効果の強さによって「Strongest(最も強い)」「Very Strong(非常に強い)」「Strong(強い)」「Medium(中くらい)」「Weak(弱い)」の5段階にランク分類されます。これは「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」でも明記されており、部位と重症度の組み合わせで適切なランクを選ぶことが原則です。
顔面・頸部・外陰部などの皮膚が薄い部位には、Weak〜Mediumランクの選択が基本です。一方で躯幹・四肢など皮膚が厚い部位では、炎症の強さに応じてStrong〜Very Strongが選択されます。「顔だからMediumにする」というルールを覚えるだけでは不十分で、重症度と部位の両方を組み合わせた判断が求められます。
| ランク | 代表的な薬剤 | 代表的な商品名 |
|---|---|---|
| Strongest(最も強い) | プロピオン酸クロベタゾール | デルモベート |
| Strongest(最も強い) | 酢酸ジフロラゾン | ジフラール・ダイアコート |
| Very Strong(非常に強い) | フランカルボン酸モメタゾン | フルメタ |
| Very Strong(非常に強い) | 酪酸プロピオン酸ベタメタゾン | アンテベート |
| Strong(強い) | 吉草酸ベタメタゾン | リンデロン-V |
| Strong(強い) | プロピオン酸デプロドン | エクラー |
| Medium(中くらい) | 酪酸ヒドロコルチゾン | ロコイド |
| Medium(中くらい) | プロピオン酸アルクロメタゾン | アルメタ |
| Weak(弱い) | プレドニゾロン | プレドニゾロン軟膏 |
外用量の目安はFTU(フィンガーチップユニット)で指導します。人差し指の先から第1関節までチューブから絞り出した量が約0.5gで、これで大人の手のひら2枚分(約400cm²)の面積に塗布できます。塗り薬が不足しがちな患者が多く、ステロイドを含む外用薬+保湿剤を合わせて1日20g、1ヶ月で600g程度を目安に処方することが実臨床での指導の基本となっています。
「たっぷり塗る」が基本です。ステロイドの量が不十分なままでは炎症が遷延し、最終的により強いランクへの移行や全身療法が必要になるリスクが高まります。
日本アトピー協会:ステロイド外用薬ランク一覧(成分名・商品名・製造元を詳細に収載)
ステロイド外用薬で寛解が得られた後の維持療法、または顔面など長期ステロイド使用を避けたい部位への対応として、非ステロイド系外用薬が重要な役割を担います。近年は新規作用機序を持つ外用薬が相次いで承認されており、治療選択の幅が大きく広がっています。
タクロリムス軟膏(プロトピック)は、カルシニューリン阻害作用を持つ外用免疫抑制薬です。効果の強さはMedium〜Strongクラスのステロイドに相当するとされています。ステロイドと異なり皮膚萎縮の副作用がないため、顔面・頸部への長期使用に適しています。一方で初期の刺激感(ヒリヒリ感)が問題になることがあり、びらんや潰瘍面には使用禁忌です。成人用0.1%と小児用0.03%の規格があります。
デルゴシチニブ軟膏(コレクチム)は、世界初の外用JAK阻害剤です。0.5%(成人・小児兼用)と0.25%(小児専用)の2規格があり、2歳以上から使用可能です(生後6ヶ月以上の適応を持つ施設もあります)。タクロリムスより刺激感が少ないとされていますが、感染症がある部位への使用には注意が必要です。
ジファミラスト軟膏(モイゼルト)はPDE4(ホスホジエステラーゼ4)阻害作用を持ち、0.3%と1%の2規格があります。生後3ヶ月以上から使用可能で、顔を含む全身に塗布できます。皮膚萎縮リスクがなく安全性が高い反面、単独での抗炎症効果はステロイドより弱いとされているため、維持療法や軽症部位への使用が中心です。
タピナロフクリーム(ブイタマー)は2024年10月に発売された最新の外用薬です。AhR(芳香族炭化水素受容体)調節薬という新規作用機序で、アトピー性皮膚炎と尋常性乾癬の両方に適応があります。12歳以上に1日1回使用します。
これは使えそうです。ステロイドに頼らずに炎症を抑えられる選択肢が増えたことで、維持療法の戦略が格段に広がりました。
| 薬剤名(一般名) | 作用機序 | 使用可能年齢 | 主な用途 |
|---|---|---|---|
| タクロリムス軟膏(プロトピック) | カルシニューリン阻害 | 2歳以上 | 顔面・頸部の維持療法 |
| デルゴシチニブ軟膏(コレクチム) | 外用JAK阻害 | 生後6ヶ月以上 | 寛解維持・軽〜中等症 |
| ジファミラスト軟膏(モイゼルト) | PDE4阻害 | 生後3ヶ月以上 | 維持療法・軽症部位 |
| タピナロフクリーム(ブイタマー) | AhR調節 | 12歳以上 | 維持療法・軽〜中等症 |
なないろ皮ふ科西宮:非ステロイド外用薬の種類と特徴・使用可能年齢・使用部位を整理した解説ページ
既存治療(外用薬・シクロスポリン等)で効果不十分な中等症〜重症アトピー性皮膚炎に対して、2024年現在では4種類の生物学的製剤が使用可能です。それぞれ標的サイトカインが異なり、副作用プロファイルにも特徴があります。
デュピルマブ(デュピクセント)はIL-4とIL-13の両方を阻害する抗体製剤で、日本で最初に承認された生物学的製剤です。2023年には生後6ヶ月以上の小児への適応も承認されており、全年齢に適応を持つ唯一の生物学的製剤となっています。2週間ごとに1本(300mg)を皮下注射し、3割負担での薬剤費は1ヶ月あたり約32,000円です。最も注意すべき副作用はアレルギー性結膜炎で、臨床試験では11.3%(7例)に発現が報告されており、治療前から眼科との連携が推奨されます。
トラロキヌマブ(アドトラーザ)はIL-13を選択的に阻害する製剤です。デュピルマブと比較して目の症状(結膜炎)の発現頻度が低いとされており、デュピルマブで眼症状が出現した患者への切り替えとして有用です。EASIスコア30程度の中等症患者への使用が実臨床では多い印象です。
ネモリズマブ(ミチーガ)はIL-31受容体を阻害することで、主にそう痒を標的とした製剤です。皮膚の炎症に直接作用するのではなく、かゆみに特化した適応(アトピー性皮膚炎に伴うそう痒)である点が他の生物学的製剤と根本的に異なります。13歳以上に使用可能です。
レブリキズマブ(イブグリース)は2024年に承認された最新の生物学的製剤です。IL-13に結合し、受容体への結合を阻害します。長い半減期を持つことが特徴で、導入後は4週間ごとの投与間隔になる点が患者の利便性を高めます。
| 薬剤名 | 商品名 | 標的 | 使用可能年齢 | 特記事項 |
|---|---|---|---|---|
| デュピルマブ | デュピクセント | IL-4/IL-13 | 生後6ヶ月〜 | 全年齢適応、結膜炎に注意 |
| トラロキヌマブ | アドトラーザ | IL-13 | 成人 | 結膜炎が少ない |
| ネモリズマブ | ミチーガ | IL-31受容体 | 13歳以上 | そう痒への直接作用 |
| レブリキズマブ | イブグリース | IL-13 | 12歳以上 | 4週ごと投与で利便性高い |
デュピルマブを1年以上継続しても皮膚症状の完全寛解が得られないケースでは、眼科合併症の有無も評価したうえでトラロキヌマブへの切り替えを検討することが実臨床での重要な判断ポイントです。結膜炎が問題です。治療継続中は必ず定期的な眼科受診を促してください。
HOKUTO:アトピー性皮膚炎診療GL2024に基づく生物学的製剤8剤のまとめと比較(医療従事者向け詳細解説)
注射薬を嫌がる患者や、かゆみを早期に強力に抑えたい難治例には、経口JAK阻害薬が有力な選択肢となります。現在アトピー性皮膚炎に使用可能な経口JAK阻害薬は、バリシチニブ(オルミエント)・ウパダシチニブ(リンヴォック)・アブロシチニブ(サイバインコ)の3剤です。
JAK(ヤヌスキナーゼ)はサイトカインの細胞内シグナルを伝達する中継役タンパク質です。JAK阻害薬はこの経路を遮断することで炎症とかゆみを同時に抑制します。かゆみへの効果は生物学的製剤より速く現れやすい傾向があり、投与開始から数日〜1週間で改善を実感する患者も多いです。これは使えます。
| 薬剤名 | 商品名 | 用量(成人) | 使用可能年齢 | 3割負担の目安(月) |
|---|---|---|---|---|
| バリシチニブ | オルミエント | 4mg 1日1回(2mgへ減量可) | 2歳以上 | 約20,700円〜40,500円 |
| ウパダシチニブ | リンヴォック | 15mg 1日1回(30mgへ増量可) | 12歳以上(30kg以上) | 約36,300円〜55,700円 |
| アブロシチニブ | サイバインコ | 100mg 1日1回(200mgへ増量可) | 12歳以上 | 約36,000円〜54,000円 |
安全管理の観点では、以下の点に特に注意が必要です。
- 🔴 投与前スクリーニング:血液検査(血球・肝機能・腎機能)、感染症チェック(結核・B型肝炎・帯状疱疹)、胸部X線が必須
- 🔴 施設・医師要件:最適使用推進ガイドラインにより、処方できる施設と医師に要件が設けられている
- 🔴 65歳以上は慎重に:免疫抑制作用により感染症リスクが上昇するため、高齢者への投与は特に慎重な判断が必要
- 🟡 妊娠・授乳中は禁忌:妊娠判明時には直ちに中止が必要で、女性患者にはライフイベントを考慮した事前説明が重要
- 🟡 帯状疱疹リスク:投与中に帯状疱疹を発症するリスクがあり、患者への事前説明と早期受診指導が必要
- 🟡 シクロスポリンとの併用禁忌:免疫抑制の相加により感染症リスクが大幅に上昇するため、併用薬の確認は必須
バリシチニブの2mgは比較的安全に使用可能で、一般クリニックでも比較的使いやすい選択肢とされています。またバリシチニブは円形脱毛症にも適応を持つため、アトピー性皮膚炎と円形脱毛症を合併する患者では一石二鳥の治療効果が得られることがあります。つまりバリシチニブが条件です。
高用量(ウパダシチニブ30mg・アブロシチニブ200mg)は効果が強い一方で、副作用の発現頻度も高まります。重篤な副作用が発現した際に対応できる医療機関と連携体制を整えたうえで使用することが推奨されています。
なないろ皮ふ科西宮:アトピー性皮膚炎に対するJAK阻害薬3剤の比較表・薬価・用量・使用可能年齢の詳細
生物学的製剤やJAK阻害薬が注目されがちですが、経口シクロスポリンと保湿剤の適切な活用は、現在でもアトピー性皮膚炎治療の重要な柱です。見落とすと損です。
シクロスポリン(ネオーラルなど)はTリンパ球の活性化を抑制する免疫抑制薬で、アトピー性皮膚炎に対しては体重kg当たり1日量3mg/kgを分2で投与します(最大5mg/kg)。かゆみをしっかり抑える効果が得られ、JAK阻害薬より安価に使用できるため、医療費負担を考慮した選択肢として依然有用です。
ただし長期投与は不可逆性の腎障害リスクを高めます。添付文書では最大16週間(約4ヶ月)以内での使用が推奨されており、「症状を素早く抑えたい時期に短期間だけ使う」という位置づけが重要です。長期投与は禁物です。腎機能を定期的にモニタリングし、クレアチニン値が上昇傾向を示した時点で減量・中止を検討します。なおPUVA療法歴のある患者への投与は皮膚癌リスクの増大が指摘されており、慎重な判断が必要です。
一方で、保湿剤(ヘパリン類似物質・ワセリン・尿素製剤など)は治療の根幹を支える存在であり、炎症の寛解後も継続使用することが寛解維持に有効であると診療ガイドライン2024でも明記されています。「炎症が治まったから保湿剤を止めてよい」という患者の思い込みは非常に多く、適切に継続させることが再燃防止につながります。
保湿剤の継続が原則です。1日2回(朝・入浴後)の塗布を推奨し、患者が「外用薬をためこんでいないか」「期限切れの保湿剤を使っていないか」については薬剤師との連携でチェックする体制が理想的です。院外処方での薬局薬剤師によるトレーシングレポートの活用も、保湿剤の使用状況確認において実効性があります。
また2025年以降、政府による保湿剤の保険適用除外が検討されていることも把握しておく必要があります。患者への情報提供と、高額療養費制度や付加給付金制度の説明を医療チーム全体で行うことが求められます。
シクロスポリンと保湿剤は「地味だが底力のある治療」です。新薬に目が向きがちな時代だからこそ、この2つの位置づけを正しく理解することが、質の高いアトピー性皮膚炎治療につながります。
Credentials(東京医科大学病院 伊藤友章教授 監修):実臨床に基づくアトピー性皮膚炎治療の最新知識・薬薬連携の具体的な取り組みを解説

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