術後補助療法では、アレセンサの薬剤費は1年間で約4,033万円にのぼります。

アレセンサカプセル150mgの薬価は、2025年4月の改定で6,737.10円から6,905.50円へ引き上げられました。そして令和8年度(2026年4月1日以降)の薬価改定でも、この6,905.50円が据え置きとなっています。先発品(後発品なし)の区分であり、ジェネリック医薬品は存在しません。これが原則です。
薬価基準収載医薬品コードは「4291032M3021」で、HOTコードは「1244380010101」、統一商品コードは「136119980」です。包装単位は28カプセル(PTP14カプセル×2)となっています。製造販売は中外製薬株式会社が担当し、一般名はアレクチニブ塩酸塩カプセルです。
アレセンサという製品名は、「ALECtinib(アレクチニブ)」と「sENSAble(理にかなった)」を組み合わせた造語に由来します。薬価収載の歴史としては、2014年7月に20mg・40mg製剤が承認され、その後服薬負担軽減を目的として2015年9月2日に150mg製剤が承認されました。20mg・40mgの旧規格は、2018年3月に製造販売が終了しています。つまり現在流通しているのは150mg製剤のみです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 販売名 | アレセンサカプセル150mg |
| 一般名 | アレクチニブ塩酸塩カプセル |
| 薬価(2026年4月1日以降) | 6,905.50円 / 1カプセル |
| 薬価基準収載医薬品コード | 4291032M3021 |
| 製造販売 | 中外製薬株式会社 |
| 先発・後発の区分 | 先発品(後発品なし) |
| 包装単位 | 28カプセル(PTP14カプセル×2) |
| 薬価収載日(150mg) | 2015年11月28日 |
参考:アレセンサカプセルの薬価・包装コードの公式情報はこちら
中外製薬 アレセンサカプセル150mg 薬価・コード
参考:薬価改定後の最新薬価を確認できます
薬価サーチ:アレセンサカプセル150mg(令和8年4月1日以降)
薬価を正確に把握していても、実臨床での薬剤費の規模感を数字でイメージできていない医療従事者は少なくありません。これは使えそうな情報です。アレセンサは適応によって用法・用量が異なり、薬剤費も大きく変わります。
切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんの場合、用量は1回300mg(150mg製剤×2カプセル)を1日2回です。1日合計4カプセルとなるため、1日薬剤費は6,905.50円×4カプセル=27,622円となります。月額(30日換算)では約84万円、年間では約1,008万円に達します。
術後補助療法の場合、用量は1回600mg(150mg製剤×4カプセル)を1日2回です。1日合計8カプセルとなるため、1日薬剤費は6,905.50円×8カプセル=55,244円です。月額では約168万円、2年間の最長投与期間での合計薬剤費は約4,033万円に達します。これは東京都内のファミリー向けマンションの購入価格に相当するほどの金額です。
| 適応 | 1日用量(カプセル数) | 1日薬剤費 | 月額薬剤費(概算) | 年額(概算) |
|---|---|---|---|---|
| 切除不能な進行・再発 非小細胞肺がん | 4カプセル(300mg×2回) | 約27,622円 | 約84万円 | 約1,008万円 |
| 術後補助療法 | 8カプセル(600mg×2回) | 約55,244円 | 約168万円 | 約4,033万円/2年 |
| 再発・難治性ALCL | 4カプセル(300mg×2回) | 約27,622円 | 約84万円 | 約1,008万円 |
体重35kg未満の患者さんにおけるALCLの場合、1回投与量が150mgに減量されるため、1日2カプセル(1日薬剤費約13,811円・月額約41万円)となります。患者の体重確認が条件です。
肺癌診療ガイドライン2025年版には、これらのレジメン薬剤費が一覧化されています。アレクチニブ単剤(切除不能例)は27,622円/日、月額84.0万円/月、年間1,008.2万円と明記されており、同じALK阻害薬のクリゾチニブ(67.2万円/月)やロルラチニブ(80.4万円/月)と比べても高水準です。
参考:肺癌診療ガイドライン2025年版のレジメン薬剤費一覧表
日本肺癌学会 肺癌診療ガイドライン2025年版 付録・レジメン薬剤費一覧
アレセンサカプセル150mgの現在の効能・効果は3つです。❶ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、❷ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおける術後補助療法(2024年8月28日承認追加)、❸再発又は難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)です。
重要なのは、術後補助療法での投与期間の上限が「24か月(2年)まで」と明確に規定されている点です。長期投与が続くように思われる経口の分子標的薬ですが、術後補助療法に限っては投与期間に制限があります。切除不能な進行・再発例や再発・難治性ALCLには期間の制限はなく、投与の継続判断は病状に依存します。
❷の術後補助療法では食後投与が必須であるのに対し、❶や❸では食後投与の指定はありません。また、ALK融合遺伝子陽性の確認は保険診療での投与の前提条件であり、コンパニオン診断薬による検査が必要です。これが原則です。
術後補助療法の適応追加は、ALINA試験(第III相国際共同試験)の結果に基づいており、プラセボと比較してアレセンサが有意に再発リスクを低減することが示されました(N Engl J Med 2024;390:1265-1276)。ALK阻害薬としては初の術後補助療法適応であり、この承認によって術後の残存再発リスクへの対応が大きく変わっています。
参考:ケアネットによるアレセンサ術後補助療法承認の詳細解説
ケアネット:アレクチニブ、ALK陽性非小細胞肺がんの術後補助療法に承認(2024年8月)
月額84万円から168万円という薬剤費の数字を患者に伝えると、当然のように強い不安を与えます。しかし高額療養費制度の正しい理解があれば、患者指導の内容が変わります。
高額療養費制度は、1か月の医療費の自己負担が一定の限度額を超えた分について、後から払い戻しを受けられる仕組みです。外来受診での限度額は所得区分ごとに設定されており、一般的な所得水準(課税所得145万円未満)の場合、外来での月の自己負担上限は18,000円(年間上限144,000円)です。入院・世帯単位での限度額は57,600円となります。
アレセンサを外来で服用している患者(70歳以上・一般所得区分)の場合、理論上の薬剤自己負担は月84万円の3割にあたる25.2万円以上となりますが、外来の限度額18,000円を超えた分は高額療養費として後日払い戻されます。同じ月に3か月以上限度額を超えると「多数該当」となり、さらに限度額が引き下がる仕組みもあります。痛いですね、と思うかもしれませんが、むしろ患者にとっては長期服用でも自己負担が抑えられる仕組みです。
70歳未満の場合、住民税課税所得に応じて区分ア〜オの5段階に分かれており、区分ウ(一般的な会社員世帯の多くが該当)では月の自己負担上限が「80,100円+(総医療費-267,000円)×1%」という計算式で算出されます。アレセンサのような高額薬剤では概ね9〜10万円程度の実負担が目安となります。
なお、限度額適用認定証を事前に取得することで、窓口での支払い時点から自己負担限度額までの支払いで済みます。後から払い戻しを待つ必要がなくなるため、患者の資金的な負担が大幅に軽減されます。処方に際してこの確認を促すことが、現実的な支援につながります。
参考:高額療養費制度の仕組みと自己負担限度額(厚生労働省)
厚生労働省:高額療養費制度を利用される皆さまへ(PDF)
アレセンサの薬価は、市場状況や改定ルールによって変動してきました。150mg製剤が発売された当時(2015年発売時)の薬価は1カプセル6,614.60円でした。その後の薬価改定で推移し、2025年3月31日までの薬価は6,737.10円、2025年4月1日以降は6,905.50円と引き上げられています。薬価が下がるのではなく、引き上げられていることが意外ですね。
この背景には、アレセンサの適応拡大(術後補助療法の追加)による需要増加や、国際的な価格水準との比較、そして新薬の価値再評価の観点が絡んでいます。令和8年度(2026年4月1日以降)の薬価改定でも6,905.50円が据え置きとなっており、全体の薬剤費ベースでは▲4.02%の改定率となった中で、アレセンサは実質的に価格が維持されました。
市場拡大再算定制度との関係も注目点です。この制度は、収載後に当初の予想販売額を大幅に超えた医薬品の薬価を引き下げる仕組みですが、令和8年度の市場拡大再算定対象(13成分31品目)にアレセンサは含まれていません。ALK融合遺伝子陽性の肺がんは全肺がん患者の約2〜5%と希少な集団であり、推定患者数は1,600〜3,900人程度とされています。そのため市場規模が年間1,500億円を超えるような拡大には至らず、対象外となっています。つまり希少性が薬価維持の要因の一つです。
中外製薬の2025年の決算説明では、アレセンサの国内売上について「2024年の薬価改定の影響があるものの、術後補助療法への切り替えが順調に進み前同比で増加」と説明されており、適応追加が売上・処方数の両面でポジティブに作用していることが示されています。
| 時期 | 薬価(1カプセル150mg) | 主な改定事由・背景 |
|---|---|---|
| 2015年収載時 | 6,614.60円 | 150mg製剤の新規収載 |
| 2025年3月31日まで | 6,737.10円 | 改定による引き上げ |
| 2025年4月1日以降 | 6,905.50円 | 適応拡大・価値再評価 |
| 2026年4月1日以降 | 6,905.50円 | 令和8年度改定で据え置き |
参考:令和8年度薬価基準改定の概要(厚生労働省)
厚生労働省:薬価基準収載品目リスト(令和8年4月1日適用)
ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんには複数のALK阻害薬が使用可能です。薬価だけで見ると、処方選択に意外な視点が生まれます。
進行・再発例に使用できる主なALK阻害薬の月額薬剤費を比較すると、アレクチニブ(アレセンサ)は月約84万円、ロルラチニブ(ローブレナ)は月約80.4万円、セリチニブ(ジカディア)は月約58.5万円、クリゾチニブ(ザーコリ)は月約67.2万円です。アレセンサはこの中で最も高額な部類に入ります。
しかし、薬価の高さをそのまま「費用対効果が低い」とは言えません。ALEX試験の最終解析(2025年公表)では、アレセンサの全生存期間中央値が81.1か月(約6年8か月)であったのに対し、クリゾチニブは54.2か月という結果が示されており、生存延長効果の大きさが際立っています。単純な薬価比較ではなく、有効性・安全性・投与期間を含めた費用対効果の視点が必要です。
また、術後補助療法については現時点でアレセンサだけが使用できる唯一のALK阻害薬です。他のALK阻害薬には術後補助療法の適応がないため、この局面では薬価比較という選択肢そのものが存在しません。結論は「術後補助療法ならアレセンサ一択」です。
医療経済学的な観点からも、1日薬剤費27,622円を高く見るか、月額84万円でも患者が生涯を通じて得られる「生存期間の延長」や「再発リスクの低下」を含めて評価するかは、臨床薬剤師・医師・患者の三者での対話が求められます。薬価の数字だけを提示するのではなく、その背景にある臨床的価値を説明できることが、医療従事者としての質を高めます。
参考:アレセンサのALEX試験最終OS解析の公式プレスリリース
中外製薬:アレセンサ、ALK陽性転移性非小細胞肺がんにおいて全生存期間の中央値81.1か月を達成(2025年10月)
参考:アレセンサの作用機序・適応・用法用量の詳細
新薬情報オンライン:アレセンサ(アレクチニブ)の作用機序【ALK陽性の肺がん・ALCL】