術後補助療法では、アレセンサは1日8カプセルを投与するため、薬価だけで1日あたり約55,244円になります。

アレセンサカプセル150mg(一般名:アレクチニブ塩酸塩)の現行薬価は、1カプセルあたり6,905.50円です。製造販売元は中外製薬株式会社で、薬価基準収載医薬品コードは4291032M3021、レセ電コードは622443801となっています。
まず収載の歴史を整理しておきましょう。アレセンサは2014年に20mg・40mg製剤がALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんを適応として承認されました。その後、服薬の煩雑さを解消するため2015年11月に150mg製剤が収載(当初薬価:6,614.60円)されました。旧20mg・40mg製剤は現在販売中止となっています。重要な点として、150mg製剤が登場する前は、1回の服用に40mg製剤を7カプセル+20mg製剤を1カプセル、計8カプセルを飲む必要があり、患者負担が非常に大きかったという背景があります。
薬価の推移を確認すると、2025年3月31日までの旧薬価は6,737.10円でしたが、2025年4月1日以降は6,905.50円へ引き上げられています。これは薬価引き下げが原則の改定において例外的な動きであり、製造コストや供給安定性を考慮した「不採算品再算定」の仕組みが背景にあります。そして2026年4月1日改定後も6,905.50円が維持されていることが、薬価サーチの最新データで確認されています。維持されているということですね。
包装単位は28カプセル(PTP14カプセル×2)で、包装薬価は193,354円となります。この「28カプセル」という数字は、1日4カプセル(切除不能の場合)では7日分、1日8カプセル(術後補助療法の場合)では3.5日分に相当します。処方日数と実際の箱数の関係を把握しておくことが、調剤業務や在庫管理において重要です。
参考:中外製薬公式 アレセンサカプセル薬価・コード情報
https://chugai-pharm.jp/product/alc/cap/code/
アレセンサカプセル150mgの薬価はどのように決まっているのでしょうか。新医薬品の薬価算定は大きく2方式に分かれており、類似薬がある場合は「類似薬効比較方式(Ⅰ)」、ない場合は「原価計算方式」が用いられます。アレセンサ150mg製剤は、先に収載されていた20mg・40mg製剤との整合性を踏まえて算定された経緯があります。
注目すべきは「新薬創出・適応外薬解消等促進加算(現:革新的新薬薬価維持制度)」との関係です。この制度は、後発品が上市されていない革新的な新薬について、市場実勢価格に基づく薬価引き下げを猶予するものです。アレセンサはかつてこの制度の対象品目として、一定期間薬価が維持されていた実績があります。
ただし、この制度には「累積額控除」という重要な仕組みがあります。加算によって猶予されてきた値下げ額は、一定期間後に累積額として薬価から差し引かれます。2026年度改定では、この革新的新薬薬価維持制度に関連する累積額控除の総額が約918億円に達しました。アレセンサについては、今回の2026年改定で薬価が維持された形となっていますが、この制度の仕組みを医療従事者として理解しておくことは、今後の薬価動向を予測する上でも欠かせません。これは使える知識です。
また、2026年度薬価改定では「G1ルール」の適用期間が原則10年から5年へと短縮されました。後発品が存在しないアレセンサには直接適用されませんが、薬価制度全体の厳格化という流れは、処方設計や薬剤費管理に影響する可能性があります。
参考:2026年度薬価改定の詳細(AnswersNews)
https://answers.and-pro.jp/pharmanews/31984/
医療従事者として患者への費用説明や高額療養費の案内を行うためには、薬価から実際の月額費用を正確に計算できることが必要です。ここでは適応別に丁寧に整理します。
【切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん、またはALCL】
用量は1回300mgを1日2回。150mgカプセルを1回あたり2カプセル、1日計4カプセル使用します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1カプセルの薬価 | 6,905.50円 |
| 1日の薬剤費(4カプセル) | 27,622円 |
| 1ヶ月(30日)の薬剤費 | 約828,660円 |
| 3割負担の場合(月) | 約248,598円 |
【ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がん術後補助療法】
2024年8月に承認された適応追加です。用量は1回600mgを1日2回(24ヶ月まで)。150mgカプセルを1回あたり4カプセル、1日計8カプセル使用します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 1カプセルの薬価 | 6,905.50円 |
| 1日の薬剤費(8カプセル) | 55,244円 |
| 1ヶ月(30日)の薬剤費 | 約1,657,320円 |
| 3割負担の場合(月) | 約497,196円 |
この数字を見ると、術後補助療法では月の薬剤費だけで約165万円という高額になることがわかります。東京都内の1LDKマンション家賃の10ヶ月分に相当する規模です。つまり薬価の絶対額だけでなく、適応・用量によって患者の実負担が劇的に変わるということです。
なお、体重35kg未満の患者では1回投与量が150mgとなるため、1日2カプセル(切除不能・ALCL)の計算になります。処方箋確認時に体重の確認が必要です。
参考:アレセンサ(アレクチニブ)作用機序・用法用量詳細(新薬情報オンライン)
https://passmed.co.jp/di/archives/199
月額83〜166万円に達する薬剤費に対して、高額療養費制度をどう活用するかが医療現場での重要な実務です。知らないと損する情報です。
高額療養費制度とは、ひと月(月の初めから終わり)に支払った自己負担額が所得区分に応じた「自己負担限度額」を超えた場合に、その超過分が後から支給される制度です。アレセンサのように薬剤費が高額な場合、ほぼ確実に上限額に達します。
代表的な所得区分ごとの月上限額(70歳未満)は以下のとおりです。
| 所得区分 | 月上限額(目安) |
|---|---|
| 区分ア(年収約1160万円以上) | 252,600円+(医療費−842,000円)×1% |
| 区分イ(年収約770〜1160万円) | 167,400円+(医療費−558,000円)×1% |
| 区分ウ(年収約370〜770万円) | 80,100円+(医療費−267,000円)×1% |
| 区分エ(年収約370万円未満) | 57,600円 |
| 区分オ(住民税非課税) | 35,400円 |
実務で特に重要なのは「限度額適用認定証」の事前交付です。この証を提示することで、窓口での支払いが最初から上限額に抑えられます。後から申請して払い戻しを受ける方式と比べ、患者の一時的な資金負担が大幅に軽減されます。限度額適用認定証は必須です。
また外来処方でアレセンサを受け取る患者の場合、薬局での薬剤費が高額療養費の合算対象になります。同一月に外来受診費と調剤費を合算できる「外来合算」の仕組みを、薬局薬剤師も含めた医療チームで共有しておくことが重要です。医療機関と薬局が連携した情報提供が、患者の経済的負担軽減に直接つながります。
さらに、「がん患者への費用支援」という観点では、各都道府県が実施するがん対策に関連した医療費支援制度や、中外製薬が運営する患者支援プログラム(ロシュ・患者支援)なども存在します。高額なオーファン系薬剤を処方する際は、多職種での情報共有と患者への積極的な案内が求められます。
参考:高額療養費制度(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/000333276.pdf
アレセンサカプセル150mgには現在3つの効能・効果があります。それぞれで用法・用量が異なるため、処方内容と薬価請求の整合性を確認することが実務上の重要ポイントです。
①ALK融合遺伝子陽性の切除不能な進行・再発の非小細胞肺がん
1回300mgを1日2回(1日4カプセル)
②ALK融合遺伝子陽性の非小細胞肺がんにおける術後補助療法
1回600mgを1日2回、食後に投与(1日8カプセル)。投与期間は24ヶ月までという上限がある点は、他の分子標的薬にはあまりない特徴です。
③再発または難治性のALK融合遺伝子陽性の未分化大細胞リンパ腫(ALCL)
1回300mgを1日2回(体重35kg未満は1回150mg)
②の術後補助療法は2024年8月28日承認、ALK阻害薬として術後補助療法に使用できる薬剤はアレセンサのみです。ローブレナ(ロルラチニブ)やアルンブリグ(ブリグチニブ)など他のALK阻害薬には術後補助療法の適応がありません。ここは間違えやすいポイントです。
添付文書上で特に注意が必要な副作用として、重大なものには間質性肺疾患(発現率4.0%)、肝機能障害(AST・ALT上昇)、腎機能障害、好中球減少・白血球減少、消化管穿孔、血栓塞栓症が挙げられています。これらのモニタリングに関連して定期的に実施される検査(血液検査、胸部CT等)についても、保険請求上の整合性を保つことが必要です。
薬価請求で実務的に注意が必要な点として、術後補助療法での使用においては1日8カプセル処方となるため、28カプセル入り1箱では3.5日分となります。処方日数と投与カプセル数が通常の切除不能の計算式と異なることを、院内処方・院外処方の双方で確認しておく必要があります。誤った日数で請求することは実査や指導の対象となりうるため、特に注意が必要です。
参考:アレセンサ適正使用ガイド(PMDA)
https://www.pmda.go.jp/RMP/www/450045/1e8dc7a7-47ec-4ec7-b8a5-242720b61844/450045_4291032M3021_00_004RMPm.pdf
2024年8月の術後補助療法への適応追加は、アレセンサの市場規模を大きく変える出来事でした。切除不能・再発という"終末期に近い状況"に限られていた適応が、"術後という早期患者"にまで広がったからです。これは意外な展開ですね。
ALINA試験のデータによれば、アレセンサはALK融合遺伝子陽性の早期非小細胞肺がん患者において、プラチナ系化学療法と比較して再発または死亡リスクを76%低下させました(ハザード比0.24)。この数字は臨床的に非常に強いエビデンスです。
しかしここで医療従事者として考えるべきは「費用対効果」の問題です。術後補助療法では24ヶ月間投与が上限となっているため、総薬剤費は概算で以下のようになります。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 術後補助療法1日分の薬剤費 | 約55,244円 |
| 24ヶ月間の総薬剤費(720日) | 約3,977万円 |
約4,000万円という数字は、1つの治療コースとして見ると非常に高額です。これを保険制度が支えているという事実は、日本の公的医療保険の持続可能性を巡る議論と無縁ではありません。
一方で見逃せないのが「再発を防ぐことで発生しうるその後の治療費を回避できる」という経済的メリットです。切除不能・再発後の治療費(化学療法、免疫チェックポイント阻害薬の追加など)は長期にわたり積み上がるため、単純に術後補助療法のコストだけで評価することは難しいという見方もあります。
2026年度薬価改定では、市場規模が大幅に拡大した医薬品に対する「市場拡大再算定」ルールが厳格化され、最大40%超の薬価引き下げが適用されたケースも出ています。アレセンサは今回改定での薬価が維持されましたが、術後補助療法によって適応患者数・市場規模が拡大すれば、今後の改定サイクルで市場拡大再算定の対象となる可能性もゼロではありません。薬価動向に注目が必要です。
医療従事者として患者に処方・説明を行う立場では、こうした薬価制度の大きな流れを俯瞰的に把握しておくことが、長期的な処方設計や患者への情報提供の質を高めることにつながります。
参考:令和8年度薬価制度改革について(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001676426.pdf