アミロイドPETが保険適用になった今でも、ドナネマブを投与できる患者はごく一部です。

アミロイドPETは長年、研究目的や自費診療の範囲で実施されてきましたが、2024年9月に薬価収載が実現し、保険診療の枠組みに入りました。これは抗アミロイド抗体薬の登場と密接に連動した動きです。
保険適用の直接的な引き金となったのは、レカネマブ(製品名:レケンビ)の2023年12月承認と、ドナネマブ(製品名:ケサンラ)の2024年9月承認です。これらの薬剤はアミロイドβを除去する作用機序を持つため、投与前にアミロイドβ蓄積の有無を確認することが必須とされています。つまり、薬の承認があったからこそ、検査の保険収載が実現したという経緯があります。
アミロイドPETに使用される放射性薬剤(フロルベタピル、フロルベタベン、フルテメタモルなど)のうち、現在国内で保険算定できるものは限られており、施設側も核医学検査の実施体制を整える必要があります。これは必須です。
保険収載前の段階では、1回のアミロイドPET検査に30万〜40万円程度の自費負担が生じていたケースもありました。保険適用後は3割負担で概ね5万〜6万円程度になると見込まれており、患者の経済的負担が大幅に軽減されています。これは使えそうです。
ただし、保険請求する際には「抗アミロイドβ抗体薬の投与適否を判断するための検査である」ことを診療録に明記する必要があり、ルーティンの認知症スクリーニング目的では算定できない点に注意が必要です。アミロイドPETは「適否判定目的」が条件です。
厚生労働省:令和6年度診療報酬改定関連通知(アミロイドPET保険収載に関する通知を含む)
ドナネマブの投与適応を判断する際、多くの医療従事者が「アミロイドPET陽性=投与可能」と考えがちですが、実際はそれだけでは不十分です。
ドナネマブの臨床試験(TRAILBLAZER-ALZ 2)では、患者をタウPETによるタウ蓄積量に基づいて「低〜中タウ群」と「高タウ群」に層別化しています。高タウ群(タウ蓄積が高度な患者)では、ドナネマブによる臨床的ベネフィットが低タウ群に比べて限定的であることが示されました。つまり、タウ蓄積の程度も投与判断に影響するということです。
国内承認時の添付文書では「軽度認知障害(MCI)または軽度のアルツハイマー型認知症」が対象と明記されており、CDR(臨床的認知症尺度)が0.5〜1の範囲が実質的な適応の目安となります。CDR 2以上の中等度では適応外です。
さらに、アミロイドPET陽性の確認に加えて、脳MRIで10個以上の微小出血(CMB:脳微小出血)が確認された場合や、過去に脳出血歴がある患者は投与禁忌に該当します。これは重大なリスクにつながります。
実務上のチェックリストとして整理すると、①認知機能評価(MMSE・CDR)、②アミロイドPET陽性の確認、③脳MRIでのCMBや白質病変の確認、④APOE遺伝子型検査、⑤タウバーデンの評価(可能であれば)という流れになります。この5ステップが原則です。
PMDA(医薬品医療機器総合機構):ドナネマブ(ケサンラ)審査報告書・添付文書情報
ドナネマブ投与で最も注意すべき副作用がARIA(Amyloid-Related Imaging Abnormalities)です。ARIAには浮腫・滲出液を伴うARIA-E(脳浮腫型)と、微小出血・ヘモジデリン沈着を伴うARIA-H(出血型)の2種類があります。
TRAILBLAZER-ALZ 2試験のデータによると、ドナネマブ群ではARIA-Eが約24%、ARIA-Hが約31%の患者に画像上で確認されました。症状を伴うARIAは約8%でしたが、重篤な症例も報告されており、2例の死亡例との関連が検討されています。数字で見ると、投与患者の約3人に1人に何らかのARIAが生じる計算です。
APOE ε4ホモ接合体(ε4/ε4)の患者は特にリスクが高く、ARIA-Eの発症率は40〜50%に達するとのデータもあります。このため、投与前のAPOE遺伝子型検査は事実上の必須項目と考えるべきです。厳しいところですね。
モニタリングの実務としては、投与開始後の最初の3回は投与ごとにMRIを実施し、その後も一定間隔で継続する必要があります。施設によってはMRIの読影体制や緊急時対応の整備が条件となり、すべての医療機関でドナネマブが投与できるわけではありません。
ARIAを早期に発見するためにはFLAIR画像とSWI(磁化率強調画像)の組み合わせが有効であり、読影する医師がARIAのMRI所見に精通していることが求められます。投与施設の要件確認が条件です。
公益社団法人 認知症の人と家族の会:抗アミロイド抗体薬に関する情報(患者・医療者向け)
ドナネマブには明確な治療終了(投与中止)基準があります。これはレカネマブとの大きな違いの一つであり、実務上非常に重要なポイントです。
TRAILBLAZER-ALZ 2では、ドナネマブを投与しながらアミロイドPETを定期的に実施し、アミロイドβプラーク量が十分に低下した場合(アミロイドネガティブ化)に投与を中止するプロトコルが採用されました。具体的には、アミロイドPET値がセンチロイド(CL)値で11CL以下になった場合に中止が検討されます。これが投与中止の目安です。
試験では約52週時点で約70%の患者がアミロイドネガティブ化を達成しており、平均投与期間は約72週とされています。継続投与ではなく、目標達成後に終了できる薬剤という点は、患者負担の観点からも評価されています。
投与終了後のフォローアップとして、アミロイドの再蓄積が起こらないか確認するための定期的なPET検査の実施が推奨されています。再蓄積が確認された場合の再投与プロトコルについてはまだ十分なエビデンスがない状況であり、今後のガイドライン改訂が待たれます。
また、投与終了後も認知機能評価(MMSE・ADAS-cog)を継続することが重要であり、症状進行が認められた場合には改めて治療方針を検討する必要があります。治療終了=フォロー終了ではないということですね。
施設としては、抗アミロイド抗体薬の治療管理に関する記録(投与開始日・中止判断の根拠・PET値の推移)を診療録に適切に残しておくことが、保険審査対応や将来的な訴訟リスク回避の観点からも重要です。記録の整備が原則です。
日本神経学会:認知症疾患診療ガイドライン(改訂情報・抗アミロイド療法の記載を含む)
保険収載されたからといって、すぐに算定できるわけではありません。アミロイドPETの保険算定には、いくつかの実務上のハードルが存在します。これが意外と見落とされがちです。
まず、核医学検査を実施できる施設要件を満たしていない医療機関は多く、特に放射性薬剤の調製・運搬体制、PET装置の認定要件、専門医(核医学専門医・放射線科専門医)の関与が求められます。アミロイドPET撮影ができる施設は全国でも限られており、2024年時点で国内のPET保有施設は約500施設ですが、アミロイドPETに対応しているのはそのうちの一部にとどまります。
次に、保険算定の際には「抗アミロイドβ抗体薬の投与対象かどうかの判定」という目的が明確でなければなりません。認知症の診断確定目的やスクリーニング目的での算定は認められておらず、レセプト審査で返戻・査定されるリスクがあります。査定リスクに注意すれば大丈夫です。
また、抗アミロイド抗体薬の処方は現状、専門施設(認知症専門外来・神経内科・精神科の専門医が在籍する施設)に限定される方向で議論が進んでいます。かかりつけ医が単独で処方できる薬剤ではない点を患者・家族に説明しておくことも重要です。
検査前の患者への説明についても、ARIAリスクや検査結果陽性時の治療選択肢とその副作用について十分なインフォームドコンセントが求められます。陽性=治療開始とはならないケースもある点を患者が誤解しないよう、文書による説明が推奨されます。説明文書の整備は必須です。
さらに見落とされがちな点として、アミロイドPETが陽性であっても、患者本人や家族が治療(ドナネマブ投与)を希望しない場合の対応方針を事前に検討しておく必要があります。PETの結果開示に伴う心理的影響と、その後の意思決定支援を誰が担うかを施設内で取り決めておくことが、今後の実務では求められます。体制整備が条件です。
Mindsガイドラインライブラリ:認知症疾患診療ガイドライン(早期診断・治療介入に関する推奨を含む)