ジェネリックに切り替えれば大丈夫と思っていると、頭皮・毛包炎の患者で治療効果が下がるケースがあります。

大塚製薬は2025年9月9日、「アクアチムローション1%(20mL×10瓶)」の販売中止を正式に告知しました。出荷停止予定時期は2027年3月であり、経過措置期間満了日も同月末の2027年3月31日とされています。つまり、在庫が消尽し次第、先発品としてのアクアチムローションは市場から姿を消すことになります。
今回の中止理由として大塚製薬は「諸般の事情」としており、具体的な理由は公式には開示されていません。ただし背景として考えられるのは、ジェネリック医薬品の浸透による先発品の市場縮小です。実際、同薬の薬価は1mLあたり20.70円(包装薬価4,140円)であるのに対し、後発品(ナジフロキサシンローション1%「トーワ」)は1mL あたり19円と、約8%安価です。後発品が普及した市場環境の中で、先発品の供給継続が困難になったと推察されます。
なお、混同しやすい点として、今回の販売中止は「アクアチムローション1%」の先発品のみが対象です。アクアチムクリーム1%・アクアチム軟膏1%の一部包装については、同時期に一部の包装単位の販売終了が別途告知されていますが、ローションとは別の話です。
| 製品名 | 区分 | 対応内容 | 実施日(予定) |
|---|---|---|---|
| アクアチムローション1% | 先発品(販売中止) | 在庫消尽後に出荷停止 | 2027年3月 |
| アクアチムクリーム1%・軟膏1% | 先発品(一部包装終了) | 一部包装単位の販売終了 | 2027年3月(一部) |
| ナジフロキサシンローション1%「トーワ」 | 後発品(通常出荷継続) | 代替品として通常出荷中 | 継続 |
医療機関や薬局では、2027年3月を待たずに在庫が枯渇する可能性があります。採用薬リストの更新や処方箋の記載変更、患者への周知を、今から計画的に進めることが重要です。
参考:大塚製薬による公式告知(販売中止のご案内・アクアチムローション1%)
DSJP|医療用医薬品供給状況データベース:アクアチムローション1%の販売中止情報
アクアチムローション1%の有効成分はナジフロキサシン1%です。現在、同一有効成分・同一規格のジェネリック医薬品は複数のメーカーから供給されており、代替候補として挙げられるのは主に以下の2製品です。
有効成分の名称・濃度は先発品と変わりません。これが基本です。ただし、ジェネリック医薬品はあくまで「生物学的同等性試験」によって先発品との同等性が確認されているものであり、添加剤(基剤成分)については製品ごとに異なる場合があります。
例えば、先発品のアクアチムローション1%にはイソプロパノール(アルコール)、ヒプロメロース、水酸化ナトリウム、グリシン、乳酸ナトリウムが添加剤として含まれます。東和薬品のジェネリックも同様の成分系統ですが、配合量や組み合わせが完全に一致しているわけではありません。
このため、先発品で問題がなかった患者でも、切り替え後に軽度の刺激感・乾燥感の変化を感じるケースがゼロではないことを念頭に置いてください。特に皮膚の敏感な部位(顔面や頭皮)での使用では、変更後の初回使用時に患者から感想を聴取することを推奨します。
また、後発品の供給安定性についても確認が必要です。国内のジェネリックメーカーにおける品質問題が過去に相次いで発覚した経緯があり、現在もDSJPなどの供給状況データベースで出荷状況を定期的に確認するのが賢明な対応といえます。
参考:ナジフロキサシンの先発品・後発品一覧と薬価
KEGG MEDICUS:ナジフロキサシン商品一覧と薬価比較
アクアチムローションが頭皮領域の処方において特に重宝されてきた理由は、ローション製剤の物理的特性にあります。液体状でサラッとした使用感を持つローション剤は、髪の毛の間をすり抜けて頭皮まで浸透しやすく、クリームや軟膏と比較してベタつきが格段に少ないという利点があります。
これは患者のアドヒアランスに直結します。たとえば毛包炎(毛嚢炎)の患者に対して、整容面での不快感が強い軟膏やクリームを処方すると、「髪がベタベタになる」「整髪料が使えない」という理由から自己中断するケースが少なくありません。ローション製剤であれば、日常生活への影響が最小限に抑えられるため、指示通りに使い続けてもらいやすい状況が生まれます。
アクアチムローションのジェネリックへの切り替えは、頭皮・有毛部への使用が必要な患者に対しては最もシンプルな移行手段です。一方で、顔面の炎症性ニキビや非有毛部の表在性皮膚感染症が主な適応であれば、大塚製薬が代替品として案内している「アクアチムクリーム1%」への剤形変更も選択肢になります。
ただし、この剤形変更には注意が必要です。頭皮へのクリーム適用はローションに比べて使用感が大きく異なります。クリームは油分が多いため、使用後に髪の毛がベタつきやすく、汗や皮脂を吸着してかえって頭皮を不衛生な状態にするリスクがあります。頭皮・有毛部の処方においてはローション剤形の継続、つまりジェネリックへの切り替えが原則です。
毛包炎の治療では、ナジフロキサシン(アクアチム)は日本皮膚科学会が強く推奨する(推奨度A相当)外用抗菌薬の一つに位置付けられています。主要な原因菌であるブドウ球菌属・アクネ菌への殺菌作用がしっかりと確立されているため、ジェネリックへの切り替えによって治療効果の根幹が揺らぐことはありません。剤形と有効成分の両方が同等のジェネリックへ移行することが、患者に不利益を与えない最善策です。
参考:毛包炎処方に関するランキングデータと処方実態
QLifePro 医薬情報:毛包炎で処方される薬剤のランキング
アクアチムの有効成分であるナジフロキサシンはニューキノロン系に分類されます。この系統は、マクロライド系やリンコマイシン系(クリンダマイシン等)とは作用機序が異なるため、これらに耐性を示すアクネ菌に対しても効果を発揮できるという点が大きな特徴です。
日本皮膚科学会の「尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023」では、炎症性皮疹に対してクリンダマイシン、ナジフロキサシン、オゼノキサシンの外用抗菌薬を「強く推奨する」と明記しています。研究データによると、アクネ菌(C. acnes)のクリンダマイシンに対する耐性率は44.3%、マクロライド系に対しては38.6%に達することが報告されており、難治例ではニューキノロン系であるナジフロキサシンが選ばれやすい状況にあります。
つまり、クリンダマイシン(ダラシンT等)が効きにくい耐性菌保有患者に対して、ナジフロキサシンは有力な選択肢です。これは重要です。したがって、アクアチムローションの販売中止を機に「ローションという剤形がなくなるなら、別の系統の抗菌薬(クリンダマイシン)に変更しよう」と安易に判断することは、必ずしも正しい移行とはなりません。
一方で、ナジフロキサシン自体も長期・漫然と使用し続けると耐性菌が出現するリスクがあります。抗菌薬の外用を不必要に継続しないことはすべての外用抗菌薬に共通する原則です。急性炎症期を3ヶ月程度を目安に治療し、維持期には過酸化ベンゾイルやアダパレンなど耐性菌誘導の懸念が少ない薬剤へ切り替えることが、現在の標準的な治療方針に合致します。
参考:日本皮膚科学会によるガイドライン(ナジフロキサシンの推奨を含む)
尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023(日本皮膚科学会)
販売中止の告知から出荷停止まで約1年半の経過措置期間が設けられていますが、在庫状況によっては2027年3月を待たずに先発品の入手が困難になる可能性があります。施設ごとに体制を整えておくことが求められます。
まず、処方・採用状況の棚卸しが必要です。現在アクアチムローション1%を定期処方している患者の数を把握し、次回受診時までに代替薬へ移行できるかを確認します。一般的な処方期間(4週間)を考慮すると、2027年初頭の段階ではすでに安定供給が確保できなくなるリスクがあります。早めの対応が原則です。
次に、処方箋の記載方式を見直すことが有効です。銘柄指定(「アクアチムローション1%」と指定)ではなく、一般名処方(「ナジフロキサシンローション1%」)に変更することで、薬局での後発品への切り替えがスムーズになります。この変更は処方せんの入力内容を1行変えるだけで完結でき、処方変更の手間を最小限に抑えられます。
さらに、患者への説明も必要です。長期間アクアチムローションを使用していた患者は、外観(ボトル形状・ラベルデザイン)や使用感のわずかな変化に不安を感じることがあります。「有効成分は同一で、薬の効果は変わりません」「先発品のブランドがなくなるだけで治療効果はそのままです」といった形で、簡潔かつ正確に説明することでアドヒアランスの低下を防ぎます。
以下は施設単位で対応すべき手順の目安です。
薬局薬剤師の観点からも、採用後発品のリストを更新し、調剤時にアクアチムローションが持参された場合の対応フローを院内で周知しておくことが求められます。
参考:医療用医薬品の供給状況を継続的に確認できるデータベース
DSJP|ナジフロキサシンローション1%の供給状況一覧