アビガン錠でインフルエンザに使うと、保険請求が全額返戻される可能性があります。

2024年8月15日、富士フイルム富山化学株式会社のアビガン錠200mg(一般名:ファビピラビル)が、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)ウイルス感染症治療薬として正式に薬価収載されました。収載時に設定された薬価は1錠(200mg)あたり39,862.5円です。
これは、お財布に入るカード1枚の値段が約4万円という計算になります。1日に最大9錠(初日は1,800mg×2回=3,600mg=18錠)を投与する初日の薬剤費だけで、約70万円を超える水準です。
薬価の算定方式は「原価計算方式」が採用されました。アビガンと同一効能・効果を持つ類似薬が存在しないため、類似薬効比較方式では算定できず、製造原価をベースに算定されています。さらに市場性加算(Ⅰ)(加算率A=10%)が適用されました。これはアビガンが「希少疾病用医薬品」に指定されていることが根拠です。
つまり、1錠約4万円という薬価は単純な高額設定ではなく、希少疾病薬としての市場性を正当に評価した結果です。原価の開示度は80%以上と高水準であり、製薬企業側の透明性も評価されました。
ピーク時の予測販売金額は約2.2億円、予測投与患者数は年間70人という極めて希少な薬剤です。東京ドームひとつ収容人数(約55,000人)と比べれば、年間わずか70人しか使わない薬である実態が分かります。
【薬価算定の詳細根拠】2024年8月15日 薬価収載12製品の算定方式まとめ(新薬情報オンライン)
医療従事者が特に注意しなければならない点があります。それは「アビガン錠はインフルエンザ適応でも承認されているが、保険給付の対象はSFTSウイルス感染症に使用した場合のみ」という事実です。
添付文書および厚生労働省通知には明記されています。「本剤は『重症熱性血小板減少症候群ウイルス感染症』に対して使用した場合にのみ保険給付される」。これが原則です。
インフルエンザに対するアビガンの使用については、承認条件として厳格な制限が設けられています。具体的には「他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な新型または再興型インフルエンザウイルス感染症が発生し、国が使用すると判断した場合にのみ患者への投与が検討される」とされており、現時点(2026年3月)では国内でそのような事態は発生していません。
インフルエンザへの使用は保険対象外です。つまり、もし誤ってインフルエンザ患者に投与して保険請求を行えば、査定・返戻のリスクが生じます。1錠約4万円の薬剤ですから、10日投与の場合、約358万円分が保険請求できない事態になりかねません。
また、SFTSへの使用でも、処方・使用できる医師は「SFTSウイルス感染症の治療について十分な知識・経験をもつ医師」に限定されており、入院管理下での投与が義務づけられています。外来処方や一般病床での安易な投与は認められません。これも確認が必要です。
| 適応 | 承認 | 保険給付 |
|---|---|---|
| 新型・再興型インフルエンザ(緊急時) | ✅ あり | ❌ なし |
| SFTS(重症熱性血小板減少症候群) | ✅ あり |
【添付文書・保険給付上の注意】アビガン錠200mg 医療用医薬品情報(KEGG)
SFTSウイルス感染症に対する用法・用量は以下の通りです。
90錠というと、1袋30錠入りの風邪薬が3袋分という量のイメージです。しかし、それが約358万円になるのがアビガン錠の特殊性です。
これだけ高額でも、SFTSへの使用であれば健康保険の給付対象となります。患者負担は3割負担の場合で約107万円、1割負担(後期高齢者)では約36万円程度です。高額療養費制度の適用で自己負担上限額が設定されるため、実際の患者負担はさらに軽減されます。ただし、高額療養費の自己負担限度額は所得区分によって異なるため、確認が必要です。
医療機関側の視点では、薬剤費として358万円分を立て替えて診療報酬請求するため、レセプト請求額も相当な規模になります。請求漏れや算定誤りがあると、医療機関の損失に直結します。これは使えそうな情報です。
なお、令和8年度(2026年4月1日施行)の薬価改定でも、アビガン錠200mgの薬価は39,862.5円のまま据え置きとなっています(yakka-search.com確認値)。薬価収載から1年余りが経過した新薬であり、市場実勢価格との乖離が生じにくいため、維持されたと考えられます。
【薬価確認】アビガン錠200mgの2025年4月以降・2026年4月以降の薬価(薬価サーチ)
新薬の薬価算定には大きく分けて「類似薬効比較方式」と「原価計算方式」の2種類があります。多くの新薬は既存薬と比較して薬価を決める類似薬効比較方式で算定されますが、アビガン錠はこの方式が適用できませんでした。
理由は明確です。SFTSウイルス感染症を効能・効果とする薬が世界に存在しなかったからです。国内初・世界初の治療薬という立ち位置が、薬価算定に大きな影響を与えています。
一方、作用機序が近いラゲブリオ(モルヌピラビル)との類似性は検討されましたが、対象疾患が異なること等から最類似薬に該当しないと判断されています。つまり、コロナ治療薬として注目されたアビガンが、最終的に「前例のない薬」として原価積み上げで薬価が決まったわけです。
原価計算方式では、製造原価に流通経費・利益等を加算して薬価が計算されます。この方式の課題のひとつが「原価の不透明性」です。製薬企業が原価を開示しないと、加算係数が下がる仕組みになっています。アビガンの場合、原価開示度80%以上という高い水準を達成したため、市場性加算の加算係数は1.0(フル加算)が適用されました。
これは、他の新薬が原価開示度50%未満で加算係数ゼロになるケースが多い中で、異例の高評価です。製薬企業側の情報開示姿勢が、薬価に正直に反映された事例といえます。
【中医協総会資料】2024年8月7日 第593回 薬価算定の根拠資料(厚生労働省)
アビガン錠を処方・調剤する際に最も厳重な注意が求められるのが、催奇形性リスクへの対応です。動物実験において、サル・マウス・ラット・ウサギで催奇形性が確認されており、ラットでは臨床曝露量と同程度またはそれを下回る用量で初期胚致死も認められています。
以下が、処方前に必ず確認すべき事項です。
同意書取得は省略できません。これは添付文書の警告欄に記載された必須事項です。
また、アビガンは精液中にも移行します。投与3日目の精液中濃度(幾何平均)は18.341μg/mLと報告されており、男性パートナーを通じた胎児への曝露リスクも考慮する必要があります。投与終了後7日目には定量下限未満になるとされていますが、安全マージンとして10日間の避妊指導が義務づけられています。
処方の流れとしては「禁忌確認(妊婦チェック)→妊娠検査(陰性確認)→文書説明・同意取得→投与開始→避妊指導」の順を守ることが原則です。
SFTSへの使用においては、入院管理下での投与が必須であり、緊急時の対応体制が整備された医療機関でなければなりません。外来投与は認められていないことも、処方前の確認事項として押さえておく必要があります。
【医薬品リスク管理計画書】アビガン錠200mg RMP(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構)