インフリキシマブを使う患者にMTXを忘れると、数カ月で薬が効かなくなる可能性があります。

TNF(腫瘍壊死因子)阻害薬とは、関節や組織の炎症を引き起こす主要なサイトカインであるTNF-αの働きを直接ブロックする生物学的製剤です。日本では2003年にインフリキシマブが初めて承認されて以降、段階的に新薬が追加され、現在は全部で6剤が使用可能となっています。
以下の表に、現在日本で承認されているTNF阻害薬の一覧をまとめます。
| 一般名 | 商品名(先行品) | 投与経路 | 投与間隔(RA) | BS有無 |
|---|---|---|---|---|
| インフリキシマブ | レミケード® | 点滴静注 | 初回・2W・6W後、以後8W毎 | あり |
| エタネルセプト | エンブレル® | 皮下注射 | 週1〜2回 | あり |
| アダリムマブ | ヒュミラ® | 皮下注射 | 2週間に1回 | あり |
| ゴリムマブ | シンポニー® | 皮下注射 | 4週間に1回 | なし |
| セルトリズマブペゴル | シムジア® | 皮下注射 | 2W(初期)→4W(維持) | なし |
| オゾラリズマブ | ナノゾラ® | 皮下注射 | 4週間に1回 | なし |
この中でインフリキシマブだけが点滴静注製剤です。つまり、外来で医療機関に来院する必要があり、自己注射は不可能です。残る5剤はすべて皮下注射製剤で、条件を満たした患者には自己注射への移行が認められています。
投与間隔の面では、ゴリムマブとオゾラリズマブが月1回(4週間隔)と最も間隔が長く、患者の通院負担を軽減しやすい選択肢です。一方、エタネルセプトは週1〜2回の投与頻度となっており、管理が最も頻繁になります。
バイオシミラー(BS:バイオ後続品)が存在するのはインフリキシマブ・エタネルセプト・アダリムマブの3剤です。BSの薬価は先行品の約40〜70%程度に設定されており、医療費の削減が期待できます。BSは先行品と同等の有効性・安全性が確認されており、経済的負担の軽減につながる重要な選択肢です。
エタネルセプトだけは、他の抗体製剤とは異なる「可溶性TNF受容体-Fc融合タンパク」という構造を持ちます。抗体ではなく受容体のデコイとして機能するため、免疫原性が低く、中和抗体が生じにくいのが特徴的です。これが原則です。
参考リンク(日本リウマチ学会によるTNF阻害薬使用の手引き最新版:用法・用量・禁忌・要注意事項を詳細に記載)。
関節リウマチ(RA)に対するTNF阻害薬使用の手引き(2024年改訂版)|日本リウマチ学会
TNF阻害薬は関節リウマチ(RA)の治療薬として広く知られていますが、実際には複数の炎症性疾患に保険適応があります。薬剤によって適応疾患に大きな違いがあるため、疾患に合わせた選択が臨床上とても重要です。
アダリムマブ(ヒュミラ®)は現在最も適応疾患の広いTNF阻害薬であり、関節リウマチに加え、乾癬性関節炎・尋常性乾癬・強直性脊椎炎・クローン病・潰瘍性大腸炎・若年性特発性関節炎・腸管型ベーチェット病・非感染性ぶどう膜炎・化膿性汗腺炎などに保険適応を持ちます。これは使えそうです。
インフリキシマブ(レミケード®)もアダリムマブと同様に、クローン病・潰瘍性大腸炎・乾癬性関節炎・強直性脊椎炎への適応を持ちます。炎症性腸疾患(IBD)への使用においては、消化器内科と連携した管理が欠かせません。
一方、エタネルセプトはTNF受容体-Fc融合タンパクという構造的な特性から、消化管への透過性が低く、クローン病や潰瘍性大腸炎には効果が期待できないため、炎症性腸疾患には適応がありません。強直性脊椎炎にも保険適応がなく(日本国内では)、この点は選択時に必ず確認が必要です。
オゾラリズマブ(ナノゾラ®)は2022年12月に発売された最新のTNF阻害薬で、現時点では関節リウマチのみが適応です。ただし、世界で初めてナノボディ技術を用いた関節リウマチ治療薬として承認された点は特筆すべきことです。分子量は一般的なIgG抗体の約1/4(38,434 Da)と非常に小さく、組織への浸透性が高い可能性が研究されています。
薬剤選択の際は、患者が抱える「主疾患と合併症の両方」を考慮することが原則です。例えば、関節リウマチに炎症性腸疾患を合併している場合はアダリムマブやインフリキシマブが優先候補となりますが、エタネルセプトは適していません。適応の確認だけでなく、患者背景との照合が必須です。
| 薬剤名 | RA | 乾癬・乾癬性関節炎 | 強直性脊椎炎 | クローン病・UC |
|---|---|---|---|---|
| インフリキシマブ | ✅ | ✅(インフリキシマブのみ) | ✅ | |
| エタネルセプト | ✅ | ✅(乾癬のみ) | ❌(国内) | ❌ |
| アダリムマブ | ✅ | |||
| ゴリムマブ | ✅ | ✅(乾癬性関節炎) | ✅ | ✅(UC) |
| セルトリズマブペゴル | ✅ | ✅(乾癬性関節炎) | ✅ | ❌(国内未承認) |
| オゾラリズマブ | ✅ |
参考リンク(乾癬性関節炎・強直性脊椎炎へのTNF阻害薬使用に関する日本リウマチ学会ガイドライン)。
乾癬性関節炎および強直性脊椎炎に対するTNF阻害薬使用の手引き|日本リウマチ学会
6剤の中からどの薬を選ぶかは、患者の状態・妊孕性・腎機能・経済状況・生活スタイルなど複数の要素を総合的に評価して判断します。ここでは特に臨床上の重要な観点を3つ取り上げます。
【MTX併用の必要性】
インフリキシマブは、マウス-ヒトキメラ型抗体という構造上、体内で「異物」と認識されやすく、抗薬剤抗体(中和抗体)が産生されやすい性質があります。中和抗体が生じると薬の効果が徐々に低下する「二次無効」を引き起こすため、インフリキシマブとインフリキシマブBSはMTXとの併用が必須です。これが条件です。
一方、エタネルセプト・アダリムマブ・ゴリムマブ・セルトリズマブペゴル・オゾラリズマブは単独使用が可能ですが、MTXと併用することで有効性の向上と安定した治療効果の維持が確認されており、MTXが使用できる場合は積極的に併用が推奨されています。MTXが使えない患者では、IL-6阻害薬やJAK阻害薬も選択肢に入ります。
【妊娠・授乳への対応】
リウマチ性疾患は妊娠可能年齢の女性に多く、薬剤の胎盤移行性は極めて重要な判断基準です。IgG1構造を持つTNF阻害薬(インフリキシマブ・アダリムマブなど)は、胎児性Fc受容体(FcRn)を介して胎盤を積極的に通過します。特に妊娠後期には臍帯血中の薬物濃度が母体血を上回ることも報告されており、出生児への生ワクチン接種に関するリスク管理が別途必要となります。
セルトリズマブペゴル(シムジア®)はFc領域を持たない唯一のPEG化TNF阻害薬で、胎盤移行性が極めて低いことが臨床データで確認されています。妊娠中の関節リウマチ管理において、疾患活動性を維持しつつ胎児への薬物曝露を最小限に抑えたい場合の第一選択薬として位置付けられています。エタネルセプトも胎盤移行性が比較的低いとされており、妊娠初期から中期の使用については臨床的に許容される場合があります。
【費用・経済的負担の観点】
TNF阻害薬は生物学的製剤であり、3割負担の場合でも月あたりの自己負担額は3万〜4万円程度になります。バイオシミラーへの切り替えで費用を抑えることが可能で、BSの薬価は先行品の約40〜70%に設定されています。費用対効果を考慮した治療継続の観点から、バイオシミラーの積極的な活用は医療経済上も重要です。東京女子医大などの施設では既にBS導入の実績が積み重ねられています。
つまり、薬剤選択は薬理特性だけでなく、患者の人生計画(妊娠)・合併症・費用の三本柱で考えることが基本です。
参考リンク(妊娠中のTNF阻害薬の選択に関する詳細な考察を掲載)。
妊娠中にTNF阻害薬を使い続けていいのか ー 胎盤を越える薬と、母体管理|note
TNF阻害薬を安全に使用するためには、投与開始前のスクリーニング検査が欠かせません。免疫を抑制する作用機序から、感染症の顕在化・悪化リスクがあるためです。厳しいところですね。
【絶対禁忌】
活動性結核を含む重篤な感染症・NYHA分類Ⅲ度以上のうっ血性心不全・脱髄疾患(多発性硬化症など)・本剤成分に対する過敏症の既往がある患者には投与すべきではありません。特にうっ血性心不全はⅡ度以下でも慎重な経過観察が必要であり、TNF-αが心筋保護に関与しているため、TNF阻害により悪化するリスクがあります。
【結核スクリーニングの重要性】
日本はかつて結核の高蔓延国であり、BCGワクチン接種歴を持つ人が多い高齢患者層において、潜在性結核感染症(LTBI)の存在が問題となります。TNF-αは肉芽腫の形成と維持に不可欠であるため、TNF阻害薬の投与によって過去の感染が再燃しやすくなります。これが原則です。
スクリーニング時には、①問診(過去の結核罹患歴・接触歴)、②インターフェロンγ遊離試験(IGRA:クオンティフェロンまたはT-SPOT)、③胸部X線撮影を必須として実施します。IGRAが陽性であった場合、TNF阻害薬開始の3週間前よりイソニアジド(INH)300mg/日を6〜9カ月投与する予防療法を行います。
注意すべき点として、IGRA陰性であっても過去に予防投与が行われていた症例から活動性結核が発症した報告があるため、投与中も継続した観察が必要です。結核が疑われる症状(発熱・咳・倦怠感)が出現した場合は、速やかに胸部CT・喀痰検査を行い対処する必要があります。
【B型肝炎・その他の感染症チェック】
B型肝炎ウイルス(HBV)感染者へのTNF阻害薬投与は、肝炎の再活性化リスクがあります。HBs抗原・HBs抗体・HBc抗体を確認し、既往感染者(HBs抗原陰性・HBc抗体陽性)でも肝機能と肝炎マーカーのモニタリングが不可欠です。日本肝臓学会の「B型肝炎治療ガイドライン」に沿った対応が推奨されます。
また、高齢者・既存の肺疾患がある患者・グルココルチコイドを併用している患者では、ニューモシスチス肺炎のリスクが高まります。これらのリスク因子を有する場合は、ST合剤(スルファメトキサゾール・トリメトプリム配合剤)による予防を考慮します。スクリーニングと予防を組み合わせることが鍵です。
開始前の確認リストとして、白血球数4,000/mm³以上・リンパ球数1,000/mm³以上・血中β-D-グルカン陰性であることが望ましいとされています。これらの検査値が揃ってから投与開始を判断することが、安全管理の基本となります。
参考リンク(TNF阻害薬投与中の結核発症予防・ニューモシスチス肺炎対策に関する詳細を収載)。
TNF阻害薬の特徴と治療前に知っておくべきこと|フォレスト内科リウマチ科クリニック
教科書的な一覧情報とは少し異なる視点として、実際の臨床現場で問題になりやすいポイントを4つ取り上げます。これは使えそうです。
【周術期の休薬管理】
整形外科手術(人工関節置換術など)を予定している患者でTNF阻害薬を使用中の場合、手術部位感染(SSI)のリスクを下げるために術前休薬が推奨されています(日本リウマチ学会「関節リウマチ診療ガイドライン2024」)。休薬期間の目安は「次回予定投与日以降」とすることが多く、投与間隔・半減期を考慮して決定します。休薬中はRAの再燃に十分注意が必要です。
【インフリキシマブ長期中断後の再投与リスク】
インフリキシマブを2年以上中断した後に再投与した場合、重篤な注入時反応(アナフィラキシーショックを含む)の頻度が有意に高くなることが市販後調査で明らかになっています。長期休薬後の再投与の際は、エピネフリン・酸素・グルココルチコイドの準備など、アナフィラキシー対応の環境を確保した状態での投与が必要です。意外ですね。
【生ワクチン接種の禁忌と帯状疱疹対策】
TNF阻害薬投与中は帯状疱疹(水痘)・麻疹・風疹・BCGなどの生ワクチン接種が禁忌です。一方、50歳以上またはリスクのある18歳以上の患者に対しては、不活化ワクチンである「乾燥組換え帯状疱疹ワクチン(シングリックス®筋注用)」の使用が可能です。ただし、リウマチ性疾患患者におけるエビデンスはまだ限定的であるため、リスク・ベネフィットを患者ごとに評価した上で使用を検討します。開始前に帯状疱疹ワクチンを済ませておくことが現実的な対策です。インフルエンザワクチン・肺炎球菌ワクチン(65歳以上)・新型コロナワクチンは積極的に接種すべきとされています。
【オゾラリズマブ(ナノゾラ®):最新ナノボディ製剤の位置づけ】
2022年12月に国内で発売されたオゾラリズマブは、ラマ由来の重鎖抗体の可変領域(VHH抗体=ナノボディ)を応用した世界初の関節リウマチ治療薬です。分子量が通常IgG抗体の約1/4と小さく、Fc領域を持たないという構造的特徴を持ちます。既存のTNF阻害薬で効果不十分だった患者を対象とした臨床試験(OHZORA試験)でも有効性と安全性が確認されており、新たな選択肢として注目されています。ただし、現時点では他のTNF阻害薬に比べてリアルワールドデータが少なく、適応は関節リウマチのみです。
実臨床において「一覧を知る」だけでは不十分です。薬剤の構造的特性・投与条件・患者背景の三つを同時に把握することで、初めて適切な選択ができます。これが基本です。
また、バイオシミラーへの切り替えを検討する際は、患者への十分な説明と同意が前提となります。「効果が落ちるのでは」という誤解が普及の妨げになるケースもあり、エビデンスに基づく丁寧な情報提供が医療従事者に求められます。バイオシミラーに関する正確な知識の更新が必要です。
参考リンク(国内初のナノボディ製剤オゾラリズマブの作用機序・構造的特徴を詳しく解説)。
国内初のナノボディ®製剤オゾラリズマブ|Chem-Station