非接触測定スプレーで光沢面の形状測定精度を上げる方法

非接触測定スプレーを使えば光沢面や黒色面のスキャンが可能になります。でも「スプレーの種類を間違えると精度が逆に落ちる」ことをご存知ですか?

非接触測定スプレーで光沢面・黒色面の3D形状測定を攻略する方法

スプレーを薄く塗れば塗るほど、測定精度は上がります。


この記事でわかること
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前処理スプレーが必要な理由

光沢面・黒色面・透明面は光を乱反射・吸収するため、スプレーなしでは3Dスキャンデータが欠損します。

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スプレーの種類と選び方

昇華型と非昇華型、専用品と代替品では精度・後処理の手間が大きく異なります。用途に合った選択が重要です。

作業効率と精度を両立するコツ

塗布距離・速度・回数を守るだけで作業工程を1/2以下に短縮できます。正しい手順を押さえましょう。


非接触測定スプレーとは何か・前処理が必要な理由


光学式の非接触3次元測定(3Dスキャン)は、ものづくり現場に急速に普及しています。レーザーや構造化光を照射して形状を読み取るこの技術は、接触式では難しかった複雑な形状の測定を短時間で実現します。しかし、測定対象物の「表面の状態」によっては、正確なデータを取得できないケースが頻繁に起こります。


問題となるのは主に3つの表面特性です。「透明・黒色・光沢(鏡面)」の素材は、それぞれ光を透過・吸収・乱反射してしまい、スキャナーが表面形状を正確に認識できません。その結果、取得した3Dデータには「欠損(穴あき)」や「ノイズ」が大量に発生し、寸法検査やリバースエンジニアリングに使えないデータになります。


前処理スプレーとは、この問題を解決するために測定対象物の表面に吹き付けるエアゾール製品のことです。スプレーを塗布すると、ワーク表面に均一な白いマット(艶消し)の薄膜が形成されます。これにより光が均一に反射されるようになり、スキャナーが表面形状を正確に捉えられるようになります。


金属加工品の場合、研削や旋削で仕上げた面は非常に光沢が強く、スプレーなしでのスキャンはまず困難です。実際に前処理なしと前処理ありでデータを比較すると、前処理なしでは黒樹脂製品ひとつも「何も撮れていない」状態になることがあります。前処理は必須、が基本です。


スプレーの成分は一般的に、白色粉として炭酸カルシウムや酸化チタン有機溶剤(イソプロピルアルコールなど)に混合し、噴霧剤(LPG・ブタンなど)とともに缶に充填したものです。塗布されると溶剤が揮発し、表面に均一な白色粉末の薄膜だけが残ります。なお、酸化チタンは厚生労働省から吸入による健康障害への注意が出ているため、適切な換気と保護具の着用が必要です。


前処理の有無によるスキャンデータの比較画像(実測):前処理あり/なしでこれだけ違う!非接触3D測定の前処理について|TTS株式会社


非接触測定スプレーの代替品使用で測定誤差が生じる仕組み

金属加工の現場では長年、非接触測定の前処理として「現像液スプレー」や「探傷試験用の現像剤スプレー」が代替品として使われてきました。これらは測定専用に開発されたものではなく、もともと別の用途向けに作られた製品です。その影響は、測定精度に直結します。


代替スプレーを使った場合、塗布された膜厚は専用品と比較して大幅に厚くなります。専用品(JetSwan等)が膜厚1μm以下を実現しているのに対し、代替品では膜厚が数十μm以上になることも珍しくありません。1μmは髪の毛の太さ(約70μm)の約70分の1です。この差が積み重なると、エッジ部分の丸みやR形状の再現性に影響します。


鋼球を使った実測データでは、代替スプレー塗布後に±0.01mm以内に収まったデータ点は全体の77.3%でした。これに対して専用開発スプレー(JetSwan)では同条件で93.25%に達し、15ポイント以上の差が確認されています。言い換えると、代替スプレーでは約23%のデータ点で±0.01mmを超える誤差が発生していたことになります。


さらに、入り組んだ形状に複数回塗布すると、一部の膜厚が厚くなりすぎる問題が起きます。代替品では重ね塗りのたびに誤差が増大するため、高精度な測定をしたい場合は一度粉末を除去してやり直す必要があります。これが作業工程の増加につながります。一方、専用スプレーでは重ね塗りしても膜厚の増加が1μm以下に抑えられるため、塗り直し不要です。結果として、作業工程を1/2以下に短縮できることが報告されています。


代替スプレーと専用スプレーの膜厚・測定精度の定量的比較データ:第57回機械振興賞受賞 光学式非接触測定用高精度化前処理スプレー(機械振興協会)


非接触測定スプレーの種類と選び方:昇華型・非昇華型の違い

非接触測定に使える前処理スプレーは大きく「昇華型」と「非昇華型(現像液型)」の2種類に分かれます。どちらを選ぶかは、測定後のワークの用途や形状によって判断します。


昇華型スプレーは、塗布後に一定時間が経過すると成分が気化(昇華)して自然に消えます。代表的な製品がドイツ生まれの「AESUB(エイサブ)」シリーズです。拭き取りや洗浄が不要なため、複雑な形状のワーク・水分を嫌う素材・アセンブリ済み部品など、後処理が困難なケースに特に有効です。


製品名 タイプ 昇華時間 特徴
AESUB blue 昇華型 約4時間 小型ワーク・標準用途向け
AESUB orange 昇華型 12〜24時間 中〜大型・複数回スキャン向け
AESUB green 昇華型 12〜24時間 スプレーガン・大型ワーク向け(1,000ml)
AESUB diamond 昇華型 15〜30分 極小・精密ワーク向け
AESUB white 非昇華型 なし(消えない) 長時間スキャン向け
JetSwan 非昇華型 なし(速乾) 光学式非接触測定専用設計・高精度


非昇華型の「JetSwan(ジェットスワン)」は、膜厚を1μm以下に抑えることを専用設計で実現した国産スプレーです。第57回機械振興賞を受賞した製品で、200以上の機関での導入実績があります。速乾性が高く、塗布後すぐに測定を開始できます。高精度が求められる機械加工品の寸法検査には特に向いています。


昇華型を選ぶ場合の注意点として、昇華時間の管理があります。AESUB blueは約4時間で昇華するため、スキャン中に消え始めてしまうことがあります。スキャンに要する時間を把握してから製品を選ぶことが重要です。大型ワークや複数工程にまたがるスキャンにはorangeタイプが適しています。


昇華型スプレー各製品の昇華時間・適用ワークの詳細:3Dスキャン用昇華型スプレーAESUB全ラインナップ|システムクリエイト株式会社


非接触測定スプレーの正しい塗布手順と測定精度を守るコツ

スプレーの効果を最大限に引き出すには、正しい塗布手順が必要です。多くの現場でスプレーを使っているにもかかわらず「データが安定しない」「ムラが出る」という声は、手順の誤りから来ていることが大半です。


まず、塗布前の準備として油分・水分の除去が必須です。ワーク表面に油脂や水分が残っていると、スプレーが均一に乗らず、ムラや液だれの原因になります。エアブローで表面をきれいにしてから塗布を開始してください。


JetSwanの場合、具体的な塗布手順は以下の通りです。



  • 缶を使用前に約30秒しっかり振り、攪拌球が鳴ることを確認する

  • ワークとスプレー缶を約200mm(20cm程度)離す

  • スプレー缶を150mm/sec(1秒で15cm移動)の速度で動かしながら吹き付ける

  • 金属加工された光沢面には2回、黒樹脂面には5回塗布する

  • 重ね塗りする場合は、1回ごとに乾燥させてから重ねる


塗布量が多すぎると膜厚が増えて誤差の原因になります。薄く均一が基本です。逆に薄すぎても白化が不十分でデータが欠損します。正しい距離・速度を守ることで、最適な膜厚が自動的に形成されるよう設計されています。


スキャン作業中に誤って触れてしまい膜が剥がれるリスクがあります。昇華型スプレー(AESUBシリーズ)は定着性が良いため、作業中に触れてもやり直しが少なく済みます。これは、長時間・複数人で行うスキャン作業では時間短縮に直結します。


また、スプレー使用時の安全管理も忘れてはいけません。可燃性ガス(ブタン・LPGなど)を含むため、裸火の近くでの使用は厳禁です。必ず換気の良い屋外または十分な換気が確保された空間で使用し、保護手袋・保護眼鏡・保護マスクを着用してください。密閉空間での使用は爆発リスクがあります。


JetSwanの正確な塗布手順・安全上の注意の詳細:光学式非接触測定用前処理スプレー JetSwan公式サイト|株式会社フジオカ


非接触測定スプレー不要のスキャナーとスプレー選択の独自視点

非接触測定の精度向上においてスプレーは非常に有効な手段ですが、「前処理スプレーそのものを使わない」という選択肢も存在します。これは、近年のスキャナー技術の進化によって生まれた選択肢です。


ブルーレーザー光源を搭載したハンドヘルドスキャナーは、短波長の青色レーザーによって光沢面や黒色面でも反射を制御しやすく、従来のスキャナーが苦手としていた表面でもスプレーなしでデータを取得できる機種が増えています。「FreeScan Combo」シリーズや「EinScan Libre」などは、スプレーなしで光沢金属や黒色樹脂のスキャンに対応できると公表されています。


ただし、注意すべき独自の視点があります。スプレーレスで測定できるスキャナーを導入したとしても、「専用スプレーを使ったほうが測定時間が1/3以下になる」ことがある、という事実です。JetSwanの開発背景資料によると、ハンディスキャナーがスプレーなしでも測定できるとしていても、専用スプレーを塗布することで反射光量が増加し、測定データ取得率が大幅に向上。測定時間を1/3以下に短縮できたという報告があります。


つまり、スプレーの役割は「スキャンの可否を決める」だけではなく、「スキャン時間と品質を最適化する」手段でもあります。コスト・精度・作業時間の3点で見たとき、スキャナー本体のスペックとスプレー使用の組み合わせを見直すことが、現場の生産性向上に直結します。


スプレーを導入する際のコストは、AESUBの場合1缶(400ml)が約3,800円〜4,200円程度です。JetSwanは24本入り箱単位での販売(オープン価格)で、まとめ買いで単価を抑えられます。一方で、非昇華型を使い続けた場合、除去作業の人件費・スプレー廃棄物の処理コストも考慮に入れる必要があります。昇華型は初期コストが高くても、後処理ゼロによるトータルコストダウンにつながります。後処理時間が1回あたり30分かかる工程で、月に20回測定するなら、月10時間の作業削減が見込めます。


スプレーが不要なスキャナー機種の選び方・比較:3Dスキャナースプレーが必要な理由や選び方|日本3Dプリンター株式会社


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