LNG燃料船の仕組みと通関手続きへの影響を解説

LNG燃料船の基本的な仕組みから、燃料補給(バンカリング)の3方式、関税法上の手続きまで徹底解説。通関業従事者が知っておくべき規制緩和の内容とは?

LNG燃料船の仕組みと通関手続きへの影響

「LNG燃料船はCO₂をほぼゼロにできるクリーンな船だ」と思っているなら、実は未燃焼メタンがCO₂の80倍もの温暖化効果をもたらしている事実で、通関申告の環境情報も変わります。


📋 この記事の3ポイントまとめ
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LNG燃料船の基本構造

LNGは天然ガスを-162℃まで冷却して液体化したもの。体積は気体の1/600になり、タンク・エンジン・燃料供給ラインが重油船とは根本的に異なる。

バンカリング3方式と通関の関係

Truck to Ship・Shore to Ship・Ship to Shipの3方式により、税関への申告形態も異なる。2019年の関税法基本通達改正でLNGバンカリング手続きが大幅に簡素化された。

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通関業者が押さえるべきポイント

IMO規制(EEXI・CII)の強化により、LNG燃料船の就航数は急増中。関税法第23条の船用品積込承認手続きや保税運送の知識が今後の業務に直結する。


LNG燃料船の基本構造と重油船との違い



LNG燃料船を理解するうえで、まず「LNG(液化天然ガス)とは何か」を押さえておく必要があります。LNGとは、メタンを主成分とする天然ガスを約-162℃まで冷却し、液体にしたものです。この液化プロセスによって、体積は気体状態の約600分の1に圧縮されます。500mlペットボトルの水を液化すると、気体のときの体積600本分が入るイメージです。


液化することで大量輸送が可能になる一方、その極低温という特性がLNG燃料船の船体構造を根本から変えます。重油タンカーが常温で運航できるのに対し、LNG燃料船の燃料タンクは常時-162℃前後という超低温を維持しなければなりません。これは、魔法瓶を船に積んでいるような状態です。


燃料タンクには大きく2種類あります。ひとつは独立型のタイプCタンクと呼ばれる円筒形の圧力タンクで、小型・中型のLNG燃料船によく使われます。もうひとつは球形タンク(モス型)やメンブレン型と呼ばれる方式で、LNG運搬船に採用されてきた技術を燃料タンクに転用したものです。タンクの素材には、ニッケル鋼やステンレス鋼など-162℃の超低温でも脆性破壊を起こさない特殊金属が使われており、製造コストが重油タンクの数倍以上になります。


タンクだけではありません。エンジンも全く別物になります。重油船が単一の液体燃料で動くのに対し、LNG燃料船のエンジンは主に「デュアルフューエル(DF)エンジン」と呼ばれる方式が採用されます。ガスと重油の両方を燃料として切り替えられる構造で、LNG補給ができない港ではバックアップとして重油でも航行できる設計になっています。これは緊急時の対応力として重要な点です。


さらに、エンジンに燃料を供給するためには、-162℃の液体LNGをいったん気化させ、高圧状態にして送り込む「燃料高圧供給システム」が必要です。LNGを約30MPa(メガパスカル)の圧力まで昇圧してエンジンに供給するこのシステムは、ポンプ・気化器・各種バルブ・計測機器などで構成され、コンパクトにパッケージングされています。新造時の船価が従来の重油船より15〜30%高くなる主な理由のひとつが、これらの付帯設備のコストです。


つまり重油とLNGでは、タンク・エンジン・燃料供給システムの三つがすべて異なります。


商船三井グループによるLNG燃料船の現状・優位性・バンカリングインフラの詳細解説(LNG燃料船のデメリット比較含む)


LNG燃料船のエンジン仕組みとBOG(ボイルオフガス)の活用

LNG燃料船の推進システムを理解するには、「ボイルオフガス(BOG)」という概念を知っておく必要があります。魔法瓶でも少しずつ中の温度が変化するように、LNG燃料タンクは完全な断熱が不可能なため、タンク内のLNGはごく一部が自然に気化します。この気化したガスがBOGです。


BOGを放置するとタンク内の圧力が上がり続けて危険なため、何らかの形で処理しなければなりません。LNG運搬船では、このBOGを蒸気タービンやガスエンジンの燃料として利用する技術が早くから確立されていました。LNG燃料船でも同様に、BOGをエンジン燃料として再活用することでエネルギーの無駄をなくす設計が取られています。


エンジンの燃焼方式には大きく2種類があります。ひとつは「オットーサイクル(低圧ガス噴射)方式」で、ガスを低圧のまま吸気に混ぜて燃焼させる方式です。構造がシンプルで既存ディーゼルエンジンの改造もしやすい一方、「メタンスリップ」という問題があります。メタンスリップとは、燃えきれなかったメタンガスが未燃焼のまま排気に混じって大気中に放出される現象のことです。


もうひとつは「ディーゼルサイクル(高圧ガス噴射)方式」で、LNGを高圧に昇圧してからシリンダー内に直接噴射する方式です。燃焼効率が高くメタンスリップが少ない反面、30MPa程度の高圧ガス供給システムが必要になるため設備コストが上がります。


ここで通関業従事者にとって押さえておきたいのは、メタンスリップの問題です。CO₂の80倍ともいわれる温暖化効果を持つメタンが未燃焼のまま排出されることは、LNG燃料船の「クリーンエネルギー」という評価に影を落とす要素になっています。国内でも経済産業省のグリーンイノベーション基金事業として、2026年度までにメタンスリップ削減率60%以上の達成を目標とした研究開発が進められています。


日本の商船三井・カナデビア・ヤンマーパワーソリューションズらの共同プロジェクトでは、メタンスリップ削減率98%の達成が報告されており、社会実装は2027年度以降が見込まれています。


IMOはCII(船舶エネルギー効率格付け制度)やEEXI(既存船エネルギー効率規制)の実施を強化しています。LNG燃料船はこれらの規制対応策として採用が急増していますが、メタンスリップが考慮された場合の総合的な温室効果ガス排出量評価が今後の焦点になりそうです。


経済産業省グリーンイノベーション基金事業「LNG燃料船のメタンスリップ対策」研究開発概要(目標数値・実施企業含む)


LNGバンカリングの3方式と通関手続きの基本

LNG燃料船への燃料補給を「バンカリング」と呼びます。LNGバンカリングには現在、3つの方式があります。この3方式の違いは、通関業従事者にとって申告形態を理解するうえで直接関係します。


🚛 Truck to Ship(トラック・トゥ・シップ)方式は、LNGタンクローリーが岸壁に横付けし、そこからホースでLNG燃料船に供給する方法です。初期投資が少なく導入しやすいため、日本国内では現在もっとも普及している方式です。2019年に大阪ガスが神戸港で開始したのもこの方式が最初でした。ただし、大型船舶への補給では何十台もタンクローリーが必要になるため、大量補給には向きません。


🏭 Shore to Ship(ショア・トゥ・シップ)方式は、岸壁・桟橋に設置した陸側のLNG貯蔵タンクから直接、係留中のLNG燃料船にパイプで供給する方式です。大量補給が可能で、大型船舶のバンカリングに適しています。大阪ガスは2025年4月から神戸港でこの方式を開始しました。


⛴️ Ship to Ship(シップ・トゥ・シップ)方式は、LNG燃料供給専用のバンカリング船がLNG燃料船に横付けして燃料を供給する方式です。錨地(港外の停泊地)でも補給でき、荷役と同時進行も可能なため、大型外航船